平成20年9月


9月30日(火)

●映画「おくりびと」は納棺師を描いている。納棺師はさほど知られていないが、葬儀の際に死者の装束を調えたり、化粧を施したりするためにやって来る。あの世への旅立ちの手伝いをするプロと言っていい仕事だ▼チェロ奏者の夢破れて妻と故郷の山形に戻った青年が主人公だ。失業中の青年は募集広告を見て小さな会社の面接を受ける。まさか死者を送る仕事とは知らずに入社した青年は、さまざまなかっ藤に直面する▼仕事の内容を知らなかった都会育ちの妻と離婚の危機にも瀕する。それでも送る仕事に意義を見出し、やがて身ごもった妻とも和解する。最後は子どものころに別離した父を自分の手で送る場面で映画は終わる▼米の俳優ポール・ニューマンさんの死去を知って、最近見た「おくりびと」を思い浮かべた。83歳のニューマンさんは、記憶の衰えなどを理由に昨年、俳優引退を表明し、がんの闘病中だった▼洋画好きならニューマンさんの出演作品をすぐに挙げられる。コラム子は、ジョージ・ケネディと共演した「暴力脱獄」で、囚人役のニューマンさんがゆで卵を50個食べられるか、fイけに挑む場面が目に浮かぶ▼詐欺師を演じた「スティング」も「明日に向かって撃て!」も良かった。共演したロバート・レッドフォードさんは、米紙(電子版)に「人生の真の友人を失った」と語っている。多くの作品を残した名優が家族に送られ旅立った。(S)


9月29日(月)

●イギリスの各家庭に何げなく置いている小銭を全部集めると、何が買えるか。サッカーのマンチェスター・ユナイテッドを何回か買収できるそうだ▼ベッカムが活躍したイングランド・プレミアリーグの名門。村上龍さんの『あの金で何が買えたか』(1999年、小学館)によると、かつて買収されかかった時の金額は1250億円だ。とすると、英国の家庭には何千億円もの硬貨が転がっていることになる▼しかし、ところ変わって日本。「たんす預金」は30兆円に上ると日銀が試算した。年金が当てにならず、医療や福祉も先が見えない。そんな不安から、現金を手元に置くようだ▼最近、けたが違いすぎて、ピンとこないニュースが多い。米証券4位のリーマン・ブラザーズの破たんで負債63兆円、米保険最大手のAIGに9兆円の融資、米証券2位のモルガン・スタンレーに三菱UFJが9000億円出資…▼10年前の日本の姿が、今の米国に押し寄せたとの説明もある。バブル崩壊後の20世紀の終わり、日本の金融不安は頂点に達し、政府は金融機関に公的資金を次々とつぎ込んだ▼村上さんの著書によると、旧拓銀の不良債権額は2兆3433億円。このお金、どのぐらいかというと、航空母艦1隻9000億円、映画「タイタニック」製作費25本分6000億円、米紙ニューヨークタイムズ7800億円を買収しても、まだ633億円が残るという。(P)


9月28日(日)

●その功罪は、後世の政治史家や学者が評価をすることになろう。「小泉劇場」主役のマサカの政界引退表明は、唐突に見えるだけにある種の驚きと感慨を生んでいる。66歳、政治家としてはまだ若い▼「自民党をぶっ壊す」「私の方針に反する勢力はすべて抵抗勢力だ」「(イラクの)どこが非戦闘地域で、どこが戦闘地域か、分かるわけがない」「(自身の年金問題発覚で)人生いろいろ、会社もいろいろ、社員もいろいろ」▼そういえば、「上り坂下り坂マサカ」との発言もあった。言葉を操る名優なのか、へ理屈をこねる際物師なのか、判然としないことが若い世代にも高い人気を博した理由の一端かもしれない▼「死んでもいい」とまでこだわった郵政民営化を実現した。郵便、貯金、簡易保険の3事業が民営化されてから10月1日でちょうど1年。一時の熱気は失せ、過疎地の郵便局閉鎖などサービス低下もあらわになってきた。自民党にも見直し論が出ている▼アメリカ型の新自由主義を掲げ、競争を促した結果、経済は回復した。高収益を上げる企業や巨額の富を手にする勝ち組も現れた。だが、負け組の固定化のひずみも生んだ。働く貧困層の問題は、小泉改革の負の側面だ▼田中真紀子元外相が名付けた“変人”は表舞台を去る。後継には二男を指名した。元首相自身が国会議員3代目だ。改革派の宰相が世襲にこだわるのは、ヘンじゃないのだろうか。(S)


9月27日(土)

●「資源節約とゴミ削減のためレジ袋の無料配布を中止させていただきます」「買い物にはマイバック・マイバスケットをご持参ください」―。来月からスーパーのレジ袋が段階的に有料化され、必要な人には1枚3―5円で販売される▼全国で年間300億枚も使われているレジ袋(1人当り約300枚)。なんとタンカー2隻分の原油が消費されている。使い終わったレジ袋の大半はゴミとして廃棄されており、環境をけがすばかりか、野生動物や魚が飲み込み窒息するケースも▼レジ袋の削減は昨春施行された改正容器包装リサイクル法の決め手で、スーパーなどはマイバック率を高めようと、スタンプやポイント付与などの特典セールで協力を呼び掛けた。このため、全国の生協で昨年度、約3億9000万枚のレジ袋を削減▼ワンガリ・マータイさんは「もったいない」の概念の「リデュース(ゴミ減量)」「リユース(再使用)」「リサイクル(再利用)」に、4つ目の『R』として「リスペクト(尊敬)」を加えた。資源に思いやりを持つように、資源に感謝の気持ちを持つように、と▼「人知れぬ苦労も積んだという負けん気」の麻生太郎自民党総裁が第92代首相に指名された。レジ袋削減ひとつとっても、懸命に努力している国民を“放り投げる”政治から脱皮して、“空白国会”を謝罪し、国民を心からリスペクトし、景気対策など決行してほしい。(M)


9月26日(金)

●荒れ狂う夜の函館港。三等船室で救命胴衣を奪い合う旅客。転んだ人を踏みつけて逃げ場を探し回る。転んで起き上がれなくなった老人が念仏を唱える。この光景を見ていた少女が乗組員に泣きついた。「怖いよ、助けて…」▼本紙によると、乗組員だった三島正昭さん(83)は旅客の避難誘導に当り、救命胴衣の着用を指導。パニック状態の旅客の着衣などを掴んで船外に出した。「恐怖心から船室の1カ所に寄り添っていた。子をかばう親の姿も頭から離れない」という▼函館港を直撃した風速40bの台風で青函連絡船「洞爺丸」が沈没してから26日で54年。天然の良港といわれているが、南に開いている函館湾は南寄りの強い風が吹くと荒波が立つ。時速100`で北上、夜9時に渡島半島に接近した当時の台風は南西風だった▼港外に出た「大雪丸」は洞爺丸と衝突しそうになったため、先代の船長の「松前半島が風をさえぎる。木古内沖を目指せ」との教えに従って難を逃れた。その大雪丸も数奇な運命をたどり、17年前のコソボ紛争で武器輸送を疑われてアドリア海で沈没した…▼洞爺丸は七重浜沖で煙突を海底に突き刺すように沈没。1430人の犠牲者はタイタニック号に次ぐ世界有数の海難事故となった。「乗客の避難誘導を遅らせるな」という教訓を残して。きょう26日、七重浜で慰霊法要が行われ、「悲劇を風化させないよう」に合掌する。(M)


9月25日(木)

●首相自ら閣僚名簿を読み上げるのは珍しい。通例なら内閣スポークスマンの官房長官が、閣僚名を発表する。その慣例を破り、自ら任命した閣僚を記者会見で発表したのは、麻生太郎新首相の意気込みを示していると見ていいかもしれない▼4代続けて世襲議員の首相だが、閨閥の華麗さでは新首相が抜き出ている。最も影響を受けたのは母方の祖父の吉田茂元首相だ。夫人は鈴木善幸元首相の三女。宮沢喜一、安部晋三の歴代首相も親戚にあたる▼「与えられた天命だ」と自民党総裁選出後にあいさつしたように、1979年の衆院初当選以来、首相の座を目指してきた。もっとも3回目の選挙に落選の憂き目を見たり、旧宮沢派の跡目をめぐって派閥を追われる悲運も味わっている▼そうした逆境にもプラス思考で乗り切ったとされるのは、生まれの良さに備わった強みだろう。ただしべらんめえ口調の失言で物議をかもしたことも多い。マンガが好きは、若者向けのポーズなのか本当なのか▼さて、新首相の最大の課題は、近く実施される解散・総選挙だ。手ぐすね引いて待ち構えているのは、小沢一郎代表率いる民主党。もし小沢民主党が過半数を取れば麻生政権は短命で終わる▼ワンマン宰相の吉田元首相は、通算7年余首相を務めた。愛用の葉巻を手にした写真がよく知られている。葉巻好みが共通する孫が長期政権に船出できるかどうかは選挙次第だ。(S)


9月24日(水)

●テレビでも顔色の悪さが見て取れた。声もしわがれて聞こえた。それが手術後は、顔の色つやも良くなり、声に力も戻ったのがよく分かった。政界引退を表明した河野洋平衆院議長である▼河野さんは2002年4月、息子の太郎衆院議員から肝臓の一部をもらい受ける生体肝移植を受けた。肝硬変が進行して「命が限界に近づきつつある」(河野洋平・河野太郎著「決断」・朝日新聞社)と自覚して踏み切った最終手段だった▼健康を回復した河野さんは、翌03年11月、衆院議長に就く。それから5年、議長を務め上げ近く行われる総選挙には立候補しないことを明らかにした。30歳で初当選を飾ってから連続14回の当選を重ねての引退である▼河野さんはリベラル派として知られた。新自由クラブを結成して一度は自民党を離れた。宮沢喜一内閣の官房長官だった1993年には、「従軍慰安婦問題」に関し旧日本軍の関与を認める談話を発表した▼首相の地位が手に届くところに近づいたこともある。95年の参院選で与党が敗北したとき、社会党の村山富市首相が自民党総裁だった河野さんに政権を譲ると伝えた。しかし、党内やさきがけの反対で身を引いた▼悲運の政治家だろう。だが移植によって、驚くほどたくさんのメールや励ましの手紙が届いたと著書で紹介している。首相にはなれなかったが、移植医療に希望の光を当てた功績は高く評価されるだろう。(S)


9月23日(火)

●記者が出してきた原稿を見ながら、何故こんなに誤字が多いのだろうと思う。パソコンでの変換ミスというケースもあるが、漢字の間違いが人名の場合は取り返しがつかない。紙面で「おわび」の掲載となる▼20年ほど前まで記事は原稿用紙に手書きだった。支局や出先から本社編集局に出稿する際は、それをファクス送信した。ファクスがない場合や締め切り間際には電話で原稿を読み上げ、本社編集の人間が書き取っていた▼本当に時間がない場合は「勧進帳で送る」と告げて、電話片手に取材メモを見ながら頭の中で原稿を組み立て、即興で吹き込んだ。「勧進帳」は、武蔵坊弁慶が白紙の巻物を字が書かれているかのように、朗々と読み上げる歌舞伎の演目に由来する。そんな離れ業を各記者がやっていた▼電話で原稿を読み上げる時、最も神経を使ったのが漢字の説明だった。難しい漢字をどう相手に伝え、間違いのない記事にするか。そのために、さまざまな熟語を含め、漢字をうまく解説する術を意識していた▼ワープロからパソコンへ、出稿のスタイルは激変し、今では文字を手書きする機会はほとんどない。原稿が「書く」から「打つ」になり、漢字も自動変換される中で、文字へのこだわりが薄れていることに気付く▼若い記者に勧進帳の訓練を求めるつもりはないが、自戒も込めて、せめて文字の正しさを確認する繊細さは持ちたい。(H)


9月22日(月)

●“食品安全、牛乳よ、お前もか”―。赤ちゃんが泣いている。中国製の粉ミルクに飲むと腎臓障害を引き起こす有害物質のメラミンが混入されていた。中国では6000人以上の健康被害が報告され、すでに乳幼児ら5人が死亡している▼粉ミルクといえば、戦後、学校給食で飲んだ脱脂粉乳(米国からの支援品)を思い出す。乳臭さを凝縮させた臭いと泥水のような味がして、鼻をつまんで目をつぶって一気に飲んだ。東京で2000人の児童が食中毒にかかったこともあった▼最近の中国では「粉ミルクは母乳よりも栄養が豊富」と多く飲まれている。その中国の大手ブランドからメラミンが検出された。日本の業者が中国から輸入した食品にもメラミン含有の疑いが出てきたため、丸大食品は中国製の牛乳使用の5製品を回収▼東京の児童が食中毒にかかった脱脂粉乳からは溶血性ブドウ球菌が検出され大量増殖が原因だった。中国のメラミン混入は乳製品市場の混乱や検査体制の不備などが反映しており、たんぱく質の含有量検査をパスさせるためメラミンを混ぜる業者もいるという▼安い商品を利用するには中国からの輸入に頼らざるを得ないのが日本の食料事情。「メラミン混合ミルク」は「冷凍ギョーザ」に続く大きな食料不安問題。北京五輪前の発生を把握していたのに、これまで隠していた当局の態度に驚く。厳しい製造管理のチェックが不可欠だ。(M)


9月21日(日)

●地価上昇率が3年連続全国一を記録したというのだから、商業地も住宅地も低迷している函館・道南から見ると豪勢な話だ。夢のような話題の発信地は、人口1万5500人の後志管内倶知安町だ▼国土交通省がまとめた7月1日時点の基準地価で、同町山田地区が前年比40・9%の上昇率を記録した。地価上昇をもたらしたのは、外資系企業による外国人向けマンションや別荘の建設ラッシュだ▼近くには「ニセコグラン・ヒラフ」スキー場がある。ここの雪質の良さが口コミでまずオーストラリアに伝わった。ラフティング(急流下り)の会社を経営する町内在住のオーストラリア人が母国にヒラフの名を広めたという▼町役場に電話で尋ねると、ここ数年は経済発展の著しい中国、香港、シンガポールなどの資産家も冬季の別荘や投資目的で同地区の住宅を買っているそうだ。そうしたブームは町の税収にも貢献している▼だが、地価高騰は同地区だけ。「駅付近の市街地はむしろ下がっている」(町役場)という。上昇率全国一は、外国人資産家の需要による特殊要因がもたらしているというのが実情だ。だから一過性の現象だ、と冷めた見方もある▼函館では住宅地が17年連続で下落、商業地も前年と同じだった。景気の低迷や人口の流出が重くのしかかる。バブル期のような地価暴騰は困るが、下がってばかりでは地域の元気が失われないか心配になる。(S)


9月20日(土)

●事務方トップの次官に続き、大臣も辞任に追い込まれるのは、前代未聞だろう。辞任といっても、事実上の更迭である。食の安全・安心を消費者に届けるのが使命のはずの農水省の体たらくは、目を覆いたくなる▼辞任する太田誠一農水相は、汚染米不正転売の責任を取るのだそうだ。太田氏の任期は、福田康夫内閣が総辞職するまでの4日間を残すだけ。ここに来ての辞任は、遅すぎるとの印象を強めるだけだ▼汚染米の問題が発覚した後、太田氏はテレビの番組で「人体に影響がない。だから、じたばた騒いでない」と消費者の感覚とはズレた発言をしていた。その前には「日本の消費者はやかましい」との問題発言もあった▼これらの発言からうかがえるのは、消費者とは違った方向を見ている大臣の姿勢だろう。辞任会見で「「自分がだれのためにどこを向いて仕事をするのかの整理が出来ていなかった」と正直に述べたそうだ▼それにしてもヤレ、ヤレと気が重くなる。農薬などに汚染された事故米が食用に転用されていたにもかかわらず、チェックができなかったというのでは、消費者はモルモット代わりにされたようなものだ▼遅まきながら農水省は、汚染の可能性がある外国産米の輸入を見合わせる。ただし国際合意で義務付けられた輸入だ。いつまでも輸入停止が続けられるわけではない。消費者に寄り添い懸命に働く大臣が就任しない限り安心はない。(S)


9月19日(金)

●自殺は自分を抹殺するばかりか、身内など周囲の人を悲しめる行為。自殺者は10年連続3万人を超えるのは異常事態。会社の経営に追い込まれて命を絶つ人も多い。事故米(汚染米)転売問題でも、ついに自殺者が出た▼輸送中に傷つくなど安全基準を超えた事故米(殺虫剤やカビに汚染されているものが多い)は工業用原料として1`平均10円程度の安値で業者に売られ、末端では30倍以上の価格で食用として販売。保育園や施設のお年よりの給食にまで使われている▼事故米は約380社に転売され、600dが食用になっており、農水省は事故米を横流ししていた三笠フーズに100回近くも立ち入り調査をしたのに、不正を見抜けなかった。それどころか太田誠一農相は「人体に影響がないから、じたばた騒いでいない」と、あきれた発言▼農水省が公表した流通先には、知らずに事故米を買わされていた小規模業者が多く、「何を安心して扱っていいのか。店がつぶれてしまう」と嘆く。自ら命を絶った米穀販売の54歳の社長は売った事故米が返却され、三笠フーズの関係で悩んでいたという▼先週の自殺予防週間では各地で予防フォーラムや電話相談窓口が設けられ、早めの発見や適切な指導・治療などについて話し合われた。「消費者はやかましい」「人体への影響はない」など小規模業者や消費者保護を軽んじた“ノー政”が悲しい自殺に追い込んだ。(M)


9月18日(木)

●老いはだれにでもやって来る。若死にしない限り、いつかは加齢による衰えを自覚する。記憶の小箱に確かに仕舞ったはずの人の名前が出てこなかったり、本の文字がかすむなどの変化に気づく日がやがて来る▼映画の名脇役であり、随筆家としても知られた沢村貞子さんは、80歳を過ぎてから夫とともに東京・下町の家を引き払い海の見える湘南のマンションに越した。85歳で書いた随筆に次の言葉を見つけた▼〈長生きの幸運が、明日も明後日も、来年も再来年も、ずっとつづくはずはない。やがて、どちらかが欠けると思うと、今の毎日がもったいないような気がして、なにかにつけて、言葉をかわす〉(「老いの楽しみ」岩波書店)▼沢村さんは、元新聞記者の夫大橋恭彦さんと京都で知り合った。その時、2人には配偶者がいた。そんな2人が連れ添い共に暮らした月日は50年に及ぶが、入籍がかなったのは中年になってからだ▼2歳下の夫を送った沢村さんは、1カ月後、おいで俳優の長門裕之さん、津川雅彦さんら親しい人を招き、故人が好きだったウナギを食べてしのんだ。それから2年後に87歳で没した沢村さんと夫の遺灰は、相模湾に散骨された▼沢村さんの随筆には、下町に育った明治女の凛(りん)とした心構えがほのみえて、読んでいてすがすがしい。敬老の日を起点に今週は老人週間だ。見事な老いを生きた人たちの姿に触れるのもいい。(S)


9月17日(水)

●1997年11月22日の日本経済新聞に「山一証券自主廃業へ」の特ダネ記事が載った。その5日前には、北海道拓殖銀行が破たんした。金融危機が頂点に達したその年、最大のニュースが山一廃業だった▼山一は創業100年を超す名門企業だ。報道から2日後、最後の社長が自主廃業を発表する会見で「社員は悪くありません。どうか社員を応援してやってください」と男泣きしながら訴えた場面が思い浮かぶ▼解雇される社員の不安を思いやり、再就職がかなうようにと真情をテレビの前にさらしたのだった。社長の誠実な謝罪は、世の同情を集め、山一社員の再就職を有利にしたといっていいだろう▼山一を思い出したのは、米証券大手リーマン・ブラザーズが経営破たんしたからだ。山一の負債は約3兆円だったが、リーマンは64兆円。低所得者向け高金利型(サブプライム)住宅ローン関連の損失が巨額に達した▼リーマン同様に経営が悪化した証券大手のメリルリンチは大手米銀に救済合併される。さらに米最大の保険会社AIGもサブプライム関連の損失で財務状態が危機的になっている。米紙の電子版はこうした金融不安をトップで伝えている▼米国発の危機は日本にも波及した。連休明けの昨日、東証の平均株価は年初来の安値を更新した。ドル安も加速している。11年前よりグローバル化した金融市場の動揺が経済の先行きに陰りとなって広がる。(S)


9月15日(月)

●カレーライスかライスカレーか。こだわるのもヘンだが、食通で知られた作家池波正太郎さんによると、戦前の東京・下町ではライスカレーと呼ぶのが一般的だったらしい▼巨匠黒沢明監督の師にあたる映画監督山本嘉次郎さんは、ご飯の上にカレーをぶっかけたものをライスカレー、ご飯とカレーを別々の器に入れて出すものをカレーライスと区別している▼まあ、うまければ呼び名は、どちらでもいいようなものだ。ハンバーグとともに子どもの大好きメニューであることを考えると、いまの子どもたちが普段呼んでいるカレーが通りがいいだろう▼実は、カレーは国会議員にとっても人気メニューだ。国会議事堂の食堂に行くと、カレーを食べている議員をよく見かける。議員会館で秘書にカレーの出前を注文している議員に出あったこともある▼注文してから出来上がりが早い、スプーン一つでかっ込めるから早く食べられる、値段が手ごろ…などが人気の秘密だろう。それに味がまあまあなら文句の付けようがない。忙しい議員にとってカレーは重宝な食べ物なのだ▼自民党本部でも議員の会合に出されるメニューの筆頭はカレーだ。朝や昼間の各種会合にカレー皿が運ばれるのは、ありふれた光景だ。さて、当選を重ねカレーを食べた回数の多い候補とさほどでもない候補が5人そろった総裁選。にぎやかさでは、民主代表選を添え物の福神漬けに追いやった。(S)


9月14日(日)

●「餅をついている兎」が見えるかな。1000年前に月に帰った美しい「かぐや姫」に会えるかな。きょう14日は旧暦8月15日の「中秋の名月」。ススキと月見だんごを供えて豊作に感謝できるのも、生命体が生存できる地球だからこそ▼ハビタブル・ゾーン(連続生存可能領域)という言葉を知ったのは高校生の頃。生命が連続的に生存できる環境が維持できるエリアで、温度的に液体の水が存在できる距離に惑星があるかどうかということ。太陽系でいうと地球がその領域の一つか▼月探査機が月に着陸するまでは“月人”がいるかも知れないと思われていたが、米航空宇宙局が「火星に水があった」と発表し、今は“火星人”の存在がゼロではないのかも。その「生存可能領域」にある幾つかの惑星も見つかっている▼宇宙のロマンは月から火星に移った…。石川●木も短編「火星の芝居」の一節に、火星に行った夢を見て『火星人は僕等より足が小さくて、最も頭の大きい奴が一流の俳優になれる』と書いているという。“火星見だんご”を前に火星人の芝居を見る日が来るのだろうか▼前夜からの雨で中秋の名月を見逃した芭蕉は「名月や北国日和定(さだめ)なき」という詠嘆の句を残した。各地の「観月の会」では、どんな感動の句が生まれるか。かぐや姫は餅をつく兎を見ながら「カビや農薬で汚染された事故米の“だんご”はいけないよ」と詠むだろう。(M)


9月13日(土)

●起訴状に盛り込まれた〈情を通じ〉の表現が長く記憶に残る事件だった。1971年、沖縄返還協定が米との間で結ばれた際、米側が負担するはずだった軍用地復元費用400万ドルを日本側が肩代わりした▼日米間で交わされた密約を示す極秘電文を入手して報じたのが毎日新聞記者だった西山太吉さんだ。西山さんは、外務省の女性事務官を唆して電文を入手したとして国家公務員法違反に問われた▼西山さんと事務官が逮捕・起訴されたとき、世の関心は密約の有無よりも、2人の関係や取材の倫理に集中した。問題の本質の密約は、脇に追いやられた。事務官は1審で有罪が確定、最高裁まで争った西山さんも有罪になる▼だが、密約は後に米側が公開した外交文書で存在が明らかになった。交渉にあたった日本外務省の当時の高官も事実を認めた。それでもなお、政府は密約はなかったと否定を続けている▼そんな政府に対して作家の澤地久枝さん、元共同通信編集主幹の原寿雄さんらが、日本側の文書を公表するよう情報公開法に基づき請求している。政府は未回答だが、文書が存在しないとの回答は通用しないだろう▼西山さんは「違法な起訴で名誉を傷つけられた」として国に損害賠償を求める訴訟を起こしたが、1、2審で敗訴、最高裁も上告を棄却した。「行政と司法は一体化している」と不当性を訴える西山さんは、文書開示を求め提訴するという。(S)


9月12日(金)

●「六本木で黒人に勧められて試したところ、気持ちがよくなり購入した」(大麻取締法違反で逮捕のロシア人力士若ノ鵬)。覚せい剤や大麻などの密売市場は2兆円規模にのぼり、暴力団などのかっこうの“麻薬ビジネス”▼青少年の健康を害する大麻(マリファナ)は、吸引すると燃焼時のタールによって慢性的な気管支炎、がん、喘息などの原因となり、精神的には統合失調症、うつ病を誘発。6割が精神病、3割が依存症、1割が入院治療を受けるデータも▼小学校の道徳の授業は「うそをつかないで明るく生活しようとする態度を養う」ことが目標。それは相撲界の教育でも同じことで、露鵬と白露山は尿検査で基準値の5〜10倍の成分が検出されたのに、ロス巡業で吸っていたのに「大麻なんて吸ったことはない」と大うそ▼親方も「本人が『やっていない』と言うのだから、信じてやるのが親の務め」とかばった。若ノ鵬にいたっては「ロシアに帰国する度に仲間と吸っていた」。今や外国人力士は60人超に。国際部でも設けて「うそをつかない道徳」を教えなければ▼かつて埼玉県で高校生ら20人余が大麻所持容疑で逮捕された。北見では高校生ら5人が自宅に大麻を隠していた。ネット上で「大麻チョコ」など簡単に手に入るが、特に本物の大麻には絶対手を出さないで。先日、函館の中学校生徒会が住宅を1戸ずつ訪問し、薬物乱用防止を訴えた。(M)


9月11日(木)

●ニューヨーク・タイムズ社が発行した「9・11テロ」の写真集が手元にある。事件から1年後、ニューヨークを訪れたときに市内の本屋で購入した。毎年、この時期になると写真集を開く▼炎上する世界貿易センタービル、舞い上がった土ぼこりを全身に浴びたまま逃げ惑う人々、必死に救助活動を続ける消防隊員…地獄絵図と化したマンハッタンの惨状が生々しく迫ってくる。あの同時多発テロから7年たった▼9・11は間違いなく世界を変えた。以前と以後とでマンハッタンの景色ばかりでなく、世界の政治も人々の心のありようも変わった。テロに対する脅えが世界を覆う。だが正義をかざしたテロとの戦いは終わりが見えない▼標的にされた米は、ブッシュ政権が始めたアフガニスタン、イラクでの戦争が泥沼化している。犠牲者は増え、戦費は膨らむ。日本はイラクに派遣した自衛隊は撤退させたが、インド洋上での米艦艇などへの給油活動は継続している▼テロとの戦いにブッシュ政権が乗り出したとき、米国民は熱狂した。米の同盟国ばかりでなく、ロシアも連帯感を表した。テロの温床の一掃は、国際社会共通の崇高な目標になったのだった▼いま、米国民の間には力によるテロ封じ込めの軍事作戦に疑問が兆している。同盟国の欧州でも懐疑的な機運が広がる。さて、対米協力にまい進してきた日本は今後どうすべきか、写真を見つめながら考える。(S)


9月10日(水)

●9日は五節句の一つ「重陽の節句」だった。端午(5月5日)、七夕(7月7日)と比べると一般的ではないが、菊を眺めながら菊酒を飲む「観菊の宴」を開き、風流を味わった人もいるだろう▼そしてきょう10日は雑節の一つ「二百二十日」。立春(2月4日)から数えて220日目で、「二百十日」(8月31日)とともに、台風などの災害が起こりやすい日とされる▼1951年以降の9月、道南に台風が接近・上陸した日を調べたが、最も多かったのは17日で7回、2004年の台風18号が上陸した8日の6回が続く。「洞爺丸」沈没事故はこの月の26日だった▼「二百十日」と「二百二十日」のころは、本州で稲の開花期にあたり、農業の厄日となるため雑節とされている。だが、当地ではことしも日本海西部に中心を持つ高気圧に覆われており、事情は違うようだ▼ことしは突発的な豪雨は多いが、台風の話題は少ない。最近のオリンピック開催年は台風の“当たり年”で、04年(アテネ大会)は最も多い19回、00年(シドニー大会)はそれに次ぐ15回、台風が日本に接近した。ことし5月に3回接近した時や豪雨のニュースが流れるたび「二百十日」「二百二十日」のころが心配だった▼9日、フィリピンの東海上で、8月18日以来となる台風13号が発生した。今週に沖縄に接近する可能性があり、以降の進路は不明だが、やはり台風には気を抜けない。(R)


9月9日(火)

●「憎らしいほど強い」。現役時代の北の湖を評した言葉だ。なるほど全盛期のころは、負けると館内から拍手が起きた。大横綱でありながら憎まれ役が似合っていたと言っては失礼かもしれない▼不遜に見えたのは、倒した相手に手を貸すことをしなかったことが一因だろう。北の湖は、負けて手を貸されたら「屈辱に思うからだ」と相手の心情を思い遣る発言をしている▼確かに北の湖の取組では、勝負が決まった相手に手を差し伸べる場面を見たことがなかった。だが、勝負師の美学から発した行為だとすれば、理解できる。たとえ観客には不評でも自らの信念をまげない姿勢には、ある種のさわやかさもあった▼不祥事続きの大相撲の最高責任者の地位を退くことになった北の湖は、さわやかさとは程遠い心境だろう。かといって肩の荷を降ろした安ど感も沸かないのではなかろうか。親子にも例えられる弟子の大麻問題である▼大相撲は、昨年時津風部屋で起きた集団リンチ死亡事件で大揺れに揺れた。その記憶もまだ去らないうちにロシア出身の元幕内力士が大麻取締法違反(所持)容疑で逮捕された。さらに2人のロシア出身力士にも大麻疑惑が持ち上がった▼国技の大相撲は、いま外国出身力士が番付上位を占める。北の湖の理事長辞任は外国力士に足元をすくわれた面もあろう。だが、トップの責任は、手を差し伸べて肩代わりしてくれる人はだれもいない。(S)


9月8日(月)

●ユル・ブリンナーが主演した米のミュージカル映画「王様と私」は、タイ王室がモデルになった。時代は1860年代、家庭教師として招かれたイギリス人女性と王様との衝突と心の通い合いが描かれる▼映画の主題歌「Shall we dance?」は、ミュージカルの名曲で、いまもラジオなどでよく聞く。周防正行監督のヒット映画「Shall we ダンス」に重ねて思い出される方もおられよう▼仏教国タイの国民は、王室に対する変わらない敬愛の念を抱いている。タイの家庭では、よく目立つ位置にプミポン国王や王室一家の写真を掲げている。写真は日本のタイ料理店でも見かけることがある▼穏やかで礼儀正しい国民性のタイの政情不安が長期化している。反政府派の市民団体が、政権打倒を叫んで首都バンコクの首相府を占拠してからすでに10日以上が過ぎた。日本でならさしずめ首相官邸が占拠されたに等しい▼親政府、反政府両勢力の衝突で死傷者も出ており、非常事態が宣言された。だが、過去の混乱では、クーデターなど力による収拾に乗り出すことが多かった軍部は、今回は目立った動きをしていない▼かといって国王に仲裁を求めるような事態になれば、立憲君主国タイの民主主義の成熟度に疑問符が付きかねない。日本との間に経済連携協定(EPA)を結ぶなど関係も深いタイの混乱は、映画のように大団円で収束するだろうか。(S)


9月7日(日)

●「登山者は携帯トイレなど持参して下さい」。国土地理院の精密な電子測量による標高改定で1メートル高くなった道内最高峰の旭岳に30年ぶりに登ってきた。今季は紅葉が早まっているようだが、今、山岳のトイレ問題が深刻化している▼日本百名山ブームで特に知床連山は1、2泊して縦走する中高年の登山ツアーも増えて、年間の入山者は1万人を超えており、1万人のし尿が高山植物が繁殖する自然環境を汚染している。わき水近くで悪臭しているところも▼日高の幌尻岳の山荘の宿泊は道外の旅行会社に占められており、排泄物は人力で担ぎ下ろしている。「利益を得ている旅行会社が環境保全のため、処理費用を負担してほしい」と訴える声も。黒岳のバイオトイレの利用者は任意の協力金200円を入り口の箱に入れている▼環境保全に取り組む団体は「登山口で販売している携帯トイレを持って登山し、使ったら回収箱に入れてくれれば…。環境保全も自己責任で」と呼びかけている。また、愛らしいクマが「使用後の紙はお持ち帰りください」と呼び止めるTシャツもお目見え▼奈良市の平城宮跡で発掘された木簡には「此所不得小便」の文字。建造物の現場で立ち小便する作業員の姿に困った役人が掲げた“立ち小便を禁止”の最古の看板。現代は「たれ流しは“恥の文化”だ」なんて通用しません。7日の「山のトイレデー」に「登山の用足し」を再考しよう。(M)


9月6日(土)

●アイヌ民族のアシリ・レラさんは、民族の伝統や自然を守る活動家として知られる。5年ほど前、ハワイの先住民族が東本願寺函館別院を訪れたとき、レラさんも招かれ、民族の歌や踊りを共に楽しんだ。伝統芸能を見つめるレラさんの瞳の輝きが印象に残っている▼アシリ・レラとは、アイヌ語で「新しい風」との意味。東日本フェリーの高速船「ナッチャンRera(レラ)」も、青函航路を風のようにさっそうと走る船、とのイメージだ。5月に2隻目を導入したが、燃油高騰などの影響で10月中の撤退が決まった▼青函航路を約2時間で結ぶ高速性は魅力。旅行会社からは「ナッチャンで旅する東北」などの商品が出ていたし、ユニークな船体デザインやきれいなキャビンも人気だ▼過去にも高速船「ゆにこん」が就航したが、冬季の欠航も多く2000年に廃止。新たに登場したナッチャンは、15年度の北海道新幹線開業と合わせ、観光振興や交流拡大の原動力だっただけに廃止は残念だ▼青函連絡船第一号の比羅夫丸が就航したときも、速い船が登場したものだと世間を驚かせたそうだ。それまでの汽船は遅着など日常茶飯事。当時、津軽海峡を4時間で結ぶというのは、まさに「新風」だったろう▼それから一世紀。高速船と比べたら、4時間はゆっくりとした印象が強い。しかし、船の魅力の一つは旅情。遅いなどと言わずクルージングを楽しむのもいい。(P)


9月5日(金)

●子供のころ、祖母にトマト畑に連れていかれるのが嫌だった。青臭いにおいが身体を包み込んでくるようで、逃げ出したかった。祖母は自慢のトマトを孫に食べさせたくて畑に誘ったのだった▼そのころの記憶が染み込んだからか、トマトは大嫌い。トマトジュースは身体にいいからと勧められても口をつけなかった。それが変わったきっかけは、成人して中学恩師の家を訪れたときだ▼恩師の妻が家庭菜園で作ったもぎ立てのトマトをジューサーにかけて、トマトジュースを出してくれた。うちのは甘くておいしいから飲みなさいと促され、一口飲んで口当たりの良さにびっくりした。青臭さはまったくなかった▼苦手のトマトを克服してから、ニンジンもナスも食べられるようになった。ピーマンの肉詰めは、いまは好物のひとつだ。チコリやズッキーニなど最近出回っている野菜も抵抗なく食べられる▼食べ物には、忘れられない思い出が刻まれる。そして、その思い出はもちろん個人的な体験に基づく。ある食べ物を嫌いになるにしても、好きになるにしても幼児からの成長過程のどこかに何らかのきっかけがあるのだろう▼そんなことを思ったのは子供が嫌いな野菜のトップがピーマンとの調査結果を知ったからだ。独特の苦味を嫌うのもうなずけるが、親も苦手だというから食卓に上る回数が少ないのかもしれない。ピーマンっておいしいのになあ。(S)


9月4日(木)

●「わが心のジョージア」(Georgia on My Mind)は、ソウルの神様の異名を持つ盲目の黒人シンガー、レイ・チャールズが歌って大ヒットした。歌は1930年に作られたが、レイがカバーしたのは30年後である▼ピアノに向かい体をのけぞらせるようにして歌うレイの熱唱は、南部の人たちの魂を揺さぶった。伝記映画「レイ」をご覧になって、すさまじいまでの一生を記憶にとどめた方も多いだろう▼「わが心のジョージア」は、1979年、州歌に決定する。幼いころに失明し、歌手になってからも薬物中毒で入院治療を受けたレイにとって、州歌に採用されたことは波乱に満ちた人生で最も晴れがましい出来事だった▼ジョージアを思い浮かべたのは、ロシアと対峙しているグルジアの英語表記がジョージアだからだ。グルジアの紛争は、ロシア軍の介入や発端となった南オセチアの独立をロシアが承認したことなどで混迷を深めている▼米艦隊が黒海に派遣されにらみを利かせる。欧州連合(EU)は、緊急首脳会議を開き和平合意の順守をロシアに求めた。そのグルジアは、大相撲幕内力士の栃ノ心や黒海の故国でもある▼米のジョージアは、州都アトランタにコカ・コーラ社やCNNが本社を置き発展が著しい。一方のグルジアは、経済規模ではジョージア一州にも及ばない。黒海沿いの小国の危機は、解決への展望が開けないまま続いている。(S)


9月3日(水)

●道北の稚内からは、晴れた日にロシア・サハリン州が見える。海峡を隔ててわずか50キロ。函館から青森県竜飛岬までの距離よりも短い。まさに指呼の距離に位置するのがサハリンだ▼年配の方々には、サハリンよりも日本領時代の樺太の呼び名がなじみ深いだろう。道内には、戦後の混乱期に着の身着のまま樺太から引き上げてきた人たちも多い。島の各地には、日本人墓地も数多く残る▼そのサハリン州からホロシャビン知事が来道して、高橋はるみ知事と会談した。会談では、経済交流拡大などを盛り込んだ新たなプランを10月の高橋知事の訪問時に採択することで合意した▼サハリンは、石油・天然ガスの資源開発に沸き、経済発展を続けている。ロシア本土からの労働者の移入も盛んで、消費経済も拡大している。そうした好調な経済に刺激されて、日本からの投資の機運も高まっている▼サハリン開発には、日本も資本と技術を投入した。一時期、サハリンと道の間に石油・天然ガスの海底パイプラインの計画が持ち上がったこともある。サハリンの資源と経済発展は、道にとっても大きな魅力だ▼道はユジノサハリンスク(旧豊原)に事務所を置き、現地情報の収集や進出道内企業への支援を図っている。函館からはユジノへ定期便が飛んでいるほか、ロシア極東大の分校もある。好況に潤うサハリンを地元経済のてこ入れに活用できないか、期待が広がる。(S)


9月2日(火)

●「背水の陣内閣」とは、昨年9月、福田康夫首相が初組閣で自ら名付けた。政治とカネ、年金、格差など国民の厳しい視線にさらされてスタートした内閣である。崖っぷちに立つ危機感をこの名に込めたに違いない▼その「背水の陣」が1年経たずに崩れた。国民の支持率が低かったにもかかわらず1年近くよく持ったというべきなのか、それとも安倍前内閣に続き短か過ぎたと惜しむべきなのか。政治の転変の目まぐるしさである▼先月の改造内閣発足に際して、福田さんは「安心実現内閣」の看板を掲げた。不評の後期高齢者医療や尾を引く年金問題、日雇い派遣があぶりだした雇用不安など国民が政治に向ける不信と不満は、募るばかりだった▼その上、最近の物価高騰が追い討ちをかけている。暮らしの将来見通しが開けないばかりか日々の生活にも不安が兆していた。「安心実現」は、課題の解決に真剣に取り組み、国民の不安を解消しますとの宣言だったのだろう▼だが、その意気込みを置き去りにして福田さんは政権を投げ出した。福田さんは「新しい布陣のもとで政策の実現を図らなければならない」と辞任の理由を述べたが、テレビで見る表情は何だか虚ろだった▼「天の声にも変な声がある」は、福田さんの父赳夫元首相が、総裁予備選で敗れたときの言葉だ。首相の座を去る息子は「辞めなさい」の天の声を聞いたのだろう。(S)


9月1日(月)

●生まれ育った地域と家庭の経済力によって学力格差が生じているー。そんな実態が全国学力テストで明らかになったのは、地域の未来に暗雲を広げることにもなりかねない▼北海道は、全国でも成績が低迷している地域だ。テストの対象となった小学6年生の平均正答率は国語、算数ともに46位、中学3年生も国語、数学ともに全国平均を下回り都道府県別の下位10位以内だった▼学力をランク付けすることに、もちろん異論はある。学力テストへの反対も教職員組合を中心に根強い。それでもなお、テスト2回目の今回も低いとなると、地域間の学力格差が固定化しているのではないかと心配になる▼というのも、2回のテストを通じて小・中学校とも上位、下位の顔ぶれがほぼ同じだからだ。東北の秋田県は小学校が昨年も今年も1位、中学校は同様に福井県が1位だった。逆に小・中ともに沖縄県の最下位も変わらない▼もうひとつの気がかりは、国や自治体から学用品などの就学援助を受けている児童・生徒の割合が高い学校ほど成績不振の傾向が見られることだ。家庭の経済力が、子弟の学力に影響していることをうかがわせる▼いまや公教育だけでは不十分と考え、学習塾へ通わせるのが一般的だ。しかし、家計に余裕がなければ塾費用は賄えない。難関大学合格者の親は、収入が平均より上との調査もある。学力にも格差社会の陰が忍び込んでいるようだ。(S)


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