2010年2月23日 (火) 掲載

◎変わらない味 親しまれ75年 宝来屋ベーカーリー28日閉店

 函館市本町28の「宝来屋ベーカリー」(高久守社長)が28日、店主の守さんの高齢などを理由に、75年の歴史に幕を下ろす。1935年に大町に出店し、53年に現在の場所に移転。今も変わらない懐かしい味と、丁寧な接客にファンも多い。「閉店するのは残念」との声が高まる中、守さんは「店を閉めるまではパンを作り続ける」と今日も汗を流す。

 同店は1935年、守さんの妻洋子さんの父、故 春治さんが、末広町の「宝来パン」からのれん分けし、大町で「宝来パン分店」として出発。その後、戦争期の移転を経て、現在の場所に落ち着いた。63年に洋子さんは、春治さんのもとで働いていた守さんと結婚。二人三脚で店を切り盛りし、地元で『宝来パン』と親しみを込めて呼ばれるようになった。

 移転当時の電車通りは、舗装されておらず、「朝市へ向かう馬車をよく見た」と洋子さん。近所には幼稚園があり、お昼どきにはパンを買いに来る園児もいたという。「当時のパンは高級なおやつ。みんな目をきらきらさせながら買いに来た」と洋子さんは目を細めて懐かしむ。

 パン屋の朝は早い。守さんは毎日、午前1時すぎに起床。強力粉、イースト菌などを機械に入れ生地を作る。「昔の人間だから昔風のパンしか作れないよ」と笑ういながら、「ゆっくり、おだやかに、心を込めて」パン作りに励む。

 食パンやあんパンなど定番の種類が人気。素朴な味わいがあり、無添加にこだわっている。そんな真しな姿勢が共感を呼ぶのか、遠くは松前や苫小牧などからも注文があるという。函館市内在住の常連の女性は「食パンが大好き。青森の知人からも送ってほしいと頼まれる」と話していた。

 守さんは「パンは生き物。神経を使うし、気も抜けない。でもそこが面白い。パン職人としてまっとうできて良かった」と充実感をにじませる。「街のパン屋さん」として市民に親しまれてきたことに、2人は「とても幸せでした」と笑顔でうなずいた。(黒田 寛)



◎サーカス実現へ提言 「創る会」初フォーラム

 函館にサーカス団を設立し、経済・文化面で盛り上げようと願う「函館市民さあかすを創る会」(高橋順一代表)の初フォーラム「夢をかたちに」が22日、函館市青年センター(千代台町)で開かれた。高橋代表(83)に加え、大学教授ら5人のパネリストが、構想実現に向け様々な提言を行なった。

 パネリストは高橋代表、公立はこだて未来大学の鈴木克也教授、ラジオFMいるかパーソナリティーの山形敦子さん、市内のリード不動産佐々木俊克社長、市立函館高校の坂井淳教諭。このほか、活動に興味を持つ一般市民約20人も参加した。

 観光やまちづくりなどが専門分野の鈴木教授は「夢というよりすぐ実現できる話。課題は金銭面だけ。多額の資金を費やすのではなく、出来る範囲で行なっていくのも一つの手」と述べ、「趣旨が素晴らしいだけに、何とか実現させたい。今が正念場。プロジェクトを立ち上げ、実際に行動できる人材を仲間に加えることが必要」と力説した。

 山形さんは「次の段階につながるサポートや戦略が必要」、佐々木社長は「壮大な夢の実現に力を注ぎたい。古里を大切に思う高橋さんの情熱に共感する」、坂井教諭も「子どもたちが古里を見つめ直すいい機会にもなるはず」と前向きな意見が相次いだ。

 高橋代表は「わたしは本気でサーカスをつくりたいと思っている。『サーカスはいい加減で怪しい』と思われがちだが、その通りで結構。そこに笑いという幸せがある」と結んだ。(小杉貴洋)



◎全力で佐々木選手応援

 【北斗】カナダ・バンクーバーで開催中の冬期五輪でアルペン男子回転に日本代表として出場する北斗市出身の佐々木明選手(28)を現地で応援する後援会役員らが22日、市役所を訪れ、海老沢順三市長に出発のあいさつをした。

 佐々木選手の五輪出場に合わせて、後援会役員2人と家族6人で現地応援団をつくり、市が旅費など応援経費を支援した。 

 この日は後援会の中井光幸会長代行(59)と花巻昭英副会長(64)、佐々木選手の父悦郎さん(61)、母真智子さん(61)の4人が海老沢市長を訪問。中井会長代行らは今回の支援に対しお礼を述べた後、「皆の期待も大きく本人もメダル獲得に向け努力している。私たちも全力で応援します」と述べた。

 海老沢市長は「年齢的にも今が乗っている時だと思う。金メダルを取って日本を沸かしてほしい」と佐々木選手に期待を寄せた。

 佐々木選手は28日午前3時(日本時間)ごろに出場する。一行は23日午前に両親が函館を立つのを皮切りに25、26日と順次、現地へ出発。多くの人の寄せ書きが書かれた日章旗やのぼり10本を持ち、現地で熱い応援を繰り広げる。(鈴木 潤)


◎昭和小の野村、藤坪さんを表彰「街をきれいにする市民運動協」

 函館の街をきれいにする市民運動協議会(敦賀敬之会長)は22日、通学路のごみ拾いを長年続けた函館昭和小学校(秋元順一校長、児童526人)6年の野村彩絵さん、藤坪亜紀さんの活動をたたえ、表彰状を贈った。

 同協議会は、清掃美化、資源回収活動に取り組む市民団体で、地域の環境美化やボランティア活動に貢献した個人や団体を表彰している。

 野村さんは2年生から、通学路がごみで汚れているのを気に掛け清掃を始めた。藤坪さんは野村さんに誘われて、3年生から清掃活動に加わった。2人は毎朝、ごみを入れるビニール袋と割りばしを持って学校までの道のりを、ごみを拾いながら歩いている。

 同校で行われた表彰式では、敦賀会長が野村さんと藤坪さんに表彰状を手渡した。敦賀会長は「街を汚くするのは大人。皆さんが模範になってくれている。これからも美化運動への協力をお願いします」とたたえた。野村さんは「当たり前のことをしてきただけなのに、ありがとうございます」と喜び、藤坪さん「野村さんに誘ってもらい、続けてきて表彰されてうれしい」と話していた。(宮木佳奈美)

 


◎製造業者サポート 函館市新年度から「ものづくりステップアップ事業」

 函館市は、市内製造業者が抱える問題点の改善に向けたサポートを行う「ものづくりステップアップ事業」を新年度から実施する方針だ。生産性向上や業績拡大に向けて、業務改善のノウハウを持つ企業などに委託し、対象業者の現状調査を行い問題点を洗い出すとともに、解決に向けた取り組みを行う業者には市が費用を補助するもので、7月にも調査を開始する考え。市工業振興課は「経営改善を考えている業者に利用してほしい」と話している。

 対象は市内に事業所を置く製造業。2008年の市内製造業の出荷額は前年比で16%落ち込むなど、長引く不況の影響で年々減少傾向にあることを受け、業績拡大に向けたきっかけづくりにしてもらおうと実施。製造ラインなどにIT(情報技術)を利活用し切れていない事業者を市内のIT業者と結び付けることで、地域の中で経済活動を循環させる狙いもある。

 市は新年度予算案に1380万円を計上した。事業は大きく分けて実態調査と補助の2つ。調査は希望事業者を募集して市が選び、委託先のコンサルタント機能を持つ業者が調査を実施して問題点や解決策を提示。解決に取り組む業者に対し、市がその費用の2分の1を上限に負担する。

 同課によると、一例としてウェブサイトの作成やISO、HACCP(ハサップ)などの認証取得に向けた取り組みにかかる費用の軽減などに使用できるという。

 これまで市内の事業者からは、「問題提起から解決まで一環してサポートしてくれる制度があれば」という声が挙がっていたという。同課は「やる気のある製造業をオーダーメードで支援するもので、事業として踏み込むのは初めて。今後周知していきたい」としている。(山田孝人)


◎【企画・わたし学びます@阿部知美さん】塾生に「負けられない」

 昨年4月に函館で始まった自主夜間中学「函館遠友塾」(今西隆人代表)。運営に携わるのは主婦や会社員、学生などさまざまな市民だ。70代前後の多い塾生たちは“人生の先輩”。何を教え、何を学んだか。ボランティアスタッフや関わった人たちを訪ねた。

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 黒板代わりのホワイトボードを背に、深く息を吸い込んだ。

 「それでは始めます」。2009年4月22日。函館市総合福祉センター(若松町)で行われた自主夜間中学「函館遠友塾」の最初の授業で、道教大函館校3年の阿部知美さん(21)は50人ほどの“生徒”に「ひらがな」を教えた。

 目の前に広がるのは、小学校での教育実習とは異なる光景。祖父母ほど年上の塾生たちは目をキラキラ輝かせ、ニコニコ笑っていた。「すごく緊張したけど、応援されている気がした」。最年少のスタッフだが、「年の差はあまり考えない」とさらり。

 ◆元来引っ込み思案な性格で「物を欲しがらない子」だった。友達から声を掛けられるのをじっと待つタイプ。小学生の時から先生という職業にあこがれ、地元の教育大へ進んだ。教育の理念などを学び「視野が広がった」が、大学2年の教育実習では自分の中に「壁」を作ってしまい、慕ってくる子どもたちとうまく打ち解けられなかった。自分がもどかしかった。

 「たまには『壁』を壊してやろう」。遠友塾に申し込んだのは、そんな思いからだった。前に札幌の夜間中学をテレビで一緒に見た父が「募集してるよ」と教えてくれた。

 初めて授業に臨んだ日、教室内には一種の緊張感が漂っていた。うまくできるだろうか―。しかし、授業を始めてみて、それが杞憂(きゆう)だと気づいた。「一生懸命質問に答えてくれた。教えにくくなかった」と笑う。小学生のようによそ見をする人はいない。塾生の真剣な視線を浴び、「期待に応えたい一心」で進めた。

 授業後、塾生の要望を聞こうとアンケートを取った。「手紙を書きたい」「漢字を読めるようになりたい」…。それぞれの願いを知る中で気になったのは、無回答の人がいたことだ。「書きたくても文字では言葉にできないのでは」。白紙の奥にある思いを知りたかった。

 毎週通ううち、塾生の表情に強く魅せられた。理科でモーターカーの組み立てに苦戦する半面、社会科では函館の歴史や昔の街並みについて「そんなことは知ってる!」と答え、スタッフを困らせる。「学びたい意欲が行動につながっていてすごい」。少し圧倒されながらも、生き生きとした塾生の「学び」をサポートするのが楽しい。

 最近、大学の講義を受ける意識が変わってきた。「学ぶ環境が保障されているのに無駄にできない」と感じ、前より真剣に耳を傾けるようになった。「塾生から刺激を受ける。負けていられないなって」。思い切って壊した「壁」の先には、自分を成長させてくれる「出会い」が待っていた。