平成20年2月


2月29日(金)

●医師の小松秀樹さんが著した「医療崩壊」(朝日新聞社)は、2年前に出版された。小松さんは、過酷な勤務を強いられる医師が突然辞め、負担の少ない病院や開業医に流れる実情を「立ち去り型サボタージュ」と呼んだ▼医師が、特に救急医療で不足し、危機的状況に陥っていることに警鐘を鳴らした本だった。小松さんが指摘したのは、医療訴訟率が高い産婦人科医の減少だった。医学生が産婦人科医を忌避する傾向について触れていた▼札幌市の産婦人科医会が重症患者を診る二次救急から撤退する方針を決めたことを知り、がく然とした。札幌では同医会所属の9医療機関が、二次救急と夜間の初期救急を担っている。ところが負担の重さに音を上げ、9月で撤退すると市に通告した▼同医会が市に求めたのは、夜間急病センターへの産婦人科医の配置である。初期救急はセンターの医師が診療し、入院や手術が必要な二次救急を9医療機関が対応する。初期と二次の分離案だ。しかし、市は財政難を理由に医師配置を断った▼初期と二次の振り分けは実は簡単ではない。患者側にすれば、安心を求めてスタッフと設備の整った二次救急に行きたがる。軽症の患者が二次にあふれる理由のひとつだ。市は負担軽減策を話し合うとしているが、落着点が見出せるかどうか▼函館市を含む2市7町でも夜間二次救急の負担増が問題になっている。医師不足から輪番を抜ける病院に代わり、他病院が当番回数を増やすことで穴埋めはした。だが、抜本的な解決策にはなっていない。医療危機が広がっている。(S)


2月28日(木)

●少雪の傾向だと思っていたが、猛吹雪が襲うなど積雪量は帳尻を合わせてきた。そんな今冬は4年に1度の閏(うるう)年で、2月のカレンダーは29日まである。小5の孫が「この年に生まれた友だちの誕生日は4年に1回しかないの」と聞いてきた▼地球が太陽を1周するのに365・2422日かかり、古代ローマでは2月が年末だったため、4年に1度、2月に366日の閏年を設けたのが始まりだという。古代インドでも1カ月が29日半ぐらいで1年はこの月が12集まったものだということを知っていた。日本は136年前から採用▼また閏年は4年に1度のオリンピック・イヤー。選手たちは世界の頂点をめざすが、悲劇をも引き起こす。第6回ベルリン大会直前に第一次世界大戦が始まり、第12回東京大会では日中戦争が勃発。今夏の北京大会は冷凍ギョーザにみられるように“毒入り食品”テロなどは想像したくない▼さらに、なぜか29日は「閏年ニンニクの日」だとか。数字の語呂合わせなのだが、4年に1度しか来ない日を決めるなんて粋な業界だ。ニンニクは疲労回復に効き、脳を活性化させる。ブルガリアでは子どもの風邪予防にニンニク・ネックレスを付けさせている▼閏年生まれの友だちの誕生日は戸籍上4年に1度だが、法律で「誕生日の前日に年齢は満了する」とあるので、28日が誕生日になるのでは。宇宙の時空の調整から生まれた閏年という「不思議な時間」。1日違いは、得なのか、損なのか。「一家団欒(らん)の日」にして家族の絆(きずな)を深めるのも一策だ。(M)


2月27日(水)

●「なぜだ」という思いは2人に共通しているだろう。27年前のロス疑惑で逮捕された三浦和義容疑者と控訴審で実刑判決を受けた鈴木宗男被告のことだ。テレビを注意深く見た方なら、2人が同じ弁護人に依頼していたことに気づかれたかもしれない▼三浦容疑者のサイパンでの様子を説明する弁護人が、次の場面では鈴木被告の横に座っている。三浦容疑者の逮捕と鈴木被告の控訴審判決が重なったために起きた偶然だが、見ている側には「あれっ?」と思わせる画面だった▼北海道開発庁長官や官房副長官などを務めた鈴木被告は、昨年7月に行われた参院選の遊説で、函館・道南にやってきた。真っ黒に日焼けした笑顔で、新党・大地の候補者の支援を訴えて回った。エネルギッシュな行動力は、刑事被告人になってからも変わらない▼鈴木被告は、テレビのバラエティー番組などに出演して一時期の悪役イメージがかなり和らいだ。議員活動でも外務省がらみの質問主意書を連発して、存在感を示している。毎日更新される「ムネオ日記」は、政治記者にとっても要チェックの内容だ▼判決の前日、鈴木被告は「検察による国策捜査の事件」と批判し、「司法の良識、良心を信じています」と心境を記した。実刑判決が覆らなかったことを受けて即日最高裁に上告した。保釈請求も認められたから議員活動にも当面の支障はない▼一方の三浦容疑者は保釈が認められず、サイパンで収監されている。焦点はロスへ移送されるかどうかだ。同じ弁護人を頼む2人の「なぜだ」は、まだ晴れそうにない。(S)


2月26日(火)

●「さよなら、さよなら、さよなら」のせりふで知られた映画評論家淀川長治さんは、2歳の頃から映画好きの両親と毎週映画を見ていた。3、4歳にもなると両親と祖母に交互に映画館へ連れて行かれ、毎週2館の上映を見ていたというから驚く▼淀川さんが「お腹の中にいるころから映画通い」と題したエッセーに書いている。映画好きが高じて映画会社の宣伝部に入り、後の「日曜洋画劇場」で名調子の解説を聞かせる素地は、幼児期に作られたことが分かる▼淀川さんほどの映画好きでなくても、心に残る1本はだれにでもある。名作や話題作でなくてもいい。私にとっての忘れられない映画は、何年たっても思い出のシーンとともに鮮やかによみがえるだろうと思う▼アカデミー賞の授賞式を控え、米国人の好きな映画ランキングが発表された。1位はビビアン・リーとクラーク・ゲーブルが主演した「風と共に去りぬ」が選ばれた。この映画は主題曲と共に日本でもヒットしたからファンが多い▼2位「スター・ウォーズ」、3位「カサブランカ」が続く。以下「ロード・オブ・ザ・リング」「サウンド・オブ・ミュージック」の順だった。淀川さんが真っ先に推すチャップリンの「黄金狂時代」は、入っていない▼さて、今年のアカデミー賞では、日本の俳優浅野忠信さんが主演した「モンゴル」(カザフスタン出品)の外国語映画賞に期待が寄せられたが、受賞を逃した。だが候補に挙がっただけでもどんな映画か関心が動く。チンギス・ハーンの若き日を描いたこの映画、封切られたらぜひ見よう。(S)


2月25日(月)

●ある人が毒矢で射られた。家族や友人が医者を迎えに行き、矢を抜かせようとする。しかし、本人が毒矢を抜くことを拒否したらどうなるのだろう。誰がこの矢を射たのか、矢を射た弓はどんな弓だったのか、などが分らないうちは毒矢を抜くなと主張したら…▼「やらなければならないことの中でも最優先してやることがある」という釈迦『毒矢』の説法。海自のイージス艦に衝突され、漁船の親子が冬の海に投げ出された。レーダーの追跡は働いていたかなど原因究明も大事だが、まずは冷たい海から親子を救出しなければならない▼高性能のレーダーを装備したハイテク艦船。当直交代前の乗組員らが周辺の海上に漁船群がいることをレーダーで確認していたにもかかわらず、「漁船が避けてくれると思い」回避の行動を取らなかったのではないか。目視が不十分だった「人為的ミス」の可能性も指摘されている▼イージス艦は漁船と衝突する1分前まで自動操舵だった。レーダーに漁船群がキャッチされた時点で手動操舵に切り替え、見張り員が追跡するのが安全航行の基本ではないか。「ゾウがアリを踏むような」航行では困る。「命は大切だ」を念頭に人の心による回避行動に全力を注がなければ▼衝突の惨事から1週間。83歳の母親らが漁港から出る捜索の僚船に「息子を探して」と叫び、荒れた海に千羽鶴や花束などを流したが、まだ2人は「ただいま」と帰って来ない。国民を守るハイテク艦が最優先しなければならない「目視・正見・回避」を怠った。安全航海は結局は人の手によるものだ。(M)


2月24日(日)

●ニューヨーク原油先物相場が1バレル100ドルの大台を初めて超えたのは、先月だった。日本の石油元売各社も値上げに動き、ガソリン価格がセルフのスタンドでもレギュラー1リットル150円に張り付いた。暖房に欠かせない灯油も史上最高値になった▼その後、下落した原油相場が、再び騰勢を強めている。指標となるニューヨークで先週101ドル台を付けた。函館市内のスタンドは、先月より値を下げて1リットルが140円台前半になっているが、いつまた上昇に転じるか▼海外の動向が末端の消費者価格にまで影響するのは、原油に限ったことではない。オーストラリアの干ばつなどで需給がひっ迫して相場が急騰した輸入小麦の政府売り渡し価格が、4月から30%引き上げられる▼小麦価格は昨年10月に10%上がったばかりだ。製粉メーカーからパンやoト(めん)類など小麦を主原料とする食品メーカーへの販売価格が上がり、それが製品価格に跳ね返った。半年間に2度目の引き上げは、またも価格に転嫁される▼「値上げしません」宣言を掲げてきたスーパーなども仕入れ値の上昇分をカバーしきれなくなっているのが実情だろう。よく行く市内のスーパーでも食パンやパスタなどの値札が、付け替えられるだろうと思うと憂うつになる▼中国産ギョーザによる中毒事件で割高な国産を使うようになったのも食材費を押し上げる。野菜売り場でネットに3個入って100円ほどだった中国産ニンニクが消え、代わりの青森産は1個198円だった。安全・安心のための出費増だと理解はしても懐に痛い。(S)


2月23日(土)

●ビートルズの元メンバー、ポール・マッカートニーは2003年5月、モスクワでロシア初公演を開いた。会場は「赤の広場」。真っ赤な上着でファンに「バック・イン・ザ・USSR」(直訳で「ソ連に戻る」)を歌い、群衆を熱狂の渦に包んだ。当時の政府首脳が語るビートルズの思い出は興味かった▼米ソ冷戦下、彼らの音楽は、西側の政治的宣伝として禁止されていた。それでも非公式ながら、若者の間で大ヒットしていたようだ。イワノフ国防相は、LPレコードを全部そろえたことを笑顔で明かした。時代や体制が変われば話せることも多い▼ポールは元妻・ヘザーさんとプーチン大統領を訪問した。ヘザーさんは左足のひざ下が義足。地雷廃止活動家として知られ、大統領に「ロシアが地雷禁止条約に署名する可能性はあるか」と聞く▼大統領は即座に答えた。「人命を救うためなら何であれ、検討の価値はあります」。地雷廃止や条約署名など一言も言っていないが、相手の気持ちも否定していない。即妙な答え方だ▼そのプーチン大統領は間もなく2期8年の任期を終える。注目の次期大統領選は、3月2日。選挙前から第1副首相の勝利が有力視され、プーチン氏は首相に就任するとの観測もある▼権力の座から降りることはなさそうで、コソボ独立に猛反対している。国内や周辺で独立を目指す勢力への連鎖など、複雑な事情がありそうだが、深まる欧米との亀裂が心配だ。「強いロシア」の姿勢は変わらないのか。ビートルズには愛や平和を訴える歌も多い。(P)


2月22日(金)

●朝5時になると、空の明るみが広がってくる。街はヘッドライトを付けた車が時折通るだけで、まだまどろみの中にある。立春が過ぎても寒気が居座っていた道南に冬から春への曲がり角の季節感が漂うようになった▼夜間の冷え込みで凍てついた道路は、日が差す日中にはアスファルトの地肌を見せる。立待岬から見る海は、日の光が細かな波をきらきらと輝かせるようになった。風は冷たいが、どんよりと頭上を覆っていた灰色の空には澄んだ色合いが増している▼函館市営の熱帯植物園では、ソメイヨシノが淡いピンクの花を開いた。春の陽気にむせ返る温室内で季節を先取りして見ごろを迎えたサクラだ。本紙は受験生へのエールを込めて「サクラサク」の見だしを付けて紹介した▼大岡信さんの詩「海はまだ」は〈海はまだ冷たいか〉と始まる。そう、海水温はいまが最も下がる時期だ。しかし、〈光はもう身軽な豹だし 雲の指は思い出の入江をかきわける/人間の内側で 春が肌をみがきはじめると すこし遅れて 地球にまたも 緑色がかえってくる〉▼詩人の豊かな感性を言葉に出して味わいながら、五稜郭公園近くを歩く。先月には真っ白だった雪面が、茶色に薄汚れてザラメ状になっている。サクラの木は根方が丸くへこんでいる。花を着ける季節を目指し、木の内側では、もう準備が始まっているのだろう▼夕方の日の入りも少しずつ伸びてきた。柔らかな光に包まれる季節を迎えるまでには、まだ間がある。だが、行きつ戻りつしながらも厳冬は終わりが近づき、浅春の気配が漂い始めた。(S)


2月21日(木)

●老ミュージシャンたちが、生き生きと楽しげに演奏する。合間には彼らの日常生活や、光と喧騒あふれるキューバの街が描かれる。音楽ドキュメンタリー「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」は、いまも印象に残る映画だ▼見終わった後、早速購入したCDは、繰り返し聞いても飽きない。カリブ海に浮かぶキューバは「赤い島」と呼ばれるように、社会主義体制を敷いてきた。だが気候や風土や何よりも開けっぴろげな人々の様子が、観光客を引き付ける▼「老人と海」「誰がために鐘は鳴る」などのノーベル賞作家ヘミングウェイがこよなく愛し、晩年までを首都ハバナ近郊で暮らしたことでも知られる。海と光と陽気な人々が、同じ社会主義国でも旧ソ連などとは異なった印象をキューバに与えてきた▼そのキューバのカストロ国家評議会議長が辞任を表明したのは、健康問題らしい。81歳のカストロ氏は、59年の革命以来、49年間にわたりキューバを率いてきた。その間、対峙(じ)する米から常に圧力を受けてきた▼キューバと米との関係が、最も緊迫したのは旧ソ連がキューバに核ミサイル基地を建設した62年だ。このときは米ソの核戦争の危機が頂点に達し、世界が固唾を呑んで成り行きを注視した。東西冷戦時代の悪夢である▼老ミュージシャンの映画は、ニューヨーク・カーネギーホール公演のシーンで終わる。米国人は、キューバのミュージシャンを熱狂的な拍手で迎えた。だが老カストロ氏は米にとって最後まで歓迎できない指導者だったろうとひげの顔写真を改めて見つめた。(S)


2月20日(水)

●関西旅行の折、大津市の石山寺で、源氏物語を書いた紫式部聖像(高さ1・92メートル、幅1・4メートル)を見てきた。“観音の化身”と崇拝された紫式部は物語を作るため石山寺に7日間参篭(さんろう)し、琵琶湖に映える八月十五夜を眺めているうちに構想が浮かび上がった▼「今宵は十五夜なりけりと思し出でて、殿上の御遊恋ひしく…」と書き始めてから今年で1000年。54帖(じょう)にわたる長編小説は単なる王朝物語にとどまらず、鋭い観察に基づいた人間ドラマであり、今も色あせない男女の物語。光源氏、帝、桐壷、葵…散りばめられた喜怒哀楽▼脳トレや認知症予防のため囲碁を始めた臥牛子には「囲碁描写」に紫式部の棋力を読み取った。当時の貴族社会の女性の間に囲碁が流行していた。『空蝉』の中に「ヨセの段階に入った時、奥の人(空蝉)が『そこはセキ(持)ではありませんか。こちらのコウ(劫)を打つべきですよ』などという…」描写▼二番勝てば姫君を嫁に差し出すという帝と薫の君の三番勝負の対局では、帝がわざと負けてやる“恋のあやとり”に「打ちさして」「手直し」「先指させ(先番で打たせる)」など囲碁術語を使っている。形式の美しさが心地よいリズムを醸し出す▼意味が少しぐらい分らなくても、声に出して読むと共鳴が広がってくる。「光源氏に愛された女たちの七割までが、みんな出家していくのもむべなるかなと思う」(瀬戸内寂聴さん)。1000年前、宮中で読まれた11月に千年紀式典を始め、各地で多彩な記念行事が繰り広げられる。(M)


2月19日(火)

●カリスマ美容師、カリスマ主婦など一時期、カリスマの語がはやった。超人的な能力や資質を備えた人を言うのが本来の用法だが、もっと手軽に使われた。辞書を見ると、神から特別に与えられた「恵み」や「賜物」と説明されている▼旧ユーゴスラビアのチトー大統領は、本来の意味でのカリスマ指導者だったろう。パルチザン(人民解放軍)を組織してナチスドイツと戦い、戦後は社会主義国でありながら旧ソ連とは一線を画して自主自立のユーゴを率いた▼民族、言語、宗教が異なる6つの共和国がひとつのユーゴを形作っていたのは、チトーのカリスマ性に負っていた。そのユーゴは、1980年のチトー死後、対立と分裂の危機を抱え込む。統合の象徴が失われたとき、各共和国が独立の動きに走るのは十分に予測されていた▼91年から民族紛争が続き、浄化と言う名の大量虐殺が起きた。ユーゴは06年までに6共和国に解体、そして17日には国連が暫定統治してきたコソボが独立を宣言した。新聞、テレビのニュースや海外の新聞の電子版を追いながら大石芳野さんの写真集「コソボ破壊の果てに」(講談社)を開いた▼大石さんは99年、コソボの難民キャンプを取材した。セルビアの迫害を逃れてテントに暮らす子供や女性、破壊された家などを撮影した。写真が伝えているのは、民族間の憎しみがもたらした悲惨である▼5歳のプリム君は「ぼくは強いから恐くない」と緊張を浮かべた表情で繰り返したそうだ。独立の歓呼に沸くコソボに子供たちの笑顔が戻ったろうかと写真を見ながら思う。(S)


2月18日(月)

●顔写真集めは、記者なら誰もが経験する。幸せな話題なら写真を撮らせてもらえたり、簡単に借りたりもできよう。だが、事件や事故に巻き込まれた当事者の写真は、入手がなかなか難しい▼そんなことを思い浮かべたのは、伴野朗さんの小説「顔写真」を再読したからだ。伴野さんは朝日新聞記者をしながら小説を書いていた。北京原人の骨を巡る謎をミステリー仕立てにした「五十万年の死角」で江戸川乱歩賞を受賞してデビューした▼「顔写真」は伴野さんの初任地・秋田支局での体験が下敷きになっている。地元の通信員に顔写真集めの名人がいる。万事に控えめな彼が、苦労の多い顔写真集めをいとも簡単に成し遂げてしまう。大学出の記者たちは到底太刀打ちできない▼彼が名人と言われる秘密は「一緒に泣くっすよ」と告白するように当事者や家族の心情に寄り添う感受性の豊かさにあった。その彼が実績を評価されて社員に昇格する寸前に退社してしまう。伴野さんを彷彿させる主人公は、退社の理由を求めて秋田を再訪する…▼結末は触れないでおくが、この小説は記者なら深く共感できる。報われることの少ない地味な取材活動を題材にしたからだ。上海特派員などを経験した伴野さんは中国や香港などを舞台にした小説を残し、4年前に亡くなった▼せたな町の小学校で女性職員が殺される事件が起きた際、本紙は顔写真を掲載しなかった。家族の心境を考えるとそれで良かったとも思う。だが悲運に遭った女性の顔を知りたい読者もいるだろう。ことの是非を伴野さんに聞いてみたくなった。(S)


2月17日(日)

●ゆとり教育の悪者扱いは4年前、当時の中山成彬文科相が「総合的な学習」と「学校の週休2日制」を学力低下のやり玉に挙げたことがきっかけになった。文科省が15日公表した新学習指導要領案は、総合学習を減らし、主要教科の授業時間を増やしたことが大きな特徴だ▼「ゆとり」から「詰め込みへ」と言うと、40年近く前に逆戻りする印象が強すぎるかもしれない。ほぼ10年ごとに改訂される指導要領では、授業内容を減らすことが主眼になってきた。それが今回の改訂では逆に授業時間が増える▼学校現場ばかりでなく、父母などからも賛否さまざまな意見が噴出するのも当然だろう。「できる子」の私立志向が強い首都圏などでは、土曜日補習や指導要領を越える内容の授業が行われている。公立に飽き足りない子供たちがいるのも実情だ▼だが、現行の授業内容についていけない子供たちもいる。教室で「お客さん」などと呼ばれる「できない子」は、増えた内容がいっそう理解できなくて学力格差がさらに広がる心配が募るのではなかろうか▼経済協力開発機構(OECD)が3年ごとに実施する学力調査の国際比較で、日本は順位低下が続いている。そのことが、ゆとり教育批判を生み、学力強化を目指す今回の改定案に結びついたのは否めない▼しかし、OECD調査でトップのフィンランドは、週休2日制を取り、授業時間も日本より少ない。となるとゆとり教育が学力低下を招いたとの批判は的外れなのかもしれない。新要領は、戸惑いと波紋を広げながら来年から動き出す。(S)


2月16日(土)

●弱い立場の障害者を食い物にしていたのなら、許されない。札幌市内の食堂経営者が、知的障害を持つ男女4人を無報酬で長期間働かせ、障害年金も着服していた疑いが明るみに出た▼4人は10―30年余も「奴隷のように」働かされていたという。経営者は4人の障害基礎年金の手続きを無断で行い、支払われた全額を横領した疑いもある。経営者らを相手取り約4500万円の損害賠償を求める訴えを札幌地裁に起こしたことから事態が発覚した▼4人は年齢が30代から50代。親はおそらく高齢か亡くなっているケースもあろう。親にしてみれば、実情をある程度知っていても、雇ってもらっているとの引け目から、なかなか公にはできなかったのではなかろうか▼電話相談で情報を得た弁護士が、住み込みだった4人を障害者施設に保護したという。経営者は保護の直後から行方が分からないらしい。後ろめたさがないのなら、堂々と反論すればいいのだが、何かやましいところがあるのだろう▼札幌市は一昨年秋、賃金不払いや待遇について調査したそうだ。だが、対応策は講じなかった。滝川市で元暴力団組員とその妻らが、介護タクシー代など2億円以上も詐取したとして再逮捕されたのは先週だった。このときも市は監査委員の指摘をほおかぶりした▼どちらも行政の不作為が被害を拡大した典型例だろう。4人が働いた食堂は「三丁目食堂」という名だそうだ。下町の人情あふれる漫画「三丁目の夕日」とは異なり、同じ三丁目でもこちらの食堂には不人情がまかり通っていたのかもしれない。(S)


2月15日(金)

●直木賞作家出久根達郎さんは中学卒業後、上京して中央区月島の古書店に就職した。それから13年間、古書店の店員を続け、独立して自分の店を持った。その出久根さんに「二十歳のあとさき」(講談社)と題したエッセー集がある▼1944年生まれの出久根さんは、東京オリンピックが開催された64年に成人を迎えた。1月15日の成人式の日、区主催の式典を欠席した出久根さんは古書店の主人から思い出に残るお祝いをしてもらう▼〈主人が私の前に、でんっと日本酒の一升びんを据えた。「二十歳、おめでとう」そう言って、コップを私に受け取らせた。「今夜から堂々と酒が飲めるわけだ。まず、これを干しなさい」とコップになみなみと注いだ〉▼そして「ゆっくり、ゆっくり、のどを鳴らさぬように飲む」と飲み方を伝授した。コップ酒に次いで燗(かん)酒を飲む作法、宴会酒の飲み方と一通りの講釈を終えてから主人は酒席の芸まで教えた▼若者たちはいま、どんな風にして酒を覚えるのだろう。別段作法を教わらなくても、仲間うちで缶ビールやチューハイをたしなみながら自然にアルコールに親しんでいくのだろうか。成人前の飲酒や喫煙は違法だが、これを18歳に引き下げる議論が法制審議会でスタートする▼実態に即して引き下げようとしているのではあるまい。昨年成立した国民投票法が、投票年齢を18歳以上としていることや、18歳を成人としている国が多数を占めることなどがきっかけになっている。18歳か20歳か、ここはじっくり腰をすえて酒を?じゃなくて議論してほしい。(S)


2月14日(木)

●「あのDO上司にもチョコあげようか」。OLがささやくKY語。「ダサイオヤジ」なのか「ダンディーなおじさま」か。私だってチョコをもらいたいという「逆チョコ」願望も多い。本命、義理、Myチョコに、かぶと虫の「幼虫チョコ」まで登場▼チョコも渡す相手も厳選の傾向とか。あるデパートは本命でも義理でもなく、お世話になった人に感謝の気持ちを贈る「世話チョコ」に的を絞っている。はこだてワインが商品化した「チョコレートリキュール」でも贈って、ロックで飲んだり、アイスクリームにかけたり、といきますか▼でもバレンタインデーは甘いムードばかりではない。ミャンマーの男性詩人が国家議長を批判する詩を書いたとして逮捕された。「2月14日」というタイトルで、モデルとの恋に破れた男性の心情をつづった8行の詩。各行の頭の文字をつなぐと「権力狂いのタンシュエ」という文になる▼韓国には2月と3月に何もなかった人が黒い服を着て、黒い食べ物を口にしながら出会いを探すブラックデー(4月14日)がある。もともと、バレンタインは兵士の結婚が禁止されていたローマ帝国時代、密かに結婚の手助けをして処刑された殉教者の名前。以来、女性が愛を告白する日に▼「SKの彼氏も大事だれど、上司や同僚にあげる人が多いんだって」「予算は500円から1000円までね」。バレンタインが身を呈してつくった愛情表現の舞台。商戦に振り回されずに、NT(日本語使え)で「賞味期限は無限 愛のチョコ」と感謝の気持ちを贈るのが一番ではないか。(M)


2月13日(水)

●大泥棒石川五右衛門が京都南禅寺の山門で「世に泥棒の種は尽きまじ」と見得を切るのは歌舞伎の世界のことだ。そのひそみに倣えば、詐欺の手口は浜の真砂ほどもあるのだな、と腹立たしさを通り越してあきれてしまう滝川市の介護タクシー代金詐取事件だ▼逮捕された元暴力団組員とその妻、介護タクシー会社役員らが共謀して市からだまし取った額は2億円を超すというから驚く。こんな不正がまかり通っていたことに、市側が気づかなかったというのも不思議な話だ▼組員夫婦は生活保護世帯に全額補助される移送費制度を悪用し、滝川市の自宅から札幌の病院まで介護タクシーを利用したように偽装したという。一回の往復で約30万円を受け取っていたというから、すごい高額なタクシー代だ▼夫婦側に渡った金は、覚せい剤購入や遊興費などに使われたらしい。取調べは続いているから今後さらに実態が明らかになるかもしれない。こつこつと税金を払っている市民にしてみれば、怒りではらわたが煮えくり返る思いだろう▼それにしても詐取に気づかなかった市も間が抜けている。実は市の監査委員は「請求額が過大」と指摘する報告書を出していたそうだ。それをしっかり受け止めて調査していれば、もっと早く不正に気づき、被害額が少なくて済んだかもしれない▼函館市役所に似たような事例はないか尋ねると、一回につき数万円ものタクシー代の支給はないという。6年前から、警察OBを特別指導員に採用して暴力団関係者などが保護費を不正受給できないよう眼を光らせているそうだ。(S)


2月11日(月)

●遣唐使の留学僧だった最澄は平安時代の初め、わが国に天台宗をもたらした。比叡山で学ぶ僧の規律などをまとめ、その著作『山家学生式』にこうある。「国宝とは仏道を信じる心である。社会の一隅を照らす人は国宝である」▼このほど市内で開かれた函館仏教青年会の市民講座で、天台宗天祐寺の山口礼雄副住職が解説している。取材した同僚は「国宝が物や金ではなく、人の心だという話に感動した」と話していた▼最澄の言葉は続く。「己を忘れて他を利することは慈悲の極みである」と。「忘己利他」(もうこりた)と呼ばれ、社会を照らす「照千一隅」とともに座右の銘としている人も多い。もう引退されたが、道南のある町長は、瀬戸内寂聴さんの揮ごうによる「忘己利他」の色紙を大切にしていた▼長野善光寺の小松玄澄貫主が先日、来函。天台真盛宗函館善光寺の霊牛入山111年記念法要で、仏法が栄え、函館経済が活性化することなどを祈った▼「牛に引かれて善光寺参り」は、洗濯物を角で引っ掛けた牛を追いかけた老婆が善光寺にたどり着き、仏法に目覚める説話。転じて、自分の意思でないことが縁でよい方向に導かれること。最澄の言葉で言えば、老婆は「国宝」となった▼その小松貫主が西尾正範市長に贈った色紙にあったのが、「忘己利他」。己を利することはたやすいが、それを忘れて他を利することは難しい。他人を思いやる心という、己の中に小さな「国宝」を持ちたい。そして法要のほか、思わぬことが良縁となり、函館を上向きに導いてくれないだろうか。(P)


2月10日(日)

●「食後の一服がたまらなくてね」。たばこを止められない友人の言い訳だ。喫煙歴ウン十年、彼の肺を想像するとうそ寒くなるが、当人は一向に平気だ。これまでに煙と化したおカネはどれほどの額に上るのだろう▼その彼に突きつけたい報告書を世界保健機関(WHO)がまとめた。なんと喫煙が原因の死亡が、今世紀中に10億人に達するというのだ。世界の人口の約6分の1に上る驚くべき数字だ。現在世界では毎年540万人が喫煙のため亡くなっているといわれる▼全道民に相当する人口が失われているのは、いかに喫煙の害が深刻かを表す。がんや心疾患など喫煙の害は、いまさら言うまでもないけれど、喫煙者は途上国を中心に増え続けている。報告は、22年後には年間800万人が亡くなるだろうと警告している▼健康被害を防ぐ勧告の部分も興味深い。WHOが真っ先に挙げるのは、たばこ課税の引き上げだ。つまり価格を高くしてたばこ離れを促そうとの狙いだ。高ければ、懐に響くから心理的な抵抗感を増すのは十分あり得る▼厚生労働省によると日本の男性喫煙率は年々低下しているのに対し、女性は緩やかに増加している。最近のデータでは男性43%、女性12%だ。男性喫煙率の国際比較では欧米各国は軒並み20%台だから日本が突出して高い▼一方、たばこの価格は日本が欧米より安い。税率が引き上げられたとはいえ、人気のたばこが300円程度だ。円換算で4、500円から1000円近くもする欧米に比べれば確かに安い。さて、価格が倍になったら友人はどうするだろう。(S)


2月9日(土)

●〈河豚(ふぐ)は食いたし命は惜しし〉や〈河豚食う無分別食わぬ無分別〉とか諺(ことわざ)にも登場するフグは、美味と毒とを併せ持つ複雑怪奇な魚だ。膨らんだ腹におちょぼ口のユーモラスな外見の内懐には、猛毒を秘めた卵巣や肝臓を抱く▼「麦と兵隊」などの作家火野葦平に「ふく(魚の王)」と題した詩がある。〈ふくはへんてこ ふくはあぶない〉と始まり、〈その味はまた世界一 赤絵皿をしみに浮いて 美しきふくの姿よ〉とフグへの賛辞で詩は終わる▼葦平は福岡県北九州に生まれ育った。戦後、流行作家になって東京に居を構えてからもひんぱんに古里との間を往復した。葦平がなじんだのは、玄界灘育ちのトラフグだろうか。この詩に表されているのは、その薄作りだったろう▼きょうは、日付の語呂合わせから「ふくの日」だ。フグの本場、山口県下関周辺では、ふくと呼び習わしている。ふくは「福」にも通じる。そこで下関ふく連盟が1981年にこの日を制定したのが広まった▼同連盟事務局長の岡田薫治さん(45)に電話をするときっかけは、さっぽろ雪まつりにフグの雪像を設置したことだという。「会場でフグ汁を振舞ったらとても喜んでもらえた。フグのおいしさを多くの人に知ってほしい」と制定に動いたと話す▼海の幸に恵まれた函館でもフグが味わえる。なじみの居酒屋に入ったら、フグの吸い物椀(わん)を出してくれた。スーパーには、から揚げや一夜干しなどが手ごろな値段で並んでいる。命を惜しむなんて大仰に構えなくても「口福」感に浸れる。(S)


2月8日(金)

●五つの惑星と太陽、月を七曜に見立てた古代中国の天文学では、火星が火曜日に当たる。ローマ神話では、火星を表すマルスは戦いの神だ。だから火曜日を決戦の日に選んでいるわけではないだろう▼「スーパー」を通り越して「メガ」だ、「ギガ」だと全米を沸かせた「チューズデー」が終わり、米大統領選の候補者指名争いは天王山を越えた。しかし、注目の民主党は女性初を目指すヒラリー・クリントン上院議員と黒人初をうたうオバマ上院議員が接戦を演じ決着は持ち越した▼獲得した代議員数は両氏ほぼ互角。クリントン氏はニューヨーク、カリフォルニアなど人口の多い州を制したのに対し、オバマ氏は出身地のイリノイや黒人が多数を占める南部諸州などで勝利した。指名争いは混とんを極めている▼各州の予備選や党員集会は今後も続く。代議員数の多い州だけでも来月のテキサスなどが残っている。だが、8月の党全国大会まで決着がつかないかもしれないとの観測さえ出ているそうだから、際どい接戦が継続しそうな気配だ▼共和党はマケイン上院議員が一歩抜け出した。予備選前に有力視されていたジュリアーニ前ニューヨーク市長は、早々に脱落した。前半戦に健闘したロムニー、ハッカビー両氏はキャンペーン続行を表明しているが、マケイン氏の優位は動かない▼民主、共和両党の大統領候補が選挙民の審判を受ける一般投票は11月4日だ。1年以上にわたるロングランの選挙戦は、資金力と体力・知力の争いでもある。戦いの神は、最後のご加護をどの候補に与えるのだろう。(S)


2月7日(木)

●何年か前、フセイン政権崩壊後の混乱で略奪の被害に遭った「メソポタミアのモナリザ」と呼ばれる石灰岩彫刻がイラクに返還された。色白でつぶらな瞳のシュメール女性が戻った「安住の地」バグダッドで、女性を利用した爆弾テロが起きた▼米軍の増派戦略で治安状況が改善傾向といわれる首都だが、武装勢力による“宗派戦争”が絶えない。去る1日には知的障害女性2人の身体に巻き付けられた爆弾が遠隔操作で爆破。2か所の市場で91人が死亡、200人が負傷した。障害女性を使うなんて「最も残忍で破綻した行為」▼武装勢力が攻撃の手口をエスカレートさせたもので、イラク戦争以来、最悪のテロ。かつて、イスラエル軍のパレスチナ自治区侵攻に反対するデモで、参加した男性が自分の女児の腹部に爆発物の模造品を巻きつけ「自爆テロリスト」の格好をさせ、「テロか殉教か」と問題化した▼あるイスラム法学者は「殉教攻撃は聖戦(ジハード)の中で最も崇高な行為である」と言い、若者は幼児期から殉教の意味と美しさを教えられているという。イスラムの教義の名のもとに、子どもや女性障害者を戦争に走らてはいけない。かつての日本の特攻隊を思い出す▼《砂あらし 地(つち)を削りてすさぶ野に 爆死せし子を抱きて立つ母》 イラク反戦の歌人・岡野弘彦さんの「バグダッド燃ゆ」を読んだ。日本も自衛隊を派遣、飲料水や道路、病院、学校を作るなど、インフラを整備してきた。メソポタミアのモナリザは「子ども、女性を犠牲にするな」と訴えている。(M)


2月6日(水)

●症候群と訳されるシンドロームの語が、いま最もよく使われるのはメタボリックを頭に置いたメタボリック・シンドロームだろう。内臓脂肪が蓄積した肥満体を指す言葉だが、食生活の欧風化などの要因で太り過ぎが問題になってから、この語はすっかり定着した▼メタボは心血管疾患の危険を高めるとされている。4月から厚生労働省が40歳から74歳を対象に特定検診制度を導入するのは、メタボとその予備軍を見つけ出し、保健指導を義務付けて将来の医療費を抑制するのが主な狙いだ▼ところが日本のメタボ診断基準は、どうやら国際的には科学的根拠に疑問符が付けられているらしい。まず、目安となる腹囲基準値が世界的には男性が女性より数値が上なのに、日本は男性85センチ以上、女性90センチ以上である。基準の妥当性については日本の医学者にも異論が噴出している▼肥満が日本よりも大きな問題になっているアメリカでは、糖尿病学会などが腹囲基準に疑問を投げかけている。基準は人種、性別、年齢別などによって、細かく分けられるべきだというのがその主張だ▼メタボの診断は一筋縄ではいかない。しかも、厚労省の目論み通りに医療費の抑制につながるかどうかも怪しい。むしろ検診と保健指導が義務付けられて医療費の無駄遣いにつながりかねないとの指摘さえある▼さて、メタボ検診をどうしよう。対象年齢に該当するから受診が義務なのだろうが、首をひねりたくなる実情を知ると何だかおっくうになる。腹囲は85センチぎりぎりだからメタボの境界ラインか。実効が伴うのかどうか、考えてみれば悩ましいメタボ検診だ。(S)


2月5日(火)

●天気予報で沖縄を見ると函館とは気温が20度も違う。石垣島に住む友人に電話をすると、昼間は半袖で過ごし、夜は薄手のジャケットを着るという。日本列島の南と北の気温差は、この時期が最も大きいように思える▼プロ野球の各球団がキャンプインした。大半の球団は暖かな沖縄にキャンプを張っている。入団したばかりの新人選手、実績のあるベテラン、トレードで新天地を求めた選手たちが、今シーズンの活躍を思い描きながら練習に汗を流す▼日本ハムファイターズもやはり沖縄でキャンプインした。注目のルーキー中田翔選手はフリー打撃でさく越えを連発、早くも大物ぶりを発揮している。梨田昌孝新監督を迎えたファイターズが3年連続リーグ制覇の偉業を達成できるかは、キャンプの出来にかかわる▼今年のプロ野球は他にも話題が多い。昨年のワールドチャンピオン、レッドソックスがアスレチックスとの開幕戦を日本で行うのだ。レッドソックスには松坂大輔、岡島秀樹の両投手が所属している。昨シーズン大活躍した両投手がどんなピッチングを見せるか楽しみだ▼4年前、ヤンキースとデビルレイズの開幕戦を東京ドームで見た。松井秀喜がホームランを打ちヤンキースが大勝した試合だった。球場の興奮の中に身を置いて野球の迫力と楽しさを存分に味わった▼プロ野球ばかりではない。高校野球は春の選抜大会が3月22日から始まる。道内勢では駒大岩見沢が出場する。立春が過ぎても寒さは厳しいが、球春の足音は聞こえてきた。今年はどんなドラマが待っているのだろう。(S)


2月4日(月)

●エジプトコブラは神経系に作用する猛毒を持っており、ヘビの毒に詳しいクレオパトラはエジプトコブラに首筋や乳房をかませて自害したといわれる。中国製の冷凍ギョーザに混入していた農薬は神経系を作用する有機リン系殺虫剤だった▼戦後の毒物を使った犯罪はまず東京の帝国銀行事件。医学博士の名刺を持った男が「伝染病の予防だ」と言って、行員に青酸カリウムを飲ませ14人を死亡させた。また、夏祭りで子どもを含む4人が死亡した和歌山の毒入りカレー事件は、カレーの鍋にヒ素化合物が入っていた▼その後、新潟の毒入りポット事件、東京のクレゾール入り事件、長崎の毒入りウーロン茶事件などが続く。今回、中国製の冷凍ギョーザに混入していたのは中国当局も「毒性が強い」と生産、流通、使用を禁止した殺虫剤「メタミドホス」。体調不良の報告が続出、一時重体になった女児も▼ウナギから抗菌剤、インゲンや枝豆から殺虫剤・除草剤が検出されるなど、これまでも中国からの輸入食品から毒物が見つかっている。1000年以上も前のギョーザが出土するなど、古くから愛され、中国では正月料理の定番。日本の学生たちにもギョーザ定食は人気メニュー▼食品偽装に次ぐ農薬汚染。製造過程に農薬が混入したのか、後で故意に袋に穴を開けて入れたのか。野菜などで問題化した残留農薬でないのは確か。安くて大量購入している学校給食や外食産業の現場も混乱。中国の食品に対する不信感は増幅するばかりだ。(M)


2月3日(日)

●本当に優しい子だったのに…。せたな町の島歌小学校で先月31日に起きた女性職員殺害事件。その朝、いつも通りに出勤した孫が勤務先で惨殺されるという事態に、祖父母は悲痛な声をあげたという。ご冥福をお祈りしたい▼逮捕されたのは同じ職場で働く21歳の臨時職員の男。学校の金を使い込み、それを指摘されたためにカッとなったという。要するに、ぶち切れたってわけだ。金づちなどで頭を殴り、刃物で胸部を刺し、犯行後は近くの海で血のついた衣服などを捨て、そして何食わぬ顔で児童らと一緒にスキー教室に参加していた▼100万円を超す借金や滞納があり、消費者金融からは学校に督促の電話も相次いでいた。教員の旅費を着服していた疑いも出ている。学校側は借金の返済計画を立てさせていたというが、これほど金にルーズな人間を事務職員として雇い続ける必要があったのか疑問だ▼それにしても身勝手すぎる。21歳にもなって生活費の管理すらできず、返済で追い詰められ、挙げ句の果てに、悪事の発覚を恐れて凶行に走る。被害者はもちろん、遺族の無念さは計り知れない。命の大切さを伝える教育現場に、こんな男がいたということにもあきれる▼児童14人の小さな学校だ。教職員も数人しかいない。心を通わせ合いながら学校を運営している様子が目に浮かぶ。男もこの小学校の卒業生。凶行の現場を後輩たちはどんな思いで見つめるのか▼当面は近くの別の小学校の教室を借りて授業が行われるという。ショックは大きい。子供たちの心のケアにも気を配って欲しい。(H)


2月2日(土)

●島崎藤村の「椰子の実」の詩は、民俗学者柳田国男が愛知県伊良湖に滞在したときに拾ったヤシの話を親友の藤村に語って聞かせたことから生まれたと言われる。〈名も知らぬ 遠き島より…〉と始まる歌は、いまも愛唱される名曲だ▼南の国から潮に乗って運ばれたヤシは、詩人の想像の翼を遠い異国の浜辺にまで広げた。そしてはるばると潮路をたどりながら伊良湖に流れ着いたヤシに自らの心象を重ね合わせたのだろうと、歌を口ずさみながら思う▼文明をはぐくみ、豊かな恵みをもたらす海は、時にはロマンに満ちた物語の舞台も提供してくれる。カレイが配達した手紙と、瓶に入ったメッセージが長い年月を経て届いた2つのニュースは、心をほのぼのさせるすてきな話だ▼カレイの手紙は、千葉県銚子市で水揚げされたカレイの背中に張り付いていた。15年前に手紙を書いた神奈川県川崎市の大学生の女性は、当時小学校1年生。風船に手紙を付けて飛ばしたという。風が運んだ手紙が海の底から届く。女性は「宝物にします」と喜んだ▼瓶のメッセージは、青森県東通村の海岸に着いた。鳥取県の中学生が29年前、下関沖で流したという。波を枕に1000キロを漂ったメッセージは、元の中学校に郵送され、当時の中学生や先生を感激させた▼函館周辺で何かを流したらどうなるだろうと同僚に問うてみた。海に囲まれた函館から夢を詰めた小瓶を流す。だが、同僚からは、海流の関係で外海には出ずに、近くの浜に打ち上げられるのではないか、とにべもない答えが帰ってきた。(S)


2月1日(金)

●2月の別称「如月」は寒いから衣服を着重ねることから「衣更着」ともいうが、本来は草木が更生することだ。今冬は「少雪」の傾向で動植物の更生も早まるのでは。3日の節分、4日の立春と“春の香り”が近づいている。きょう1日は「ニオイの日」▼ニオイ、匂い、臭い、不快な匂い、快い匂い、体臭、生活臭、加齢臭、家族臭…。辞典の「匂い」の項には「赤などの鮮やかな色が美しく映えること」「はなやかなこと」「つやつやしいこと」などと記されているが、最近の「匂い」は「鮮やかな色が美しく」からは、ほど遠い▼匂いは臭いとも書くから「くさい」が匂いの原点なのかも。賞味期限の食品の臭いをかいだり、腐った魚を臭いで判断したり、食品の安全を察知してきたが、今度の中国製の冷凍ギョーザに入っていた殺虫剤の臭いまではキャッチ出来なかった。まして化学系の香りでシューッと消すことなど出来ない▼臭いを消す香りの最高峰は「伽羅香」で、久しぶりに伽羅の香木を焚(た)いた。原産地はベトナム。数百年、地中に埋もれて自然現象の変化で出来上がった香木。日本書紀には淡路島に香木が漂着したのが始まりと言われ、5つの味が混ざり合って気品あふれる香りが心身を爽快にしてくれる▼淡路島の漁民が香木とも知らず薪(まき)と一緒に焚いたところ、優雅な煙が遠くまで薫ったという。香木には、幼い頃、抱っこされた時の父母の、祖父母の匂いがする。節分には今年の恵方の南南東を向いて、豆をまき、恵方巻きにかぶりついて、懐かしい匂い「家族臭」を復活させたいものだ。(M)


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