平成21年1月


1月31日(土)

●函館に住み始めた時、恵山の道の駅「なとわ・えさん」の「なとわ」の意味が分からなかった。方言で「あなたとわたし」だと知り、何と温かくてしゃれた名前だろうと感心した。道南は道内の他地域に比べて方言を耳にすることが多いような気がする▼福島町商工会青年部が10年ほど前に制作した「ふくしま方言・地名つうしんぼ」という図がある。方言を知っているか否かで、それぞれ先に進んでいくフローチャートだ。「ふくしま人」度をチェックしてみようと銘打った遊び心いっぱいのもので、最終的には幼稚園レベルから最高の老人大学レベルに分かれる▼スタートは「カッパリトル」。靴の中に水が入ってしまうことだが、まずここでつまづく。「タフランケ(ばか者)」「ゴヤキル(自慢する)」「マグラモンジョ(うわごと)」と続いていくが、さっぱり分からない▼図には使用例も掲載されている。「カチャペナイ(貧弱だ、貫禄がない)」は「からもちゃっこくて本当にカチャペナイ人だ」といった具合だ。意味は判然としなくても、どこかほっとする響きがある▼方言はその地域で綿々と受け継がれてきた話し言葉であり、地域性に彩られ、素朴な雰囲気がある。訛(なま)りとともに郷愁を覚える人も多いだろう。古里の風景や家族、友人らの顔が方言とともによみがえる▼さて、図の最後の問いは「ジャンボ刈る」。これが分かれば見事、老人大学レベルだ。(H)


1月30日(金)

●インフルエンザにご注意。インフルエンザで寝ていた8歳のひ孫を救おうと、81歳のお年寄りが燃える家の中に引き返し、その後を追った5歳のひ孫も犠牲になった。逃げ遅れたと思ったひ孫は逃げ出していた(愛知県)。インフルエンザを巡る無情な結末▼国立感染症研究所の調査によると、今季のインフルエンザは当初、Aソ連型、A香港型、同B型の順だったが、最近は5割超がAソ連型だ。しかも、今冬のAソ連型は治療薬のタフミルの効かないタイプが9割を超えるというから厄介▼タフミルが効かなくなったのは、海外で発生したAソ連型に対する「耐性ウイルス」が日本にも上陸した恐れがある。薬の使用に対し、ウイルスが生き残ろうとチェンジし、耐性化するのだという。昨冬、欧州を中心に拡大、今冬には英米など世界的に広がった▼インフルエンザは数十年おきに大流行。81年前のスペイン風邪では世界で2000万人、52年前のアジア風邪では200万人が死亡している。今冬は、鳥インフルエンザが突然変異するなど、人類が抵抗力を持たない新型インフルエンザの発生も懸念されている▼インフルエンザを含む集団風邪で函館市内で、これまでに19校34学級が閉鎖。厚生省の研究班はウイルスに感染した細胞を破壊する「万能ワクチン」を開発中だが、「普段から手洗いとうがいを徹底し、感染したら十分な栄養と休息を取ること」が大事。(M)


1月29日(木)

●漫画のツヨシは、母や姉にこき使われても気楽に生きている末っ子だ。炊事、洗濯、掃除は単身赴任中の父に代わってツヨシに押し付けられる。男女間の役割分担の固定した考えは一家には通用しない▼そんな設定の面白さが受けて「ツヨシしっかりしなさい」(永松潔作)は、テレビドラマになった。漫画は知らなくても、10年前に放映されたテレビでご覧になった方もおられよう。その後、アニメ化もされた▼漫画のツヨシと異なり、こちらのツヨシは、「君」が一転「嬢」になった。性別が逆だったと分かり嫁にほしいと熱烈なラブコールが起きた。釧路市動物園で飼育されているホッキョクグマ「ツヨシ」(5歳)を巡る話だ▼ホッキョクグマは絶滅が心配され、動物園での繁殖に期待がかかっている。ツヨシ嬢をほしいと縁組の申し入れは、大阪市の天王寺動物園のほか秋田県の男鹿水族館GAOも名乗りを上げた。だが、道内での繁殖を優先させることになりそうだ▼ホッキョクグマを飼育する道内4動物園が札幌市の円山動物園で開いた会議で、ツヨシを嫁には出さず、婿探しをする方針を固めた。ツヨシは、釧路にとどまって婿取りなどの繁殖方法を決めることになる▼遠くに嫁入りしないでよかったな、ツヨシと声を掛けたくなった。繁殖の責任は負わされるが、漫画のツヨシのように、喧騒に惑わされずひょうひょうと生きていってほしいなあ。(S)


1月28日(水)

●真っ先に反応したのは大阪府の橋下徹知事である。「学力も体力も低い」と大阪の現状を問題視し、市町村教委に結果の自主公表を求めた。文部科学省が小学5年と中学2年を対象に実施した全国体力調査を受けての発言だ▼大阪府は両学年の男女とも全国40位前後の下位に沈んだ。橋下知事は昨年の全国学力調査に続き、体力でも平均を下回ったことに危惧(ぐ)を表したのだ。その大阪より低い結果だったのが北海道である▼本道の順位は小学5年男子45位、同女子39位、中学2年男子43位、同女子47位である。冬が長く、外で体を動かす条件が本州などに比べ不利なことは分かる。それにしても育ち盛りの体力が全国平均に及ばないのは心配だ▼調査は握力、持久走、ソフトボール投げなど8種目の数値を合計している。平均値を出してランク付けすることに何の意味があるのか、と疑問を示す専門家もいる。それでも教育関係者ばかりでなく親にとっても気になる順位である▼本道は学力調査でも下位だった。学力上位の福井、秋田は体力でも優れた順位だったことからすると、学力と体力の相関関係が浮き出てきそうだ。つまり出来る子どもは体力も優れているとの見方だ▼それにしても罪作り(?)な調査結果の公表だ。教委は順位に一喜一憂し、教員にはプレッシャーになる。主役の子どもたちは「大して意味がないじゃん」と冷静に受け止めているかもしれない。(S)


1月27日(火)

●消費増税があるのかないのか。麻生太郎首相が「ぶれない」とこだわっている2011年度の導入を目指す懸案である。だが、実現への道筋には不透明感が増している▼首相は国会論議や会見などで「責任政党」を強調し、財源の裏付けを消費税に求める方針を明らかにしてきた。中福祉には中負担が必要というのが首相の考えだ。それに異を唱えてきたのが、自民党上げ潮派の議員たちである▼中心の中川秀直元幹事長は離党をほのめかして造反政局を主導しようとした。離党すれば麻生政権にとって大打撃だ。それを避けようと税制改正関連法案付則の政府案は、11年度の表現をぼかし妥協した。玉虫色への後退である▼20年前に始まった消費税の当初税率は3%だった。現在の5%に引き上げられたのは1997年である。その間、94年には細川護Xィ首相が7%の国民福祉税構想を打ち出し、即日撤回した混乱も起きた▼海外各国の消費税(付加価値税)は10%から20%半ばが多い。日本の消費税率は世界的にみれば低い。だが海外では食料品など生活必需品への軽減税率適用など運用に柔軟性を持たせている。5%の一律課税の日本とは異なる▼消費税は福祉や医療費の増大をまかなう最後の安定財源とされる。しかし所得税に比べると低所得者の負担が重くなる税制度だ。消費増税は政権選択の次期衆院選の行方もからみ、実現への道筋さえあいまいになってきた。(S)


1月26日(月)

●「朝青龍帰ってきました」と両腕を突き上げ破顔一笑したときには、涙は乾いていた。その前、優勝決定戦で白鵬を破り、花道を引き上げる際は目が潤んでいた。万感の思いがこもった23回目の優勝だろう▼国技館まで足を運べないファンも、朝青龍が引退の危機を乗り越え優勝したことにほっとしているのではなかろうか。とかくの悪評を買ってはいても、朝青龍が大相撲の看板であることは間違いない▼「勝てばいい。強ければいい」だけでは、横綱として不十分だ、という横綱審議委員会の考えに異論を挟むつもりはない。横綱は立ち居振る舞いすべてに模範でなければならない、というのも分かる▼だが、今場所の入場者数やテレビ視聴率が上がったのは、朝青龍効果が大きかったことはだれもが認める。横綱が白鵬だけの一枚看板では、相撲人気の盛り上がりが少し寂しい。2横綱が競い合って人気を支えていることを証明したのが今場所だ▼表彰式の内閣総理大臣杯授与に麻生太郎首相が登場した。こちら★は、支持率が急下降した不人気首相だ。朝青龍の復活に自らの支持率アップの願いを重ね合わせて、笑顔で横綱に語りかけたのが印象的だった▼さて、白鵬時代の到来かと見られていた大相撲は両横綱がしのぎを削る展開が続きそうだ。さらに若手の有望力士も実力を付けている。国技・大相撲は来場所以降もおもしろい。そんな予感が膨らんだ初場所だった。(S)


1月25日(日)

●栄養価の高い地元の食材を使った学校給食を食べているからか。文部科学省の体力テストによると、道内の児童・生徒は身長、体重とも全国平均を上回っているが、「体力不足」の結果が出た。特に肥満度は大幅に上回っており“メタボ予備軍”に▼自宅でテレビを見ている時間が「3時間以上」と答えた割合が全国平均を大きく上回っており、生活習慣病予防に不可欠といわれる「運動不足」が影響しているようだ。外で身体を動かし汗を流すより、テレビをみたり、メールを打ったり…▼これでは学校の健康診断でもメタボ健診が必要になるのではないか。「健康増進と病気予防」と国が決めたメタボ健診。これまでの眼底検査と心電図検査が除外された。個人では自覚症状がないと受ける機会を逃してしまう検査なのに▼必要な検査を飛ばして、ちょっと腹囲を測っただけで診察料は1000円。メタボが宣言されると生活習慣改善の指導は受けられるが…。メタボの基準が国際的に統一され、腹囲測定が必須条件から外される動きがあるというのに▼学校給食は郷土料理なども取り入れているが、もっと運動して体力をつける指導が必要。予備軍の肥満児を減らすためにも。でも、マグロに含有されていた化学物質ヒスタミンによる集団食中毒はいただけない。解凍の過程でヒスタミンが蓄積された可能性が高いというが、調理した業者がもっと注意すべきだ。(M)


1月24日(土)

●日本時間21日未明に行われたバラク・オバマ大統領の就任式は、テレビ中継に函館在往の米国人たちもくぎ付けになり、祖国の変革に熱い期待を寄せていただろう▼全国の正月の風習を紹介するテレビ番組があった。本道では口取りの菓子やクジラ汁が食べられること、大みそかにおせち料理を食べることが紹介された▼同僚と話題になった。本道や東北出身者は大みそかにおせち料理を食べているが、関東や四国出身者は正月から食べる。お互い「なぜ」と言い合う。富山出身のコラム子は5年前の大みそかに初体験したが、「元日はこれ以上のご馳走かな」と思ったものだ▼その番組では、富山の正月で、長男がいる家庭は天神様の掛け軸を飾ることが紹介された。おかげで最近は何度も「本当ですか」と尋ねられ、小学生のころは天神様の前で書き初めをしていたと答えると驚かれる▼同郷の人たちで作る県人会が市内でも新年会を行っている。函館には東北を中心に多くの県人会があるが、高齢化による会員減少が問題となっており、役員の引き継ぎができず、有名無実の状態になっている県もある▼かつて本道の開拓に心血を注いだ人たちが作った県人会。先人の労苦や知恵が語り継がれずに、風化してしまうのは函館にとっても惜しい限りだ。正月の番組で紹介された郷土の風習を懐かしみ、会を盛り上げる。今年はそんな県人会が増えてくれればと思う。(R)


1月23日(金)

●「枯れ葉」や「落ち葉」などマークの評判は芳しくなかった。それ以上に不評だったのは、表示を怠ると、罰則が科されることだった。年寄りいじめではないか、との声さえ聞こえていた▼高齢運転者を示す「もみじマーク」義務化を警察庁が撤回したのは、お年寄りらの反発を受けたからだ。改正道交法が昨年6月に施行され、75歳以上に表示が義務づけられてわずか半年。再び改正法が今国会に出された▼函館市内を車で走ると、もみじマークがここ数カ月で目立って増えていた。免許取り立てを示す若葉マークよりも多く、高齢運転者がたくさんいるのだな、と気づくきっかけになったことは正直に打ち明けたい▼高齢運転者の事故は、警察庁のまとめでも顕著に増えているという。加齢に伴う動作反応の遅れや、注意力の衰えは誰にでもある。そうした高齢者を事故から守るためにマークが導入されたのだろう▼だが、マークの表示によって事故が減るなどの効果がどれほどあるのか、はっきりしない。逆にマークを付けると、幅寄せされたり割り込まれたりといった不満が高齢者の間に生じていた。これでは逆効果だ▼もみじマークの撤回は、後期高齢者医療制度を巡る混乱を思い出させる。両方に共通するのは、特定の年齢を境に扱いをスパッと切り分けることの無謀さだろう。「年を取ることのどこが悪い」。元気な高齢者の高笑いが聞こえるようだ。(S)


1月22日(木)

●「私には夢がある。ジョージアの赤色の丘の上で、かつての奴隷の子孫とかつての奴隷を所有した者の子孫が、同胞として同じテーブルにつく日が来るという夢が」。米国の人種差別撤廃運動の象徴とされるキング牧師が1963年8月、合衆国議事堂から広がるナショナル・モールで語ったあまりに有名な言葉だ▼それから45年余。日本時間21日未明に行われた米史上初の黒人大統領、バラク・オバマ氏の就任演説に、同モールを埋め尽くした200万人が歓喜した。全世界が新大統領の言葉に聞き入った▼金融危機やイラク問題など米国が置かれた厳しい状況の中、再生を誓うと同時に、「今求められるのは『新しい責任の時代』だ」とし、国民に自覚と協力を求めた。厳しい表情で言葉を繰り出し、リーダーとしての決意を示した▼国民受けを狙った甘言など一切ない。それでも聴衆が、テレビを通じた世界各国の人々が、熱い思いを共有できたのは、方向を指す確たる自信、それに向けた力強さ、そして言葉の重みがあったからだろう▼「われわれの成功は勤勉、正直、勇気、フェアプレー、寛容、好奇心、誠実、愛国心にかかっている」と呼び掛けた。感極まって涙する聴衆の姿があった▼共感が得られなければ事を成すのは難しい。託してみたくなるパワーも主導者には求められる。その根底に言葉がある。日本の政治家の「言の葉」の軽さを思う。(H)


1月21日(水)

●1961年1月20日、ケネディ大統領就任式は零下5度の寒さの中で挙行された。前日の雪は嘘のように晴れ上がっていたが、かなり強い風が吹いていた。43歳の大統領は寒気にめげずオーバーを脱いで立った▼15分間1355語の就任演説は、歴代大統領の中でも最も高く評価されている。演説の白眉(び)は「国が諸君のために何ができるかを問い給うな。諸君が国のために何ができるかを問い給え」の一節だ▼このよく知られた部分の後に、世界に呼びかけた語句が続く。それが「アメリカが諸君のために何をしてくれるかではなく、我々がともに人類のために何ができるかを問い給え」のことばだ▼当時は米ソの2大核大国が世界の覇権を争っていた時代だった。ケネディは、米国民と世界に向けて自分たちの出来る範囲で自由と平和を守るための貢献を求めたのだった。3年後、ケネディは暗殺されるが、ケネディ神話はいまも残る▼就任式を迎えたバラク・オバマ大統領は、経済の低迷とイラクやアフガニスタンで続く戦争の負の遺産を背負っての船出である。厳しい東西冷戦下で政権に就いたケネディ時代とはまた違った困難に直面しているといえよう▼オバマ大統領が掲げたのは「チェンジ(変革)」だった。ケネディより4歳年長の47歳で超大国のリーダーに就いたオバマ大統領は、世界とどう向き合っていくのか。初の黒人大統領の神話が始まる。(S)


1月20日(火)

●以前、英国の国際交流機関が英語を第2外国語として学ぶ世界の4万人に「最も美しい英単語」を調査したところ『マザー(母親)』だった。子供の成長に、母親の存在は大きいが、一度「怖い顔」に豹変すると…▼岐阜県の35歳の母親による“病院を舞台にした虐待”とも見られる惨事が発覚した。3年前、肝機能障害で入院していた四女(当時8カ月)の個室病室で点滴回路に数回、注射器で水道水を混ぜて肺水腫で死なせたというもの▼以前にも死亡した二女(3歳)と三女(2歳)にも同じ行為をしたことを認めているという。母親は「周囲の関心を引くため、子供を看病する姿を見せたかった」と供述。まさに子供に危害を加えて病人に仕立てる「代理ミュンヒハウゼン症候群」ではないか▼病気をねつ造する対象は乳幼児。わが子を傷つけ、虐待し、入院させて「病気の子供をけなげに看護する母親」を演じるなんて、歪んだ愛情表現。症例は20年ほど前から報告され、米国では難病と闘う8歳の少女に毒物を飲ませたり、点滴にバクテリアを混ぜていた母親もいた▼病院を転々とすることが多く、病院でも母親の異変を発見するのは難しいようだ。最も美しい単語『母親』を、最も酷い単語『殺害』にチェンジさせないために、原因不明の子供の症状が長期化し、母子が頻繁に病院に通うことがあれば、この症候群を周囲で疑うしかないのか。(M)


1月19日(月)

●〈古女房 年金だけが 赤い糸〉。うーん分かるなぁ、その気持ち、と苦笑まじりに納得される方もあろうか。岐阜県在住の70歳男性の作品だ。「60歳からの主張」(全国老人福祉施設協議会主催)の川柳部門で入賞した▼同協議会は、もうひとつの成人式のサブタイトルで還暦の60歳以上を対象に川柳と小論文の作品を募集してきた。第5回の今回、応募は2233点に上り、成人の日に両部門合わせて10人の入賞者が表彰された▼成人式では大人の仲間入りをした若者が将来の夢を語る。ならば、高齢化時代を生きる還暦超えの世代が社会に向けて発する声も傾聴に値するのではないか。その発表の機会を設けようと始まった作品募集だ▼川柳は老いや年金、社会状況などテーマは多岐にわたる。入賞は冒頭句のほか〈ヒラ通し 定年後すぐ 町会長〉〈団らんに ワンテンポ遅れて 笑う吾〉〈宝くじ 買えばまだ出る ドーパミン〉〈老夫婦 あれ、これ、それで 意思疎通〉の4句▼わが身の日常を振り返ってうなずかれる方も多かろう。高齢者が狙われる振り込め詐欺も〈預貯金なし 携帯もなし 被害なし〉(最終選考通過作品)なら安心だが、巧妙化する手口にはくれぐれもご用心を▼年齢を重ねたからといって、物知り顔でおとなしくしているのがいいわけではない。〈可愛いと 言われるまでにゃ まだ遠し〉(同)の心意気をぜひいつまでも。(S)


1月18日(日)

●しんしんと冷え込む冬の夜、一面の星空を見上げた記憶をお持ちの方も少なくないだろう。大気が澄む冬は、星を見るには絶好の季節だ。函館山に登らなくても郊外の浜辺からも降るような星空を眺められる▼そんなとき口をついて出るのは、中学音楽の教科書に載っていた「冬の星座」だ。〈木枯(こが)らしとだえて さゆる空より…〉と歌われる歌詞は、作詞・作曲家であり、音楽評論でも名高い堀内敬三さんが訳詞した▼原曲は19世紀の米作曲家ウィリアム・ヘイスの歌曲である。もともとラブソングだった歌詞を米留学の経験を持ち英語に堪能だった堀内さんが、音楽科目用に訳出した。発表は戦後間もない1947年である▼使われている言葉は、いまの子どもたちには少し難しい。だが、声に出して何度も歌うと、歌の意味がすっと体の中に入ってくる。1950、60年代に小・中学生だった世代なら授業で繰り返し歌わされた思い出がよみがえるかもしれない▼今年は1609年にイタリアのガリレオ・ガリレイが、望遠鏡で夜空を観測してから400年に当たる。国際天文学連合などは今年を「世界天文年」と定め、子どもたちの宇宙への関心を高めるイベントなどを企画している▼親子で寒気の外にたたずみ星空を見上げたり、小型の望遠鏡で月や星を観測する。そうしたわが家の天文年の楽しみ方もいい。冬の星座は科学探求とロマンの宝庫だ。(S)


1月17日(土)

●横綱・朝青龍の殺害予告をインターネットの掲示板に書き込み、脅迫容疑で逮捕されたのは北斗市の無職男。「国技館に乗り込んで殺す」との内容に、警視庁は厳戒態勢を敷いた。それがはるか離れた道南在住者の仕業だったとは▼ネット犯罪の温床の一つに「匿名性」が挙げられる。名前を明かさず他者を攻撃する。それがストレスのはけ口なのか、ネット上は誹謗(ひぼう)、中傷であふれている▼韓国では掲示板への悪意の書き込みで自殺者が出るなどし、書き込んだ本人を特定できる実名制を導入したという。ネット利用が生活に定着する中、自分の身近なところでも、こうした“悪意”の被害に悩んでいる人がいるのではないかと心配になる▼男は函館中央署に出頭した際、「大ごとになってしまった」と話したという。軽い気持ちで書き込んだはずが、本人の意図とは別次元の大騒動に発展し、面食らったということか。悪意がネットを通じて“暴走”した形だ▼ネットに限らず、日常生活の場でも誹謗・中傷の類(たぐい)を流布し、他者を困らせようとする輩は少なくない。これはその発信元を特定できるし、相手にしなければ済む。結局は流布した側の人間性が問われる▼だが、ネットはそうもいかない。不特定多数が目にし、悪意を増幅させる恐れがある。無差別殺人の犯人を英雄視する書き込みが相次ぐような状況。匿名の怖さを改めて思う。(H)


1月16日(金)

●小さな大打者が、世界のホームラン王と並ぶ記録を持っていることは、あまり知られていない。サヨナラ本塁打8本のセ・リーグ記録である。それだけ勝負強かったことを示す若松勉さんだ▼現役時代の活躍から若松さんの野球殿堂入りは確実と見られていた。北海道出身者としては初の快挙だ。その若松さんは「身長が低かったから頑張ってこられた」と喜びを語ったという▼公称身長は168㌢だが、実は2㌢低い。180㌢台の大型がそろう高校球児の中に入ったら目立たない存在だろう。だが、鍛えた下半身の安定感はプロ屈指だ。それを武器に19シーズンをヤクルト一筋で過ごした▼北海高校から社会人野球の電電北海道に進み、活躍した若松さんはヤクルトからドラフト指名を受けたとき、自信がなくて妻の実家に隠れたそうだ。そんなエピソードもいまとなっては、笑って明かせる大打者だ▼野球殿堂は1959年に創設された。初の殿堂入りを果たした9人の中には、函館太洋倶楽部(函館オーシャン)に所属した久慈次郎捕手がいる。盛岡出身の久慈さんは、頭部死球のアクシデントで亡くなるまで同倶楽部で活躍した。墓所も函館にある▼さて、若松さんは引退後の99年から7年間、ヤクルト監督を務め、2001年には日本一に導いた。指揮官としても非凡な手腕だ。小柄な体をユニフォームに包み、グラウンドで指揮を執る姿をまた見たい。(S)


1月15日(木)

●格闘技のヒール(悪役)は強くなければ格好がつかない。劇画やアニメに登場するヒールもヒーローそこのけの強さを発揮するのは、ウルトラマンシリーズのバルタン星人などの例を見ても分かる▼もちろん最後はヒールが敗れるのが一般的だが、ヒールが強ければ強いほど、見る側のはらはらどきどき感は高まる。大相撲初場所はヒール扱いされてきた横綱朝青龍が必死の相撲で序盤戦を乗り切った▼左ひじの故障で3場所連続休場を重ね、進退を懸けて臨んだ場所である。ファンの視線は朝青龍の相撲にくぎ付けになっていると言ってもいい。アンチ朝青龍を含め多くは、引退を一掃する勝ち星をあげてほしいと願っているのではないか▼2004年から05年にかけ、7場所連続優勝や年間6場所完全優勝を果たしたころの憎らしいほどの強さは影を潜めている。前半戦は、攻め込まれる場面も目立ち、速攻で圧倒する安定感は見られなかった▼テレビの画面から伝わってくるのは、まなじりを決してがむしゃらに勝とうという勝負師の気迫である。制限時間いっぱいになると、左手で思いっきりまわしをたたくしぐさにも必死の形相が表れている▼朝青龍は、土俵内外の言動が横綱としての品位と責任感に欠けると批判され、ヒールの扱いをされた。だが、相撲人気を支える主役であることは間違いない。崖っぷちの主役がどんな土俵を見せるか、今後が楽しみだ。(S)


1月14日(水)

●「目には目を歯には歯を」は、ハンムラビ法典の「人の目を潰したなら、彼の目を潰す」「同格の他の人の歯を落としたなら、彼の歯を折る」の条例から出た格言という(伊島紀著「ハンムラビ法典」)▼収容所のように高い塀に囲まれたパレスチナのガザ地区は150万人が住む密集地。このガザ地区から発射されたロケット弾に報復して、イスラエルが攻撃を始めてから2週間が過ぎた。国連などの停戦を聞き入れず、空爆から戦車部隊の地上戦へ▼クラスター爆弾のほか、非人道性が指摘されている「白リン弾」も使われている。落下すると空気と反応して発火する兵器で、皮膚に触れると骨を溶かすほど激しく燃焼し続ける。11日の攻撃では「白リン弾によってのみ起る負傷者」が55人もいた▼塀に囲まれているため逃げ場がなく、学校も破壊され、犠牲者の大半は民間人。しかも4分の1は子ども。戦争に巻き込まれる一般市民を指すコラテラルダメージ(付随的損害)はいつも弱者。ガザの地名になった名産のガーゼを巻いた子どもたちが痛々しい▼ハンムラビ法典は孤児など弱者を大切に扱い、奴隷を開放する「正義と自由」を目指していた。「ノーモア・ガザ」の抗議デモが世界に広がっている。長崎の座り込みに参加した大学生の「宗教を超え、人間として向き合えば互いに理解できるはず」に共感。今度こそ“100年戦争”に終止符を打ってほしい。(M)


1月13日(火)

●「受け取る」「受け取らない」「明らかにしない」の三様に分かれる。今国会前半の焦点になった定額給付金を巡る閣僚の対応である。本来なら受け取るで一致すべきなのだろうが、そうならない▼受け取るかどうかを問われた麻生太郎首相は「個人で判断すべきだ」と繰り返すばかりで、自らの態度を示さない。給付金を盛り込んだ補正予算案は政府が提出したのだから、全閣僚に受け取るよう指示してもよさそうだが、それもしない▼そんな迷走ぶりが、国民の不信感を増幅しているのだろう。読売新聞の最新の世論調査で「(定額給付金の)支給を取りやめて、雇用や社会保障など、ほかの目的に使うべきだ」との意見に賛成が78%に達した▼支給撤回に反対する意見はわずか17%だったという。世論調査を見るかぎり国民の大半は給付金に反対している。2兆円ものばらまきを強行するよりも、雇用対策や福祉施策などを優先してほしいという願いがのぞく▼そもそも給付金という名も考えてみればヘンだ。給付金の財源はもちろん私たちが納める税金だから、還付金なり返戻金ならまだ分かる。そんなおかしさが給付金には付きまとい、不評が募る原因にもなっているのだろう▼補正予算案はきょう衆院を通過する予定だ。自民党離党を表明した渡辺喜美元行政改革担当相など与党からの造反が出るかどうか。ここはじっくりと採決の行方を見守りたい。(S)


1月12日(月)

●函館市内のガソリンスタンド前を通るとき、いつも価格をチェックする。レギュラー1リットルが180円台を超え、1万円札を機械に投入してもお釣りが出なかった経験をして以来、表示価格の確認が習慣になった▼価格は毎日のように変わっていた。セルフのスタンドは競合他店の動向を調べて、頻繁に店頭価格を調整していた。ユーザー側にしても価格に敏感になり、一度に満タンに入れるケースは減っていた。わずか半年前のことだ▼いま、レギュラーガソリンはセルフのスタンドで1リットル95円前後が目立つ。最高値のころに比べると、ほぼ半値だ。ガソリンタンクが空っぽでも、満タン給油で6000円でお釣りが来る。10リットル程度ずつ小分けして入れることも減った▼価格の下落は、昨秋から世界を覆う経済不況がもたらした。指標となるニューヨーク市場の原油先物価格は、需要の落ち込みを見越して1バレル(約159リットル)が40ドル台に下がった。150ドル近かった最高値から70%もの値下がりだ▼米国発の金融危機は実体経済にも影響を及ぼし、製造業の生産削減や非正規労働者の解雇が日常風景になった。明るい展望が開けない新年だが、石油製品の値下がりは、家計の支出を抑えるうれしい誤算だ▼暖房用灯油も3年5カ月ぶりに1リットル70円台を割り込んでいる。北国の厳しい寒さは、これからが本番。暖房が不要になる春まで灯油もガソリンも安値安定が続いてほしい。(S)


1月11日(日)

●定額給付金分を交付税で措置してくれたら、独自の施策に使えるのになあ、と多くの自治体首長が嘆息しているのではなかろうか。函館・道南の市や町のトップも思いは同じに違いない▼給付金を拒否するわけにはいかない。だが、給付作業を丸投げされた自治体にとって、事務手続きの煩雑さは頭痛の種だ。むしろ交付税を積み増してくれたほうがよほど有り難いというのが本音だろう▼2兆円の定額給付金を巡る国会論戦をテレビで見ていると、閣僚にも微妙な違いがあっておもしろい。例えば意義を問われた麻生首相は「消費刺激になる」とむきになって答える。だが、自分がもらうかどうかはあいまいなままだ▼首相は高額所得者がもらうのは「さもしい」と語ったことがある。そのときは、資産家としての矜持(きょうじ)から受け取らないつもりだったのだろうが、当初の方針はどうやら揺らいでいるようだ▼一方、そっけなさが目立つのが与謝野経済財政相だ。与謝野氏はもともと定額給付金に消極的だった。しかし、閣内不一致とみなされては、内閣の命取りになりかねない。そこで短い答弁で、思いの薄さをにじませているのだろう▼給付金は函館市が44億円、北斗市が7億5000万円など管内全体では巨額に上る。ただし消費に回るのは30%程度との予測もある。ならば首相の言う消費刺激効果は限定的だ。給付金は何だか鬼っ子みたいになってきた。(S)


1月10日(土)

●造船疑獄やロッキード事件などの政界汚職捜査を手がけ「ミスター検察」と呼ばれた伊藤栄樹元検事総長が、新任検事のころ、容疑者にまんまとだまされた経験をつづっている▼ビル荒らしの犯人として捕まった男の取り調べ中、赤ん坊を背負った女が飛び込んできた。女は男にすがりつき、赤ん坊も含め3人とも泣き出した。「もうお前たちに迷惑かけぬ」と誓う男の目は澄んでいた▼伊藤さんは、男の立ち直りを信じ、将来をとくと戒めて釈放した。起訴猶予制度の効用を発揮したつもりだった。ところが、2日後、男はまた手錠をかけられて先輩検事の取調室に入っていく▼後で分かったのは、男は窃盗団の首領であり、泣いて訴えた女と赤ん坊は、金で雇われ芝居をうったのだった。「何とも情けない結末」と伊藤さんは反省し「検事はだまされて成長する」と知ることになった(「だまされる検事」・作品社「日本の名随筆」)▼法律のプロでもだまされることがあるのだから、まして素人の裁判員が、だまされることはないのだろうかと気になる。法廷は検察と被告・弁護側の対決の場である。互いに論理を尽くし、時には情にも訴える▼裁判員が頼むのは、審理に加わる裁判官の見識と助言だろう、だまされないように神経を研ぎ澄まし、国民の義務として裁きに参加する。裁判員裁判のスタートは5月21日。函館地裁は今月から法廷見学や説明会を開く。(S)


1月9日(金)

●年が明けて、12年ぶりに北斗市の矢不来天満宮を訪れた。無人の境内に降り立ち、雪に朱色が映える社殿の前に立つと、自然に背筋が伸びた▼丑(うし)年の参拝には訳がある。天満宮の参道には寝そべった牛の像が二体あり、背中を丸めた姿が愛らしい。1902年と85年の建立。癒やされる姿だが、菅原道真公を祭る天満宮と牛の関係には、背筋が凍るような逸話がある▼政略から大宰府へ左遷され、亡くなった道真の遺体を運んでいた牛車が、突然止まって動かなくなった。道真は結★局、その場に埋葬され、現在の太宰府天満宮となる。つまり道真の墓所は牛が決めたも同然である▼その後、政敵の藤原時平が病死、醍醐天皇の皇子らも次々に亡くなる。さらに清涼殿が落雷を受け多くの死傷者が出るなど、天変地異が相次ぐ。都では「道真の怨念」とのうわさが立ち、朝廷は菅公を天神として祭った。そして牛は神の使いとされた▼いまや道真は学問の神。矢不来天満宮の参道にも合格を祈願する絵馬が並んでいた。北斗市の子供たちの願いが圧倒的に多く、函館や札幌の地も見えた。大学や高校の合格、看護師などの資格取得、就職とさまざま▼正月気分もそこそこに勉学に励む子供たちを、菅公は温かく見守っているだろう。ゆかりの臥牛像とともに。天然の臥牛山を持つ函館市民の一人として、天満宮には親しみを感じる。天神様の細道を歩き、思った。(P)


1月8日(木)

●今も聞こえるヨイトマケの唄 母ちゃんのためならエンヤコラ 働く土方のあの唄が 貧しい土方のあの唄が〜 仕事や住居を失い、年末年始を「年越し派遣村」で過ごした労働者の生活に、美輪明宏の「ヨイトマケの唄」が重複した▼戦後、夫が病弱な母親や母子家庭などの母親が工事現場で男に混じって働いた。確か「土方」と言った(254円の日雇いで“ニコヨン”とも呼ばれていた)。今は、不況による派遣の打ち切りで“不況難民”になった「派遣労働者」▼NPOが開設した派遣村には最初130人だったが、正月に入り500人に膨らんだ。静岡から歩いて上京し、所持金も底をつき、栄養失調になった青年も。都などは「人道的観点からの措置」として、廃校の小学校など4施設を1週間開放▼都が食事など提供、生活保護の申請も受け付け、診療の必要な人には即日支給した。関東圏を中心に約3000人分の寮付きの就職先の紹介も検討。大不況で路頭に迷う派遣労働者は氷山の一角。3月までに失職する非正規社員は8万5000人▼もたもたしている政府をよそに、派遣村に寄せられたカンパは現金だけでも2300万円。どっこい「助け合う」精神は生きている。それなのに、総務政務官が「本当にまじめに働こうとしているのか」と、情けない発言。“政治災害”に「息子を励ましなぐさめ、働き続けた〜」ヨイトマケの母親は嘆く。(M)


1月7日(水)

●父の渡辺美智雄元外相は「ミッチー」の愛称で知られた。息子はまだニックネームで呼ばれるほどの大物ではない。だが、離党を辞さずの覚悟で麻生政権に盾突いたのは、父子2代の血気あふれる性格からだろう▼渡辺喜美元行政改革担当相が、定額給付金の撤回や早期の衆院解散に応じないならば「自民党を離れる」と宣言した。渡辺氏は昨年12月、野党提出の衆院解散を求める決議案に与党からただ1人賛成した▼造反をとがめられ党から戒告処分を受けたにもかかわらず、年明けに再び造反ののろしを上げたのは、国民が正しい行動と理解してくれるとの確信からだ。その根拠は給付金の不評と総選挙を求める世論だ▼政治家は世論の動向に敏感でなければならない。麻生政権の支持率ががた落ちしたのは、国民の思いとは離れているとの不信感が根底にある。首相が年頭の記者会見で示した「安心活力」の書初めが国民には空々しく映る▼通常国会はきのう代表質問が始まった。首相は2009年度予算と関連法案が成立するまで解散はしないと述べたが、定額給付金を盛り込んだ08年度第2次補正予算を巡り与野党の攻防が激しさを増すことは間違いない▼父ミッチーは、物議を醸す失言をたびたびした。それでも憎まれなかったのは、栃木弁丸出しの話術に救われた面がある。気質を受け継いだ息子の造反が共感を得て広がれば、激動の国会になるかもしれない。(S)


1月6日(火)

●NHK総合で放送されている「プロフェッショナル・仕事の流儀」は、第一線で活躍中のプロの言葉が実に刺激的で示唆に富んでいる。登場する「仕事人」たちの深い経験に裏打ちされた話は、観る側に元気を与えてくれる▼かなり前に放送された洋上加工船のリーダー、吉田憲一さんの言葉は特に心に突き刺さっている。プロフェッショナルとは何かと問われ、さらりと言ってのけた。「結果に責任を持つために精いっぱい努力する。その結果に対して、本当の喜びと悔しさ、これが分かる人だと思います」▼ベーリング海で操業する超大型の水産加工船で、吉田さんは国籍もさまざまなスタッフ120人を率いる。仕事に対する厳しさと圧倒的な存在感が、長い洋上作業を支える▼20年ほど前に船内の事故で左腕を失った。そこから不屈の精神で現場に復帰した。航海ごとに契約雇用する作業員との面会の際、吉田さんは相手の目を見据える。採用基準は「ずるい人間か、どうか」。業務の評価は仕事に対する姿勢に絞られる▼どんな世界でも人それぞれに仕事の流儀はある。それが通用するか否かは、結果に責任を持てるか、失敗の悔しさをバネにできるかに掛かっている。ただ、吉田さんはその努力の過程も正当に評価されるべきと説く▼そして「自分の力を出し切るのが仕事」と言い切る。今年も経済情勢は厳しい。プロの意識が一層問われる時代だ。(H)


1月5日(月)

●かつて「一億総中流」といわれたことがある。生活の豊かさをある程度実感できた70年代から80年代のころだ。自分がどんな階層に属しているか問われると、ほとんどの国民が中流と答えた▼金持ちといえるほどの余裕はないが、生活に困っているわけではない。そこそこの収入はあり、マイカーや家電製品もそろえている。ささやかなレジャーを楽しむことだって出来る。何より気持ちのゆとりがあった▼人気脚本家だった向田邦子さんが、中流と思っている人が91%を占めているという記事を読んだときのことをエッセーに書いている。「この統計を新聞で見たとき、私はこれは学校給食の影響だと思った」(「お弁当」)▼学校給食は、弁当の中身から推測される家庭の貧富の差を見えなくした。弁当を持ってこなかったり、貧しいおかずを恥じて上げ蓋(ふた)で隠して食べる子どもたちがかつてはいた。給食になって、そうした風景は消えた▼中流意識の根底に給食の普及を見た向田さんが存命なら、新たな貧困層が生まれている21世紀の日本をどうとらえるだろう。年末から年始にかけ、職も住まいもない人たちに炊き出しという名の給食が配られた▼給食を受けた人たちの多くは、失職した非正規労働者だ。中流とは到底言えない境遇だ。いま、かつてと同じ調査をしたら中流の答えはどの程度だろうか。一億総中流はもう望めない底辺層が広がっている。(S)



1月4日(日)

●江戸時代、七福神を乗せた船の刷り物を枕の下に敷いて寝ることが流行った。この刷り物には「長き夜のとおの眠りのみな目覚め、波のり船の音のよきかな」という回文の歌が書かれていた▼上から読んでも下から読んでも同じ歌を口の中でころがしながら、年明けに見る初夢に1年の願いを託した江戸庶民の姿を想像する。その姿は、日々の平安と健康を願う現代の私たちにも共通しているだろう▼初夢は「大みそ日から元日」「元日から2日」「2日から3日」に見る夢の3説があったという。それらの中から「2日から3日」が一般的になったのは、江戸後期とされる。いまは「元日から2日」が主流だろうか▼いい初夢を見たよ、と喜んでいる方も夢なんかまったく見ないね、という方もおられよう。まあ、明るい夢なら日は問わずいつ見ても気持ちが浮き立つ。年齢を重ねてもその思いは子どものころと変わらない▼テレビの正月番組からニュースに切り替えると、厚生労働省が、職を失い住まいもない非正規労働者に講堂を宿泊場所として提供した映像が流れていた。寝袋や布団を手に講堂に集まった人たちは、テントより温かいと喜んでいた▼お役所らしからぬ柔軟な計らいだが、講堂の開放はあす朝までの期限付きだ。仕事始めには、退去しなければならない。寒風に耐えていた人たちが、温かな屋内で眠りに就けるの今夜限りだ。いい初夢を結んでほしい。(S)


1月3日(土)

●正月の楽しみのひとつは、届いた年賀状を一枚ずつ読みながら相手の顔や近況を思い浮かべることである。毎年届く枚数は、さほど多くはないけれども、手書きの一言が添えてある年賀状はうれしいものだ▼一言の多くは、自分や家族の近況を知らせる内容だ。子どもが巣立って夫婦2人暮らしになりましたとか、ダンスに凝っていますとか、日々の様子を伝えてくれる。年に一度の音信でも相手の息遣いまで感じられる一言だ▼今年の年賀状にもうひとつ際立ったのは、経済の先行きと政治の不安定さに対する心配だった。不況の暗雲は日本にも押し寄せ、失職した非正規労働者がテントで炊き出しの食料に一息つく年始だ▼だが、政治からは、生活の安定を保証する力強いメッセージが届かない。麻生内閣が固執する生活給付金の2兆円があれば、将来に明るさをともす別の施策に使えるのに、と疑問の一言を添えた年賀状もある▼年明けの道南は、気温は高めだったが日差しが乏しい曇り空の天気だった。だが、初日の出は雲の間に顔をのぞかせた。五稜郭タワーや函館山の上から、日の出に向かって1年の平安を祈った方もおられよう▼きのうは初売りだった。函館でも食料品などお値打ちの福袋に買い物客が押し寄せた。テレビは、野菜の袋詰めが人気だと都会の様子を伝えている。消費のにぎわいが一過性に終わらぬよう願いながら、再び年賀状の文面を読む。(S)


1月1日(木)

●〈新しき年の始(はじめ)の初春の今日降る雪の いや重(し)け 吉事(よごと)〉。万葉集20巻の最後を飾る大伴家持の歌である。天平宝字3年(759年)の元日、因幡の国庁(現・鳥取市)で催された宴で詠まれた▼大意は〈新しい年のはじめの新春の今日降る雪のように、ますます重なれ、よいことが〉(「万葉集を知る事典」・東京堂出版)。年頭の雪は豊かな実りを約束する吉兆とされた。その良い事が次々と続くようにと願った歌だ▼1250年を隔てた万葉人の新春を寿(ことほ)ぐ歌を声に出して繰り返しながら今年1年を考える。世界は昨年、経済不況の大嵐に突入した。生産縮減と雇用不安の出口が見えないまま迎えた新年である▼日本では、自動車や電機など高収益を上げていた大企業でさえも、生産減と人減らしに突き進んでいる。下請けや孫請けの中小企業は、受注カットや工賃切り下げの苦境にあえぐ。さらに一部金融機関の貸し渋りが追い討ちをかける▼働く人たちにとっても、非正規労働者を中心に雇用調整という名の解雇が広がる。職を失い、住むところも定まらない人たちが、安心できる温かさが用意できているのだろうか、と疑問がわく▼だが、今日は新しい年の始まりだ。不安を口にするのは慎み、万葉人のおおらかさに倣って前途に光を見いだす日にしたい。雪道を踏んで初詣でに出かけ、〈吉事〉が続くように願おう。(S)


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