2007年4月23日(月)掲載

◎西尾氏が大差で初当選 井上氏の3選阻む…函館市長選
 任期満了に伴う函館市長選挙と道南の2町長選挙は22日、投票が行われ、即日開票の結果、函館市長選は無所属の新人で同市前助役の西尾正範氏(58)が8万9551票を獲得、無所属の現職、井上博司氏(70)を約3万5000票差で破り、初当選した。西尾氏は組織や団体に頼らない「草の根選挙」で無党派層や若者、女性に浸透、経済界などの保守層を中心に組織選挙で臨んだ井上氏の3選を阻んだ。厚沢部町長選も無所属の新人、渋田正己氏(63)が現職を破り初当選。今金町長選は無所属の現職、外崎秀人氏(57)が2選を果たした。在任特例終了に伴う函館市議選と北斗市議選も新しい顔ぶれが決まった。(統一地方選取材班)

 市長選は昨年9月、井上氏が出馬表明し、当初は無風も予想された。しかし同12月末、筆頭助役の西尾氏が、井上氏の市政運営を批判して辞職。その後、民間福祉施設建設をめぐる疑惑を告発し、2月下旬に高校時代の同級生に後押しされて出馬表明した。

 西尾氏は市政刷新を訴え、選挙戦に入っても井上氏を批判。思い描く市長像や、人口減など時代の課題を見据えた施策を訴え、保守から革新まで幅広く支持を集め、無党派層に浸透した。

 函館の未来と再生は人づくりから始まるとし、乳幼児医療費の助成拡大や保育料の軽減、教育予算の拡充、井上氏が掲げる市民体育館の建設や将来的な市民会館改築を「ハコもの行政」と指摘して反対した。

 井上氏推薦を決めた民主党道8区総支部が事実上の分裂選挙となり、民主・連合票の半分以上が西尾氏に流れた。告示前はインターネットを利用した前哨戦を繰り広げ、「見えない支持者」も着々と増やした。

 井上氏は自民党から推薦、公明党から支持を受けたが、地元支部推薦の民主党の対応が分裂。保守の一部も西尾氏支援に回るなど厳しい戦いを強いられた。市民生活の安定向上と北海道新幹線を見据えたまちづくりを2本柱に、子育て支援の充実や観光を基盤とした産業振興、市民体育館の移転整備、行財政改革推進などを掲げたが、不覚を取った。井上氏個人は西尾氏の批判に一切応酬しない態度を貫いた。

 厚沢部町長選は、前回と同じ顔ぶれでの一騎打となり、渋田氏が無所属の現職、澤田孝一氏(73)をきん差で破った。渋田氏は澤田氏の高齢批判に加え、1次産業の振興や子育て支援の検討を訴えた。

 今金町長選は、現職の外崎氏が無所属の新人で元町議の湯浅秀夫氏(57)を退けた。

 函館市議選は今回のみ、選挙区を設けた。函館区(定数34)に41人、旧4町村は各定数1で戸井区、恵山区、南茅部区に各2人、椴法華区に4人が立候補。合併前の旧恵山町長の工藤篤氏(57)と市議会恵山議員団長の斉藤明男氏(58)の対決となった恵山区は斉藤氏が制した。

 このほか、町議選が渡島で七飯、木古内、森、長万部の4町、檜山は上ノ国、厚沢部、乙部、今金、せたなの5町で行われた。


◎草の根運動が結実…西尾氏
 新風が吹いた―。財政難や景気回復など、問題が山積した市政の刷新を唱え、助役の職を辞して出馬した西尾氏に軍配が上がった。政党や組織に頼らない「草の根運動」が実を結んだ瞬間、勝利を信じて疑わなかった西尾氏陣営は歓喜の渦と化した。

 事務所開き以降、支持者の輪を確実に広げながら審判の日を迎えた。ピンと張り詰めた空気に包まれた事務所には、午後9時25分ごろ「当選確実」の吉報が届いた。緊迫感を解き放つかのように歓声が上がり、「勝ったー」「やったー」と支援者は抱き合ったり、涙ぐんだりして喜びを分かち合った。

 自宅で待機していた西尾氏が妻仁美さんと事務所に現れると、「おめでとう」の声が飛び交い、盛大な拍手に包まれた。

 西尾氏は「昔のような気概のある市民自治をつくろうという草の根、雑草みたいな運動がこの結果になった」と発すると、「そうだ」と賛同の声。「人材が生き生きと活躍できる市役所にしたい」と市政復帰に向け、気を引き締めていた。


◎「力が及ばなかった」…井上氏
 「すべて私の責任。残念ながら敗北を認めざるを得ない」。午後9時45分ごろ、井上氏は松風町9の選挙事務所に姿を見せ、支持者らに深々と頭を下げた。

 西尾氏の当確がテレビで報じられたのは開票から間もない同9時半ごろ。開票前から西尾氏優勢の情報もあり、緊迫した雰囲気の中、集まった支持者らは無言でテレビ画面を見つめた。その約15分後、事務所に到着した井上氏と妻秀子さんを支持者は拍手で迎えた。

 井上氏は無念さをにじませながらも「私の力が及ばなかった。市民の選択と受け止めます」と潔く敗戦の弁。「大勢の市民、後援会の皆さんの大変な力添えに感謝します」とあいさつし、政界から引退する意向を示した。

 敗因については「やっぱり私の力不足。皆さんは一生懸命やってくれた」と語り、新市長となる西尾氏に「彼は彼なりの主張をしていたのでとやかく言う必要はない」と述べるにとどめた。

 支持者ら一人一人に「ありがとう」と声を掛けながら握手。「申し訳ない」と謝る後援会関係者の労をねぎらい、拍手で見送られながら足早に事務所を後にした。


◎世代交代の声追い風に…厚沢部町 渋田氏
 138票差で破れた前回選挙の雪辱を果たした渋田氏は、4年間の草の根運動で支持を拡大。落選した現職の澤田氏による相次ぐ大規模公共事業など町政運営の在り方や高齢多選を批判。町長・町議選に伴う長年の町内分裂に対する疲労感、町全体の世代交代を求める声も追い風に、若年層や女性の支持も集めた。

 早くから後援会を挙げての組織的選挙でリードした澤田氏だが、自身とともに支持基盤も高齢化が進み勢いをそがれた。道議選(8日投開票)では、町内出身の自民党候補(落選)への支持を終盤まで明確にしなかったことでも逆風が吹いた。

 新町の選挙事務所で吉報を待った渋田氏は、午後9時20分すぎに当選が伝えられると、大勢の支持者と万歳を連呼。泣き崩れる妻亜紀子さん、娘の史絵さんと肩を抱き合った。陣営を支えた若手経営者は渋田氏を囲み男泣き。4年ごしの勝利を喜び合った。

 町を二分する激戦を57票差で制した渋田氏は「難攻不落の澤田城をついに落城させた。世代交代を実現して停滞する町の流れを変えようという若者の意思だ。選挙戦はきょうで終わり。両派ともに同じ町民として町を明るくしよう」と町政への意気込みを語った。


◎投票率60・74%…函館市長選
 函館市長選の投票率は60・74%で、前回(2003年)の56・76%を3・98ポイント上回った。現職対新人という前回と同じ構図ながら、現職とその側近だった前助役との一騎打ちとなり、有権者の関心を呼んだとみられる。

 選挙当日の有権者数は合併による人口増の影響もあり、前回比1万209人増の23万9983人(男性10万7135人、女性13万2848人)。このうち市長選には14万5757人が投票した。男女別の投票率は男性59・96%(前回55・90%)、女性61・36%(同57・46%)で、ともに約4前回を上回った。

 開票区別では函館区が59・47%に対し、戸井区84・00%、恵山区82・31%、椴法華区88・04%、南茅部区79・39%と旧4町村地区で高い投票率となった。

 新設の北斗市議選の投票率は、第1選挙区(旧上磯町)が64・69%、第2選挙区(旧大野町)が77・65%だった。


◎地球にやさしい一日…アースデーはこだてがワークショップなど
 世界最大規模の環境フェスティバル「アースデー(地球の日)」に合わせ、「アースデーはこだて2007」(実行委主催)が22日、道国際交流センター(函館市元町)などで開かれた。各会場には大勢が訪れ、資源を再利用したワークショップや講演、ライブなどで地球にやさしい一日を過ごした。

 メーン会場の同センターで子どもたちにぞうきんづくりを指導したコープさっぽろ末広西店の組合員による自主グループ「末広会」(枡谷弘子代表、会員9人)は月1度、持ち寄ったタオルでぞうきんを作り、盲学校や弥生小学校に寄贈している。薄手で子どもたちの手になじむタオルは大好評。

 この日は、ワークショップに続いて同店組合員の岸本和子さん(函館絵本の会・銀のふね所属)が「もったいない」を伝える絵本や服から帽子、リボンなどを作るリサイクルを伝える読み聞かせを行った。子どもたちは目を輝かせて見入っていた。

 読み聞かせや廃油を利用したろうそく作りに挑戦した市内在住の斉藤麟(りん)ちゃん(4)は「ふだんから庭で(ストーブ用の)まきを拾っている。ろうそくは上手にできたよ。家で使うの」と声を弾ませていた。

 ことしから市内の飲食店や雑貨店など9店舗でも地球にやさしいイベントを実施。同市西部地区をゆっくり散策しながら、各店のイベントに参加する姿が見られた。(笠原郁実)