2008年3月31日(月)掲載

◎池にカエルの卵
 春の足音が次第に高まる中、函館市谷地頭町の函館八幡宮境内にある池ではカエルの卵が穏やかな日差しを受けて光っている。

 この塊状の卵はエゾアカガエルとみられる。命の輝きが季節の始まりを告げる。オタマジャクシが泳ぎ出すのはまだ先だが、日の光にこもる温かさは春本番だ。(山崎純一)


◎【キラリ!道南】函館市交通局運転士・寺島華子さん(28)
 「函館らしい、ここでしかできない仕事だから」―。約9年間務めたホテルを辞めて、未知の世界に飛び込む決断にためらいはなかった。

 眼下に広がる港や古い建物が函館の原風景として残る弥生町で育った。幼いころから日常的な存在だった路面電車(市電)の運転士に、漠然としたあこがれを抱いていた。2005年、転職を迷う間に採用試験の締め切りが過ぎた。その年、くしくも、市電では戦後初の女性運転士が誕生した。

 転機は07年春。ラストチャンスとの思いで臨んだ試験に見事合格した。研修を終え、昨秋からは約1時間半の乗務を1日4回こなす。

 十字街から谷地頭に向かう途中、広い運転席の窓の向こうに、函館山が雄大な姿を見せる。「毎日、色や季節の変化を感じる」。今まで気がつかなかった「函館の景色」が見えてきた。

 「函館では、市電が走っているのは当たり前のことだけれど、観光客にとっては特別な存在。喜んで乗ってくれる人たちの姿に、貴重な仕事をしていると実感する」。乗客から掛けられる「頑張ってね」の一言が何よりの励みだ。「命を預かっていることを忘れず、安心して乗ってもらえる運転士になりたい」。口元がキュッと締まった。(今井正一)

 自分が選んだ仕事に懸命に取り組み、技を磨き、誇りを持って黙々と作業に励む。道南・函館に愛着を持ちながら、明日を信じて頑張る、そんな素朴で、キラリと輝く人たちにスポットを当てた。



◎一位物産、再生手続き終結
 民事再生手続きを進めていた函館市の不動産管理会社、一位物産(安田博社長)が函館地裁から、再生手続きの終結決定を受けていたことが30日までに分かった。大手スーパー、イトーヨーカドー函館店(同市美原1)が入居する一位ビルの賃貸収入を債務弁済に充て、再生が順調に進んでいる。再生法申請時の負債総額は約115億円。金融機関などの支援を受けずに自力再建の道を固めた。低迷する函館経済界にとって、大きな朗報となりそうだ。

 民間信用調査機関や同社によると、一位物産は1975(昭和50)年の設立。不動産取引や施設建設を積極的に進め、91(平成3)年には年商81億円を計上した。病院やハイヤー会社、建設会社などのグループ企業全体では年商150億円、総資産は1100億円に達した。

 しかし、土地取引への融資を制限する総量規制で92年に事業が中断。一時はグループ全体で約500億円の借入金を抱えた。従業員約500人の再就職は同社が各方面へ仲介し、優良資産の売却などを進め350億円以上を返済したが、2003年8月、民事再生法の適用を申請した。

 申請代理人の山崎英二弁護士によると、債権者集会の議決を得て05年2月に再生計画が確定。約115億円の負債のうち、再生債権約84億円を13・5%まで圧縮し7年計画で弁済を進めている。担保権付き債権約31億円も10年計画で順調に弁済している。終結決定は2月28日付。

 民事再生は銀行や他社が支援するスポンサー型と、自力による収益弁済型がある。函館地裁管内では一例として温泉旅館が民事再生を終了しているが、スポンサー型で負債総額は約13億円。一位物産は収益弁済型として地裁管内で初めての手続き終結。「負債総額100億円以上で、自力弁済により再生手続きを終結した事例は道内でも珍しい」(山崎弁護士)という。

 イトーヨーカドー函館店は1980年、一位物産会長の村上幸輝氏が建設した一位ビルに入居。ヨーカドーは黒字経営で今後も入居を続け、一位物産は賃貸収入で残りの債務弁済資金が確保される見通し。一部に債務圧縮があるものの、村上氏は92年から16年かけて約500億円の債務を返済する道筋を固めた。

 再生手続きの終結で裁判所の監督を離れ、同社は新たな事業展開ができる。

 同社は「独り立ちが認められ、今後もヨーカドーとともに地域に愛され、貢献する企業として歩んでいく。函館は近い将来、再開発事業が地域の生死を分ける。そちらの面でも貢献できるよう、研さんを積んでいきたい」と話している。(高柳 謙)


◎函館海保巡視船「びほろ」が引退
 道内の領海警備や海難救助で活躍してきた函館海上保安部の巡視船「びほろ」(320トン、24人乗り組み)が老朽化のため34年間の役目を終えた。函館市海岸町の函館港中央ふ頭で30日、解役式が行われ、就役から19代目の嶋村秀人船長(46)ら関係者約40人が別れを惜しんだ。

 「びほろ」は1974年2月に釧路海上保安部で就役し、87年3月から函館海上保安部に配属替えとなった。死者・行方不明者229人を出した93年7月の北海道南西沖地震では、被災者の捜索や救助に貢献。近年は道南海域で密漁者の取り締まりに尽力した。

 総航行距離は約77万5000キロ、海難出動件数は497件に上る。これまでに地球を約19周した計算となり、全長約63・4メートルの船内外に残された無数の傷みが、道内近海でトラブルに遭った船舶96隻、794人を救助した実績を静かに物語っている。

 解役式で代市修函館海保部長が「現場の第一線で活躍してきた『びほろ』の功績をたたえたい」と式辞。乗組員が船首部に書かれた船名をペンキで塗りつぶした後、船に掲げられていた国旗や庁旗が代市部長に返納され、34年余りの歴史に幕を閉じた。

 嶋村船長は「これほど長期間任務に就いた巡視船はないと思う。できればまだ乗っていたかったが、無事故で終えられてまずは船にお疲れさまと言いたい」とねぎらった。後継には、第8管区海上保安本部敦賀海上保安部の巡視船「えちぜん」が配備され、同日付で船名を「びほろ」に変更した。(森健太郎)


◎「打楽器の世界」最終公演
 打楽器の発展を願い、1999年から年1回開いてきた「打楽器の世界」の最終公演(実行委、市文化・スポーツ振興財団主催)が30日、函館市芸術ホールで開かれた。親しみのある音楽を多彩な打楽器で演奏し、打楽器の魅力や奥深さを披露。公演名にふさわしい内容で幕を閉じ、来場者は惜しみない拍手を送った。

 3部構成で、第1部は公募による市内や道外の小学生から一般が出演。アフリカ太鼓の登場や、足で鈴を鳴らしたり、マーチングなどのパフォーマンスなどが繰り広げられた。10年前、市内の演奏家14人で船出した公演だが、1部だけでも約80人が出演。打楽器のすそ野を広めるという公演のねらいを果たした。

 第2、3部は実行委約20人によるステージ。マリンバ、パーカッションなど、豊かな響きで来場者の心を温めた。最後はバレエ音楽「ボレロ」。同じメロディーを木魚や函館白百合学園高校吹奏楽団によるトーンチャイムなどで奏でたほか、一つの打楽器を違う奏法で演奏するなど、打楽器音楽が持つ可能性を伝えた。

 市川須磨子実行委員長は「10年続けられたのはメンバー、財団、お客様のおかげ。次の方向性を決め、新たに楽しみを広げていけるよう、このひと区切りは発展的終了であることを誓います」とあいさつ。引き続きアンコールで「ブラジル」を演奏。観客はこの日の感動をしっかりかみしめるように、期待を込めて拍手を送った。(山崎純一)