2008年9月30日(火)掲載

◎「アムステルダム」初入港…過去最大の豪華客船
 オランダ船籍の豪華客船「アムステルダム」(6万2735トン)が29日、函館港に初入港した。函館に寄港した客船としては過去最大で、白と紺色に塗り分けられた勇壮な船体に、見物客は目を奪われていた。

 同船は21日に米国・シアトルを出発し、29日午前8時ごろ、函館港港町ふ頭に着岸した。歓迎セレモニーで、函館市の西尾正範市長は「市民を代表して心から歓迎したい」とあいさつした後、「船長さんには失礼かもしれないが、函館には船内での食事よりもおいしい食べ物がたくさんあります」と述べ、デッキで見守る乗船客の笑いを誘う場面もあった。

 乗船客約1200人は日中、バスやタクシーなどで市内観光に繰り出し、午後10時からは船内で日本舞踊や江差追分を鑑賞した。同船は30日、青森に寄港する。(浜田孝輔)


◎戸惑う量刑判断…裁判員制度 「被害者参加」の模擬裁判
 裁判員裁判制度を想定した模擬裁判が17、18の両日、函館地裁で開かれた。12月から導入される「被害者参加制度」も取り入れ、検察側の座席に遺族役が座るなど、より本番に近い内容で進められた。実際に一般市民から選ばれた裁判員6人を交え、裁判員の選任手続きから審理、評議、判決までの日程をほぼ予定通りにこなした。ただ、市民感覚が量刑判断にどのような影響を与えるかは未知数で、双方に試行錯誤がうかがえた。

 事件は泥酔状態で自動車を運転中、対向車と正面衝突事故を起こし、相手の男性を死亡させて、危険運転致死罪に問われた男を想定。犯罪事実に争いはなく、被告の反省の度合いや遺族の処罰感情などを踏まえ、量刑面のみが争点となった。検察側は懲役10年を求刑し、裁判員6人と裁判官3人で評議し「懲役8年」の実刑判決となった。

 被害者参加制度では、検察側の席に座った犯罪被害者の関係者が裁判長の許可を得た上で、直接被告に質問したり、意見陳述で量刑にかかわる発言をすることができる。今回の模擬裁判では検察の論告求刑の後、被害者の妻役が夫の無念さを代弁し「法律の詳しいことは分からないが一番重い刑になってほしい」と厳しい処罰感情を伝えた。

 検察、弁護側双方ともに法律や裁判独特の専門用語には解説を加えるなど、裁判員の存在を意識しながら審理を展開。検察側は証拠調べで遺族の証言を最後に示して裁判員の感情に訴え、弁護側は「疑わしきは被告人の利益に」などと刑事裁判の原則を説いた。

 裁判員を務めた男性会社員(54)は「公判中は懲役20年くらいでも…と思ったが、懲役8年は妥当なところに落ち着いたのでは」とし、別の男性会社員(37)は「被告にとっての1年間という時間を軽々しく扱えない」と述べ、量刑判断の難しさを感じたとした。

 柴山智裁判長は「裁判員は被害者の立場を重視していると感じた。裁判員の感覚を大切にするべきで、従来の判決内容と変わるのは当然のこと。裁判員に判決を下す重みを感じてもらえたのは良かった」と話す。裁判員を務めた6人はある程度、制度に関心を持っていた上、公判の進行に抵抗感はなかったと口をそろえた。裁判の公平性を維持しつつ、一般市民の目線や感覚がどのくらい判決を左右するのか―。同制度は来年5月21日に始まる。(今井正一)


◎ソウル便一部運休…大韓航空
 大韓航空函館支店(岸田茂支店長)は29日、定期路線の函館―ソウル(仁川)便について、10月28日から11月25日までの間、毎週火曜発着の計5往復10便を運休すると発表した。ウォン安で主力の韓国人利用客が減少し、燃油価格の高騰も相まって採算割れが続くため。12月以降の運航体制は11月末までに検討する。

 函館―ソウル便は、大韓航空が新千歳―ソウル便に次ぐ道内2番目の定期路線として2006年6月に開設。現在は火、木、日曜の週3日、1往復ずつ運航している。就航2年目の平均搭乗率は1年目を上回る63・5%で、今年6月には過去最高の81・3%を記録した。

 ウォン安に伴う韓国国内の景気低迷で、今年7、8月の繁忙期のソウル発便の搭乗率が50%台と不振。岸田支店長は「韓国人利用者が全体の8割以上を占めるため、ソウル発便が路線全体の生命線」と話す。慢性的な日本人客の利用低迷や、燃料高騰で採算ラインが上がっていることも影響したという。

 今回運休する火曜発便は、ほかの曜日に比べて極端に利用が少なく、「搭乗率が1割台の便もあった」(岸田支店長)という。

 函館市内のホテルで29日開かれた旅行会社向けの「プレゼンテーションセミナー」で岸田支店長が明らかにした。岸田支店長は「路線維持には官民一体となった取り組みが必要。新たな旅行商品の企画や函館発便の利用拡大に向け販促を強化したい」としている。(森健太郎)


◎未成年の喫煙補導数 激減…同期比の3分の1に
 たばこ自動販売機用の成人識別カード「taspo(タスポ)」が道内で導入された5月以降、函館市内では喫煙で補導される未成年者が激減したことが市青少年補導センターのまとめで分かった。28日までの補導数は昨年同期の3分の1にとどまり、未成年者の喫煙防止に一定の効果が表れた格好だ。一方、親が子どもにタスポを貸すなど成人のモラルが問われる問題もあり、たばこ業界や学校などの関係者は啓発に力を入れている。

 同センターによると、上半期(4月―9月28日)に補導した未成年者は89人(昨年同期比65・4%減)で、このうち喫煙での補導が78人(同66・8%減)と大きく占める。高校生が41人で最も多く、無職17人、有職12人が続き、中学生は4人。補導した場所はカラオケボックスが8割と圧倒的で、公園や路上もあった。

 同センターは「5月以降の減少はタスポ効果といえる。学校の指導や販売店の協力なども要因」と分析。ただ補導員の巡視時間帯が周知され、携帯灰皿の普及で喫煙のこん跡を見つけにくいなどの問題から「喫煙が減ったのか見つけられないだけか、つかみ切れない」と説明。「コンビニで買えたケースや親、兄姉からタスポを借りたり、買い置きのたばこを家から持ち出したりすることも多く、喫煙を認める親もいる」と明かす。

 29日に市内の日本たばこ産業(JT)函館営業所で開かれた本年度の未成年者喫煙防止対策協議会で、同センターの補導数などが報告され、たばこ組合やJT、同センター、学校、道警の関係者12人が対策を話し合った。

 市中学校生徒指導協議会会長の田辺信之函館潮光中校長は「購入方法が限定され、買いづらくなったが対面販売で入手した例もあった。タスポを奪う犯罪も懸念される」と指摘。JT道支店の進俊彦課長は「タスポ導入で流通経路の一つを絶ったが、家庭教育を含め社会全体で取り組む必要がある」と話した。(宮木佳奈美)


◎道教育大 小川准教授が新作家賞…「新制作展」彫刻部門
 国内有数の公募美術展「第72回新制作展」(新制作協会主催)の彫刻部門に2作品を応募した道教育大函館校の小川誠准教授(47)が、「風の住人―翼の断章」(テラコッタ製)で2005年以来2回目の新作家賞を受賞、同時に「風の住人―翼の休息」も入賞を果たした。今回が20回目の挑戦となった小川准教授は「仏教の五大要素のひとつ『風』をテーマに、風の神様をイメージし、新しいものと古いものの融合を意識的に表現した。2作品受賞はうれしい」と喜んでいる。(今井正一)

 小川准教授は仏教美術にも造詣が深く、仏教の教えを根底にした具象彫刻の制作を続けている。過去3年間は、柔らかな曲線で母性を表現した母子像「癒しのかたち」シリーズで同展に出展。今回、作風を大幅に変え、彫刻の存在感や生命感の強さを意識した新シリーズ「風の住人」に挑戦した。

 構想開始は約1年前で「最初の4カ月は以前の作風を捨てることに費やし、産みの苦しみを味わった」と話す。

 「翼の断章」は等身大の作品で、倒れかかった体を背中の翼で支えるフォームが古典的な味わいを持つ。「翼の休息」は翼を持つ人が横たわる姿を表現した。赤さびを使い着色することで、作品全体の重みや迫力を出した。また、時代の経過を表現するために「崩し」と呼ばれる手法で、焼き上がり後にさらに作品を削り、タッチの強さを出したという。

 同協会の彫刻部門は、本道にもゆかりのある本郷新氏や佐藤忠良氏らが1939年に創設した美術展で、次回、新作家賞を受賞すれば会員に推挙される。小川准教授は「道内の彫刻美術界と新制作協会が縁遠くなって久しい。3回目の挑戦は厳しいと思うが、道内を拠点とする作家として彫刻文化発展に貢献していきたい」と話している。


◎木直小5年生が大正神楽に挑戦
 函館木直小学校(野呂孝俊校長、児童56人)の5年生14人が、10月4日の学芸会で発表しようと、地域の伝統芸能「木直大正神楽」に挑戦している。学年単位でこの郷土芸能を学び、学芸会で発表するのは同校として初の取り組み。後継者不足に悩む保存会のメンバーも練習に協力し、若手育成に期待を寄せている。

 木直大正神楽は大正元年の1912年、木直に住む住民が青年の健全な活動と地域の娯楽を目的に、岩手県の南部神楽を練習したのが始まり。以来、地域の青年が踊りを受け継いでいる。現在は21―79歳の住民12人で保存会(尾上敏春会長)を組織し、木直神社の夏祭りや南茅部のひろめ祭りなどで公演するなど、住民にはなじみ深い郷土芸能だ。

 今回、同校が地域学習の一環として企画し、保存会メンバーに講師を依頼した。練習は9月に入ってから始まり、メンバーが仕事を終えた午後6時ごろから約1時間、同校体育館などで行っている。

 児童らは「鳥舞」「三番舞」「爺舞」の各一部分を特訓中。幼いころから踊りを見ているが、実際に体験するのは皆初めて。当初は慣れない動きや楽器の扱いに苦戦していたが、熱心に取り組んで1、2週間で覚えたという。

 踊り手の松本芹香さん(11)は「いろいろな動きをするのが楽しい。間違えず、最後までしっかり踊りたい」とし、太鼓担当の本間海飛君(10)も「だんだん叩けるようになってうれしい」と話す。尾上会長(53)は「この経験がいつか生かされ、後継者になれば。本番も応援に行きたい」としている。(新目七恵)


◎江差町 道民提案に警戒感…公選法問題
 【江差】道議会議員の選挙区決定権限を道に移譲すべきとする「道民提案」がこのほど、高橋はるみ知事の諮問機関・道州制特区提案検討委員会(井上久志会長)に報告された。14支庁の所管区域を基本とする道議選挙区の維持が前提の支庁再編条例を来年4月に施行するには、公職選挙法の改正が必要だが、政局をめぐる混乱から改正の見通しが立たず、条例の施行も危ぶまれている状況。こうしたタイミングで出てきた提案の行方に、江差町などは警戒感を強めている。

 提案は「住民自治の強化」に向けて、道議選挙区の区割りを公選法ではなく、道が自ら条例で定めることができるよう、公選法上での特例などを求めるもの。

 これまでにも解決の糸口が見えない公選法問題を打開するため、道や道議会自民党の一部で、道州制特区による権限移譲を模索する動きもあった。しかし、選挙区割りに関する権限を地方に移譲した場合、「特定の政党・候補者に有利となる“ゲリマンダー”のような恣意(しい)的な行為を防ぐ手だてが無くなる」(関係者)として、総務省サイドが難色を示したという。

 海外でも1812年、米国・マサチューセッツ州知事のエルブリッジ・ゲリーが、選挙に有利に働くよう、地理的状況を無視して区割りを改正。選挙区がトカゲの姿をした精霊・サラマンダーの姿に似た、極めていびつな形になったことにちなみ、こうした手法は“ゲリマンダー”と呼ばれ、地方自治や選挙戦術上の禁じ手とされている。

 検討委は他の道民提案と合わせて、年度内にも取り扱いを審議する。だが、道州制特区推進法に基づき、国に権限移譲を提案する場合、あらためて道議会の議決を要するなどハードルは高い。

 江差町は「道議選挙区の決定権限の移譲は、本来の地方分権を指向したものではない。行き詰まった支庁再編をめぐる混乱を取り繕うもの」と冷ややかな見方も示している。(松浦 純)