2008年11月25日(火)掲載

◎函館出身の作家・佐藤泰志…没後18年 再び注目
 1990年10月、函館出身の作家が41歳の若さで自ら命を絶った。青春の苦悩や市井の人の生きざまを描き、芥川賞候補に5回、三島由紀夫賞の候補にもなった佐藤泰志だ。単行本は絶版となったが、東京の出版社が昨年10月、初の作品集を出した。29日午後2時から、この作品集刊行1周年を記念したイベントが函館市大森町2のサン・リフレ函館で開かれる。彼の死後、中学、高校時代の同級生らは「泰志の文学を残したい」と、追想集を作るなど地道な活動を続けてきた。没後18年、佐藤の世界に再び注目が集まっている。

 佐藤は函館西高で文芸サークルを結成し、小説が2年連続で有島青少年文芸賞優秀賞に選ばれるなど脚光を集める存在だった。東京時代も多くの小説、詩などを執筆。帰郷した32歳の時、「きみの鳥はうたえる」が初の芥川賞候補になった。東京に戻り、4回同賞の候補となりながら受賞は果たせず、90年に自宅近くの林で首をつって死んだ。

 代表作は「海炭市叙景」。同じ街に生きる燃料屋の主人や路面電車の運転手ら、さまざまな人間模様が交差する未完の短編連作集だ。三島由紀夫賞候補作「そこのみにて光輝く」は砂州の街に暮らす若者らの人間関係を描いた青春小説。いずれも舞台の街は函館をモデルとしているほか、函館朝市や青函連絡船についての随筆も残している。

 函館西高の同級生で、東京で同人誌を一緒に手掛けた函館弥生小事務職員の西掘滋樹さん(58)は「高校時代から独立独歩で、学生運動にのめり込む我々を一歩引いた目で見ていた。今思うとペンで生きる覚悟があったのだろう」と振り返り、「いつも気になる存在で死はショックだった。彼の思いを伝えなければと感じた」と語る。

 同じ思いを持つ同級生らが集まり、函館市文学館(同市末広町22)が開館した93年、同館に佐藤の本の表紙絵の原画を飾る活動を展開。99年には関係者の思い出を集めた追想集も作成した。

 作品集は小説8品のほか詩や随筆などが収められ、東京の出版社「クレイン」(文弘樹代表)が出版。29日のイベントは、あまり知られていない地元の文化に光を当てようと活動を続ける「はこだてルネサンスの会」が主催。「佐藤泰志とその世界」と題し、前半はクレインの文代表を迎え、作品集出版までの経緯やその後の反響を語ってもらう。後半は中学、高校の同級生陳有崎さんら5人がパネリストとなり、佐藤との出会いや作品への思いなどを話し合う。参加料は1000円。事前申し込みが必要だが、当日参加も受け付ける。

 西堀さんは「彼の作品の根底には生活者の視点があり、描かれる若者のaオ藤や社会への不満はどの時代にも通じる。彼の世界に触れる良い機会なので多くの人に参加してほしい」と話している。問い合わせ、申し込みは西堀さんTEL0138・32・4052。(新目七恵)


◎建設会社社長、郷土史研究家 社会人が道徳の授業…木古内の小・中学校
 【木古内】地域で活躍する社会人が特別非常勤講師として教壇に立ち、実体験や思い出を“教材”に、子どもたちの道徳教育の充実を目指す教育事業が木古内町で始まった。木古内中学校(中村豊校長、生徒145人)には町札苅の岩館建設社長で町議の岩館俊幸さん(62)、木古内小学校(竹内良容校長、児童222人)には郷土史研究家の中村俊一さん(73)が出向き、豊かな社会経験を基に、仕事現場での礼儀の重要さや古里の歴史、発展の様子を伝えている。

 地域の特性を生かした教育活動の一環で、道教委が提唱する道徳教育特別非常勤講師配置事業(2002年開始)に即した取り組み。「子どもの心に響く授業の推進を」と、地域の社会人が講師となり、講話や実演、実技指導などで子どもたちの道徳教育を担う。木古内町の野村広章教育長は「専門教科に限らず、近所の大人を先生に迎えることは地域交流の観点からも有意義。子どもたちには広い視野で社会観を養ってもらいたい」と期待する。

 4日には岩館さんが「仕事について」と銘打ち、就業体験を控えた2年生55人に講話。「仲間との信頼と協力が重要」と建設現場で培ってきた知識と経験を伝え、「誰でも社会に出てすぐ何もできないのは当然だが、現場ではあいさつと感謝の気持ち、謙虚さを忘れてはならない」と説いた。

 さらに、「建設業界は肉体労働だと思われているが、それは違う。三平方の定理を活用したり、定規一つで各種計測を寸分狂わず計算する場面もある。数学や国語、英語などを応用する作業が多く、“頭”を使う。今必死に勉強する理由はそこにある」と締めくくった。

 中村さんは町内一帯を見渡す薬師山(標高72メートル)を舞台に授業を企画。12日には4年生44人を引率し、33体ある観音像の由来や美しい景色を案内して歩いた。木古内は古くから水産業が栄えたことに触れ、「海上安全や大漁などの願いを込めて町民がお金を持ち寄って作ったもの。本州の由緒ある寺にある観音さまと同じ姿で、高台からいつもわたしたちを見守ってくれている」と語り掛けた。

 児童は「優しい顔と怒った表情の観音さまがいる」「どれも違う表情で不思議だ」などと話し、中には目を閉じて手を合わせる子も。中村さんは子どもたちの様子を優しい表情で見守っていた。

 同小4年の細川大意君(9)は「初めて聞く説明ばかりで、見慣れた景色が新鮮に見えた」、清萌香さん(10)は「昔の町民の様子を知ることができ、勉強になった。家族にも教えたい」と目を輝かせていた。

 野村教育長は「素直な気持ちで授業を受ける子どもの姿に講師の2人も奮起し、教材研究などにも熱心さが増してきた。たくましく生きてきた人生そのものが、格好の勉強の材料となっている」としている。(田中陽介)


◎炊事や洗濯 力合わせ…4泊5日の「学宿」スタート
 【知内】知内町内の小学5、6年生11人が炊事や洗濯、買い物など共同生活をしながら通学する「第2回しりうち元気っ子 学宿(がっしゅく)」(町教委主催)が24日、町中央公民館を宿舎に始まった。規則正しい生活の中で社会的自立を促し、集団生活で協調性などを学んでもらうのが狙い。4泊5日の日程で、28日まで行われる。

 昨年に続き、知内高校のボランティア部と知内町女性団体連絡協議会のメンバーが町教委職員とともに運営スタッフとして参加。「本当に困ったときにだけ助言をする」と児童の自主的な活動を見守る。

 開会式で田中健一教育長は「たくさん失敗して悩んで、仲間で協力し、たくましく生きる術を身に付けてほしい」と激励。全員で自己紹介をし、地元スーパーに買い物へ出掛けた。

 カレーライスやハンバーグの献立で、子どもたちは計算機を片手に野菜や肉類などを購入。「こっちのほうが安い」「賞味期限もしっかり確認して」などと話しながら、予算内で品定めをした。

 夕食後は町内の家庭を訪れ、もらい湯(風呂)に入り、「ありがとうございます」と感謝を伝え、町民と親ぼくを深めた。知内小6年生の白田梨菜さん(12)は「料理や掃除などお父さん、お母さんが家族にしてくれることを学び、家に帰ってからも手伝えるように頑張りたい」、スタッフの知内高校3年、藤谷彩夏さん(18)は「積極的に動く小学生の様子を見て、わたしも学ぶ点が多い」と話していた。

 期間中は午前6時起床で、朝食づくりから一日が始まる。(田中陽介)


◎五稜郭タワー 展望台入場者2500万人突破
 五稜郭タワー(中野豊社長)の展望台入場者が24日、2500万人を突破した。1964年12月の旧タワー創業以来、44年かけて積み重ねてきた数字の重みをかみしめながら、中野社長は「函館観光のシンボルの一つとして、今後も多くの観光客や地元の人たちが足を運んでくれるように努力していきたい」と話していた。

 記念の2500万人目となったのは、この日午前11時15分ごろに訪れた千葉県浦安市在住の大宅ゆかりさん(43)。夫の康喜さん(39)とともに道内旅行中で23日に函館入りした。この日は早朝から函館朝市や元町周辺を観光し、五稜郭タワーを最後に帰途に就く予定だった。中野社長から記念品などを受け取り、同タワーのマスコットキャラクター「GO太くん」の祝福を受けたゆかりさんは「突然のことでびっくりしていますが、一生忘れられない素晴らしい思い出になりました」と喜んでいた。

 旧タワー(高さ約60メートル)は1990年2月に1000万人、96年8月に1500万人、2002年11月に2000万人を達成。06年4月に新タワー(同107メートル)完成後は入場者が増加し、本年度は約90万人を見込んでいる。

 中野社長は「展望台から見る五稜郭は四季折々でさまざまな表情を見せてくれる。一度来たお客さまが再び足を運びたくなるように、これからも努力していきたい」と意欲を見せていた。(小川俊之)


◎五稜郭タワー 29日から2周年記念イベント
 五稜郭タワー(函館市五稜郭町)のアトリウムで29日から12月1日までの3日間、新タワーグランドオープン2周年を記念し、音楽演奏や郷土芸能のショー、道南の農水産物加工品の販売など、多彩なイベントが繰り広げられる。

 新タワーは2006年4月にオープンし、同12月1日に隣接する旧タワー跡地に「アトリウム」が開業した。初日は午後2時から函館出身の歌手村岸カンナさんが、NHK「みんなのうた」で放送された「このせかいに」のスペシャルライブを開く。

 30日は午前10時から午後4時まで、知内産の殻カキや上ノ国産のアワビ飯など各地の特産品の試食販売を行うほか、函館・南茅部地区の「安浦駒踊り保存会」(午前11時)や木古内町の「みそぎ太鼓の会」(正午)などが伝統芸能を披露する。

 12月1日は来場者に先着順で鉢植えを無料プレゼントする。午後4時半からは会場で応募し、抽選で景品が当たる「グランドオープン2周年クイズ」の当選者を発表する。各日ともアトリウムは入場無料。問い合わせは同タワー?0138・51・4785。


◎長沼監督が作品PR…来月5日に「函館港イルミナシオン映画祭」
 12月5日に開幕する「函館港イルミナシオン映画祭2008」(実行委主催)最終日の7日正午から、函館市地域交流まちづくりセンター(末広町4)内の十字街シアター会場で上映される映画「まぶしい嘘(うそ)」(2007年)の監督、長沼里奈さん(27)=札幌在住=が22―24日に函館を訪れた。長沼さんに映画祭や作品への思いを聞いた。

 長沼さんは高校1年から映画を作り始め、現在は映画制作団体「映蔵庫」の統括として制作・上映活動に励んでいる。

 同映画祭とのかかわりは2000年で、高校時代に自主制作した「女子高戦記」が上映された。「夕張や札幌の映画祭に客として行ったことはあったが、映画祭で作品が上映されたのは函館が初めて。映画祭の醍醐味(だいごみ)でもあるステージと観客の距離の近さがあり、スタッフや函館の人の温かさを感じた」と振り返る。

 この上映を機に、その後公立はこだて未来大の学生との交流など、函館での活動も展開。4月末には市内で「まぶしいGコ」の自主上映会も行った。

 作品は、妻を亡くしてから色彩を信じなくなった画家の男性と失明する運命の女性が出会い、交流を重ねることで引かれ合う物語。「ラブストーリーだが、ドキッとするような鋭い場面も。根底には喪失感や失う恐怖がある」と説明する。

 会場では長沼さんが舞台あいさつする予定で、「函館が大好きで、今回も招かれて光栄。ぜひ感想が聞きたいので、会場で見掛けたら声を掛けて」と話している。(新目七恵)


◎昨年度平均は77・9点…公共工事評定
 函館市は、2007年度に行われた契約金額500万円以上の市発注工事の「工事成績評定」の結果をまとめた。土木や建築、電気、舗装など241件の平均点数は77・9点で、前年より0・4点上昇した。65点を基準点に加減方式で各種評定をし、最高は88点、最低は59点。85点以上の評価を受けたのは18件だった。

 公共工事の品質や施工能力を高め、請負業者の指導や育成に役立てる目的で、06年度の工事から本格実施している。評価は大項目で(1)施工体制(2)施工管理や安全対(3)B出来栄え(4)高度技術D(5)意工夫(6)法令順守―の6点。施工技術のほか、適切な人員配置、騒音などの苦情対策といったさまざまな評価項目があり、市土木部は「点数が低いからといって工事の出来が悪いということではない」と説明する。

 工事区分別の件数と平均点数は土木63件78・4点、建築15件76・9点、電気15件78・7点、管13件73・5件、舗装52件77・9点、造園8件77・8点、水道41件80・0点、その他34件75・9点で、前年と比べ平均点に極端な変動はない。造園や管など工事によりサンプル数が少ないケースがあるが、評価を毎年度続けていくことで点数を積み上げ、より客観的な評価に結び付ける。

 評定は発注部局の工事監督員(設計者)と係長職の担当者、検査員(課長)の3人で行い、結果は請負業者に通知している。同部は「出来、不出来だけでなく、業者が今後何を大切に工事を進めれば良いかなどが分かる」と話している。(高柳 謙)