2008年2月23日(土)掲載

◎企画1 緊縮型の中で 函館市新年度予算案 財源不足… 交付税削減で一層厳しく
 「行財政改革の効果額で財源不足が減少するはずだったが、交付税の減少で飲み込まれてしまった。非常に厳しいが、限られた財源の中で、公約である教育・子育て・人づくりと産業振興策に重点配分した」

 2008年度予算案の発表で西尾正範市長は、疲弊する地方財政の現状を強調しながら、可能な範囲で公約実現に向けた政策的経費を盛り込んだ考えを示した。

 本年度の普通交付税は予定よりも約14億円減少した。新年度予算案でも、国の地方財政計画などから本年度並みの313億円を見込んでいる。新年度予算案の財源不足は37億8000万円。「交付税の14億円の減少がなければ、財源不足は24億円弱で収まった」と西尾市長は嘆いた。

 交付税と並び歳入の柱となる市税収入は、本年度当初(6月補正後)と比較し1・2%減の340億円の見込み。歳入が増える要素がなければ、おのずと歳出を削減した緊縮型にならざるを得ず、新年度一般会計予算案は同1・5%減の1224億1000万円。特別会計と企業会計を合わせた総額も同9・8%減の2495億3000万円となった。

 歳出削減のため、廃止となった制度や補助は多い。市財政課によると、一般会計では東京事務所廃止で事務所費と人件費合わせて3200万円、職員の海外研修廃止で300万円、合併4支所の納税貯蓄組合への補助金600万円などがある。

 職員を削減し、給与を抑える行革はもちろん、事務用品や光熱費、出張費など経常経費の削減も図った。

 それでも財源不足は37億万円を超える。昨年11月に公表した中期財政試算の範囲に納まっているが、不足分は土地開発基金7億円の取り崩しと起債(借金)30億8000万円で穴埋めした。

 財源調整に充てる財政調整基金と減債基金は1995年度末には約85億円あったが、2008年度末には約3億7000万円しか残らない見通し。土地開発基金も残りが4億円となる。09年度以降の予算編成も厳しさを増すとみられる。

 そうした中で西尾市長は「教育と人材育成」「産業振興と雇用環境向上」を2つの柱に新年度予算を組んだ。市立校長の裁量で特色ある教育をする「知恵の予算」の継続や、目玉の乳幼児医療助成の拡大など、公約の実現を図った。産業振興は観光ポータルサイトの開発や企業誘致推進などを可能な限り盛り込んだ。

 「人材育成と産業振興の両立は難しい」(ある幹部)との声もあるが、何とか双方を盛り込んだ跡が読み取れる。

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 昨年4月に初当選した西尾市長初の本格予算案が発表された。27日に開会する第1回定例市議会で審議される。緊縮型となった予算案の特徴を探る。(高柳 謙)



◎乙部のタラコ「玉粒」東京でも好評
 【乙部】乙部町商工会(三上岩雄会長)を中心に本格販売を検討している最高級タラコの新商品「玉粒(たまつぶ)」が、東京で開かれた地域特産品の展示商談会「ニッポンいいもの再発見!春2008」(全国商工会連合会主催)で、大勢の食品バイヤーから高い評価を得た。今月下旬にはアラブ首長国連邦(UAE)で開かれる食品見本市での国際デビューを予定しており、本格生産に向けた弾みとなりそうだ。商品開発を担当する同商工会の敦賀正春事務局長(58)に、展示会での手応えと今後の抱負を聞いた。

 玉粒の原料は、全国でも数少ない、はえ縄漁で水揚げされたスケトウダラから採卵した最高品質の“釣りタラコ”。着色料や添加物を一切使わず、塩だけで漬け込んだ逸品。5日から8日まで開かれた展示商談会には、全国から数千人の食品バイヤーが参加した。乙部からは商工会職員や加工業者が2日ずつ交代で参加して商品のPRに当たった。

 「反響の大きさに驚いた。サンプルやパンフレッがすぐになくなった。説明に追われて2日とも昼食を食べそびれた」と語る敦賀さん。玉粒の価格は120グラムで1500円を予定しているが「昔懐かしいタラコの味が大好評で、5000円でも安いとの声が大半。釣りタラコに高い付加価値があることを感じた。開発に携わる漁業者や加工業者も自信を深めた」。

 中国製冷凍ギョーザによる中毒事件の影響もあり、セールスポイントである健康志向にも関心が集中。「無着色のタラコは個体ごとに色合いが違う。サンプルを目の前で開封して違いを実感してもらった。赤く着色したタラコが本物だと思っているバイヤーも多かった」。

 乙部産の釣りタラコは、福岡などの道外メーカーに出荷され、最高級の明太子として加工・販売されている。町内の漁業者は原料出荷に徹しているため、高い付加価値を享受できなかった。本道の農水産業に共通する構造的な課題でもある。「乙部には原料のタラコも加工技術もある。産地と加工場が近い方が高品質のまま商品化できる。流通コストの低減にもつながる。漁業者や加工業者の発展がもたらす町内経済への波及効果も大きい」。

 会場での高い評価に自信を深める敦賀さんは「乙部ではタラコは身近な食品。そのために高い付加価値や希少性を実感できていなかった。タラコのように地域に埋もれている資源がたくさんあるはず」と語り、タラコに次ぐ新商品の開発にも大きな期待を寄せる。

 玉粒は、UAE第2の都市・ドバイで、24日から開かれる国際食品見本市「ガルフード2008」にも出品される。ドバイは巨額のオイルマネーを背景に急速な経済成長を続けており、富裕層を中心に日本食ブームが盛り上がっている。敦賀さんは「世界のセレブが集まるドバイで『玉粒』がどのような評価を受けるのかが楽しみ」と期待を膨らませている。(松浦 純)


◎釣り愛好家が「防犯ネット」設立
 【江差】江差署(芳賀政男署長)管内の釣り愛好家で組織する「江差署釣〜りんぐ防犯ネットワーク」の設立総会が22日、同署で行われた。奥尻島を含めると延長約150キロに及ぶ管内の海岸線で、海難事故や密漁などの犯罪を警戒する一方、7月の北海道洞爺湖サミット(主要国首脳会議)に向けて、桧山沿岸に接近する不審船や不審人物にも目を光らせることでサミットの成功に協力する方針だ。

 ネットワークには、管内の江差、上ノ国、厚沢部、乙部の4町に住む釣り愛好家約180人が参加。奥尻町でも近く同様のネットワークを組織する。

 7つの釣りクラブに所属し、日本海沿岸で船釣りや磯釣りを楽しんでいるメンバーは、海岸や港湾で海難事故のほか、水産資源を狙った密漁、密入国、船舶や釣り客の車を狙った犯罪を目撃した場合、速やかに警察に届け出る。サミット開催に向けては、テロリストなどの潜入や武器・爆発物を搭載した工作船の活動にも目を光らせ、警察の警備活動を支援する。

 総会で芳賀署長は「日本海沿岸は北朝鮮工作員などの潜入ルートとされる。サミット期間中は警察官が手薄になる。皆さんの協力でサミットを成功に導きたい」とあいさつした。

 続いて同署の担当者が、昨年5月から11月にかけて、同署管内に漂着した、北朝鮮のものとみられる木造船などの例を示しながら、不審船の特徴や国際テロやサミット警備をめぐる情勢を解説。参加者からは「サミットに限らず息の長い活動として取り組みたい」「警察からの積極的な情報提供が重要」などの意見が出された。

 同署は、管内の少年補導員や宿泊施設などに、サミット警備への協力を呼び掛けている一方、路線バスやパチンコ店の電光掲示板などを活用したPR活動も展開している。(松浦 純)


◎7月にもチャーター便参入…台湾・遠東航空
 観光客誘致のため、台湾・台北市と中国・広州市を訪れていた函館市の誘致訪問団(団長・森川基嗣函館商工会議所副会頭)が22日、函館に戻った。台湾の遠東航空から、7月にも函館空港へのチャーター便新規参入を検討していることが伝えられたほか、ほかの航空会社間でもチャーター便増便や将来の定期便化に向けた話し合いを進めた。森川副会頭は「(台湾へは)2000年から訪問を続けているが、これまで培ってきた活動成果が実を結んでいる」とし、現地との信頼関係に好感触を得たと語った。

 訪問団は、19日から全6日間の日程で台北では中華航空、マンダリン航空、遠東航空の3社、広州市では、中国南方航空を訪問したほか、両市の旅行代理店、各機関などを訪問した。森川副会頭は「現地はこちらの意向をくみ、こちらもわがままを言える関係になっている。中華、マンダリン航空の2社は定期便化も前向き」とした。また、谷沢広副市長は「新幹線時代を見据え、青森を含めた青函圏の観光をPRしてきた。今後も定期的な情報交換が必要」と話した。

 台湾から新たに参入する遠東航空は、全日空と提携して3月に初めて日本向けのチャーター便に参入。現地では函館観光の需要や商品価値が高いことから、早ければ7月に函館便を運航することが伝えられたという。

 谷沢副市長は「(国内各地域間で)市場の争奪が激しくなっているが、非常に高い評価をもらった。競争に勝利すべく真剣に取り組みたい」と述べ、今後も訪問活動を継続し、相互の課題解決に向けて現地との関係強化を図る考えを示した。(今井正一)


◎市文学館に久生十蘭の直筆原稿寄贈 十蘭の妻のめい・三ツ谷洋子さん(東京)
 函館出身の直木賞作家、久生十蘭(ひさお・じゅうらん、1902―57年)の直筆原稿「従軍日記」と、旧日本海軍の公文書を書き写した「戦闘詳報」の複製が22日、函館市文学館(末広町22)に寄贈された。贈ったのは久生の妻のめいで、東京在住の三ツ谷洋子さん(60)。「戦闘詳報」の原本はアメリカにあるとされ、寄贈されたのは久生が原本を筆写したノート。当時の海軍の指揮や戦闘体制などがうかがえる貴重な資料となる。

 同日、市教委の須田正晴生涯学習部長に三ツ谷さんが目録を贈った。三ツ谷さんは、すでに同館に寄贈されている97点の資料とともに有効的な活用を願った。同館では7月ごろの一般公開を予定している。

 久生は戦時中、従軍記者として南方戦線を歩いた。「従軍日記」は43年2月24日から9月9日までの記録で、インドネシア戦線の様子をつづっている。すでに出版されているが、原本は達筆な上、英語やフランス語などの外国語が交じり、判読が難しい。戦線の様子や久生の考えが分かるほか、書誌学的な価値もある。

 「戦闘詳報」は、所属していた第934海軍航空隊の公文書の書写。原本は戦後、アメリカの手に渡ったとされ、市文学館に寄贈されたのは原本の書写。久生が写したノートには当時の情報があふれ、その価値から防衛省が長く寄付を打診してきたという。

 市文学館には93年の開館に合わせ、久生の妻、阿部幸子さん(2003年没)が、直木賞の賞状や副賞の金時計、愛用のマージャンパイ、各種文学賞受賞を伝える新聞や電報などを贈っている。久生の著作権を継承した三ツ谷さんが、国内3文学館の中で、最も資料が整った同館への寄贈を決めた。

 贈呈を受け、須田部長は「貴重な資料からさまざまなエピソードが分かる。有効に活用します」と謝辞を述べた。

 三ツ谷さんは「久生は生前、本心を語らず姿を見せない、きざな面があった。本人の息吹や時代の感覚が、文学館の他の展示資料とともに伝われば」と語った。(高柳 謙)

 ◆久生十蘭 本名・阿部正雄(あべ・まさお)。1902年、函館生まれ。現在の函館中部高校を中退し東京へ。劇作家の岸田國士に師事し、文筆活動を始める。パリ遊学などを経て42年、大仏次郎夫妻の媒酌で函館生まれの三ツ谷幸子と結婚。52年に「鈴木主水」で第26回直木賞を受賞。55年に「母子像」が、米国紙主催の国際短編小説コンクールで第1席に入選。57年10月6日、55歳で死去。


◎減資と社長退任を了承…エアトランセ
 地域コミューター航空のエアトランセ(函館市高松町511)は22日、同社で臨時株主総会を開き、減資による損失補てんと、中山淑惇社長の退任が承認された。このほか、運休していた函館―女満別線を4月21日に運航再開することが明らかとなった。

 同社は、07年3月期決算で当期未処理損失が27億6100万円に上っており、財務体質を健全化などを図るため、資本金を8億5050万円から8500万円にした減額分と、資本準備金7億5050万円の全額をその他利益剰余金に振り替え、繰越欠損を解消する。実施は3月31日を予定。

 減資に伴う中山社長の引責を受けて、新たな取締役として、2004年9月―05年6月に同社の取締役を務めた才式祐久氏(39)を再任。後任の社長については、総会後の役員会で、代表権を持つ江村林香会長が兼任することが決まった。

 経営の立て直しに向けた増資について、江村会長によると、12、1月に既存株主4社から1億2000万円を調達済みで、2、3月には新規株主4社からの8000万円をさらに上乗せする見通し。

 また、昨年9月末から運休していた函館―女満別線は、4月21日から乗り合い便で1日1往復の運航を予定している。(浜田孝輔)