2008年5月11日(日)掲載

◎企画【ありがとう 母の日に寄せて】(4)
視力障害センター学生・内海幸恵さん(20)、母やし子さん(51)
 振り返ってみると、生まれて20年間、“ありがとう”の五文字を伝えたことがなかった―。「いざ声に出そうと思っても何だか照れくさくて言えず、『母の日』にはいつも胸の中で感謝を伝えていた」

 交通事故で父親が他界して以来、女手ひとつで育ててくれた。睡眠時間を削りながら働いても、家事をおろそかにしたり、辛そうな表情を見せたことは一度もない。休日には二人で買い物に出掛けるのが楽しかった。

 高校3年のとき、交通事故で失明し、事実を受け入れることができずに自暴自棄になった。「そんなときに支えてくれたのが母親だった」。多忙な仕事を抱えながらも看病を続けてくれた。何でもしてくれる―という状況が当たり前に感じていたとき、病室ですすり泣く母の声を聞き、胸が締め付けられた。「事故のせいで、こんなに悲しませてしまった」。失明したことよりも母に対する謝罪の気持ちでいっぱいだった。

 19歳で宮城県東松島市の実家を離れ、国立函館視力障害センター(函館市湯川町1)に入所。離れてからも電話やメールで連絡し合う。時折、高校時代に毎日作ってくれた弁当の味を思い出す。“母の味”が懐かしい。「玉子焼きは甘くて、ふっくらとしていて抜群においしい。食べたいなぁ」と笑う。帰郷したら肩もみをしてあげたい。ことしの「母の日」こそ、携帯メールで20年間の感謝の気持ちを伝えようと決めている。

 遠く離れた母へ―。「いつもありがとう。辛いときは無理しないで休んでね。いつかお母さんみたいな親になれたらいいな…」。ぎゅっと携帯を握りしめた。(小橋優子)


◎函館市出前講座、「高齢者医療」4月は6回/新制度で関心高く
 函館市が実施している出前講座で、本年度は「高齢者の医療」に関する開講が突出して多い。後期高齢者医療制度のスタートで市民の関心が高く、市医療助成課によると、4月だけで6回開催し、9日現在で予約が12件入っている。昨年度の開催は8回といい、同課は「新制度を周知する貴重な場。講座を通して理解を深めてもらいたい」と話している。

 出前講座は市の業務や制度についてテーマを設け、要請に応じて担当職員が無料で町会や学校、各種団体を訪れて開いている。「高齢者の医療」は4月だけで老人クラブや経済団体、市議会の会派、福祉団体などを対象に開いた。予約は町会や介護関係の事業所、介護問題を考える市民団体などから入っている。

 同課によると、対象者の年齢や職業などで質問や関心に幅がある。75歳以上の対象者や家族は保険料や医療機関のかかり方などについて、介護事業者からは、介護保険を利用する後期高齢者の制度上の変化などについて、質問があるという。講座は制度的な説明が中心となるため、個人的な質問は後日、担当者が回答している。

 新制度の周知期間が短かったことや、原則として75歳以上の全員が保険料を負担することなどについて、厳しい意見も寄せられる。「本来は国に言うべきことだが」と断ってから苦言を述べたり、意見が参加者の中で議論に発展するケースも見られるという。

 それだけ新制度について、函館でも市民の関心は高い。講座はおおむね10人以上のグループを対象に開き、北海道後期高齢者医療広域連合が作製したスライド資料を使って説明している。

 後期高齢者医療制度についての出前講座の予約は医療助成課(TEL0138・21・3185)と広報課(同21・3630)で受け付けている。 (高柳 謙)


◎イカゴロ海中還元再開、波高くあすに延期
 【乙部】乙部町豊かな浜づくり協議会(会長・寺島光一郎町長)は10日、道から中止を求められたため4月から休止していたイカゴロ(イカ内臓)の海中還元試験の再開を決めた。

 10日には、館浦沖約500メートルの水深約8?の海底に置いた、鉄製のカゴにネットで包んで飛散を防止した冷凍イカゴロ100メートルを入れる予定だったが、波が高く作業が困難となり12日に延期した。

 試験を行う町内の漁業者と町は、関係省庁や弁護士と協議。道の規制は国の法解釈を逸脱しているほか、道には試験を許認可する権限そのものがないとして「独自の法解釈で試験の許認可などを定めた道通達そのものが違法」と判断。道からの正式通知を待たずに再開に踏み切る方針を決めた。

 同協議会は昨年度、同町沖の3カ所でイカゴロの海中還元試験を実施してきたが、本年度の事業計画では、6カ所程度に試験海域を拡大する方針。3月末までの試験では、これまで海藻がなかったカゴの周辺で、ホンダワラなどの藻場が形成されるなどの効果が確認されている。

 道はこれまで、許可制としていた試験実施について、道に規制の権限がないことを認め、今後は行政指導や届け出制による試験実施を容認する方針だが、こうした対応について地元に連絡がない状態。このため、漁業者による試験再開は、国は適法としているが、道の制度上に限り“違反状態”となる。

 寺島町長は「試験に許認可が必要とする道通達はまだ生きている。法的根拠のない通達こそ違法。一刻も早く改正して、漁業者による試験が円滑に実施できるよう対応すべき」としている。(松浦 純)


◎企画【いよいよ始動 新行財政改革・上】
職員650人削減/実現へ新規採用控え
 函館市は本年度から5年間の新たな行財政改革で、650人の職員削減と160億円の効果額を生み出す目標を掲げた。どうやって職員を減らすのか、効果額とは何か、どのような市役所になるのか―。国をはじめ全国の自治体で行われている「行財政改革」について、市の新計画を見ながらその特徴を考える。

 病院局を除き、昨年度3060人いた職員を、本年度から5年間で2410人に削減する計画。

 例えば年収800万円の職員が100人減ると、1年間で8億円の人件費を抑えることができる。これが5年間続けば単純計算で累積40億円となる。これが「人員削減による効果額」だ。市は650人の削減で人件費の累積効果額を104億円とした。

 なぜ職員や人件費の削減が急がれるのか。それは函館市の住民1人当たりの職員数や人件費が中核市35市の中で最も高く、財政難の中で人件費が他の予算を圧迫しているためだ。2006年度の人口1人当たりの人件費(普通会計ベース)は年間8万9433円で、中核市平均は6万6589円。これを5年後に中核市平均まで下げる目標。

 人件費を抑制するには@職員削減A給料そのものの削減―のどちらかしかない。昨年11月の移動市長室で、市民から「市職員の給料が高すぎる」との指摘があった。西尾正範市長は「職員の数を減らして給料の総額を抑える対策を進めており、これから職員はもっともっと働きます」と述べ、理解を求めた。

 市は職員削減だけでなく、給料も事実上削減している。市長や副市長ら特別職は10―8%の給料カット、一般職は管理職手当の5%カット、新給料表の導入や特殊勤務手当の全廃などをしている。

 職員削減は、新規採用を抑えることで実現し、職員の「首を切る」わけではない。ここ数年は、退職者100人以上に対し、新規採用は10人程度に抑えてきた。この「退職者不補充」は新計画でも続く。退職で人員が欠けても、残った職員で仕事をこなしていかなければならない。

 職員削減による人件費抑制効果104億円のほか、仕事の見直しや経費節減で47億円、市税収入の収納率向上や手数料の値上げなどで9億円を見込み、これで5年間の効果額が160億円となる。職員が汗を流しながら、手数料の値上げなど市民にも“痛み”を分かち合ってもらうのが、函館市に限らない「行革の姿」だ。 (高柳 謙)


◎金森ホール20周年記念コンサート/フラメンコとクラシック融合
 金森赤レンガ倉庫20周年記念コンサート「SPAIN@HAKODATE 伊藤亜希子meets永倉麻貴」が10日、金森ホールで開かれた。フラメンコ舞踊とクラシック音楽のコラボレーションで、独創性と情熱にあふれるステージが展開された。

 約10年前から親交のある函館在往のフラメンコ舞踊家永倉麻貴さんと、ピアノ奏者伊藤亜希子さんらが出演。伊藤さんの多彩な表現力あるピアノに、永倉さんが喜びや恋などさざまな感情を盛り込んだ踊りを振り付けした。熱い気持ちをかき立たたせながら緊張を感じさせる場面など、2人の高い技術が生んだ新しい芸術に観客は酔いしれた。

 このほか、ギターの山内裕之さん、パーカッションの小田桐陽一さんが悲哀に満ちた「ソレア」を演奏した後、2人に永倉さんが加わり明るい恋の歌「アレグリアス」を披露。感情の表現が美しいフラメンコの魅力を紹介した。

 ファリャのバレエ音楽の「恋は魔術師」では、伊藤さんがゆったりした長調を奏でる中、赤い衣装の永倉さんが悪霊を払う炎の舞いを披露。永倉さんが主宰する「フラメンコ・ロルカ」のメンバーも出演し、多彩な展開を見せていた。 (山崎純一)


◎はこだて菜の花プロジェクトが菜の花の苗進呈
 菜の花から種(菜種)を取り搾油できることを知ってもらおうと、はこだて菜の花プロジェクト(石塚大代表)は10日、函館市中野町の函館酪農公社隣接地で菜の花の苗を申込者に進呈した。実際に取った油でキャンドルを作り、エネルギーを生む花の魅力をPRした。

 同プロジェクトは2003年2月に発足。菜の花は函館ゆかりの豪商・高田屋嘉兵衛が好み、料理やエネルギーに使える菜の花を広く市民が育て、環境や地域、歴史に対する考えを深めてもらう活動を続けている。毎年同所の畑で花の栽培をしているが、身近に魅力を感じてもらおうと苗を進呈することにした。

 対象はキャンドルなど明かりを使う催しをする団体など。約70鉢を用意し、この日は約10団体が訪れた。黄色い花を咲かせた鉢の前には、キャンドルがハートを描き、訪れた人は菜種のにおいと幻想的な輝きを楽しんでいた。

 石塚代表(41)は「食、地球環境、エネルギーに対し菜の花はそれぞれで活躍するため注目されている。菜種で取った油による明かりが市内に広がっていくのは楽しみ」と話していた。 (山崎純一)