2008年4月30日(水)掲載

◎企画 函館の昭和(3) 函館港
 色鮮やかな紙テープと歓声に包まれる埠頭(ふとう)。北洋漁業に向かう船の出港シーンだ。最盛期だった昭和30年代には500隻以上という大船団が往来した函館港。函館の繁栄を支えた北洋漁業の船や青函連絡船の姿は、昭和が終わりを迎えようとする1988年、ともに消えた。

 北斗市七重浜の道写真協会道展審査会員、吉江和幸さん(64)は68年からカメラを持つ。写真を始めたころ、周りから受けたアドバイスは「北洋漁業の船団を撮れ」だった。毎年春、出港や帰港時はまちがにぎわった。船員と家族は別れを惜しみ、帰還を喜び合う。船が行き交う勇壮なシーン…。数え切れないドラマが港のあちこちで展開され、カメラを持って走り回ったという。

 「港をめぐる人間ドラマは、時を超えてよみがえるだけ。港町ならではの活気、感動という被写体がないのは寂しい限り」。吉江さんは古い写真を見つめる。


◎企画 迷走!新医療制度(下)…周知不十分 減らぬ相談
 期高齢者医療制度が始動した1日から、保険料の年金天引きが行われた15日までの間、函館市役所をはじめ道南の各市町にはお年寄りからの相談や苦情が殺到し、担当職員が対応に追われた。その後も相談は相次いでいる。

 対象者にとって気掛かりなのは保険料の天引き額。所得に応じて個々で異なり、前年度の所得が確定する7月以降に徴収額が決まるという状況下での天引きだけに、担当職員は対応に苦慮した。「国の決めた制度で頭を下げるのはいつも地方職員」。口をついて出るのは国の対応に対する不満だ。

 新制度始動に伴い、保険料の誤徴収が相次いだ。道後期高齢者医療広域連合によると、28日現在、道内で誤って保険料を徴収した自治体は北見市や恵庭市など16市町448件で、金額は約244万円に上る。渡島、桧山管内からの誤徴収はないが、函館市では非加入申請者など対象外の高齢者計9人から徴収したケースがあった。4月の年金天引きに合わせ、電算処理の期限を1月上旬としていたことから、期限後に非加入の申請や資格の喪失があり、処理が間に合わなかったためだ。

 市内の病院でも、制度が始まった当初、廃止となった老人医療受給者証を提示する対象者がいたが、今のところ目立った混乱はない。

 高齢者の不安や不満のほこ先は制度そのものだけでなく、国をはじめ行政の対応にも及ぶ。国の方針が各市町村に示されたのは昨年10月で、その後、同広域連合で保険料の算定方法が決まったのは同11月。市町村単位による住民説明会が本格的に開かれたのは今年に入ってから。制度の周知、準備が後手に回ったまま、制度だけがスタートしてしまった感は否めない。

 制度の廃止を訴えている函館地方社会保障推進協議会(堀口信会長)は「制度が十分周知されないまま始動させるべきではなかった」と指摘する。

 27日に山口県で行われた衆院補欠選挙で、制度の中止・撤回を訴える民主党の候補が当選した。同制度に対する不満が表れた結果との指摘もある。市内の70代の男性は「政権争いの道具になっては困るが、制度について議論する必要があるのでは」と話す。

 制度創設の趣旨は、高齢者が安心して医療を受けられる体制づくりだったはず。同制度の先行きが依然、不透明な中、この狙いが実現するまでの道のりは遠い。(鈴木 潤)


◎松前さくらまつり開幕
 【松前】ソメイヨシノやナデンなど250種、1万本のサクラが楽しめる「第61回松前さくらまつり」(実行委主催)が29日、松前町松城の松前公園一帯で始まった。初夏の道南を代表する観光イベントで、満開となったかれんな花びらが潮風に揺れ、舞う光景に、大勢の来場者が魅了されていた。同まつりは5月18日まで。

 この日は開幕に先立ち、松前城の後ろにある松前神社で、疋田清美実行委員長や前田一男町長らによる安全祈願祭が行われた。戦国時代をほうふつさせる音楽が流れる中、風情ある甲冑(かっちゅう)をまとった約30人の「武者行列」が園内を勇壮に歩き、まつりの開幕を告げた。

 サクラは3月30日に冬ザクラ、4月22日にソメイヨシノが開花した。3月から4月上旬にかけて比較的暖かな気候が続いたことから、開花は全体的に例年より7―9日早いという。

 園内では地元商工会関係者がウニやアワビなどの特産を並べた屋台を出店。「けさ、水揚げしたばかり」「おいしい食べ物で花見を楽しんで」と威勢の良い掛け声が響き渡り、各店には長い行列ができた。

 家族8人で厚沢部町から来た山田善之さん(63)は「孫と一緒に楽しい時間を過ごした。天気も良くて最高」と話し、孫の厚沢部館中2年の祐奈さん(13)は「サクラの淡い色が好き」と笑顔を見せていた。(田中陽介)


◎愛情あふれる1066通…「夫婦桜」命名記念 夫婦の手紙全国コン
 【松前】サクラの名所松前公園では、ことしもサクラが満開を迎えた。松前城近くで肩を寄せるように仲むつまじく咲く巨木のサクラは昨年5月、「夫婦(めおと)桜」と命名された。この命名記念に実施された「『夫婦の手紙』全国コンクール」(実行委主催)の審査会がこのほど、松前町民総合センターで行われ、応募総数1066通から、他界した伴侶に変わらぬ愛情を寄せた金沢市の西森茂夫さん(84)の作品が最優秀賞に輝いた。入賞作品は5月11日午前11時から、夫婦桜の下で朗読される。

 ソメイヨシノと八重ザクラを接ぎ木した夫婦桜は樹齢75年。一重と八重のサクラが太い1本の樹木で結ばれ、長い間町民らに大事に扱われてきた。命名後、町は国内でも貴重なサクラを全国に広くPRしようと、昨年11月に同コンクールの実行委を立ち上げた。疋田清美実行委員長(松前観光協会長)を中心に、商店街のメンバーや町職員らが準備に取り組んだ。

 町のホームページでも周知した結果、国内各地はもとより、米国からも「手紙」が届いた。一様に「開催趣旨に共感した」という温かな励ましの声も添えられていた。

 審査会には町民100人が参加。2人1組で作品を読んで審査を進めたが、心の琴線に触れる作品が多く、会場ではすすり泣く町民の姿が見られた。実行委員の一人、町職員の小川佳紀さんは「こんなに感動するとは思わなかった。涙が止まらない」と目頭を押さえていた。

 最優秀賞の西森さんの作品の題名は「亡き妻へ」。サクラが好きだった妻が5年前にガンで入院する際、「ここの桜はきれいね。今年は見られないかも」と話し、2カ月後にそれが現実になったこと、サクラ並木で偶然出会った妻の妹が在りし日の妻の姿と重なったことなどをつづり、「ぼくの妻はきみだけ。天国にも桜は咲いていますか」と問い掛け、締めくくっている。

 応募作品の一部を集めて本にする計画もあり、実行委は「この感動を多くの人と共有したい」としている。朗読発表会は誰でも参加できる。問い合わせは実行委(町役場内)TEL0139・42・2275。(田中陽介)


◎大沼で湖水、駒ケ岳安全祈願祭
 【七飯】観光シーズン本番を迎えた七飯町の大沼湖上と湖畔で29日、湖水安全祈願祭と駒ケ岳安全祈願祭(大沼観光協会など主催)が行われた。町内外から約450人が出席し、大沼国定公園内の安全と駒ケ岳の平穏を願った。

 本来、湖水安全祈願祭と駒ケ岳開山祭を併せて開催していたが、1998年の駒ケ岳の入山規制以降は安全祈願祭として続けている。

 この日は約40年ぶりに、松前の大館館主、相原周防守政胤の碑を建立し、湖全体を見渡せる相原島で、堀元大沼観光協会長や中宮安一七飯町長らが玉ぐしを捧げた。同碑は1903年の建立当時、地元住民らが訪れ、観光客の増加を願ったが、戦後は途絶えていた。

 その後、堀会長、中宮町長は参加者とともにフェリーで移動し、湖の中心でかぎ型のプレートを投げ入れ大沼を“開錠”した。駒ケ岳神社でも神事が執り行われ、堀会長は「秋までの静穏と洞爺湖サミットの成功を祈りたい」とした。

 終了後は「北海道洞爺湖サミット・おもてなしクリーンアップ運動」「シーニッククリーン作戦」と連動し、湖畔一周を清掃。参加者はサクラや新緑を楽しみながら、丁寧にごみを拾い集めていた。(笠原郁実)


◎函館で震度4…北斗で1人けが
 29日午後2時26分ごろ、青森県東方沖を震源とする地震があり、函館市内で震度4を記録した。気象庁によると、震源の深さは約60キロ、地震の規模を示すマグニチュード(M)は5・5と推定される。

 この地震発生直後、北斗市七重浜4のスーパー「ダイエー上磯店」(石井達也店長)では、天井にある電気配線カバーを支える金具の一部が約4メートル下の通路に落ち、買い物に来ていた函館市内の女性(34)の頭などを直撃した。女性は頭部を約3センチ切るけがを負い、函館市内の病院で手当てを受けた。

 ダイエー広報部などによると、落下した部品は長さ約1・2メートル、奥行き約4センチ、重さ約1・5キロのステンレス製。専門店街の通路の上にボルトで固定されて設置されていた。同広報部は「原因については調査中」としている。

 各地の震度は次の通り。

 ▽震度4=函館市泊町▽震度3=同市美原、北斗市中央、森町砂原、知内町重内、木古内町木古内▽震度2=函館市尾札部町、北斗市本町、七飯町本町、森町、鹿部町、長万部町、福島町、江差町、上ノ国町大留、厚沢部町、乙部町、今金町、せたな町北桧山区徳島▽震度1=八雲町、松前町、知内町小谷石、上ノ国町湯ノ岱、せたな町瀬棚区本町