2008年5月24日(土)掲載

◎【企画・映画と私の物語】第3部「渡り鳥シリーズ」(5)…野島 邦夫さん
 閉館の日、200席余の座席はほぼ満席だった。皆、感慨深げに銀幕を見詰めていた。

 赤い夕陽よ 燃えおちて
 海を流れて どこへゆく…

 小林旭の歌声が響き、スクリーンに昔の函館の街並みが映し出される。市内松風町にあった「函館映劇」が最後の上映に選んだのは「ギターを持った渡り鳥」だった。

 「これで終わりか…、なんて思いながらフィルムを回した」。函館映劇の映写技師だった市内に住む斉藤裕さん(50)は“最後の日”をしみじみと振り返る。2004年3月21日、まだ肌寒い初春の日だった。

 函館映劇は「大門日活館」から1955年に改称して開館した。84年に全面改築し、縦5・5メートル、横11メートルの大型スクリーンが売りだった。

 76年から函館映劇で働いていた荻沢忍さん(64)は、映画最盛期のころを鮮明に覚えている。「普段は洋画、夏休みや冬休みは子供向けの映画が人気で、朝から映画館前に人が並んだ。休む暇なんてなかった」という。

 カメラ関係の仕事に就いていた斉藤さんは、新聞広告の「映写技師募集」の文字に引かれて91年に転職した。入ってみると、映写技師は自分と技師長の2人だけ。機械の扱いをゼロから学び、時間交代で勤務に当たった。

 「『ボディガード』は半年ものロングラン上映、『ハリーポッター』は立ち見や入場制限も出るほど人気だった」。今ではすべてが懐かしい風景になった。

 函館映劇は市内でも古いなじみの映画館として親しまれていたが、業績不振や土地の賃貸契約が切れることなどから閉館が決定した。赤やオレンジの派手な外観に改装した数年後だっただけに、驚き、惜しむ声も多かった。

 最後の2日間に企画した「さよなら上映会」のラインナップは「飢餓海峡」(64年、東映)「赤いハンカチ」(64年、日活)、そして「ギターを持った渡り鳥」。往年の映画ファンや市民サービスにと函館ゆかりの作品を集めた。年配客も多く訪れた。

 消えゆく劇場で、往年の映画スターと、活気にあふれた故郷のかつての情景を見ながら、観客は何を思ったのだろう。

 小林旭の歌は続く。

 ギター抱えて あてもなく
 夜にまぎれて 消えてゆく
 俺と似てるよ 赤い夕陽…

 「随分人通りもなくなった」。今は駐車場となった映画館跡地で、荻沢さんと斉藤さんは寂しげな表情を見せた。(新目七恵)


◎函館市栄誉賞に廣瀬さん…地元出身・作曲家
 函館市の西尾正範市長は23日、函館出身の作曲家、廣瀬量平さん(77)=京都市在住=に「函館市栄誉賞」を贈呈すると発表した。同賞の贈呈は2001年1月の二上達也さん(プロ棋士)以来7年ぶりで、今回で7人・組目となった。廣瀬さんは「大変うれしく思う。あらためて函館の人々に感謝しています」と受賞を喜んでいる。

 廣瀬さんは1930年、函館で生まれた。北大卒業後の53年に上京、55年に東京芸大に入学、作曲科を専攻。61年の同専攻科修了同時に作曲活動を始めた。

 発表した作品はオーケストラや合唱曲、邦楽などと多岐にわたり、函館をテーマにした「はこだて賛歌」や混声合唱組曲「海鳥の詩」など数々の名曲を発表。77年には、「尺八とオーケストラのための協奏曲」で、作曲家に与えられる国内最高峰の「尾高賞」に輝いた。

 函館市内では97年から2001年まで「フルート・クリニック」を開講し、フルート奏者の育成、地域文化の活性化に努めた。97年には紫綬褒章、今年4月には旭日小綬章を受章した。

 市役所内で開かれた選考委員会で選ばれ、西尾市長が決定した。贈呈理由について、西尾市長は「廣瀬さんとかかわりの深い市文化・スポーツ振興財団が設立20周年、母校の函館柏野小学校が創立80周年を迎え、一つの節目に当たる。これまでの功績と今回の叙勲の栄誉をたたえた」と述べた。

 廣瀬さんは「私の音楽の根は函館の風土とつながっていると思う。これからも今の時代にふさわしい作品を作曲し、世界に広がっていければ」とコメントを発表した。

 同賞は1990年創設。さまざまな活動で顕著な業績を残した市民や市にゆかりのある個人、団体を対象に贈呈。これまでは二上さんのほか、益田喜頓さん(喜劇俳優)と山口圭司さん(プロボクサー)、辻仁成さん(作家)、北島三郎さん(歌手)、GLAY(ロックバンド)が受賞した。(鈴木 潤)


◎類家さん 最高位…国内屈指のピアノコンクール
 函館市出身でドイツのハノーファ音楽・演劇大学在学中の類家唯(るいけ・ゆい)さん(23)がこのほど、神奈川県横須賀市で行われた「第2回野島稔・よこすかピアノコンクール」で最高位の第2位(1位なし)に輝いた。類家さんは「本選の9人に選ばれただけでも信じられなかったのに、まさか最高位を受賞するとは思っていなかった。この結果を自信にして自分の音楽性を磨いていきたい」と話している。

 4歳からピアノを始めた類家さんは、函館市青少年芸術奨励賞の金賞を函館付属中3年時と函館東高3年時の合わせて2回受賞するなど、早くから豊かな才能を発揮。京都市立芸術大学在学中の2007年には、千葉県木更津市で行われた「第6回かずさアカデミア音楽コンクール」のピアノ部門で優勝。同年秋からドイツ留学しているが、今年6月に行われるかずさコンクールの受賞記念演奏会に出演するため今月上旬に帰国。よこすかピアノコンクールには、帰国中の力試しの意味で出場することを決めた。

 同コンクールは世界的なピアニスト・野島稔さんを審査委員長に、神谷育代さん、野平一郎さん、迫昭嘉さんなど第一線で活躍するピアニストが審査員を努めており、国内でも屈指の難関として知られる。類家さんは「昨年のかずさコンクールに比べても参加者のレベルが高かったので、予選を通過できるかどうか不安だった」と振り返る。

 しかし、テープ審査を通過した73人による第1次審査、27人がベートーベンのソナタで競う第2次審査を見事にクリアし本選の9人に残った類家さん。30分の持ち時間内に演奏者本人が自由に作品を選択できる本選では、JSバッハ作曲の「平均律クラヴィーア曲集第1巻から第12曲ヘ短調」と、ラフマニノフ作曲の「ピアノソナタ第2番変ロ短調」を演奏した。中でも類家さんがもっとも強い興味を抱いているラフマニノフの作品は「大勢の観客を前に楽しんで弾くことができた」と会心の出来栄えで、埼玉県出身の濱野与志男さん(19)と最高位の2位を分け合った。

 審査委員長の野島氏から個性的な演奏スタイルと音楽性について高い評価を受けた類家さんだが、実はコンクール直前に体調を崩し一時は出場を辞退することも考えたという。類家さんは「あきらめずに挑戦してよかった。来年は受賞記念のリサイタルにも出演できる。1時間半のプログラムで何を演奏するか今からじっくり考えたい」と喜びをかみしめる。

 6月8日に行われる、かずさコンクールの受賞記念コンサートではチャイコフスキー作曲のピアノ協奏曲第1番に挑戦。プロのオーケストラと共演するのは初めての経験だが「今回のコンクールでの経験を生かして、力いっぱい弾ききりたい」と気合は高まる。

 現在函館市内の実家に滞在中の類家さんは「近いうちに函館でリサイタルを開き今までお世話になってきた人たちに恩返しがしたい。そのためにはまだまだ自分の音楽性を高めていきたい」と意欲を見せている。(小川俊之)


◎日新電子も土地取得へ…臨空工業団地
 機械製造業の日新電子工業(東京、社員110人)が函館臨空工業団地(函館市鈴蘭丘町)に土地を取得し、X線分析装置の研究・製造を行う新工場を整備する。同社は同市内日吉町に函館研究所(後藤武所長、社員11人)を構えており、新工場完成後に研究所を移転する計画。西尾市長は「食品製造過程などで異物が混入していないかを調べる機器を開発しており、水産加工が盛んな函館にとって有益な企業」と話している。

 西尾市長が23日の記者会見で発表した。先月、観光土産品卸売・製造業の北海道ロビアン商事(札幌)が7年ぶりに同工業団地の土地を取得することが明らかになり、2カ月続けての企業進出、移転の発表となった。

 発表によると、日新電子工業が取得する土地は2726平方メートル(826坪)で、分譲価格は2726万円。関係議案を6月定例市議会で議決後、新工場を建設する。規模や開業時期は未定だが、函館研究所と所員が移るほか、未来大や函館高専などから優秀な人材を採用したい考え。市工業振興課は「函館の製造業振興につながる」と期待する。

 市は昨年8月、同工業団地の分譲価格を1平方メートル当たり約1万7000円から1万円に引き下げた。西尾市長は「分譲価格の引き下げで、他都市との競争力が付いた。優秀な人材を確保し、製造ラインを拡大したいとしており、特殊だが堅実な製造業」と語った。(高柳 謙)


◎輸出入総額 過去2番目…4月の函館港
 函館税関は23日、4月の函館港貿易概況を発表した。輸出は鉄鋼のくずが全体の数字を押し上げ、前年同月比2・7%増の30億200万円と2カ月連続のプラスで、輸入は船舶の全増により、前年同月の10・9倍に相当する96億8300円と3カ月ぶりに好転。輸出入の総額は、1979年11月の268億円に次ぐ、過去第2位を記録した。

 輸出の品目別では、パナマ向け貨物船1隻のあった船舶が同16・5%減の22億5100万円だったほか、前年同月にあったタラなどの魚介類・同調製品(500万円)が全減。しかし、韓国向けの鉄鋼のくずが、前年同月の3・5倍にあたる6億4800万円、漁網が2・3倍の8100万円になるなど、減少分を補った。

 輸入は、前年同月にあった小麦・メスリン(1億5700万円)と動物性油脂(1億2700万円)が全減。一方で、オーストラリアからの船舶(84億2900万円)が全増したほか、石炭が前年同月の5倍にあたる6億2400万円、イカなどの魚介類・同調製品が同29・8%増の3億1900万円となるなど、好調さが目立ち、総額は過去第3位だった。

 また、道内の貿易概況は、輸出が同8・4%増の353億9300万円と6カ月連続のプラス。鉄鋼が同0・4%減の69億1300万円に落ち込む反面、原動機などの一般機械が同11・4%増の60億1600万円、無段変速機などの自動車の部分品が同57・3%増の42億6900万円と伸びを見せた。

 輸入は、原・粗油が同28・1%増の670億8100万円、石炭が前年同月の3・8倍にあたる155億2100万円など、取扱額上位の品目が好調で、全体では同31%増の1334億5300万円。8カ月連続のプラスで、過去第3位の高水準だった。(浜田孝輔)