2007年10月17日(水)掲載

◎企画 定住への道(中)…移住ビジネス創出 「仕事や友人欠かせず」
 函館への移住を総合的にサポートする北海道コンシェルジュ(函館市)は本年度から、移住アドバイザー制度を始めた。移り住んだ人が、移住を検討している人のさまざまな相談に応じるプログラムで、現在は2組3人のアドバイザーが活躍している。「体験談やアドバイスを先輩から受け、失敗のない移住に結び付ける狙い」と同社は説明する。

 定年を機に2001年4月に函館へ移り住んだ中村圭佑さん(70)、知恵子さん(66)夫妻がその1組。転勤で4年間、函館で生活した体験を持つ。夫妻が東京から移住したころは、市の定住事業が始まっておらず、不動産の物件探しからライフスタイルの構築まで、すべて手探りの状態だったという。

 函館は気候が良く、食や自然に恵まれ、病院や学校、レジャー施設など一定の都市機能がある。ただ夫妻は「そうしたことは誰でも知っていること。プラスアルファの魅力を発信していくことが大切」と語る。圭佑さんが感じた函館の魅力の一つに、空港と市街地が近く、遠出するにも交通渋滞や高速走行がないことがある。「年を取ると、都会での車の運転は結構きついんですよ。陸続きの移住先より、かえって函館の方が楽」という。

 アドバイザーとして、移住希望者には▽雪対策▽仕事や趣味を持つ▽友人・知人を持つ―ことの大切さを伝えている。圭佑さんは現役時代の経験を生かし、函館でも自営業をしている。「新しい人生は遠慮していたらつかめない。町会や地域の行事に積極的に参加し、新聞などで地域をよく知り、最初から主義主張を通さず、地域に溶け込もうとする姿勢も大切」と語る。

 函館は市民活動や文化芸術活動が盛んで、さまざまな人とのつながりができるが、一方で、一定の期間を過ぎたら人間関係を「整理」していくことも大事、という。「人間関係が広がり、コンサートや舞台などの招待券をいただきすぎて、全部見ることができなくなった。それぞれの友人たちとの“距離”を考え直す時期が来る。誤解を恐れずに言えば、何事も深入りしないことも大切」と夫妻は指摘する。

 知恵子さんは、太極拳黒帯の資格を生かして教室を開き、東京時代に趣味で習った折り紙も得意。この2つを移住体験者向けのプログラムとして開講し、充実した生活を送っている。

 ただ、知恵子さんが気になることは、市民の函館に対する誇りが薄く感じられることだ。移住を考えている人が「こんな函館に住んでも、いずれ帰るよ」と市民に言われた。そんな中で新たな人生を切り開いている中村さん夫妻を知り、その人は「中村さんのような人もいるんだ」と感動したという。

 「謙譲かもしれないが、あまりマイナス発言はしないでほしい。市も移住促進に取り組んでいることをしっかり市民にPRし、観光業界がやっているスマイルキャンペーンのような取り組みも必要では」と提言する。(高柳 謙)


◎「子どものため」駐在山木所長奔走…スクールバス転回場作る
 【上ノ国】豊かな森林に囲まれた上ノ国町の宮越地区。約10キロ離れた市街地の学校に通う2人の女子中学生が、安心して通学できるようにしたいと、警察官が橋渡し役となり、住民と町役場、土地を所有する企業がスクラムを組み、このほど新しいスクールバスの転回場を完成させた。

 バス停を作れないだろうか―。入学式シーズンの4月、地区の交通安全指導員が、札幌から江差署中須田駐在所に赴任して間もない山木剛所長(46)=巡査部長=に持ち掛けた。

 宮越地区の中学生は、バスで市街地の学校に通学している。道道沿いのバス停までは約400メートルの距離がある。付近に街路灯は無く、部活動を終えて帰宅する時間になると周囲は真っ暗だ。「誘拐などの犯罪は地方でも起こり得る。暗いバス停では交通事故の危険もある。付近ではクマも目撃されていた。バス停移設は住民の悲願だった」と山木所長はいう。

 これまでにも町内会と町教委が協議を重ねてきたが、道路幅が狭い集落にはバスがUターンできる適当な場所が無く、移設は宙に浮いたままだった。

 「自分も20歳の娘がいる。女の子を持つ親の気持ちは痛いほど分かった」という山木所長は、町内会役員と一緒に土地探しに奔走。住民の熱意に打たれた東京の林業会社から約750平方メートルの土地を無償提供してもらう約束を取り付けた。用地確保の連絡を受けた町は早速、予算を組んで敷地に砂利を入れてバス転回場を整備。9月末にはバスの乗り入れが実現した。

 山木所長は「町、住民、警察が団結することで、子供のためにバス転回場できた。これからも地域の輪を大切にして、安全・安心づくりのお手伝いができれば」と意欲を見せる。(松浦 純)


◎森田さん 朗読録音・全国表彰
 青い鳥朗読奉仕団の代表を務める函館市湯川町の森田直子さん(55)がこのほど、鉄道弘済会(東京)と日本盲人福祉委員会(同)が主催する第37回朗読録音奉仕者感謝の集いで、「朗読録音・全国表彰」を受賞した。全国から7人、道内からは森田さんただ一人で、同奉仕団からは5人目の受賞となる。森田さんは「彼と一緒にもらった賞だと思っています」と、30年にわたって活動を支えてきた夫松雄さんに感謝の気持ちを表した。

 朗読録音奉仕者は、目が不自由な人のために図書などを読んで録音するボランティア。賞は全国を7ブロックに分けた各地区から毎年1人ずつ選ばれる。受賞には朗読時間と活動期間が一定以上に達していることが求められ、例年60、70代の人が多い中、25歳から活動を始めた森田さんは今回の受賞者で最年少だった。

 森田さんは遺愛学院の国語の非常勤講師。25歳のときに「本や朗読にかかわるボランティアをしたい」と考え、朗読奉仕活動を始めた。平日は仕事が終わった午後8時から翌日午前1時まで読み続ける。「待っている人がいると思うと早く読んであげたい」と、依頼がある時は休日も読む。

 これまでの累計朗読時間は約1600時間にも及ぶ。仕事が忙しい時や家族が病気になったときなどは「続けられないと感じた時もあった」という。しかし、録音時は雑音が入らないよう配慮したり、会の集まりに迎えに来てくれたりと、松雄さんが何かと活動を支援し応援してくれた。

 音訳する本は小説が多く、1冊400ページほどの分量を朗読するのに要する時間は、30年前の1年から現在は2カ月以内に短縮された。「本屋の店頭に並ばなくなったときに届いても遅い」と、正確さの上にスピードも重視する。「視覚障害者を情報障害の状況にしないためにも、早く情報を届けたい」と決意を新たにしている。(小泉まや)


◎ピアニスト・伊藤亜希子さん 20日リサイタル
 国内外で幅広い演奏活動を行っている函館在住のピアニスト、伊藤亜希子さんのピアノリサイタルが、20日午後6時半から函館市芸術ホールで開かれる。9回目となる今回は、没後100年を迎えたグリーグの作品を取り上げるとともに、サックス奏者の原博巳さん(東京在住)をゲストに迎えるなど、多彩なプログラムを用意している。

 函館生まれの伊藤さんは4歳からピアノを始め、東京芸大音楽学部附属音楽高校、同大を卒業。同大大学院修士課程とフランス・リヨン国立高等音楽院第3課程(大学院)を修了後、第6回日本室内楽コンクール第1位などの活躍を経て、現在は函館を中心に活動している。リサイタルは伊藤亜希子後援会の主催で1999年から毎年開催されている。

 今回のプログラム冒頭ではノルウェーの大作曲家、グリーグの没後100年記念として代表作「叙情小曲集」から6曲を披露。続いてブラームスの「ピアノとクラリネットのためのソナタへ短調 作品120の1」をゲストの原さんのサックスで共演。原さんは2002年にベルギーで行われた第3回アドルフ・サックス国際コンクールで、日本人初の第1位に輝いた世界的実力者。伊藤さんとはこれまで数回共演しており、今回も息の合った素晴らしい演奏が期待できそうだ。

 後半は、伊藤さんが大好きな作曲家の一人に挙げるスペイン出身ファリャのバレエ音楽を取り上げる。「三角帽子」「恋は魔術師」とも原曲はオーケストラのための作品なので、ピアノ1台を使ってどこまで華やかでリズミカルな雰囲気を再現できるかが聴きどころだ。

 伊藤さんは「個性の違う3人の作曲家それぞれの魅力を楽しむとともに、原さんの素晴らしいサックスの音色を味わってほしい」と来場を呼び掛けている。

 チケットは一般2000円(会員1800円)、高校生以下1000円(同1000円)。ヤマハミュージック函館店、松柏堂プレイガイドなどで扱っている。問い合わせは後援会事務所TEL0138・59・3727。(小川俊之)


◎新規高卒者の求人要請…職安など
 函館公共職業安定所(石塚洋已所長)などは16日、函館市内の主要な経済団体を訪問し、来春の新規高校卒業予定者に対する求人要請を行った。大都市圏との格差が問題視される地方都市にあって、同職安などは地元経済の活性化に向け、地場企業の雇用拡大の必要性に理解と協力を求めた。

 同職安の9月末時点のまとめによると、道南で来年3月に卒業を予定している高校生の数は前年度比8・7%減の4325人で、このうち就職希望者は同7・2%減の1251人。求人数は同13・6%増の1142人と回復基調をみせている。

 しかし、道外からの求人が同35・2%増の630人と過半数を占め、管内の求人は同5・9%減の430人と低調。それに伴い、管内での就職希望者は同1・0ポイント減の57・2%と減少の一途をたどり、次代を担う若い人材の流出が懸念されている。

 今回要請をしたのは同職安のほか、渡島・桧山両支庁、函館、北斗両市など9機関・団体で、相互の連携を深めるため、10月を「取組強化期間」とし、企業訪問などに力を入れていく予定。この日は5つの経済団体を訪れた。

 函館商工会議所(若松町15)では古川雅章専務理事らが応対。石塚所長は「管内の求人提出は毎年遅れ気味で、生徒は早期の就職を望み、優秀な人材ほど道外で決めてしまう傾向にある。地元企業としてさらに周知を図っていただければ」と述べた。古川専務理事は「就職者数を増やすには、景気を回復させ、経済活動を活発化させるしかないが、厳しい状況が続いている。少しずつでも着実に前進させていきたい」と返答した。(浜田孝輔)


◎借り上げ市住 見送り…来年度・函館市
 函館市は、2008年度事業分の借り上げ市営住宅建設計画の事業者募集を見合わせた。本年度事業分では、市の建設費負担は約4400万円だが、地方交付税の大幅削減など、市全体の財政見通しがつかないための措置。今後、来年度中に策定予定の「市住宅マスタープラン」(08年度からの10カ年計画)などで、住宅施策全体の見直しを図り、事業の継続を判断する。

 借り上げ市営住宅は市が1999年度に導入。国と市から建設事業費の一部の補助を受けた民間事業者が建てた住宅を、市が市営住宅として20年間借り上げて、入居者募集や管理を行う。

 これまでに11棟288戸が完成し、本年度事業分として若松町に1棟45戸を建設している。空洞化が進む駅前、大門地区から西部地区で定住促進や活性化につながっているほか、民間の土地利用を誘導するなど、一定の成果を挙げている。

 昨年8月に改訂した「市公営住宅等ストック総合活用計画」では、09年度までの借り上げ住宅供給計画戸数は430戸と設定。本年度分と松風町の高齢者向け優良賃貸住宅を合わせると383戸で、同年度までに完了する見込みだった。

 市住宅課は、総合計画との整合性を図る同プランの策定作業を進めており、策定後にストック計画も見直し、今後の市営住宅全体の整備手法や目標戸数を定める。同課は「今後のマスタープランでは、人口減少社会を踏まえ、高齢者支援、子育て支援の視点が必要。借り上げ市営住宅についても、今後の在り方を検討していきたい」としている。(今井正一)