2007年4月24日(火)掲載

◎企画「変革への船出 西尾市政スタート」…大同団結、最初の試練
 「まちが沈滞し人口が減少している。所得や雇用も悪くなっているという市民の実感や、市役所に対する不満もあったのではないか。清新な気持ちでわたしに懸けてみたいという結果ではないか」―。閉そく感を打破してほしいという市民の思いが結集し、新人の西尾正範の圧勝劇で終わった函館市長選。一夜明けた23日、記者会見に臨んだ西尾は語った。

 「子ども達の笑顔と未来のために」をスローガンに戦った。「権力や文化の構造を変え、市民のために働く市役所を育てる」と訴え続けた。「ハコもの行政」「権力の密室性」などと指摘し、一貫して現職候補を批判。子育て支援や教育環境の整備、人材育成に力点を置くソフト面重視の政策も含め、広く市民の心をつかんだ。

 後援会長の齊藤裕志は22日夜、「市民が西尾のマニフェスト、市政の状況に目を向け理解してくれた。政党や組織の縛りを受けず、個人投票という行動を選択した。組織や権力に良識が勝利した」と振り返った。

 西尾は、公約のうち各部局の「人づくり・知恵の予算」の見直しや、小中学校の校長に100万円を交付する「知恵の予算」などを政策予算に計上し、6月議会に諮る。工藤寿樹副市長の慰留に努め、2人目の副市長を含めた調整人事を行う方針だ。副市長は民間登用もあり得るとしたが、議会の同意が得られるかどうか、現時点では不透明な部分も多い。

 「行政に停滞はない。新市長の公約や政策を検討して仕事をするだけ」。前夜の余韻が残る市役所内で幹部職員らは異口同音に語る。しかし「今後、経済界と協力関係がすんなり結べるのか」との不安も。「市政はよどんでいる」と言い続けた西尾に不快感をあらわにした職員も少なくない。

 当選後、議会や経済界との関係について「議論と感情論は別。もちろん連携しながらやっていく」と語った。「恨みはないし残さない。変えなくてはならないのは権力の構造であって、誰が悪く、誰がいいと言ったことはない」と大同団結を望む。議会、経済界、市職員をまとめ上げることができるか。西尾が乗り越えなくてはならない最初の試練ともいえる。

 23日の函館市内は、時折雨が混じるどんよりとした天気が続いたが、夕方から晴れ間が広がった。西尾市政が歩む道は決して平たんではないが、票に託した市民が望んでいるのは、この日の天気のように、明るい希望に変わる新しい未来だ。(今井正一)(文中敬称略)

= ◇ =

 「何とかしてほしい」「函館を変えてほしい」という市民の期待が結集し、大きなうねりとなって3万5000票差をつけて現職に大勝した。地域の閉そく感打破や、市役所の構造刷新を唱える西尾市政が間もなく船出を迎える。今後4年間における最初の課題を整理する。



◎いろいろな思い錯綜…西尾氏記者会見
 函館市長選に大差で圧勝し、初当選した同市前助役の西尾正範氏(58)は、一夜明けた23日午前9時から同市中島町の選挙事務所で記者会見を開いた。

 西尾氏は「今は真っ白な状態。これからじっくり考えたい。市民の皆さんの思い、願いに対し重大な責任を負った。自らを律して、市長という重い職を4年間務めていかなければならない。いろいろな思いが錯綜(さくそう)する朝だ」と心境を語った。

 市政運営は「子育て、教育、人づくり」をモットーに連休明けから実質的なスタートとなる。「(2人目の)副市長を想定した人事の微調整を幹部と相談して行う」と述べ、副市長は外部採用も検討する考えを示した。

 選挙期間中に訴えた政策は「マニフェストから、短期的なもの、長期的なものに分けて進めていく」と述べ、6月開催予定の市議会に各学校長への「知恵の予算」や人材育成に関する予算案を提出したい意向。商工観光部と農林水産部の再編や、市長直轄の子育て推進室の創設など、機構改革は「6月議会でやれるかどうかだが、議員とも相談して取り組みたい。来年度からということもあり得る」とした。

 議会との関係は「是々非々の関係で、議員にも良いものは良い、悪いものは悪いと言っていただき、修正していくのが新しい時代の地方自治のあり方」と述べた。さらに「いつの時代も権力が変わることはある。権力の構造が変わらないままではいけない。(職員に選挙により)つらい思いをさせたのは、おわびしないといけない。市民のために働く使命を持っているので、心を一つにしてほしい」と語った。(今井正一)


◎「町民の融和大切」…厚沢部 渋田町長が意気込み
 【厚沢部】町を割る激しい町長選を繰り広げた厚沢部町。57票差で現職を破る激戦から一夜明けた23日、渋田正己氏(63)に町政を担う意気込みを聞いた。

 ――当選証書を手にしての感想は。

 初めてここまで来たとの思いで身が引き締まる。あきらめずに挑戦してよかった。町長としての実感はまだない。課題は山積しており、町民に見える成果を出せるよう頑張る。

 ――町民に対しては。

 今こそ町民の融和が大切。町民が2派に分かれて争い、勝った陣営だけが町政を握る時代は終わりだ。しがらみをなくすためどんどん町民と対話したい。

 ――前町長を支持した町議も多いが。

 助役を8年間務めたので気心は知っている。対立する意識はない。町長と町議が融和を深めて車の両輪となり町を盛り上げていきたい。

 ――第一に着手する課題は。

 町職員の停滞感は目に余る。働きやすい環境作りが必要。町民の目線で原因を考えて開かれた町役場に変える。職員に職務意識や姿勢を再確認して、町政改革への協力を訴える。

 ――重点的政策は。

 保育料や給食費の軽減、児童医療費の無料化などの子育て支援策を充実させる。若い世代は教育や医療に大きな関心がある。近隣町との料金や制度の違いもシビアに見ている。これまでは町に若者の声が届いていなかった。世代交代を求める声が大きなうねりになり当選に結び付いた。農業分野では農産物のブランド化、後継者育成、契約栽培を進める。林産業も振興策が必要。1次産業が元気になれば商工業も活性化する。

 ――入札制度に関する問題は。

 助役時代から問題点を感じていた。責任追及という後ろ向きな議論ではなく町民の目が行き届き、納得できる形になるよう改革を進めたい。(松浦 純)


◎西尾氏 函館区で圧倒的に得票
 前函館市助役で新人の西尾正範氏が大差で現職の井上博司氏に勝利した函館市長選挙。開票区ごとの得票結果を見ると、西尾氏は旧4町村地区中3地区で井上氏にリードを許したが、函館市区で圧倒的に得票したことが勝利に結びついた。

 函館開票区では西尾氏の得票率63・6%に対し、井上氏は36・4%と大きく水を開けた。一方の旧4町村地区では戸井、恵山、椴法華の3開票区で井上氏がリード。しかし、井上氏が強いとみられた南茅部を西尾氏が奪い、旧4町村地区合計では井上氏の5723票(得票率52・4%)に対し西尾氏が5190票(同47・6%)とほぼ互角の戦いを繰り広げるなど、全域でまんべんなく票を集めた。(小川俊之)


◎長男に懲役3―5年求刑…富岡同居男性殺害
 母親(46)と共謀して同居する男性を殺害、遺体を捨てたとして、殺人と死体遺棄の罪に問われている函館市内の無職の長男(17)に対する論告求刑公判が23日、函館地裁(柴山智裁判長)で開かれた。検察側は「事前に睡眠薬を服用させ、時間を計りながら窒息させるなど犯行は強い殺意に基づき計画的で悪質。母親から持ち掛けられたとはいえ、積極的に殺害方法の案を出すなど、重大な役割を果たした」とし、懲役3年から5年の不定期刑を求刑した。同日結審し、判決は5月15日に言い渡される。

 長男は被告人質問で、犯行の経緯などを語った。母親から殺害計画を打ち明けられてから、犯行日までの約1週間の心境に触れ、「『本当にやっていいのかな』と思ったり、寝る前に『きょうは殺さなくてよかった』と思ったりした」などと述べ、「殺すことはなかった。申し訳なかった」と謝罪の気持ちを口にした。

 弁護側は長男らは被害者からの日常的な暴力に悩んでいたと指摘。犯行は母親や自分への暴力を恐れての過剰防衛に当たり、更生の余地は非常に高いと主張し、殺人罪の刑の免除と執行猶予付き判決を求めた。

 論告などによると、長男は昨年10月19日午前零時半ごろ、同市富岡町の自宅1階和室で、母親=同罪で函館地裁で懲役7年判決、控訴中=と共謀し、無職男性(41)の左胸を小刀(刃渡り約13・5センチ)で刺し、鼻と口をタオルでふさぐなどして殺害。遺体を近くの空き地に捨てた。


◎五稜郭など巡る新ツアーを企画…KKRと函大
 大量退職が懸念されるいわゆる「2007年問題」を前に、国家公務員の共済組合連合会で保養施設などを運営する「KKRはこだて湯の川保養所」と函館大学(小笠原愈長)は、新たなツアーを企画した。同大講師の井上能孝さんが案内人を務め、2泊3日の日程で五稜郭跡や松前町などを巡る。

 歴史的背景を学びながら名所を訪れたいという全国のKKR組合員の声と、大学資源を活用した新たな取り組みを模索する函館大の思いが合致。両者で意見を出し合い、秋の本格実施を前に23日、少人数によるツアーを試験的にスタートさせた。

 道内外から60歳以上の9人が参加し、約1時間半の講座で開幕。函館大学を会場に井上さんが五稜郭の築造経緯や現在までの移り変わりを紹介。積み上げた土塁が寒さで崩れ、函館山の石で石垣を造ったこと、予算不足のため半月堡(星型から外へ出ている個所)の建設が一つだけだったことなどエピソードを交えながら分かりやすく説明した。

 講座後、参加者からは「松前と幕府の脱走軍との関係は」などと活発に質問が寄せられた。井上さんが旧幕府脱走軍のルートなどを説明すると会場は大いに盛り上がった。この後、井上さんも加わり五稜郭跡に向かった。24日は松前を巡る。

 KKRはこだての北田博支配人は「団塊の世代は勉強熱心な人が多い。今後、春、秋の年2回ずつ実施していければ」と秋の本格実施へ向け、期待を寄せる。(笠原郁実)