2008年11月11日(月)掲載

◎新谷さん 故郷の味覚を届けて15年、さっぽろ乙部会総会に「三平汁」
 【乙部】札幌に住む乙部町出身者でつくる「さっぽろ乙部会」(渡辺鶴雄会長)の総会では、乙部町花磯の主婦新谷祐子さん(65)がボランティアで、冬の日本海を代表する郷土料理「スケトウダラの三平汁」を15年にわたって振る舞い続けている。身も心も温まる“新谷さんの三平汁”は、懐かしい浜の香りとともに今も変わらぬ故郷のぬくもりを運び続けている。(松浦 純)

 札幌市内ののホテルノースシティで8日に開かれた23回目の総会。用意する三平汁は100人分。スケトウは町内の乙部・豊浜両船団から毎年欠かさず贈られる。札幌に住む長女の小田島明美さん(44)と会場入りした新谷さんは、エプロン姿に着替えると早速下ごしらえを始める。「みそをもう少し」「火を弱めて」と、母娘の“あうんの呼吸”で鍋づくりが進む。市内のホテルで調理場を提供してくれるのはここだけ。すっかり顔なじみのスタッフから「久しぶり」「元気だった」と声が掛かる。

 三平汁はみそ仕立てで、長年の勘で味を調えていく。「味が分からなくなるので出来上がるまで食事はお預け」と明美さん。肝臓とともにタラコ(卵)やタチ(精巣)などが引き立てる風味は、ホテルのシェフを「まねができないおいしさ」とうならせたほどだ。大鍋4個分の三平汁は3時間ほどで出来上がった。額の汗をぬぐいながら新谷さんが「みんなに『めぇ、めぇ(おいしい、おいしい)』と言われるのが楽しみでね」と目を細めた。

 三平汁を振る舞うようになったのは1995年から。町役場の若手が総会を盛り上げようと、漁協のイベントや料理番組でも自慢の腕を披露した乙部の“名物母さん”の新谷さんに参加を頼み込んだ。町税務課の萬木譲さん(36)は「三平汁と言ったら新谷のおばちゃん。快く引き受けてもらいました」と振り返る。今ではすっかり総会の名物になった。「三平汁がお目当ての会員も多いはず」と寺島光一郎町長。総会では渡辺会長から新谷さんに長年の奉仕をねぎらう感謝状が贈られた。

 夫を海難事故で失ってからも浜に通い続ける新谷さん。この冬も元気にスケトウ漁の準備を手伝っている。「もう15回にもなるんだね。まだまだ気が若いね」と笑う。「もっと親孝行したいから。ずっと元気でいてね」。会場を駆け回る母の背中を明美さんが優しく見つめていた。


◎函館の左官業・眞田さんが「現代の名工」
 厚生労働省は10日、卓越した技能を持ち、その道で第一人者と評価されている技能者150人を本年度の「現代の名工」として選出した。道内からは2人が選ばれ、道南地区では函館市千代台町29、眞田左官工業社長の眞田安悦さん(70)が栄誉に輝いた。眞田さんは「半世紀にわたり左官業一筋に取り組んできたことが評価されてうれしい。若い世代にしっかりと技術を伝えていきたい」と話している。

 「現代の名工」は技能の世界で活躍する職人や、技能の世界を目指す若者に目標を示し、夢と希望を与える目的で1967年に創設。95年度までは毎年約100人、96年度以降は約150人ずつを表彰している。

 函館生まれの眞田さんは幼いころから左官業を営んでいた父親の背中を見て育ち、函館工業高校卒業の58年に父親の経営する眞田左官工業に入社。3年間の修業期間を経て、さまざまな現場で腕を磨いてきた。指導者としても活躍し、多くの若い職人を育ててきた。

 左官の仕事を選んだことについて、眞田さんは「子どものころは父親の仕事現場が遊び場で、知らず知らずのうちに左官に興味を持っていった。建築材料や工法の変化で左官の仕事が減り、職人を目指す若者も減っているが、日本の伝統的な技術として将来にしっかりと伝えていくことが私の役目」と話す。今回の受賞については「父親を含め多くの先輩たちや同僚、家族の支えがあったからこそいただけたもの」と感謝の気持ちを表した。(小川俊之)


◎【インサイド・森町談合】湊被告も有罪の公算大
 森町の消防防災センター建設工事の指名競争入札(2005年9月執行)をめぐる官製談合事件で、競売入札妨害(談合)の罪で逮捕、起訴された被告7人のうち、前町長の湊美喜夫被告(80)を除き、入札に参加した準大手ゼネコンの東急建設札幌支店幹部ら6人の公判が10日までに終了した。函館地裁の岡田龍太郎裁判官は6人に懲役1年―10月、いずれも執行猶予3年の有罪判決を言い渡している(一部確定済み)。入札に関与した業者や仲介役、町の関係者ら15人の共謀の成立も認定しており、残る湊被告についても有罪となる公算が大きい。(今井正一)

 これまでの判決で、岡田裁判官は検察側の起訴事実をほぼ全面的に認めた上で、長年の慣例となっていた同町の「談合体質」と不正な利潤追及を計った東急建設の企業体質を厳しく非難した。

 公判では、検察側が「公共工事は地元業者に落札させたい」とする湊被告の意向の下、星組渡辺土建の元社長(56)が会長を務めていた町建設協会を中心に談合が進められてきたと指摘。問題の同工事も当初は星組が落札する予定で、別の2億8000万円規模の工事は同町内の業者Aが落札する取り決めがあり、元社長の働き掛けを受けた湊被告が「あんたとAでそれぞれやればいい」と談合を容認したことなど、事件の背景も詳しく示してきた。

 また当時、営業不振に陥っていた東急建設は同工事を落札するため、取り引きのあった函館市内の設備会社元社長(62)から、「町長に顔の利く男」として紹介された仲介役の男(60)に受注工作を依頼。仲介役は湊被告に「談合の事実を公表する」と迫り、共同企業体の組み替えや出資比率の変更など、同社が有利になるよう要求を続け、湊被告も町の元建設課長に指示したことなども明らかにした。

 仲介役は東急建設から受け取った工作資金1000万円の使途を「借金の支払いなどでなくなった」としたが、湊被告が入院した際に見舞金名目で計260万円を贈り、湊被告が受け取っていた事実も分かった。この仲介役の判決では、岡田裁判官が「執拗(しつよう)で強力な働きかけを反復し、狡猾(こうかつ)で悪質だ」と厳しく指摘した。

 湊被告の公判期日は現在未定だが、12月15日には2回目の公判前整理手続きが予定されており、検察、弁護側双方で争点がまとめられる見込みだ。

 裁判所が共謀成立を認定している以上、湊被告にも有罪判決が下される可能性が強い。一貫して事件に対して公の場での発言を避けてきた湊被告が、法廷でどのような供述を展開するのかに注目が集まる。


◎はこだて検定 市函高1年生も全員受験
 函館の歴史、文化などの知識を試すご当地検定「第3回函館歴史文化観光検定」(はこだて検定、函館商工会議所主催)が9日、函館市高丘町の函館大学などで行われた。今回は市立函館高校(森武校長、生徒1028人)でも、郷土の魅力を学ぶ「函館学」を必修科目に取り入れている同校1年生全員281人(公欠、病欠を除く)が初めて受験した。

 今回は初級に同校の一括受験もあり、昨年11月の第2回の倍近い481人が挑戦。最年少受験者は9歳の小学生だった。一方、上級は前回が合格者5人、合格率2・3%の狭き門だったことを受け、前回の4分の1に当たる75人の受験者にとどまった。

 初級は函館弁や慣習、交通アクセスのほか、函館市の木、花、鳥、魚の組み合わせなどを問う択一式の99問が出題された。上級は石川啄木が来函した年と勤務先の学校名のほか、イラストで函館近海でとれる2種類のイカをそれぞれ記述する問題など、記述式17問を含む76問だった。

 市立函館高の鈴木康太君(16)は「上ノ国町出身なので桧山に関する問題は完ぺき。函館学で地元の良さを知ることができたことが合否よりも貴重だった」と強調。上級に挑んだ川崎市在住の会社員米山岳由さん(39)は「競馬を通じて函館の町も人も好きになった。ネット中心の勉強では限界を感じたので、次回リベンジしたい」と話していた。合否は12月9日以降、全受験者に郵送で通知される。(森健太郎)


◎9館の「食の競演」 オンパク閉幕
 函館・湯の川温泉街などを舞台に23日間にわたり繰り広げられた体験型イベント「第4回はこだて湯の川温泉泊覧会(オンパク)」(実行委主催)が9日、閉幕した。最終日には周辺の温泉旅館・ホテル9館の料理長が一堂に会し、自慢の腕を振るう「湯の川温泉 食の競演」が開かれ、訪れた市民ら約170人がフィナーレを飾る特別メニューを堪能した。

 初企画の食の競演は100人の定員を大幅に上回るほど予約が殺到。急きょ70人分を追加したが、予約受け付け開始直後からキャンセル待ちも出る人気ぶりだった。各施設の料理長らが「前菜」から「水菓子」まで計12種を献立ごとに分担し、和食のコース料理を提供した。

 会場はオープンキッチンのビュッフェ形式。参加者は各コーナーの前に行列をつくり、目の前で盛り付けられる料理を円卓で味わった。市内の男性嘱託職員(63)は「色、形がきれいで目にもおいしい。料理長の顔が見える安心感もあり、湯の川温泉の底力を感じた」と笑顔を見せていた。

 実行委によると、今回はグルメや自然散策など計66プログラムを用意。8日には青森県大間町にマグロ丼を食べに行く人気の日帰りツアーが荒天で中止となるなど天候に左右された企画も多く、総定員3570人に対し、参加率は70%台に落ち込む見込みだ。実行委事務局は「一人で複数のプログラムに参加したり、毎年同じ企画に参加する人が見られたりと、過去4回の開催でリピーターも目立ち始めた」とする一方、「プログラムの人気にばらつきも見られた。新たな函館の観光資源として定着できるよう、次回の内容に反省点を生かしたい」としている。(森健太郎)


◎市内公立学校の給食にクジラ肉メニュー
 函館市内の公立学校で10日から、クジラ肉を使った給食メニューが登場した。この日は函館五稜中学校(坂上範夫校長、生徒249人)など8校で「クジラ竜田揚げ」が出され、生徒たちはおいしそうに味わっていた。

 食文化の伝承を目的に2004年度から年1回実施。今年も市内の全公立小、中学76校で12月2日までの期間、カレー風味フライや中華いためなどのクジラ肉メニューが1種類ずつ取り入れられる予定。函館大川中の土橋美津子栄養教諭によると、クジラ肉は牛肉や豚肉に比べてタンパク質が多く、鉄分も豊富で脂肪は少なめだという。竜田揚げは、すりおろした生ショウガなどで下味を付けて生臭さを減らし、硬くならないよう揚げ加減も工夫した。

 五稜中1年A組(高橋賢教諭、31人)では生徒らが早速クジラ肉をほお張り、食感を楽しんでいた。学級議長の丸岡亮大君(13)は「外側がカリカリしていて肉は軟らかくてうまい」と話していた。(新目七恵)


◎脳外傷友の会全国大会で「りぼん」に活動奨励賞
 交通事故の後遺症を抱えながら社会復帰を果たした奥井直実さん(41)と脳外傷友の会「コロポックル」道南支部作業所職員の高島啓之さん(39)=ともに函館在住=の音楽ユニット「りぼん」がこのほど、岩手県で開かれた脳外傷友の会第8回全国大会2008inいわてで「当事者活動奨励賞」を受賞した。道南支部での活動が全国の会員に周知され、2人は「同じ立場の人を勇気づけるパワーになれば」と期待している。(宮木佳奈美)

 脳外傷友の会は交通事故や脳疾患の後遺症「高次脳機能障害」の家族会。当事者が集う道南支部の作業所で昨年4月に2人が出会い、「りぼん」を結成した。同顕彰制度は今回が第1回で、「2人の活動が多くの人に生きる喜びを与えた」と評価された。

 奥井さんは作詞とハーモニカ、高島さんが作曲とボーカルを担当。市内の各種イベントに呼ばれ、活動の場を広げてきた。奥井さんが思いを表現した詞は障害のある人やその家族の励みになっている。

 奥井さんは札幌で音楽活動をしていたが、2005年に交通事故に遭い、左手足まひなどの障害を抱えながら今年2月に就職した。15日に札幌で開かれる「道脳外傷リハビリテーション講習会」(実行委主催)に招かれ、事故後初めて札幌で演奏機会を持つ。

 「もう札幌で演奏することはないと思っていたのでうれしい」と奥井さん。「本当に戻る時はギターをぶら下げて戻りたい」としながら、新曲「ただいま」を披露するという。奥井さんは「同じ立場の人に『自分も同じだったから大丈夫』と伝えたい」と話している。