2008年10月8日(水)掲載

◎【企画・シネマアイリスと私】ボランティアスタッフ・小林育子さん(40)
 グランドシネマ、巴座、トム・ホール、ロマン座…。中学生だった1980年代、函館市大門周辺のさまざまな映画館に通い、1人でスクリーンの世界に浸った。「どうやってチケット代を工面したかは忘れたけれど、小遣いのほとんどを映画に注ぎ込んだ」と笑う。

 シネマアイリスの開館当初は上映作品をすべて観ようと意気込み、毎週のように客として通った時期もある。菅原和博代表からある日、「ボランティアやらない?」と“スカウト”され、99年6月からスタッフの一員になった。

 「上映リストはないの?」という来館者の声をきっかけに、2006年9月から過去の上映作品を調べ出した。昔の新聞広告を図書館で探すなど地道な作業を1人で続け、昨年5月にリストを完成させた。懐かしい作品名を見ると、「当時の流行や思い出がよみがえった」という。節目を記念し、1000本上映日のクイズも企画した。

 最近観た映画の中でお気に入りは、08年に上映したアイリス949本目のアイルランド映画「ONCE ダブリンの街角で」(07年)。ストリート・ミュージシャンの男性とチェコ移民の女性が、音楽を通じて引かれ合うラブストーリーだ。2人が曲を作る場面を挙げ、「何かを作り上げる映画は熱くなる」と熱っぽく語る。

 映画館の魅力は「家と違ってどっぷり浸れること」という。一番好きだった映画館「巴座」でチケットを切る「もぎり」にあこがれていた。その小さな夢が別な形でかなった。「これからも続けて、2000本、3000本の記念日を迎えたい」。眼鏡の奥で目がやさしく輝いた。(新目七恵)


◎赤い靴の少女像の設置場所、西波止場近くの緑地帯に
 「はこだて赤い靴の会」(宮崎衛会長)が進める童謡「赤い靴」(作詞・野口雨情)の女の子のモデルとされる岩崎きみちゃん(1902―11年)のブロンズ像設置の予定場所が、7日までに固まった。函館市末広町のはこだて西波止場美術館北側の緑地帯で、多くの観光客や地元住民の目に止まりそうだ。10日からは同会の活動PRの一環として、函館空港ターミナルビル(高松町)内に少女の小像(高さ50センチ)が置かれる。

 同会は、きみちゃんが函館で母と別離し、米国人宣教師に預けられたという悲話を伝えようと発足。函館開港150周年に合わせ、来年6月に高さ約165センチの少女像を設置しようと準備を進めている。函館市都市建設部によると、設置許可などの手続きは新年度に入ってから行うことになるという。

 函館空港ターミナルビル内の小像設置は、市民や観光客に活動を広めようと同会が協力を要請。趣旨に賛同した函館空港ビルデングが場所を無償で提供する。来年5月末までの期間限定。

 宮崎会長は「函館空港の設置が、(きみちゃんを)一般市民に初めて見てもらう機会になる。函館市民にこうした子どもの存在を認識してもらい、募金などの活動協力を呼び掛けたい」と話している。会員や募金などについての申し込み、問い合わせは同会事務局TEL0138・54・3755。(新目七恵)


◎道南自動車フェリー、財政支援条件に大間航路存続に前向き
 東日本フェリー(函館市港町3、古閑信二社長)が11月末で道内と青森県を結ぶ3航路のフェリー事業から撤退する問題で、青森県や大間町が求めていた函館―大間航路の当面の運航継続について、同社グループ会社の道南自動車フェリー(同、関根二夫社長)側が財政支援を前提に前向きな姿勢を示したことが7日までに分かった。

 航路存続をめぐっては撤退表明前の7月下旬から、県と町、東日本フェリー、道南自動車フェリーの4者で協議を進めていて、フェリー会社側は両自治体にそれぞれ1億円規模の財政支援を要請した上で、回答期限を10月上旬に定めていた。

 6日に青森市内で開かれた4者の事務レベル協議で、道南自動車フェリー側が両自治体の財政支援を条件に、少なくとも1年間の運航継続について理解を示したという。同町企画政策課は「(存続に向け)双方とも前向きな話し合いができた」とし、航路が維持される可能性も示唆した。

 今回の協議では自治体側が支援に向けて求めていたフェリー会社側の財務状況が提示され、同県新幹線・交通政策課は「今後、資料の分析を進めたい」としている。4者は10日にも詰めの協議を行う方針。一方、東日本フェリーは「まだ何も決まっていないことなのでコメントできない」としている。(森健太郎)


◎「神」に捧げる松前神楽、25日に特別舞台
 【福島】福島町の有志が伝承に励む松前神楽の特別舞台「神有月―お客様は神様―」が、25日午後6時から福島町福島の福島大神宮境内・相撲土俵上で開かれる。「お客様は神様」との設定通り、一般観客は現場近くに寄れず、地域発展や家内安全、世界平和を祈り、「神」に向けて舞う。人工的な明かりは一切なく、4基のかがり火が楽人の姿を暗やみに浮き上がらせる。文字通り「神を楽しませる」というユニークな企画だ。(田中陽介)

 神楽の原点に迫り、「神楽の町」として地域を盛り上げていこうと初めて企画した。「自然との調和」「現代音楽と郷土芸能の融合」を掲げ、松前神楽とミュージシャンが毎年夏に共演する「かがり火コンサート」の実行委が手掛ける。

 松前神楽は300余年続く伝統神事で、福島では祝い事や節目に花を添える演出として、古くから住民に親しまれてきた。

 1960年には松前神楽と町民の関わりを伝える記録映画が発表され、第1回東京国際アマチュア映画コンクールで準グランプリを獲得している。映画では経済的に貧しい漁村ながらも、笑顔の絶えない町民の姿を鮮明に伝えた。娯楽が少ない当時、松前神楽は世代を超えて楽しめる唯一の華やかなステージであり、「太鼓や笛のお囃子が聞こえると、子供たちは目を輝かせ走って集まって来る」とのナレーションが流れる。

 「生活が厳しくとも、文化を大切にし、心の豊かさを忘れない」「前向きな姿勢で地域で協力しあう」―。このビデオを観賞した実行委メンバーが「時代が変わっても、笑顔を忘れずたくましく暮らした先人の生き方に学ぶべきところは多い」と、今回の特別舞台の構想を練った。

 10月は神無月と呼ばれ、日本中の神々が島根県の出雲大社に集まるとされる。実行委は「神様がこの時間だけは福島に駆け付ける」という趣旨でテーマを「神有月」とした。福島松前神楽保存会のリーダー的存在の乳井英一さん(25)は「意義ある舞台。緊張するが全力で頑張りたい」、同神宮第17代宮司として祝詞舞を披露する常磐井武典さん(34)は「形だけではなく気持ちを込めて、身も心も洗練して当日を迎えたい」としている。会場横には小高い丘があり、少し離れた場所から見ることが出来る。特に入場規制はしないという。


◎道南地域、25日からエゾシカ猟解禁
 道は7日までに、本年度の道南地域(渡島、桧山、後志管内)でのエゾシカ猟を25日に解禁することを決めた。同地域ではここ数年でエゾシカによる農業被害が激増しており、道は来年3月1日まで、3回に分けて可猟期間を設定し、捕獲による個体数の抑制を図る。(小川俊之)

 道内のエゾシカは、乱獲などの影響で一時絶滅寸前まで激減したが、その後の保護政策で道東地域(網走、十勝、釧路、根室管内)を中心に爆発的に増大。1996年度には道内の農林業被害が50億円を突破し深刻な社会問題に発展した。道は2000年度に道東地域と道央・道北地域(空知、上川、宗谷、胆振、日高)を対象にした「エゾシカ保護管理計画」を策定、計画的な狩猟による頭数コントロールで被害額は減少傾向にある。

 道南地域は道東、道央、道北に比べてエゾシカの絶対数が少なく、被害もほとんど見られなかったため管理計画の対象外とされていた。しかし、渡島支庁管内のエゾシカによる農業などの被害額は、03年度が約36万円だったのに対し、04年度は約61万円、05年度は約274万円、06年度は299万円、07年度は892万円と急激に拡大。ヒグマの農業被害額697万円(07年度)と比較しても同水準まで拡大している。

 このため、頭数管理の目的で05年度から道南地域でもエゾシカの狩猟が解禁された。同支庁環境生活課自然環境係の小島圭介係長は「被害のスケールとしては他地域に比べてまだまだ小さいが、エゾシカの増殖するペースは道東地域での拡大した時のパターンに非常に似通っている。早期に効果的な対策を取ることで、道東の二の舞にならないよう努力したい」と話す。

 本年度の可猟期間は10月25日から11月24日、12月13日から1月18日、1月31日から3月1日と昨年に続き3回に分ける。中断期間を設けるのは、エゾシカの警戒心が強く、狩猟解禁から約2週間ほどで捕獲効率が極端に落ちることを配慮したもの。可猟期間を2回に分けていた06年度が256頭だったのに対し、昨年度は317頭に増えているが、05年度が333頭だったこともあり、3回に分けたことが効果を上げたのかは微妙な状況。小島係長は「本年度の実施データが加われば、より有効な回数設定が判断できるのではないか」としている。


◎千軒ソバ 閉校した小学校体育館で自然乾燥
 【福島】2003年に閉校した旧千軒小学校(福島町千軒)の体育館で特産のソバの自然乾燥が行われている。木材と網を4段に組んだ特製台を使ってソバの実を干す昔ながらの手法。送風機が24時間回り、朝、昼、夕に実を返す手作業が繰り返されている。

 福島千軒地区の農家などでつくる「千軒そば生産会」(佐藤孝男会長)が手掛ける。ソバは近くの畑で9月21日に収穫した約4―5トンで、水分量が12・5%になるまで3週間ほど乾かす。生産コストや人件費などが掛かるため、輸入物や機械生産に頼る店舗が多数を占める中、種まきから収穫、自然乾燥、調理、販売という一連の作業を地域住民が積極的にこなす活動は全国的に珍しい。

 送風機は町内の企業が無償提供。漁業者が夏場に養殖コンブの乾燥で使用するものもある。佐藤会長(62)は「地域住民の協力なしではできない。温かな人情が千軒そばのおいしさを生んでいる」と話す。

 毎日午前6時ごろから約1時間、返し作業に汗を流す笹島義広さん(73)は「母校の懐かしい思い出に浸りながら楽しんでいる」と笑う。体育館に近い国道228号沿いのそば店「千軒そば」(同会経営)で、19日には新そばがメニューに登場する予定だ。(田中陽介)


◎緒形拳さん死去、市内でも惜しむ声
 死去したことが7日分かった俳優の緒形拳さんは、パル企画の映画「ミラーを拭く男」(2003年、梶田征則監督)のロケで02年8月に函館を訪れており、撮影でかかわった市内の関係者からも惜しむ声が広がった。

 元町で「カフェやまじょう」を経営し、地元ロケのコーディネーターとして活躍する太田誠一さん(56)はロケハン(撮影に適した場所を探して歩くこと)作業から協力し、2日間の撮影にも付き合った。「緒形さんは自転車に乗るシーンが多く、精悍(せいかん)な体つきで存在感のある役者だった。にこっと笑うとチャーミングで、もともとファンだったけれどほれ直した」と振り返り、「幅広い演技のできる役者で、まだまだこれからだったのに…」と悼んだ。

 店内を使ったロケに協力した五稜郭町の「居酒屋どん」を経営する赤塚一郎さん(48)は撮影前、緒形さんが「よろしくお願いします」と深々と頭を下げた姿が印象的に残っているという。「非常に礼儀正しく、オーラの出ている人だった。サインや記念撮影にも快く応じてくれた。当時はあんなに元気だったのに残念です」と語った。(新目七恵)