平成19年9月


9月30日(日)

●はたらけど はたらけど猶(なお) わが生活(くらし)楽にならざり ぢっと手を見る  函館に一族の墓がある石川啄木のよく知られた歌だ▼貧窮のうちに夭折した啄木の暗い心境が詠みこまれている。啄木が生きた100年前は、いまよりも生活が厳しく食うや食わずの人々が多かったのだろう。そうした時代は、過去のものかというと、格差社会の現代にも蘇っている▼年収200万円以下の人たちが1000万人を超えたという。国税庁の民間給与実態統計調査によると勤労者の昨年1年間の平均給与は435万円で9年連続で減少した。なかでも年収200万円以下が前年より42万人増え、21年ぶりに大台を突破した▼低賃金の人たちがふた昔前と同水準になったというのは、獲得してきた勤労者の待遇改善が吹き飛んだことに等しい。その一方で、年収1千万円を超えた人が9万5千人増え、224万人に達したことを見ると、格差がより広がっていることが分かる▼生活に「悩みや不安」を感じている人は過去最高の69・5%に上る(内閣府「国民生活に関する世論調査」)。とくに「老後の生活設計」に不安を持っている人が半数を超す。今後の生活についても「良くなっていく」(8・3%)より「悪くなっていく」(29・1%)がずっと多い▼数字が語るのは、将来に期待が持てない日本の姿だ。低賃金の非正規雇用が増大して、ワーキングプアの言葉がすっかり定着した。働いても生活設計が描けない。暗い表情でじっと手を見る人たちを思う。(S)


9月29日(土)

●反軍事政権デモで日本人記者まで犠牲になったミャンマーは仏教国。僧侶が尊敬されていることから「ビルマの竪琴」の日本兵は戦死者を弔うために仏門に入り現地に残った。これに刺激を受けたわけではないが、臥牛子はビルマの大学の留学試験を受けた▼45年前のこと。渡航する直前にウ・ヌー首相からネ・ウイン将軍が実権を握ったため留学はお流れに。この頃からミャンマーの軍事政権は始まった。19年前に首都で繰り広げられた学生の民主化要求デモに軍が発砲、1000人を超す死者を出した。今回のデモは僧侶が主役▼逆さまにした托鉢(たくはつ)を頭上にかざし、釈迦の肖像を掲げてデモ。托鉢を逆さまにするということは、軍事政権からのダーナー(布施サ援助)を拒否することだ。主食のコメや燃料、バス代などが2倍にも値上がりし、生活を直撃している「国民の困窮」を見かねて蜂起▼欧米メディアはサフラン色の僧衣にちなんで僧侶40万の「サフラン革命」と呼んでおり、タイの僧侶1500人がヤンゴンに向かうなど、海外にいるミャンマー人僧侶たちも集結している。軟禁されている民主化運動リーダーのアウン・サン・スー・チー女史も精神科の刑務所に連行されたという▼兵士に撃たれながらも僧侶デモの撮影を続けようとした長井健治記者の写真が痛々しい。無差別発砲の強行手段を取り続ける軍事政権に決定的な抑止策を打てない国際社会がもどかしい。国連が主導して、早く「軍政が死の弾圧」の見出しを「民主化の平和取り戻す」に替えなければ。(M)


9月28日(金)

●高校生の頃、漢詩や漢文はにがてだったが、詩吟で杜甫の「春望」などを聴いているうちに漢意(からごころ)がいくらか分るようになった。国の新リーダーになった福田康夫総理の政治信条は「一国似一人興、似一人亡…彼管仲者、何似死哉」だという▼北宋時代の文人、蘇洵(そじゅん)が当時の政治家らを評した言葉で「一国は一人の力によって盛んにもなり、また一人を以って滅びもする。優れた宰相が必要だ」ということ。新総理は以前「歴史は国が方向を見失った時、それを導く人物を忽然と出現させる」とも言っていた▼小泉政権は「今の痛みに耐えて明日を良くしようという『米百俵』の精神こそ、改革推進に必要」と突き進んだが、政権党をぶっ壊す寸前に陥れた。「美しい国」をひっさげて船出した安倍政権は、この法案も、あの法案も、と欲張ったせいか、自滅に追い込まれた▼白楽天は「詩の為に詩を作るのではなく、民の為に詩を作る」と言っている。それには人並み以上の体力が必要。松前藩の官僚文人、蠣崎波響は500余首の漢詩を残しているが、「自憶官労何健在 樊中澤雉愴生涯」と「公務の苦労はどうして私を健康でいさせようか」と嘆いている。満身創痍で去った安倍さんが痛々しい▼「過(あやま)てば、改(あらた)むるに憚(はばか)ること勿(な)かれ」(孔子の論語)。「決して気軽な気持ちで総理になろうとは思わない」と言っていた福田総理。前政権の欠点を修正して、月の光が地方にも届くように、「白楽天の心」で民意を政治に生かして欲しい。(M)


9月27日(木)

●福田赳夫元首相は、警句や造語の名手だった。「昭和元禄」「狂乱物価」など時代の空気を的確につかんだ寸言を発した。政界のご意見番を任じた「昭和の黄門」や気持ちの若さを強調した「明治38歳」も忘れがたい▼息子の福田康夫新首相は、父ほどの洒脱な言語使いは、しないようだ。いや、慎んでいるのかどうか、自らの内閣を「背水の陣」と、いささか新奇性に欠ける慣用句を使って名づけた▼なるほど「背水の陣内閣」には違いない。年金、政治とカネ、格差などの問題が噴出し、自民党に注がれる国民の視線は厳しい。政治への信頼を取り戻せるかどうか、がけっぷちに立たされて政権を引き継ぐ覚悟を「背水の陣」にこめたのだろう▼「背水の陣」は、よく知られるように「史記」に描かれた漢の武将韓信の故事に由来する。寄せ集めの漢軍兵士を指揮した韓信は、川を背に陣を敷き、決死の覚悟で戦って優勢な趙軍を打ち負かした。捨て身の作戦が、勝利を呼び寄せたのだ▼福田新首相が思い描くのは「背水の陣」で総選挙を戦い、自民党を勝利に導くことだろう。すでに参院では与野党が逆転している。衆院では与党が3分の2の圧倒的多数を占めているとはいえ、次の総選挙で国民がどう審判を下すかは、わからない▼参院選の結果からすると、与野党逆転だってありうる状況だ。しかしなんとしても政権を死守するとの決意から「背水の陣」と言ったのだろう。「背水の陣」に勝利した韓信は、信頼する蕭荷に殺害される悲運に見舞われた。さて新首相の前途は、どんな展開になるのだろうか。(S)


9月26日(水)

●子供同士ならいじめ、高齢者の場合は虐待と呼び名は異なる。だが、人権を侵害して人としての尊厳を保てない状態にすることでは同じだろう▼函館で高校生の暴行死が起きたのに続き、神戸ではやはり高校生がいじめを苦にして自殺した。高齢者はというと、虐待が深刻化している実態が、厚生労働省の調査で明らかになった。昨年度、65歳以上の高齢者が家族から受けた虐待は1万2500件にのぼる▼昨年4月に施行された高齢者虐待防止法に基づく国の初の調査だという。体が弱った高齢者が食事を与えられなかったり、介護を放棄されたりといったケースが、しばしばニュースになっているのに、全国調査がこれまでなかったのも不思議なことだ▼見つかった虐待は、氷山の一角と専門家がコメントしていることからすると、表に出てこない事例が多いのに違いない。有吉佐和子さんがベストセラー「恍惚の人」を書いた1970年代は、要介護老人と介護者の間にまだ穏やかな余裕があったように思う▼それは高齢化がいまほど深刻化していなかったことと共に、負担を1人に背負わせなくてもすむ家族の介護力があったからだろう。だが核家族化が進み、老老介護が当たり前になった現在、介護の余力はむしろ失われてきている▼神奈川県横須賀市は、高齢者虐待を防ぐ地域ネットワーク事業に取り組んでいる。センターを設け、ケアマネジャーや保健師を配置して相談に応じる。市民啓発も盛んだ。高齢者と介護者を地域で支える仕組み作りは、函館や道南の各自治体も参考にしていい。(S)


9月25日(火)

●病院に行く。支払いの際に窓口で保険証を提示する。日本では見慣れた光景が、米国ではまず見られない。超大国の米は、西側先進国の中で国民皆保険制度を持たない珍しい国だ▼米国人は民間保険会社の医療保険に加入するのが一般的だ。病院に行くとどこの保険会社のどんな保険に入っているか、問われる。保険の種類によっては、受診できる病院と診療内容を限られることがある。しかも保険料は相当高い▼保険料を払えない米国人が約4700万人いるという。総人口は3億人だから米国人の6人に1人は保険に入っていない計算になる。最先端の医療技術を誇る国で、その恩恵を受けられない国民がいるというのは、厳然たる事実だ▼来年の米大統領選は、国民皆保険が争点のひとつになりそうな雲行きだ。民主党有力候補のヒラリー・クリントン上院議員が、医療保険制度改革案を発表した。これに対し、増税につながるとの批判が共和党ばかりでなく民主党からも沸き起こっている▼マイケル・ムーア監督の最新作「シッコ」は、米国医療の影の部分を浮き彫りにした。低所得層の医療難民とも言える実態を描いた映画は、反響を巻き起こした。首都圏ではすでに上映され、函館でも来月から上映が予定されている▼日本で皆保険が実現したのは46年前だ。安心して医療を受けられる態勢が整ったことは、国民の健康長寿に大いに役立った。だが、最近は保険料が払えず、保険証の交付を受けられない低所得層も増えている。米のような医療難民が日本でも出てこないかと心配になってきた。(S)


9月24日(月)

●紫式部は1000年前の「中秋の名月」の頃、源氏物語の執筆に着手、きらびやかな貴族社会の恋を描いたという。月が1年で一番大きく、美しい日だ。1100年前には光る竹の中から現れた絶世の美女「かぐや姫」が月の国に帰っていった▼月の表面は、日本ではウサギが餅をつき、米国ではカニやワニの形に、国によってはライオン、本を読む老婆、女性の横顔の姿に見えるそうだ。月の裏面はどうなっているのだろう。地球に対して同じ向きを見せて回転しているため、有史以来、月の裏側を見た人はいない▼人工衛星アポロが月面着陸してから、「月面の円形都市の映像で裏面には宇宙人の文明があるのでは」「宇宙人の秘密基地があって大統領のゲストハウスまである」という説や「巨大餅つき工場がある」説など、想像をかき立てている。日本人エリアには、かぐや姫の子孫が住んでいるかも▼その月はグルグル自転する地球に飛ばされるように年に3センチずつ地球から遠ざかっている。100億年後には40日から50日かけて地球を1周する計算になり、お月見は限られた国・地域でしかできなくなるという。裏側の素顔も探査しようと打ち上げた人工衛星「かぐや」が月面に近づいている▼「かぐや」に続いて、月に住む伝説の美女から命名した中国の「嫦娥(じょうが)」、月の乗り物を意味するインドの「チャンドラヤーン」など探査衛星が相次ぎ月へ向かう。25日の中秋の名月には、竹取物語の神秘とロマンが息づく月の裏側にも思いを馳せながら、お月見を楽しみたい。(M)


9月23日(日)

●「死ぬとは思わなかった」…。ゲーム感覚で高校生を瀕死(ひんし)の状態で公園に置き去りにした函館の少年たち。メールで「金払え」と脅し高校生を自殺に追い込んだ神戸の同級生たち。ナタで父親を殺した京都の少女。とりわけ「厚いつもりで薄いものは友情・愛情」か▼高校生が金属バットなどで暴行を受けた公園には少女を含め8人が居合わせたが、誰もとめず、救急車も呼ばなかった。「やれ、やれ」とおもしろ半分で加担した少年もいた。以前から「キモイ」「死ね」などと、いじめられていたという。「友情」のかけらもない▼東京に住んでいた時、度々、出かけた高尾山の参道に「つもり違い十カ条」なる看板が立っていた。インターネットで検索したら「高いつもりで低いのは教養」「低いつもりで高いのは気位」「深いつもりで浅いのは知識」「浅いつもりで深いのは欲」「厚いつもりで薄いのは人情」▼さらに「薄いつもりで厚いのは面の皮」「強いつもりで弱いのは根性」「弱いつもりで強いのは我」「多いつもりで少ないのは分別」「少ないつもりで多いのは無駄」と続く。「殺すつもりはなかった」という少年たちは当然のこと、この条文には臥牛子もどきりとさせられる▼老若男女問わず、すぐキレる人が増えた。体育の授業で武道が必修になるというが、「道徳」の教科化は見送られる方針だ。教科化の是非は別として、好奇心・冒険心・闘争心など多情多感な思春期には「つもり違い十カ条」を理解し、最低限の「攻撃と抑制のルール」を教える道徳が必要ではないか。(M)


9月22日(土)

●相撲茶屋を経営していた八百屋の長兵衛さんは、親方と碁を打つとき、わざと負けて勝敗を調整した。実力は自分が上でも相手を負かせ過ぎると、商売上の差し障りが起こるかもしれない▼相手に花を持たせて機嫌を取り結ぶのが上策だろう、との心根からだ。長兵衛さんの茶屋の名は「八百長」。そこから八百長の語が生まれたと「語源辞典」(東京堂出版)が解説している。明治時代のことだそうだ▼へぼ碁のいんちき程度なら看過してもいいだろうが、民意を代表するはずの道議会が、八百長よばわりされては黙殺もできまい。改革派として知られた片山善博前鳥取県知事が「八百長」だとか「学芸会」だとかの過激な表現で道議会をやり玉に挙げた▼発言は、内閣府の地方分権改革推進委員会の席上で飛び出した。片山氏は結論を先に決めて試合をすることを八百長、シナリオ通りに運ぶことを学芸会と呼び、道議会が「一番ひどい」と指摘した。これに対し道議会は猛反発、高橋はるみ知事も不快感を表したという▼事前の質問取りは、道議会ばかりでなく、各自治体議会や国会でも行われている。質問予定議員を訪ね、内容を聞き取るのは、自治体職員や官僚の大事な仕事だ。そうして集めた質問趣意に沿って答弁を用意する▼八百長と言えば八百長だろう。中には質問自体を職員に作らせる議員もいるらしい。それは論外としても、質疑に緊張感を持たせるには、国会の党首討論のような手法を地方議会も考えるときかもしれない。質問者も答弁側も紙に目を落としながらでは長兵衛さんに笑われる。(S)


9月21日(金)

●「日曜はダメよ」は、メリナ・メルクーリさん主演でヒットしたギリシャ映画だ。舞台はアテネ近郊の港町ピレウス。メルクーリさん演じる娼婦が、理想主義者のアメリカ人研究者をきりきり舞いさせる様子が描かれていた▼映画は1960年に作られ、主題曲とともに日本でも話題になったから、懐かしく思い出す中年世代も多かろう。アテネの名家出身のメルクーリさんは、国会議員になり、文化大臣を務めた。亡くなって13年になる▼芥川賞作家の池澤夏樹さんは、ギリシャに75年から2年半住んだ。池澤さんは「あの居心地のよさは何だろう。温暖な地中海の東の方にあって、小さな、印象のくっきりした国。…神々の祝福に恵まれた国」(「池澤夏樹の旅地図」・世界文化社)と賛美している▼池澤さんが滞在したころ、政情は安定していなかった。60年代から続いた軍事独裁政権が崩壊したばかりで、トルコとの間にはキプロスの領有権を巡る紛争が起きていた。反軍事政権を叫び続けたメルクーリさんは、77年総選挙で国会議員に当選し、4年後に大臣に就いた▼現在のギリシャは、EU(欧州連合)とNATO(北大西洋条約機構)に加盟する民主国家である。そのギリシャの総選挙が行われ、与党の中道右派が勝利した。続投が決まった首相は、首相や大統領を歴任した大物政治家のおいだ▼自民党総裁選では福田康夫、麻生太郎両氏のどちらにせよ、総選挙の洗礼を受けずに首相に就く。正当性では「ヨーロッパの隅にあるつつましい国」(池澤さん)の首相にも及ばないことになりそうだ。(S)


9月20日(木)

●刑法に規定された現場助勢罪。傷害や傷害致死事件の現場で、はやし立てるなどして加害者の勢いを助けた者は1年以下の懲役か10万円以下の罰金、科料に処す。函館地検は8月に函館市内で起きた高校3年の男子生徒に対する集団暴行死事件で、現場で傍観していた少年ら数人への同罪適用を検討しているという▼元同級生ら少年7人は傷害致死の非行事実で函館家裁に送致され、同地検は「刑事処分相当」の意見を付け、成人と同様の刑事裁判を受けさせるため、検察官送致(逆送)するよう求めている。何ら落ち度のない被害者に執ように暴行を加え、死に至らしめた残虐さを踏まえた判断だ▼少年法は2000年末に改正され、さらに5月には少年院送致の年齢下限の引き下げを柱とした改正法が成立した。少年犯罪に対する厳罰化の流れが進むことへの賛否はあるが、現行法では少年が故意に人を死なせた場合、原則として家裁は逆送すると定められている▼問題は取り巻いていた少年少女だ。助けを求める被害者を無視し、暴行をあおり、凶器の金属バットを持ってきた者もいる。誰ひとりとして制止したり、通報しようともしない。凄惨で異常な現場状況が浮かぶ▼命の大切さをどう認識させるか。今回の事件を教訓に、真剣に、そして根気強く考えていかなければならない課題だ。真摯(しんし)に向き合い、悲しい事件を二度と起こさない方策を丹念に模索するしかない▼ただ、暴行に加わらなくても、現場にいた全員で一人の貴い命を奪ったーとする検察側の認識は理解できる。「もうやめろ」の一言がなぜ言えない。地検の捜査の行方を見守りたい。(H)


9月19日(水)

●一雨ごとに秋が深まる季節になった。函館では3連休最後の敬老の日、雨に見舞われた。そして綿雲を浮かべた昨日の空は、もうすっかり秋の気配だった。袖口から入り込む風にもひややかさが加わった▼秋と月は、互いに寄り添い日本人の感性を豊かにしてきたと言ってもいいだろう。秋の月を愛(め)でる心情は〈名月や池をめぐりて夜もすがら〉(芭蕉)など数多くの名句や名詩に表わされている▼おとぎ話では、月にはウサギが住み、餅つきをしていることになっている。だが世界の神話では、機織り女が住んでいるというのが主流らしい。文化人類学者の大林太良さんが「月中の織女」という随筆でポリネシアの織女ヒナを紹介している▼ヒナは月の中に住み、タパと呼ぶ樹皮布をたたいている。月の影は、ヒナがイチジクの木からタパを作っている姿なのだそうだ。同じような話は、地中海やヨーロッパにも広がっているから、ウサギのおとぎ話とは趣が異なる▼まあ、ウサギよりも織女が住んでいると考えた方がロマンチックだろう。その月に日本の探査機「かぐや」が向かっている。先週種子島宇宙センター(鹿児島)から打ち上げられた「かぐや」は、月を周回して重力分布などのデータを集め、月の起源を探るという▼「かぐや」は竹取物語のがぐや姫から名づけられた。あまたの貴族からの求愛を拒んで帰ってしまった「かぐや」は、織女が住む月のどんな秘密を明かしてくれるのだろうか。10月初めには月を回る軌道に到達する「かぐや」を思いながら、月見の宴を楽しむとしよう。(S)


9月18日(火)

●「障がいを持つ子供たちの居場所を作りたかった」。先生はそう言って目を輝かせた。活動が認められ、5年ほど前に公益財団から福祉車両を寄贈されたときの言葉だ。養護学校の教師をしながら障がい児にデイサービスを提供するNPO法人を設立して間もないころだった▼高齢者には、介護や短期入所の提供で家族介護の負担を和らげてくれるデイサービスがある。だが障がい児を抱えた家族には、そうしたサービスがなかった。先生は親の苦労がよく分かった▼障がいを持つ子の親は仕事に就きたくても介護や見守りに時間を取られ、フルタイムで働くことが難しい。学校から帰った子供を残して、買い物などに外出するのも不安だ。子供を一時預かりしてくれる施設があれば、親の負担を軽減できる▼先生のNPO法人は、そうした親の要望に応えた。道東の市や町にフリースクールを含め12カ所の事業所を設けるまでになったのは、それだけニーズが高かったからだ。先生は学校を退職し、NPOの理事長職に専念した▼先生の名が新聞で報じられたのは2月だった。なんと妻を殺した容疑者だという。それから2週間後、自殺した先生の遺体が見つかった。NPOはサービス費用の不正受給が明らかになり、道は先週、障害福祉サービスの指定を取り消す処分を下した。高齢者介護のコムスンと似た不正だ▼志を持って始めた事業が、なぜ挫折の道に転げ落ちたのか。なぜ、妻を殺したのか。心の闇をだれにも明かせなかったのか。疑問ばかりが膨らむ。障がい児と親は、新たなサービス提供施設が見つかるのか、不安を抱えていることだろう。痛ましい事態だ。(S)


9月17日(月)

●「天の声にも変な声がある」の名言を残したのは福田赳夫元首相である。1978年、自民党総裁予備選で敗退して本選挙を辞退したときに語った。息子の福田康夫元官房長官は、総裁選出馬にあたり「天の声」を聞いたのだろう▼福田氏は昨年の総裁選でも期待を集めながら出馬を見送った経緯がある。しかし今回は安倍晋三首相の突然の辞意表明を受け「緊急事態だ」と出馬を決断したという。派閥横断的な支持を取り付け、国会議員票では、麻生太郎幹事長を圧倒している▼福田氏は森、小泉と2人の首相の官房長官を務めた。在任1289日は歴代最長である。表情を変えずに記者会見で答える姿からは冷静な実務家の雰囲気が漂っていた。それは17年間の会社勤めの経験に由来するのかもしれない▼さて総裁選である。麻生幹事長は、地方票の獲得に力を注ぐ方針という。2001年の総裁選で、国会議員票では劣勢と見られた小泉総裁が誕生したのは、予備選での圧勝が議員票を大きく動かしたからだ。麻生氏はその再現を狙う▼それにしても安倍首相の動静はさっぱり話題にならなくなった。次の首相が決まるまでは、在任しているのだが、世間の関心は薄れてしまった。権力の座から降りた後のほっとした気持ちと無念さをかみしめながら入院生活をしているのだろうか▼福田氏は父が元首相、麻生氏は祖父が吉田茂元首相だった。安倍首相は祖父が岸信介元首相だ。福田、麻生両氏のどちらにせよ、2代続けて首相経験者の子か孫が首相に就く。「変だぞ」の天の声はないのだろうか。(S)


9月16日(日)

●おしりとおしりでお知りあい〜 カバとカバでかばい合い〜♪ 今、園児や小学生に大人気。NHKの「みんなのうた」で放送中の『おしりかじり虫』だ。「えっ、お尻の歌なんて…」とびっくりしたが、孫が通う幼稚園の運動会に出かけて初めて耳にした▼昨年の今ごろは「た〜らこ〜た〜らこ♪」など食べ物ソングが流行っていた。今秋の主人公はお尻にかじりつくアリに似た妖精。苦難にもめげず、ひたすらお尻を求めて旅を続けるアニメキャラクター。おしりで人と人、親と子をつなげようとする温かな「お節介(せっかい)虫」で「益虫」でもある▼人付き合い、人情などが希薄な土地では「巨大なおしりをかじり虫♪ 都会のおしりは苦かった…♪」と嘆く。かわいいキャラクターと軽快なメロディーに、主婦やお年よりにも人気。「聞いた日は気持ちがすっきり、元気をもらった」という声が届いているという。絵本やCDも売れている▼また「演歌に込められた日本の情緒を大切にしてほしい」と、来春から高校2年の一部教科書に「演歌」が初めて登場するという。掲載されるのは北島三郎の『まつり』。是非を問う親もあろうが、音楽室で「そうさ、かついで生きてきた♪」と、こぶしを利かせるのもいい▼友だち、親子、家族が一緒に楽しく歌って、人との積極的な触れ合いを取り戻せれば「かじられちゃって超いい感じ♪」に。生活の色・におい・人情など日本人としての生きざますべてが凝縮されている演歌に、高校生たちは「俺もどんとまた生きてやる♪」と、叫ぶに違いない。(M)


9月15日(土)

●函館市内で11日未明に起きた暴力団組員と警察官の銃撃戦は、銃器犯罪の恐怖を強烈に印象づけた。平穏な日常生活を乾いた銃声が切り裂く現実に、背筋が寒くなった市民も多いはずだ。撃たれて重傷を負った警部補の早い回復を願いたい▼暴力団の発砲事件は全国的に減少傾向にあり、道内も2004年以降は沈静化の様相を見せていた。昨年一年間で全国の警察が押収した拳銃は458丁で前年より31丁減少し、道警も9丁で同様に減っている。ただ、銃の恐怖が薄れつつあるわけではない▼4月には選挙期間中だった長崎市の伊藤一長前市長が暴力団幹部に射殺され、翌5月には愛知県で元暴力団組員が元妻を人質に立てこもり発砲、警察の対テロ特殊部隊(SAT)隊員一人が殉職している。深く静かに、確実に広がる“銃社会”の闇(やみ)が見える▼暴力団対策法の施行後、資金源を一般社会に求め、暴力団が巧みに実体を隠し、経済活動や個人の金融、不動産取引などに介入するケースが増えている。市民生活と暴力団の接点は以前より広がっている▼今回死亡した組員からは覚せい剤の使用反応も出た。JR函館駅で10日朝、乗客に拳銃をちらつかせるなど、極めて危険で異常な行動を取り、その日夜には拳銃を使って車両を強奪、そして発砲…。一連の行動に覚せい剤使用が影響していた可能性も捨てきれない。錯乱状態のまま無差別発砲という最悪の事態になる危険性もはらんでいた▼どこで拳銃を入手し、なぜ函館に来たのか、車を奪った狙いはー。被疑者死亡で捜査は難しいが、徹底的に解明してほしい。(H)


9月14日(金)

●凛とした気品が漂う西洋松虫草のスカビオサ。微風にも震えそうな薄い花びら。庭に咲き誇っているが、他の花よりも多くの陽光と水を欲しがる。毎日、ポルトガル語で“水の噴出”を意味する如雨露(じょうろ)で、たっぷりと水をやらなければ▼無責任だ、複雑怪奇、空中分解、気力喪失、ギブアップ、戸惑い、呆然、政権投げ出し…。「職を辞することで局面を変えなければ」と安倍晋三首相が辞任を表明した時、紙上に踊った見出し。参院選で大敗したにもかかわらず続投、背水の陣で「職をfイす」と決意したばかりなのに▼「美しい国」「戦後レジーム(体制)からの脱却」「改革は止められない」などを叫び船出して1年足らず。民意には耳を傾けず「自分がしたいこと」だけに走ってきた。まるで、だだっこのように。不祥事を起こした閣僚をかばいすぎた「気遣い」も裏目に出た▼「政策の実施が困難」という辞任の理由も幼稚すぎる(後で健康上の理由も)。代表質問直前の辞任は国政を混乱させ、事態を悪化させるだけで“マナー違反”ではないか。知恵や助言を進言してくれる、よきブレーンに恵まれなかった。突っ走る首相をいさめる師や参謀も不在だった▼如雨露は「雨露の恵み」「雨露の恩」ともいい、万物を潤す。栄養(知恵)をたっぷり取って松虫草は開花する。政治空白は対外的にも許されない。「巧言令色、鮮なし仁」。孔子が言う「思いやり・優しさ」を如雨露で与えてくれる新総裁を早急に選んでほしい。派閥争いに始終せず、国民の信頼回復が先決だ。(M)


9月13日(木)

●もはや携帯「電話」と呼ぶのはふさわしくない。テレビが見られ、音楽も聴ける。メールはもちろん小説を書くにも使える。すさまじい進化を遂げている実態を見ると、携帯多機能ツールとでも呼び名を変えたほうが似合っている▼文化庁が実施した06年度「国語に関する世論調査」で、書けない漢字を調べるのに携帯電話の漢字変換機能を使っているとの回答が、10代から30代で6割を超えた。携帯が辞書代わりになっていることを示す顕著な例だ▼電子辞書は、いまや携帯が当然に備える機能になった。手元の機種を見ると、英和・和英と国語辞典が入っていた。紙の辞書に親しんだ世代には、電子辞書よりも広辞苑や英和辞典をひもとくほうが何となく安心感がある。だが、辞書何冊分もが入った最新ツールの便利さは捨てがたい▼最新用語や世相を映す言葉を収録している「イミダス」(集英社)と「知恵蔵」(朝日新聞社)が今年度版を最後にそろって休刊を決めたのは、売れなくなったからだ。インターネットの普及で多くの情報が無料で得られるようになった。分厚い書籍は時代遅れの遺物でしかない▼初めて携帯を手にした10余年前を思い出す。当時の携帯は電話の子機ほどの大きさがあった。ケースに入れベルトにぶら下げていた。用途はもちろん通話だけ。きわめてシンプルだった▼いま携帯は、メールとネットが使い方の主流になり、通話には使わないユーザーが、4割もいるとの調査があるそうだ。通話機器ではないから通称はケータイ。いずれ通話不可のケータイが出てくるかもしれない。(S)


9月12日(水)

●多い時は母船10隻、独航船332隻が家族たちの投げる五色のテープと軍艦マーチに送られて一斉に出漁。5月の風物詩だった。高校生の頃、函館公園で開かれた北洋漁業再開記念博覧会で函館が北洋漁業の基地であることを知った▼日櫓漁業が中心に取り組んだ母船式サケマス漁業。55年前に北洋漁業が再開された頃の母船は3000トン級だったが、年々、大きくなり、最盛期はなんと9000トン級。洋上の水産加工場で1日に約7万箱のサケ缶詰を作っていた。漁期は5月中旬から約3か月。魚場はカムチャッカ沖▼サケ、マス、カニだけではない。8月下旬から12月にかれてベーリング海でエビ、カレイ、銀ダラなども捕っていた。帰港すると五段雷の花火が出迎えた。しかし、漁業協力費の負担が年々大きくなり、母船式での操業は採算が合わなくなったため、20年前の出漁が最後となった▼出漁の1週間前から母船が終結、独航船(母船1隻に約50隻)や乗組員らは本州からもか駆けつけて、大門の繁華街は漁船員であふれ、連日“夜の北洋博”を満喫。「あの賑わいをもう一度」と今、漁船員の汗と油がしみ込み廃墟となったキャバレー「未完成」の復元に函館出身の女性社長が奔走している▼企画展「街と歩んだ北洋漁業〜ニチロ創業100年〜」(市北洋資料館)を見て、ニチロが北洋漁業を媒介に1世紀にわたって函館の産業・文化・教育の発展にいかに貢献してきたかが分る。23日に1日だけ復活するキャバレーに行って、当時取材したサケマス船団の記事を読み返してみたい。(M)


9月11日(火)

●9・11同時多発テロは、21世紀の世界を変えた大事件として記憶されることは間違いない。「テロとの戦い」を大義名分に掲げ、米ブッシュ政権はアフガニスタン空爆、イラク戦争に突き進んだ▼世界がテロの恐怖におびえるようになったのも、9・11がきっかけだった。スペインの列車爆破、英国の爆弾テロなど欧州を襲ったテロは、パキスタンやインドにも拡大している。テロの悪意がどこに潜んでいるか、恐怖と背中合わせに生きる時代になった▼2749人が死亡した世界貿易センタービルの崩落は、環境にも災厄をもたらした。アスベストが飛び散り、ダイオキシンや鉛、水銀などの有害物質が、周辺の路上やビルを覆い、水路を通って川に流れ込んだ▼マンハッタン南部の居住者や救助に当たった消防士、警察官に呼吸器などの疾患が多発しているのは、環境汚染が原因とデーリー・ニューズのコラムニスト、フアン・ゴンザレスが著書「フォールアウト」(岩波書店)で指摘している▼9・11から1年後、現場を訪ねた。ビルがあった場所は、巨大な穴になっていた。穴の底ではブルドーザーがガレキを集め、トラックに載せて運び出していた。ボードに張られた犠牲者の顔写真を見つめる人たちがいた。連れて行った娘と息子は、無言で見守っていた▼6年が過ぎたが、あの日のテレビ画像がいまも鮮明によみがえる。衝突する航空機、燃え上がる上層階、炎が広がり崩れ落ちるビル、逃げ惑う人々…。繰り返し放映された画面に釘付けになったからか、脳裏に刻まれてしまった。悪夢の記憶だ。(S)


9月9日(日)

●学生時代、即席めんにはずいぶんお世話になった。なにしろ安くて手軽、しかもそこそこうまい。腹を空かせた学生にとってこれほど重宝な食べ物はなかった。いや、会社勤めをしてからもちょくちょくお世話になっている▼その即席めんが値上がりする。バイオ燃料向けの需要拡大が農産物価格を押し上げ、原料の小麦が高くなった。地球温暖化防止を図るため、世界的に普及を目指すバイオ燃料が意外な波紋をもたらすのだなあ、と改めて思う▼「地球白書」の刊行で名高いワールドウオッチ研究所のレスター・ブラウン博士が、バイオ燃料の需要増に警鐘を鳴らしていた。博士は森林を伐採して農地を広げ、農産物の増産を図ることに対し、環境破壊の危うさを指摘した▼農産物の高騰は、食糧難に苦しむアフリカの人々をさらに苦境に追い込むとも予測していた。事態は博士が心配していた方向に進んでいるようだ。日本のメーカーの即席めん値上げは、農産物価格の世界的な高騰が波及した小さな一例かもしれない▼それでもデフレ傾向が続いた後、モノの値段が上昇するのは家計には痛手だ。バイオ燃料向けにトウモロコシを増産したために、大豆の作付けと供給が減り、食用油が値上がりしたのは、夏前のことだった。つられてマヨネーズなどの値が上がった▼菓子メーカーも追随の動きを見せる。内容量を減らし、実質的な値上げに踏み切る商品が続出しそうだ。外食でも原材料費の上昇をカバーしきれず、価格への転嫁が始まっている。食欲の秋は、食にかかわる値上げでスタートする。(S)


9月8日(土)

●ジョン・レノン、オノ・ヨーコ夫妻が住んだニューヨーク・マンハッタンの高級アパート、ダコタ・ハウスは、築120年を超す。外観は歴史を感じさせるたたずまいだが、内部は快適に暮らせるようにリフォームされている。映画「ローズマリーの赤ちゃん」の撮影に使われたから、記憶している方もあるだろう▼米国の住宅は、一戸建てもアパートも50年以上は使えるように建てられている。ヨーロッパの住宅はもっと長寿だ。日本でも関東大震災後に建てられ、80年の歴史を刻んだ同潤会アパートが最近まで現存していた▼だが、マンションも一戸建ても日本の住宅の平均寿命は欧米に比べ、ずっと短い。日本の30年に対し英国70年以上と大きな開きがある。こと住宅に関しては、内部をリフォームしながら長く使うという考えが希薄だったといってもいい▼国土交通省は来年度から住宅履歴情報のデータベース化に取り組む。建物ごとに施工内容や業者、リフォーム歴、点検などの情報をまとめる。住宅取引の約1割しかないと言われる中古の流通促進が狙いだ▼住宅は大方の人にとって一生に一度の大きな買い物だ。家族構成や住まい方、環境、交通アクセスなどを考え、希望に出来るだけ近い物件を選ぶ。そこに履歴のしっかりした中古市場が確立すれば、住宅の選択肢が広がる▼履歴情報のデータベース化は、いまや牛などの家畜でも広く行われるようになった。高価な買い物の住宅にこれまで履歴情報が確立していなかったのが不思議なくらいだ。新たな仕組みは丈夫で長持ちする住宅造りを促進する機運をはらんでいる。(S)


9月7日(金)

●先週、本欄で「彼岸花が9月の花の代表格」と書いたら、読者から「菊や桔梗の方が秋の花の代表格ではないか」と電話をいただいた。確かに菊は縁起のよい奇数の9が重なる9月9日の「重陽(ちょうよう)の節句」の主役で日本を代表する花。菊祭りを開いて祝う▼菊には邪気を払って長寿の効果があると信じられ、平安時代に中国から伝わった重陽の節句には菊を湯船に入れて入浴し、酒に菊の花びらを浮かべた「菊酒」を交わし、長命を祈願した。前夜の夜霧で菊の香りを浸した綿で顔や体を拭う「菊の被綿(きせわた)」は優雅ではないか▼昨秋、秋分の日に行われる京都の「晴明祭」を50年ぶりに見てきた。超霊能力を持つ安倍晴明が使っていた五芒星(ごぼうせい)は桔梗の花びらの五角形だ。古代ギリシャの神殿などにも彫り込まれている。函館の五稜郭もこの類(たぐい)か。菊も桔梗も「鬼門の邪気」を追い払う▼晴明祭は“陰陽師(おんみょうじ)ブーム”で海外にも知られたせいか、アニメのキャラクターなどに扮したコスプレ姿の外国女性で賑わっており、巫女の衣装とマッチし不思議な光景だった。桔梗の花言葉の「誠実・変らぬ愛」と菊の「思慮深い」空気が漂っていた▼今、世間を騒がせている“鬼門”は「三度あることは四度ある」という新ことわざを生み出しそうな国会か。特に食の安全を守る農水省。身体検査をしても、次から次へと「不正」が発覚。国民に仕える「誠実さ」と「思慮深さ」に欠けている。鬼が出入りしないように、菊や桔梗にお願いしなければ。(M)


9月6日(木)

●市立函館病院は、函館市と道南一帯はもとより青森県からも患者がやってくる中核医療施設だ。道内初の脳死判定が行われたことでも知られ、高度な先端医療を担っている。函病(かんびょう)と言えば信頼の医療機関であることは間違いない▼その函病が糖尿病、リウマチ科、腎臓内科の3専門外来の閉鎖を決めた。新規患者の受付はすでに断り、再来患者の診療も来春までには止める。昨年4月の産科休診に続く、診療科の縮小である▼背景にあるのは医師不足である。糖尿病とリウマチ科の専門医は、それぞれ開業や他市への転出で辞める。腎臓内科の医師は派遣元の北大に帰る。大学からはいずれも補充はない。産科の休診も、3人いた常勤医が大学側の都合で引き揚げたために起きた▼道内では北大、札幌医大、旭川医大の3大学が医学部を持ち、医師を養成している。だが、どの大学も地域の病院に医師を派遣する余力が失われているという。それどころか従来派遣していた医師を大学病院に引き揚げる傾向が強まっている▼国は3年前、医師の臨床研修制度を導入した。それまでは大学の医局に残って診療技術を学ぶことが多かった医師の卵たちが、研修内容や待遇を比較して民間病院に流出した。それらの医師は研修を終えても大学に戻ってくることが少ない▼奈良県で起きた妊婦のたらい回しが記憶に新しい。9つの病院に受け入れを断られ、胎児は死亡した。札幌でも搬送中の妊婦らが拒否されたケースが昨年5件あったという。必要なときに医療を受けられない。地域の医療危機が進んでいる。(S)


9月5日(水)

●同じフロアにいる同僚に聞いてみた。「財布の中に入っている?」。イエスの答えは1人からもなかった。それどころか、もうずいぶん長いこと目にしていないなあ、との声が圧倒的だった。あのお札、どこに行ってしまったのだろう▼イヤ何、2000円札のことです。2000年7月に発行されてから7年。当初こそ物珍しさが手伝い、手に入るとしげしげと眺め、財布の中に仕舞い込んだりした。銀行に行き1万円札や千円札を出して交換してもらった方も多かろう▼2000円札の表には、沖縄県の守礼門が印刷されている。だからなのか、同県は2000円札の流通量が多いそうだ。県議会や那覇市議会が、2000円札流通促進を決議。民間でも流通促進委員会を組織して「県民として2千円札を3枚ずつ持ちましょう」と運動している▼世界では2の付くお札は相当流通している。1ドルから100ドルまでの米ドル紙幣のうち20ドル札の流通量は全体の4分の1近い約59億枚に上る。なるほどアメリカに行くと、20ドルは使い勝手がいい。100ドル札は、釣りがないと受け取りを断られることもあるが、20ドルはそうしたことはない▼ユーロにしても20ユーロ札の流通量は、全体の5分の1の約22億枚だ。そこで同県は、2の単位は国際的素養を身に着けるにも有効とPRしている。この話題は、財務省編集の「ファイナンス」という小冊子で知った▼ところで、函館のコンビニで2000円札を出したら、オヤという顔をされないだろうか。どんな反応が返ってくるか、試してみたい。(S)


9月4日(火)

●旧戸井町長で、合併後の函館市戸井支所長を務めた吉沢慶昭さんは、住民自治の理念を熱く語った。「何でも行政に頼る時代は終わった。地域でできることは地域でやり、住民も我慢できることは我慢することが必要だ」▼民間会社から役場入りしたため、逆に民間に負けられないと思ったという。一般職の時代から任意の職員研修を企画し、小額の会費を徴収しては積み立て、各界の著名人らを招いて講演や懇親会を開いた▼職員の能力向上は、どの自治体でも大きな課題。公費を使わずに職員が見聞を広げる取り組みは、アイデア次第でできる。さらに行政は今、民間の力を借り、発想や意識を取り入れていくことが求められている▼公共施設の管理を民間に委ねる指定管理者制度、業務の民営化、民間人の登用や人事交流などさまざま。行政に対する市民ニーズは多様化する一方だが、一方で官の業務を見直し、スリム化していくことも不可避だ▼保育園の民営化などに反対する意見もある。ただ、民間で十分対応でき、サービスの維持や向上が図られるのであれば委ねるべきで、官が民業を圧迫してはならない。守るべきは官の雇用ではなく民の雇用で、民間の手が届かないところに官の力を充て、民の力を育てていくことが必要だろう▼吉沢さんは町長時代、地元の小学生に相撲のけいこも付けた。「高校時代に選手だったから」と笑うが、「自分でできることは自分でやる」との考えを、自ら実践した。町長の胸を借りた子供たちは今、立派な成長を遂げている。(P)


9月3日(月)

●身体検査と聞くと小学生のころ、身長と体重を測定し、視力検査を受けたことを思い出す。医師が聴診器を胸と背中に当て心音などを聞く内科検診もあった。一列に並ばされ、1人ずつカーテンの内側に呼び入れられて検診を受けた。何か異常を指摘されないか、不安が頭をよぎった▼身体検査は、政界用語としても定着したようだ。こちらの身体検査は、主にカネにまつわる不正がないかを調べる。首相官邸が、閣僚候補者の政治資金の入りと出や、私生活を事前チェックする際の隠語として使われていたのが一般にも知れ渡った▼調べられる当人にすれば、身体検査を通らなければ閣僚になれない。調べられているかどうかの通知もない。閣僚適齢期で周囲の期待も高まっている議員さんたちは、小学生の身体検査以上の不安に包まれるのかも知れない▼検査に合格したはずの閣僚からカネに関する不正がまたも露見した。バンソウコウ大臣が事務所費問題を問われて辞任したと思ったら、遠藤武彦新農水相がトップの共済組合が、農水省補助金を不正に受給したことが分かった▼同省は、バンソウコウ大臣の前任者が自殺している。遠藤農水相は、ここの大臣だけはなりたくなかった、と言ったそうだから、予感があったのだろうか。就任7日、遠藤農水相は辞意を表明した▼同省は、なんだかのろわれた役所に成り下がったみたいで、事務方の苦労がしのばれる。それにしても政治家の身体検査って、かなりいい加減だな、と分かった。厳密にやると検診にひっかかるのが続出だったりして…。(S)


9月2日(日)

●見上げる空が心なしか高くなった。30度を超す猛暑の夏は過ぎ去り、忍び寄る秋の気配が日ごとに濃くなる。年始からは245日目、今年も3分の2が終わった▼24年前の昨日、ニューヨークを飛び立った大韓航空ジャンボ機が樺太近海で旧ソ連空軍機に撃墜された。領空を侵犯したジャンボ機をスホーイ迎撃戦闘機がミサイル攻撃した事件だった。この事件では日本人乗客28人を含む269人全員が死亡した▼道北の海岸には、乗員・乗客の遺品や飛行機の残がいが漂着した。打ち上げられる遺品や残がいを捜索する様子をテレビ画面に釘付けになって見守られた方も多かろう。「故意に領空を侵犯した」とするソ連の主張は、ブラックボックスの解析やアメリカが傍受したソ連軍の暗号解読で否定された▼暗号解読にはベレンコ中尉が協力したとされる。1976年9月、ミグ25戦闘機を操縦して函館空港に強行着陸、アメリカに亡命したソ連軍人である。ミグ25は当時最新鋭とされた戦闘機だった。その機体を取り返すためソ連軍がやって来るとのうわさが流れ、緊張が走った▼米ソが世界で覇権を争った冷戦時代に起きた衝撃的な事件だった。事件は、機体を徹底的に検査した後のソ連への返還、ベレンコ中尉の亡命で決着した。函館が冷戦最前線の緊迫感に巻き込まれた1ヶ月間だった▼秋の始まりの9月。ひもとけばさまざまな出来事が思い浮かぶ。函館にとって最大規模の災害のひとつと言っていい洞爺丸事故もこの月に起きた。だが、今年は何事もなく豊かな実りと行楽を楽しむ月であってほしい。(S)


9月1日(土)

●鎮魂・追悼の8月が去り、ナガツキの9月に入った。稲を刈る月だが、はかない花が咲き競う月でもある。庭には朝開き、夕にしぼむ槿(ムクゲ)が咲き、サボテンも10年ぶりに開花した。道が選定した北海道の9月の花はコスモスとサンゴソウ▼全国的には彼岸花(ヒガンバナ)が代表格。別名、曼珠沙華(マンジュシャゲ)は、めでたいことが起きる兆しに天から降ってくる「天上の花」。真っ赤な色が火を連想させるせいか、子どもの頃、「そんなものを取ってくると家が火事になる」と叱られた。球根にリコリンという毒があるからだ▼はかない花は生と死、善と悪の両面の教訓を含んでいる。ある動物園で「世界一恐ろしい動物」と書かれた立て札を覗(のぞ)いてみたら、そこには「人間」即ち「自分」が映し出されていた…という笑い話を久しく聞かないが、恐ろしい出来事は人間が起こしている▼金銭のトラブルからか、函館の高校生が元同級生や後輩ら7人から殴るけるの暴行を受けて死亡した事件。帰宅途中に3人組に拉致され、手錠をかけられてハンマーで殴られ、女性会社員が死亡した名古屋市の事件。まさに彼岸花が持っているリコリンの毒が噴き出したのか。絶対、許されない▼何年もエネルギーを蓄積して、数時間しか咲かない9月の花びら。はかない花々のように人間もいつか滅するが、他人に枝を折られるのはご免だ。彼岸花の花言葉のように「悲しい思い出」は残したくはない。「防災の日」に、今一度「生かし・生きる」大切さを考えてみよう。(M)


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