2008年5月9日(金)掲載

◎企画【ありがとう 母の日に寄せて】(2)
ポルトガル人留学生 アナ・ローザさん(31)、母マノエラさん(59)
 母国ポルトガルを離れて6年―。遠い異国の地・日本で学生(北大大学院)を続けられたのは母のおかげ。「母の電話やメールがいつも力を与えてくれた」と感謝する。

 ポルトガルでは大学で学んだ水産関連の就職先がなく、やむなく小学校教員の道へ。25歳のとき、母から日本の文部科学省の奨学金制度への応募を勧められた。「初めからあきらめずチャンスを生かして」と母に背中を押され、留学への切符をつかんだ。

 女手ひとつで育ててくれた祖母を思い、好きな勉強をあきらめて就職した母。「自分ができなかったことを娘にさせてくれた」と思う。姉もアンゴラで保育士になり、離れ離れの娘たちをそっと応援してくれている。共働き家庭だったが、昼休みを短縮して仕事を早く切り上げ、放課後は家にいてくれた。「さみしい思いをしたことはない。いつも心配してくれた」と振り返る。

 卒業が1年延びることになった昨年、帰国を考えていたとき、心配して日本に来てくれた。「もちろん帰ってきていいよ。でもここまで頑張ったのにいいの?」。いつも母はさりげなく励まし、味方をしてくれる。「今では日本に来て良かったと思う」。

 手作りのクリスマスカードも届くし、電話では何でも話せる良き理解者。いつも母が最後に言う言葉は「体に気をつけて」。「帰って来て」とは口に出さない。「本当は帰ってきてほしいはず。でも安心させるために言わないの」と笑う。卒業後はポルトガルで仕事に就くつもり。「帰国したら一緒に海へ出かけるのが今から楽しみ」。故郷オエイラスに似た港町・函館で母の顔を思い浮かべる。 (宮木佳奈美)


◎企画【サイベ沢の贈り物(中)】川の恵み 集落はぐくむ
 「たまたま通りかかったら、農道工事で壊されているのがわたしにも分かったんだよ。『これは大変だ』と思った」―。

 1965年11月末、亀田町農協(当時)の営農指導担当だった函館市議会議員、北原善通さん(71)は農道工事でサイベ沢遺跡の一部が壊されていくのを目撃する。「とても寒い日だった。サイベ沢はものすごい遺跡だとうわさで聞いたことがあったので、すぐに市立函館博物館に連絡を入れた」と、その時のことを鮮明に振り返る。

 連絡を受けた同博物館は同年12月4、5日に緊急調査を実施する。49年の調査地点とはサイベ川を挟んで北側に位置し、B遺跡と名付けた。一部は農道工事で削り取られ壊されていたものの、3カ所の竪穴住居跡を記録保存し、出土した土器などから、円筒土器文化終末期の縄文中期末まで存在していたことや、遺跡周辺にかなりの数の住居が存在することが推定された。

 この調査について、亀田町教委(当時)がまとめた報告書には、ウイスキーで寒さをしのいだとあり、同博物館に留学していた米国の考古学者アルバート・モア氏が「ミゼラブル(惨め、不幸の意)な発掘」と言いながらスコップを振るった―とも記され、寒さの中での急を要した作業だったことが示されている。

 72年にはサイベ沢の南側、中央卸売市場など函館圏流通センターの建設予定地約2万5000平方?を調査し、関連遺跡として約3万5000点の遺物を発見した。サイベ沢を中心に広い範囲に集落が存在していたとみられる。

 縄文時代の人たちは、なぜサイベ沢を居住地として選んだのか―。

函館市教委の田原良信文化財課長は「船を使って移動した縄文人たちが選んだのは必然的」と、地理的な要件を理由に挙げる。縄文遺跡は川沿いで、日当たりや見晴らしの良い場所によく発見される。サイベ沢は標高20―30?のなだらかな台地で、近くには常盤川、サイベ川が流れ、好条件だ。市立函館博物館の長谷部一弘館長は「今も温暖化が進んでいると言われるが、当時も気候が温暖であり、『縄文海進』という海水面が上昇する現象で、今より海岸線が内陸寄りだった。貝塚が見つかるのも海の恵みが豊富だったため」と説明する。

北原さんは市議会で何度か遺跡の本格調査を訴えてきた。「水がない場所に人は住まない。先人が苦労して沢に水を引いて、集落を築いてきたのではないか。何とか調査を進めてもらいたい」と、悠久の歴史に思いをはせる。(今井正一)


◎「公正な論評の範囲内」…前市長名誉棄損訴訟の初弁論
 昨年4月の函館市長選に絡んだ言動をめぐり、著しく名誉を傷付けられたとして、落選した井上博司前市長(71)が現市長の西尾正範氏(59)を相手取り、慰謝料など1100万円の損害賠償と新聞への謝罪広告を求めた訴訟の第1回口頭弁論が8日、函館地裁(東海林保裁判長)で開かれた。

 西尾氏側は「選挙期間中の言論は、原告個人の社会的評価を低下させるような事実はなく、名誉棄損に当たらない。人格攻撃を行ったものではなく、公正な論評の範囲内」などとし、請求の棄却を求める答弁書を提出、全面的に争う構えを示した。

 訴状などによると、西尾氏が助役時代の2006年12月と辞任後の07年1月に記者会見した際、(1)原則として許可されない市街化調整区域への有料老人ホーム建設計画をめぐり、井上氏が担当職員に再検討を指示した(2)井上氏が地元情報誌と癒着し、その主宰者が市政運営に関与している―と指摘。市長選前の同4月11日の集会で、(3)井上氏を時代劇になぞらえて「悪代官」と称して批判したことなどが名誉棄損に当たると主張している。

 答弁書によると、西尾氏は「悪代官発言」を認める一方、当時の井上氏の周辺人物を同様に時代劇に例えた発言については否認。西尾氏側の代理人弁護士は「いつどこで発言した内容が具体的に名誉棄損に当たるのか不明な点が多い」とした。

 これに対し、原告側の代理人弁護士は「西尾氏は市議会でも(時代劇に例えた)発言を認めているのに、ここに来てなぜ否認に転じるのか。その点も含め、井上氏の社会的評価を下げたことを弁論で明らかにしていく」と語った。次回期日は7月4日。


◎道の対応「越権行為」…イカゴロ問題・町が見解公表
 【乙部】乙部町内の漁業者を中心に実施しているイカゴロ(イカ内臓)の海中循環試験をめぐり、寺島光一郎乙部町長は8日、3月末に試験の中止を求めた道の対応が「法的根拠に基づかない越権行為」とし、責任の所在や問題の経緯を明らかにするよう求める見解を公表した。町は道独自の法解釈に基づく通達などで、同様の試験を他の市町村でも規制していないか調査するよう求めた。

 この見解を受けて漁業者は、3月から中断しているイカゴロの海中投入を近日中に再開する方針。町は(1)道の規制は環境省などの法解釈を逸脱している(2)道に試験を許認可したり中止を求める権限が無い―とし、道が試験中止を求めたのは不適切と指摘。さらに、道が法的根拠を持たないまま独自の通達や基準に基づき、他の市町村でも、漁業者が実施を求める同様の試験を規制している実態が無いか確認するよう要求した。

 町は4月3日に支庁再編をめぐる寺島町長らとの会談で、法的根拠を確認せずにイカゴロを活用した試験を「違法」と断言した佐藤俊夫副知事の責任も追及。寺島町長は「規制に風穴を開けるために政治生命を懸けてきた。イカゴロを活用した試験が最終的に違法と判断されれば町長を辞職して責任を取る」とし、道に対しても佐藤副知事の責任問題を明確にするよう求めている。

 この問題をめぐっては4月、高橋はるみ知事が漁業者に陳謝し、試験継続への支援を確約した。道は漁業者が実施する同様の試験事業について、海洋汚染防止法などに基づき、道が法的拘束力を持って規制したり許認可を行う権限が無いことを確認。4月18日に全面改正したばかりの水産林務部長通達についても「今後は行政指導の範囲で対応する」(同部)として再度見直し、従来の試験で水質汚濁などの影響が認められなかったイカゴロに限り、今後は漁業者の届け出制による試験実施を容認する方針を固めた。(松浦 純)


◎支庁再編 道民の姿勢で改革を…嵐田副知事と意見交換
 【江差】道の嵐田昇副知事と桧山管内の産業団体代表者が支庁制度改革について意見を交わす「地域意見交換会」が8日、桧山支庁で開かれた。道町村会などが改革に反対姿勢を打ち出す中、6月の第2回定例道議会への条例提案を目指す道側に対し、出席者は「道民の姿勢に立った改革とは言えない」と反発を強めた。

 産業経済団体の代表7人と、檜山支庁存続と権限機能強化を求める江差町連絡会議の辻正勝会長ら役員3人が出席。道側からは亀谷敏則檜山支庁長、川城邦彦地域主権局長らが同席した。

 飯田隆一檜山管内商工会連合会長は「管内では“オール檜山”での反対を決めた。現状の再編案では道民の理解は得られない」と主張。打越東亜夫檜山広域観光推進協議会長も「道が示す振興局の組織案は、度重なる修正で今の支庁に近付いている。なぜ14支庁のままで改革しないのか」とただした。

 浜野節夫ひやま漁協専務理事は「支庁から産業部門が撤退すれば道行政に大きな穴が開く。漁業者の気持ちも離れる」とし、辻会長も「管内では産業振興が緊急課題。総務部門は簡素にして、産業部門には手厚く職員を配置するなど、柔軟な支庁改革を検討すべき」と道側に迫った。

 嵐田副知事は「地域の思いを受けてやるべきことを模索する。各部も加えた議論でどのような出先機関の在り方が良いか道庁を挙げて議論する」として理解を求めた。

 道町村会、道町村議会議長会、道市長会、道市議会議長会の地方4団体が13日、道に支庁再編の見直しを求める方針を決めたことについて、嵐田副知事は「第2回定例会への提案は決定していないが、4団体による要請は大きな節目になる」とし、13日以降に高橋はるみ知事が最終的に判断するとの見通しを示した。(松浦 純)


◎豊崎B遺跡で本年度の発掘開始…埋蔵文化財事業団
 函館市南茅部地区の国道278号バイパス工事に伴う本年度の遺跡調査が始まり、8日から豊崎B遺跡(同市豊崎町231など)で発掘作業が本格的にスタートした。

 調査はNPO法人函館市埋蔵文化財事業団(佐藤一夫理事長)が函館開発建設部から請け負い、前身の任意団体「南茅部埋蔵文化財調査団」(旧南茅部町)だった1989年から道路建設予定地で実施し、本年度の2カ所で終了する。

 この日は作業員40人が4班に分かれ、竪穴住居跡と推測される地点をスコップなどで掘った。同遺跡の調査は昨年度からの継続で、本年度は約2750平方メートルの範囲が対象。縄文時代後期の半ばから終わりごろ(約3500―3000年前)の遺跡とみられ、昨年度の調査で竪穴住居跡が14件見つかった。このうち5件は焼失した痕跡が残っており、荻野幸男調査員は「火災か人が亡くなったときの儀式とみられ、ことしも同じような痕跡が見つかるのでは」としている。

 作業は6月末までで、7月から豊崎P遺跡(同209など)を調査する。(宮木佳奈美)


◎北海道新幹線 札幌延伸を明記…国交省分科会が「総合開発計画」了承
 【東京】国土交通省の諮問機関、国土審議会の第11回道開発分科会が8日、都内で開かれ、北海道開発の基本指針となる「新たな道総合開発計画」(2008年度―17年度)の最終案を了承した。同案には北海道新幹線の「新函館―札幌間」整備を明記した事業推進が盛り込まれており、新幹線の札幌延伸を目指す関係団体などの運動に弾みがつきそうだ。同省北海道局は同分科会からの答申を受け、5月中の閣議決定を目指す。

 同計画は人口減少やグローバル化、地球環境問題などの諸課題に対する戦略目標を掲げ、食料供給力の強化や観光振興など具体的な主要施策をまとめている。07年12月にパブリックコメント(意見募集)向けに公表された素案には「新函館―札幌」の記載はなかったが、分科会内での札幌までの区間明記を求める意見を受け、内容を見直した。

 その結果、道新幹線に関しては「着工区間の着実な整備を進める」との記述に加え、「それ以外の整備計画区間である新函館・札幌間について所要の事業を進める」とされた。

 同局は「北海道の将来を見通し、事実を書いた。整備計画区間の着工についての具体的な議論は政府・与党間で行われており、今回の記述はそうした動きを踏まえたもの」としている。(新目七恵)