2011年10月31日 (月) 掲載

◎せたな太田神社の旧本殿 高穂神社に移築

 縄文文化をテーマにした国際シンポジウム「縄文文化とユーラシアの様相」(実行委主催、函館新聞社など後援)が29日、函館山山頂のクレモナホールで開幕した。初日は開会セレモニーや基調講演が行われ、参加した約180人の一般市民が世界的視点から縄文文化を学んだ。30日まで。

 道内唯一の国宝「中空土偶」を展示する市縄文文化交流センター(臼尻町)のオープン記念や、日独交流150周年記念事業の一環として開かれた。「北海道・北東北を中心とした縄文遺跡群」の2015年度の世界遺産登録に向け、機運を高めるのを狙いとする。

 シンポジウムには日本、ドイツ、米国、英国、カナダの5カ国から研究者ら約20人が出席。開会セレモニーで工藤寿樹函館市長が「東日本大震災を経験した今、自然と人との関わり方が問われている。その中で自然と共生してきた縄文文化の価値は高まってきており、函館の縄文を世界に発信していきたい」とあいさつした。

 基調講演は海外における縄文期研究の第一人者で、イギリス・イーストアングリア大学日本研究センター長のサイモン・ケナー氏が「日本の新石器時代—縄文文化の歴史的意義—」と題して行った。

 「イギリスは遺跡全体を国宝にするが、日本は個々の出土品を国宝にするのが面白い。また縄文期の村は何世紀もその土地に住み、中でも三内丸山遺跡(青森)は約2000年も定着していた。これはロンドンの歴史に匹敵するほどで驚くべきことだ」と話した。最後に「この地域が世界遺産となれば普遍的な価値となり、人類の宝となるだろう」と締めくくった。

 そのほか8人が事例報告をした。ベルリン自由大学のパベル・タラソフ教授は「函館の縄文文化はとても貴重。日本の考古学の柱となれる可能性がある」と話していた。

 30日も午前9時半から午後5時まで、事例発表や講演を行う。(後藤 真)



◎情報発信 市民を意識 工藤市長就任から半年

 函館市の工藤寿樹市長(61)は就任から半年を迎えた。「改革と挑戦」を旗印に前例や既成概念にとらわれない市政運営を進めるとともに、各種の事例に深く踏み込んだ発言も多く、情報発信を重視する姿勢がうかがえる一方で、論議を呼ぶ場面も少なくない。6カ月が経過した中でこれまでの定例会見や市議会などでの発言から印象に残るものをピックアップし、これまでを振り返る。

 「今まで通りの仕事をしようとするなら、市役所を去ってほしい。どうすれば函館を元気づけられるか、自分の問題として考えてほしい」(4月27日、初登庁時の訓示) 「公務員時代の工藤とは変わった。1年数カ月、市民の間でいろいろ話を聞きながら、物の考え方も変わってきた」(4月27日、市長就任会見)

 工藤市長は市政運営を担うに当たって以前との違いを強調しながら、自身のスタンスを表現してきた。西尾正範前市長が取り組んだ施策を次々と転換、コンベンション機能を併設した新体育館「函館アリーナ」の整備や、財政再建推進会議など市民参加型の会合を相次いで立ち上げた。

 選挙戦で掲げた92項目の政策のうち、実現に結び付けたものは各種会議の設置をはじめ、商店街への交付金制度創設、事業仕分けの実施など半年間だけで10項目以上。展開の速さに「政策のイメージをつかむのに苦労している。細かい指示も増えて、ついていくのが大変」(ある幹部)と戸惑いもみられる。

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 「周辺市町村の同意を得ずに進めるなら、場合によっては市が原告になってまで司法手段もあり得る。憲法で保障された市民の生存権を脅かすことになりかねない」(10月19日、市民団体との懇談)

 青森県大間町で建設中の大間原子力発電所(現在は建設中断中)への対応をめぐっては、一貫して無期限凍結を主張。8月30日には現地視察を行って行動力を示した。市民団体との懇談では、前述の言葉でさらに一歩踏み込み、「力強く思う」(中宮安一七飯町長)と、周辺自治体からの支持も得た。ただ、自治体が原告となって生存権を提起した例はなく、原告としての適性は不透明だ。

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 「どんな企業でも、赤字になった時に手を付けるのはリストラと人の削減。市役所だけが例外ではない」(9月14日、市議会本会議)

 「市民がおにぎりを食べている時に、公務員が別室で幕の内弁当を食べている状況は直したい」(10月18日、定例記者会見)

 本年度35億円、来年度に52億円の赤字が見込まれる厳しい財政状況を受け、10月18日には職員給与の10%削減、退職手当の20%(本年度は10%)削減を柱とする行財政改革案を発表。「道内の他の自治体では3〜5%が主だが、財政を考えるとその程度ではカバーできない」というのが提案の根底にある。

 6日後の24日には市労働組合連合会(市労連)と、交渉過程の公開を求めて話し合いのテーブルについたが、組合からは「就任時など、もっと前から説明があってもよかったのでは」「職員が悪者だというのか」と批判を受けた。

 市民の行政参加を積極的に行い、情報公開を進める姿勢への評価は高い。だが「あまり独善的にならなければいいのだが」(別の幹部)と、庁内には施策展開のあり方や意識の違いなど、ひずみも見え隠れする。人口減少時代に経済再生を目指すだけに、今後のかじ取りは厳しさを増す。市民や職員との意識や価値観の共有が課題となっている。(千葉卓陽)



◎明治記念綜合短歌大会 芹沢さん特選

 函館市在住の芹沢伸子さん(62)がこのほど、東京の明治神宮参集殿で開かれた明治神宮秋の大祭奉祝・第125回明治記念綜合短歌大会で、献詠総数3231首の中から特選歌10首に選ばれた。道内からの入賞は芹沢さんだけで、「母の故郷の福島県を訪ねて感じたことを素直に詠んだ。感慨深い受賞です」と喜んでいる。

 同大会は、明治神宮の春秋の大祭に合わせて行われている伝統の歌会。選者や大会委員は、宮中歌会始の選者にもなる歌人で構成される。

 特選作は「FUKUSHIMAとなれど福島は亡母の里そよぐ青田の匂ひ変はらず」。今年6月、20年前にこの世を去った母・ユリさんの古里の福島県喜多方市を訪ねた際、原発事故の以前と変わりなく、風にそよぐ田んぼの様子に感銘を受けて詠んだ。「原発事故で、福島が世界各国で騒がれていたのを知ってローマ字表記にした。行く前は緊張していたが、母が愛した福島の、変わらない風景にジーンときた」

 芹沢さんは、ユリさんが短歌をたしなんでいたことで自らも興味を持ち、20年前に始めた。同大会への応募は3度目で、以前佳作に入った経験はあるが、特選は初めて。23日に行われた献詠披講式では受賞者で唯一、神殿に玉ぐしをささげる大役を務め、「厳かな雰囲気に圧倒された。人生最良の日」と笑顔を見せる。

 現在は長風短歌会に所属し、地域の歌会に積極的に参加している。「これからも短歌を続け、この歌を詠み続けていきたい」と話している。(千葉卓陽)


◎「精神性、現代に受け継ぐ」縄文文化国際シンポ

 国際的な視点で縄文文化を語り合うシンポジウム「縄文文化とユーラシアの様相」(実行委主催、函館新聞社など後援)の最終日が30日、函館山山頂のクレモナホールで開かれた。初日に続いて特別講演や事例報告が行われ、市民らが縄文文化の理解を深めた。

 特別講演は、環境考古学を専門分野にする国際日本文化研究センターの安田喜憲教授が「人類の歴史と気候変動」と題して行った。

 「縄文人は海で漁をするほど高度な文化を持っていた。日本の自然が豊かなのも、森と水の循環を大切にしてきた縄文人の精神を受け継いでいるから。そして人殺しのための武器を作らず、合掌土偶のように神を崇拝する精神を持つなど、生命も大切にしてきた」と力説した。

 そのほか各国の研究者ら9人が事例報告。函館市縄文文化交流センターの阿部千春館長は、同センターで展示する国宝「中空土偶」に触れ、「ほとんどの土偶が壊れた状態で発見されるように、中空土偶も8つのパーツに分かれていた。中空土偶をCTスキャンで検査した結果、土偶が故意に破壊されることを前提に作られたと推測できたが、これは縄文社会に共通した心性があったためと考えられる」と発表した。

 函館市は今後、91カ所の縄文遺跡群が点在する南茅部地域をはじめとした「北海道・北東北を中心とした縄文遺跡群」の2015年度の世界遺産登録を目指す。総括で、日本考古学協会の菊池徹夫会長は「世界遺産登録に向け、縄文人の高い精神性や自然と共生する思想を伝えていきたい」と話していた。(後藤 真)