2008年1月11日(金)掲載

◎【映画企画(2)・硝子のジョニー】齋藤さん
 「あら、ちょっとあんた、しばらくね」

 相手の肩をポンと叩いた途端、周囲から数人がどっと駆け寄り、「カット! カット!」の怒声が飛んだ。

 「え? えぇ? 何?」

 函館市内に住む齋藤寿美子さん(66)は、1962年の日活映画「硝子のジョニー 野獣のように見えて」の同市内での撮影に関するある出来事を夫の裕さん(72)と話すたびに、思い出し笑いがこみ上げる。それは新婚当時、裕さんの転勤に伴い、生まれ育ったオホーツク沿岸の紋別市から函館に移り住んで数カ月経った62年初夏のことだ。

 当時共働きだった齋藤さん夫婦はその日、夕飯を外食にしようと松風町で待ち合わせ、飲食店に向かう途中だった。そこだけやけに明るい小路に入ると、正面から見たことのある男性が歩いてくる。友人もいない土地で知り合いに出会えたうれしさから、寿美子さんはつい声を掛けた。

 そこで「カット!」の声だ。

 驚く寿美子さん。よく状況を飲み込めないまま、スタッフらしき男性に引っ張られたことを鮮明に覚えている。裕さんに手を引かれ、慌ててその場を立ち去った。

 2人が通り掛かったのは撮影真っ最中の現場。路地の明るさは撮影ライトのせいで、寿美子さんが声を掛けた男性は、昔の女性を探して繁華街をさまよう元歌手で人買いの男「秋本」役を演じるアイ・ジョージさんだったのだ。

 アイ・ジョージさんは撮影の前年、歌謡曲「硝子のジョニー」が日本レコード大賞歌唱賞に輝く大ヒットとなり、連日テレビに登場していた。

 寿美子さんは当時21歳。「今思うと、初めての土地での暮らしが心細く、人恋しさもあったかも。テレビでいつも見ていた歌手を知り合いと思い込むなんて、そそっかしいわね」と笑う。

 そのころは映画名が分からず観る機会を逃したが、昨年12月、寿美子さんは函館市内で開催された「第14回函館港イルミナシオン映画祭」(実行委主催)で初めて鑑賞することができた。

 寿美子さんは、劇中で昔の女性の消息を探す秋本が公衆電話を掛け、小路を歩くシーンを挙げ、「私が見たのはきっとこの場面。黒いシャツを着たアイ・ジョージさんが目に焼き付いているし、砂利道や風景に見覚えがある」と懐かしむ。

 撮影現場に出くわした日から46年。2人の娘の出産、子育てを経験した寿美子さんは今ではすっかり“函館の人”。「函館観光ボランティア・愛」の一員としての活動はことしで6年目を迎え、日々観光客らに函館の魅力を伝えている。

 現在、松風町内のその小路周辺は駐車場や廃店も増え、スクリーンの風景とは様変わりした。「昔はスナックや飲食店が建ち並び、もっとにぎやかで広い通りだと感じたけど…」。寿美子さんがつぶやいた。 (新目七恵)

 【映画企画(2)・硝子のジョニー】メモ

 「硝子のジョニー 野獣のように見えて」(1962年、モノクロ107分、日活。宍戸錠、芦川いづみ、アイ・ジョージ、南田洋子ら出演)

 裏切られ、捨てられても愛を信じる娘・深沢みふね(芦川)と、人買いの秋本孝二(アイ)、競輪の予想屋稼業を続けながら流浪の生活を送るジョー(宍戸)の2人の男とのかかわりを通し、愛の姿を描く日活の異色作。ほぼ全編、函館市内で撮影された。


◎函館市新年度予算編成、3園統合や企業誘致
 函館市の2008年度予算編成に当たり、西尾正範市長はこれまでの会見で「子育て・教育・殖産興業が柱になる。財政との相談になるが、ハード事業では養護老人ホーム清和荘の移転新築や、長く懸案となっている青柳学園、あおば学園、ともえ学園の障害児・者3園の統合などが検討項目にある。企業誘致にも力を入れたい」と述べている。

 市が昨年12月に示したまちづくり3カ年計画によると、ハード事業の障害者3園統合は08年度まで、旭岡町の旧市立病院跡地への清和荘移転は09年度までに実施する方針。市長はまた、旧ロシア領事館、公民館、旧市立図書館の復元や活用について「函館らしい、市民に喜ばれるような形で整備したいという気持ちがある」とする。ただ、同計画などでは活用方法の検討を進める段階で、優先順位は低い。

 公約に掲げた乳幼児医療助成の拡大は、現在の就学前から小学校卒業まで拡大する予定。ソフト事業の医療助成だけでも年間2億円以上の単費が必要なことから、新たなハード事業の財源をどう確保するか、難しい判断を迫られることも予想される。

 予算編成を拘束するものではないが、市が昨年11月に公表した中期財政試算では、新年度から5年間の普通建設事業費を本年度比16%減の89億円に抑制している。

 西尾市長は「財政が厳しい時代だから、大きなハコ物事業には手を出せない。小さいものは地元業者に発注できるので、そうしたことも配慮したい」と話している。

 新年度予算は現在、財務部が編成作業を進めている。 (高柳 謙)


◎揺れる銭湯(上)中小規模 戦々恐々
 函館市は湯川町に大規模な温泉街が存在することに加え、市内各所からも多くの温泉が湧き出している。現在、函館浴場協同組合(長南武次理事長)に加盟する34軒の銭湯のうち、3分の1にあたる11軒が温泉を利用しており、生活の中に身近に温泉が存在しているぜいたくな街とも言える。

 しかし、近年では温泉を掘削しスーパー銭湯と呼ばれる大型施設を建設するケースが急増している。ここで問題になるのは、既存する中・小規模の銭湯と、大型のスーパー銭湯は公衆浴場法上では同じ「普通公衆浴場」として扱われること。これによってスーパー銭湯も既存の銭湯同様に固定資産税などの減免措置が受けられる。入浴料も390円と変わらないのに、圧倒的な集客能力の差があれば勝負はおのずから見えてくる。

 事実、札幌市では15年ほど前からスーパー銭湯が急増し既存の銭湯は半分以下に激減した。同市は2005年にようやく普通公衆浴場の入浴施設面積を430平方メートル未満とする審査基準を設け、中小規模の銭湯の保護に乗り出している。ただし430平方メートル以上であっても料金の規制を受けない「その他浴場」としての建設は可能。料金が多少割高になっても、設備面が充実度していれば中小の銭湯には脅威である。

 函館市に関しては、市が運営する「谷地頭温泉」が1998年にスーパー銭湯スタイルにリニューアルしたのを始め、札幌市などの規制強化に伴い、続々とスーパー銭湯が進出している。これに対し市は現時点ではスーパー銭湯の規制強化を打ち出す明確な姿勢は示していない。長南理事長は「スーパー銭湯の存在が悪いと言っているわけではないが、中小規模の銭湯と共存するためには新しいルールを設けないと、札幌の二の舞となることは目に見えている」と行政の対応の遅れを指摘する。

 また最近では、浴場施設を備えたスポーツ施設が増えている。こちらは最初から「その他浴場」と分類され特別な規制がないことから、既存銭湯と隣接した場所でも建設が可能。スポーツで汗を流した後に、同じ施設にある浴場で体を洗うことで、銭湯の利用機会が奪われているとみられる。

 車社会の現代、街の中心部から離れていても大型駐車場が完備されているスーパー銭湯へ家族が足を運びやすいことは明らかである。しかし、地域の中心に位置し、近所の人々が身近に顔を合わせてコミュニケーションを交わす昔ながらの銭湯文化を失いたくないと考える人たちも少なくない。

                       ◇

 風呂好きな日本人が愛した銭湯。かつては大勢の地域住民でにぎわったが、家庭の風呂の普及に伴い減少している。さらに近年はスーパー銭湯の登場により、懐かしさを感じさせる昔ながらの銭湯から客足が遠のいている。また最近では、追い討ちをかけるように原油価格の高騰による経費の増大で経営も圧迫されている。果たしてこのまま銭湯文化は衰退してしまうのか、函館市内の事情を探ってみた。 (小川俊之)


◎改正DV防止法きょう施行
 配偶者や同居の恋人から受ける暴力防止に向け、「ドメスティックバイオレンス(DV)防止法」の一部改正法が11日に施行される。加害者の接近禁止などを命じる保護命令制度が拡充され、被害者保護が手厚くなる。函館市内のNPO法人(特定非営利活動法人)ウイメンズネット函館(古川満寿子理事長)などに寄せられる相談件数は年間1000件を超え、道南でもDVは後を絶たない。法改正はさらなる被害者救済につながるのか。ポイントや課題をまとめた。

 DV防止法は2001年10月に施行、02年4月から被害者の申し立てで、裁判所が加害者に6カ月間の接近禁止命令や、同居場所から2カ月間の退去命令を発令できる保護命令制度が設けられた。04年12月の法改正では子どもへの接近禁止などが新たに加わった。

 今回の改正法では、生命や身体に危害を及ぼしかねない言葉による脅しを受けた場合も保護命令の申請理由として認められ、電話や電子メール、被害者の親族らへの接近も禁止できる。これまで保護命令の対象は身体的暴力に限られていたが、身の危険を感じさせる脅迫行為による「精神的暴力」も含まれるようになった。

 古川理事長は「体に傷がなくても『殺してやる』などの脅迫や言葉の暴力で精神的に深い傷を負い、うつ状態や過呼吸の症状を訴える女性もいる」と指摘。「身体的暴力が顕著でなくても保護命令の申請が認められるようになるので、これまで以上にDV抑止につながれば」と期待する。一方、加害者対策の強化が盛り込まれなかった点では課題が残る。古川理事長は「加害者に『DVは犯罪』だと認識してもらう仕組みが不十分。暴力を止めさせる加害者への教育プログラムや罰則の強化が必要」と訴える。

 このほか新たにDV防止・被害者保護施策の基本計画策定や、配偶者暴力相談支援センター(支援センター)の設置が市町村の努力義務となった。保護命令の申立書には支援センターや警察署に相談した事実を記載する必要があるため、古川理事長は「市役所や役場などにも支援センターがあれば相談しやすい上、そのまま保護命令を申し立てできる。気軽に行ける相談窓口が多いほど支援につながりやすい」と話している。(宮木佳奈美)

 ◆DV相談窓口は次の通り。

 ▼ウイメンズネット函館TEL0138・33・2110(月―金曜午前10時―午後5時)▼渡島支庁(環境生活課・直通)TEL同47・5789(同午前9時―午後5時)▼中央母子自立支援・女性相談室(函館市総合福祉センター内)TEL同27・8041または8042(月―金曜午前9時―午後5時・土曜は正午まで)▼亀田母子自立支援・女性相談室(函館市亀田福祉事務所内)TEL同45・5481(月―金曜午前9時―午後5時)▼家庭生活相談(函館市家庭生活カウンセラークラブ)=女性センター=TEL同23・4188(月・水・金曜午前10時―午後3時、火・木曜午後6時半―同8時半)▼女性の人権ホットライン(函館地方法務局)TEL0570・070・810(月―金曜午前8時半―午後5時15分)▼道立女性相談援助センターTEL011・666・9955(同午前9時―午後5時)▼道警函館方面本部相談センターTEL♯9110(同午前8時45分―午後5時半)※緊急時は110番へ


◎「110番の日」中学生2人が一日指令室長
 「110番の日」の10日、道警函館方面本部では、市内の中学生が「一日通信指令室長」に委嘱され、模擬110番通報の受理を体験。110番の仕組みについて学んだほか、市内でチラシなどを配布し110番の適正使用などをPRした。

 委嘱を受けたのは、市中央地区防犯協会が主催する「2007年度防犯標語コンクール」で最優秀賞を受賞した函館深堀中1年の筒井優介さんと優秀賞の函館光成中3年の川村侑里奈さんの2人。函本の浦谷博美本部長から委嘱状を手渡された2人は、渡島、檜山管内からの110番を受ける通信指令室で、模擬110番通報を受理した。

 模擬通報は空き巣と交通事故の想定で、2人は落ち着いた口調で「何がありましたか」、「けが人はいますか」などと質問。筒井さんは「110番の仕組みが分かり勉強になった」、川村さんは「緊張してうまく話せなかった」と話した。

 この後、2人は函館中央署員らとともに近くの本町交差点で110番の適正利用を呼び掛けるチラシなど約200枚を配布。市民らに「正しい110番の利用を」などと呼び掛けた。 (水沼幸三)