2008年7月11日(金)掲載

◎「蟹工船」函館でも人気
 現代のワーキング・プアや格差社会など問題に通じるとして、若者を中心に全国的に注目を集めている作家小林多喜二(1903―33年)の代表作「蟹工船(かにこうせん)・党生活者」(新潮文庫)が、函館市内の書店でも好調な売れ行きを見せている。6月ごろから多くの店で例年の数倍の冊数が売れ、漫画版を扱う店も増えてきた。18日には七飯町内で映画「蟹工船」(1953年、山村聡監督)も自主上映される。

 「蟹工船」人気は、2月に多喜二没後75年を記念した読書エッセーコンテストが、多喜二の古里・小樽市で開かれたり、新聞などで特集記事が組まれたのがきっかけ。新潮社によると、例年5000冊程度の売れ行きだったが、ことしは既に約40万部増刷したという。

 公立はこだて未来大複雑系科学科の准教授で、経済学を研究する川越敏司さん(37)は「格差社会にいる人にとって、労働条件の悪さなどリアリティーを追求した部分は自己投影しやすく、訴えかけられる面が多い一方、労働者が主義主張を掲げて団結し、社会変革への夢を目指す部分は新鮮に映ったのではないか」とした上で、「現代の暗い社会の中で、一種の希望のように受け止められたのかもしれない」と分析する。

 棒二森屋アネックス館5階の「くまざわ書店函館店」(市内若松町)では、6月だけで文庫本が約40冊売れた。例年の売れ行きは年間2、3冊だったが、今は売れ筋コーナーに漫画版と一緒に並べている。四竃英俊店長(34)は「ドラマ化されてもいないのに、古い本がこれだけ売れるのは珍しい」と話す。

 一方、「三省堂函館川原店」(川原町)でも6月から文庫本が売れ出し、問い合わせが多いため漫画版も取り扱うことにした。従業員の岸田耕二さん(38)は「今まで読んだことのない年配者の方や20―30代の人も多く買う」と説明する。

 7、8年前に読んだという函館市の大学院生北村武文さん(29)は「フィクションとはいえ、自分の住む函館でこんな悲惨な状況があったのかと驚いた。この作品が共感を持って読まれるなんて悲しい時代だと思う」と話す。

 こうした状況を受け、「ピースシアターinななえ」(板谷順治代表)では18日午後6時半から、国道5号線沿いの七飯町大川コミュニティセンター(大川48)で映画「蟹工船」を無料上映する。函館でもロケした作品で、板谷代表は「なかなか見る機会のない映画からも、現代の社会問題を考えたい」と話している。上映の問い合わせは板谷さん?0138・65・0985。(新目七恵)

 蟹工船

 1929年に発表されたプロレタリア文学の代表作。函館を出港する漁夫の「おい地獄さ行(え)ぐんだで!」という方言で始まり、カムチャッカ沖で操業する蟹工船で経営者に酷使され、非人間的な労働を強いられる貧しい労働者たちの生活と闘争を描いている。映画版は独立ぷろ制作。森雅之ら出演。


◎市功労者に小笠原ら9人…函館市
 函館市は10日、2008年の市功労者9人を発表した。日本赤十字社函館市有功会長の小笠原金悦氏(81)、前函館市戸井消防団長の木村信氏(76)、元根崎漁業協同組合組合長の橘勲氏(75)、公立はこだて未来大学名誉教授の伊東敬祐氏(73)、北海道国際交流センター代表理事の山崎文雄氏(72)、前函館市椴法華消防団長の佐々木正俊氏(72)、函館市漁業協同組合副組合長の橘忠克氏(70)、前函館市医師会長の山英昭氏(67)、前北海道薬剤師会函館支部会長の鈴木明良氏(63)サ年齢順サ。表彰式は8月1日午前11時から市民会館小ホールで行われる。

 いずれも市の産業経済や保健福祉、防災などに長年にわたり貢献した公益功労。

 小笠原氏は赤十字活動のほか、函館商工会議所副会頭や函館木材協会会長などを歴任。地域の木材産業の振興発展に尽力してきた。木村氏は消防団員として地域の安全確保に貢献するとともに、保護司として更生保護事業の発展にも尽くした。橘氏は根崎漁協で生産するコンブの品質向上や市の水産資源増大にも貢献。伊東氏は2000年4月に開学した未来大の初代学長を4年務めた。

 山崎氏は地域の国際交流事業を推進し、市文化・スポーツ振興財団理事長も務めた。佐々木氏は漁業の傍ら消防団員として地域の防災に貢献。橘氏は合併前の根崎漁協組合長を務め、漁業振興に尽くした。山氏は市夜間急病センター所長や北海道医師会理事など数多くの要職を歴任。鈴木氏は北海道薬剤師会副会長も歴任し、保健医療の充実・発展に寄与している。

 西尾正範市長を座長とする市表彰審議委員会が選考した。市功労者表彰はことしで60回目。昨年までの被表彰者は個人578人、団体10。(高柳 謙)


◎犠牲者 新たに2人…函館空襲被害の戸井瀬田来地区 浅利さんが調査
 函館空襲を記録する会の浅利政俊代表はこのほど、函館空襲(1945年7月14、15日)の旧戸井町瀬田来(せたらい)地区の犠牲者を調べたところ、これまで旧戸井町史などにある「死者2人」が実は4人だったことが分かり、記載されていなかった犠牲者の名前や被害の状況も明らかになった。浅利代表は「地域における戦争の悲劇こそ克明に記録して伝え、平和について考える視点を確立しなければ」と話している。

 瀬田来地区は戸井線(戦争中に建設中止)のコンクリート製三連橋が残り、戦争中は臨時の砲台があったとされる。函館空襲に関する公文書は、青森や室蘭など空襲を受けた他都市と比べるとほとんどないとされており、浅利代表が30年前から各地で聞き取り調査などをしてまとめている。これまで戸井町史では瀬田来地区での死者は2人とされていたが詳細な記述はなく、浅利代表が本格的に調べることにした。

 浅利代表は6月、函館市内の男性から瀬田来地区の空襲経験者を紹介され、同地区に出掛け4人の証言を集めた。この中の一人の男性が、戸井町史などにある同地区での戦争犠牲者について疑問を持っており、その男性が家の「過去帳」を浅利さんに見せたところ、15日の空襲でその家の主(あるじ)や子どもが即死、ほかに一人が病院搬送後に死亡と書かれていた。

 さらに男性は「近所で、臨月間近だった女性が空襲で重傷を負い、16日に胎児がいるままに死亡している」と説明。そのほか同地区で聞き取り調査をしたところ、重傷を負った女性が血を流しながら病院へ向かっていたことが分かり、「同地区の犠牲者は4人」と分かった。

 さらに浅利代表は「瀬田来沖で海防艦が沈没し、193人の犠牲者がいることが明らかになろうとしている。慰霊祭までにまとめ、調査で分かった人たちと合わせて霊を慰め、平和を願う気持ちを新たにしたい」と話している。

 空襲慰霊祭は14日午後2時から函館市船見町の称名寺で開かれる。(山崎純一)


◎願いを込め千羽鶴作り…港小児童240人参加
 戦争の悲惨さを考えてもらおうと、2005年度からPTAや児童らによる千羽鶴作りに取り組む函館港小学校(鳴海順二校長、児童502人)で10日、1、2、5年生対象の戦争に関する講演会や読み聞かせなどが行われた。児童約240人が参加し、平和への思いを込めて合同の折り鶴作りにも励んだ。

 この取り組みは05年度、当時2年生の保護者らが企画。その後も毎年、その学年が継続し、今回初めて1、2年生が加わった。各家庭でも作ったり、学区内外からの寄贈も受けて既に約3万6000羽が集まっており、14日には函館市役所に届ける予定。

 前半、5年生76人は元函館市市史編さん室室長の紺野哲也さん(61)による講演「函館空襲は連絡船攻撃だった」に耳を傾け、1、2年生計165人は保護者による大型絵本「かわいそうなぞう」の読み聞かせを聞き、当時の状況に思いをはせた。この後、参加者全員が体育館に集まり、合同で折り鶴作りに挑戦。低学年の児童たちは5年生に折り方を教えてもらいながら、一生懸命作業に励んでいた。

 5年1組の森田栞さん(11)は「もう戦争が起こらないようにと思った」、1年3組の佐藤綾菜さん(6)も「ゾウの話は怖かった。鶴は上手に折れた」と話していた。

 川合優子PTA副会長は「初めて3学年合同だったが、保護者の連携もあり良かった。今の5年生は来年卒業するが今後も自然な形で伝えていければ」と話していた。(新目七恵)


◎目指せカレー甲子園…清尚学院高 大阪のテレビ番組のオーディションに参加
 清尚学院高校(土家康宏校長、生徒243人)の3年生3人組が13日、大阪市のテレビ局が主催する「第3回高校生カレー甲子園」のオーディションに参加する。全国194組中、書類審査を通過したのは24組で、道内からは唯一の参加。メンバーは大阪の番組やイベント出演を目指し、「頑張りたい!」と張り切っている。

 同甲子園は、毎日放送(大阪)の夕方情報番組「ちちんぷいぷい」が主催する創作カレー料理コンテスト。ことし初めて全国参加を呼び掛け、同校からは9組が応募した。

 オーディションを通過するのは12組で、選ばれれば24日に大阪のスタジオで生放送される同番組の予選会に参加することになる。この予選会で8組に絞られ、28日―8月1日に大阪城などで開かれる同局のイベント「オーサカキング」の会場で、審査員101人にカレーを振る舞い、判定してもらう。

 選ばれた同校のオリジナル料理は「カレーフォンデュ」。イカやホタテ、野菜、ライスボールなどさまざまな道産食材を串揚げにし、チーズを溶かしたカレールーに付けて味わう。オーディションでは自己アピールも求められており、3人は「函館いか踊り」を披露する予定だ。

 メンバーの加藤彩乃さん(17)は「テレビに出られるよう一生懸命やりたい」、荒谷さとみさん(18)は「(予選と本選の司会を務める)たむらけんじさんに会えるよう頑張る」、林和佳さん(17)も「負けません」と気合い十分。岡山マサ子教諭は「普段の勉強の成果を発揮し、函館の良さをPRできれば」と話している。(新目七恵)


◎大沼でスイレン見ごろ…合同遊船ウオッチングツアー開始
 【七飯】大沼国定公園で白や黄色のスイレン(スイレン科)が見ごろを迎えている。同湖で操業する大沼合同遊船(堀元社長)はことしから、ボートで水上を巡るツアー「すいれんウオッチング」を開始。希少な黄色やサイズの異なる白色のスイレン、コウホネ(スイレン科)など水上の“芸術”を楽しむことができる。

 スイレンは6月下旬に開花し、日中は直径10―20?の花が開いている。黄色のスイレンは大沼湖のかぶと岩北側にあり、水上からだけ鑑賞できる。

 同ツアーは大沼湖から小沼湖まで約1時間かけ水上の植物を観察する。櫓(ろ)を使った操船体験もできる。乗船料金は1人2500円、予約制で2人から。開花している午後2時半まで受け付けている。問い合わせや予約は同社?0138・67・2229。同ツアーはスイレンが楽しめる8月末まで行われる。(笠原郁実)


◎倒木被害 対策不十分…NPO法人・市に要望書
 函館市亀田中野町の市有地などが昨年1月に発生した強風で倒木の被害を受けた後、河畔林としての再生が不十分だとして、NPO法人「北の森と川・環境ネットワーク」(影山欣一代表理事)は10日、市に対して早期の問題解決などに関する回答を求める要求書を提出した。

 同NPOが問題視するのは、新中野ダムの手前約1?の一帯で、市水道局が管理する水源涵養(かんよう)保安林2・56?と一部民有地。昨年1月の強風でスギやトドマツ約3500本が倒れ、同局は倒木処理のために500―600万円を投じて、木を再生したウッドチップを保有林内に敷き詰めるなどの対策を講じてきた。

 ことし5月中旬には、市内の団体が市民ボランティアとともに、エゾヤマザクラの成木を沿道に植えたのをはじめ、倒木した跡地の一部1・5?に、ミズナラやブナなど4種類の広葉樹の苗木約1600本を植樹した。ところが、同NPOが6月下旬に実施した調査では、ブナの約90%が枯死しているという。

 この日水道局を訪れた影山代表理事は、倒木撤去や植樹に伴う事前の調査不足や認識の甘さを指摘。「今からでも、初歩的な調査に基づいた手順を踏んでほしい」とし、いまだに山積みで放置されている根や枝などの適切な処理、自生する幼木・稚樹の保全、今秋予定の植樹中止などについて、17日までに文書で回答するよう求めた。

 同局の天満茂夫事業部長は「早く撤去しなければならないことを優先し、考えが及ばなかった。今後は様子を見ながら、少しでも改善できるよう努めていきたい」と弁明。影山代表理事が口頭で求めた市民ボランティアへの説明と謝罪については、「中間報告として伝えることでフォローしていきたい」とした。(浜田孝輔)