2011年11月11日 (金) 掲載

◎TPP参加結論先送りも…農漁業者、募る危機感

 野田佳彦首相は10日、環太平洋連携協定(TPP)交渉参加の結論を11日に先送りしたが、道南の一次産業の現場では農家を中心に「関税撤廃を前提としたTPPに参加すれば日本の一次産業は壊滅する」と危機感が強い。農漁家からは国への怒りや先行き不安の声が高まっている。

 「10キロ数百円の外国産米が日本に入ってきたら、とてもやっていけない」。北斗市水稲採種組合(13戸、85ヘクタール)の小山内(おさない)吉美組合長(60)=同市開発=は表情を曇らせる。

 小山内さんは採種米8f、食用米2fに加え、施設園芸(トマト、イチゴ)も手掛ける。現在778%の関税で守られているコメは、撤廃されればコメ農家の経営は立ち行かなくなり「種もみ生産もいらなくなる」(小山内さん)。息子(28)が後継者として就農、ようやく経営も軌道に乗ってきた。「結論が1日遅れたからと言って、参加表明に対する農家の不安や怒りは変わらない。われわれはあと十年もすれば引退するが、息子たちにしわ寄せがくるのはやりきれない」

 コメ専業農家は一層深刻だ。同市水稲直播推進協議会(23戸)の白戸昭司会長(52)=同市開発=は「コメ農家がつぶれれば、地域の崩壊につながる」と危機感が大きい。白戸さんは水稲15ヘクタールを作るコメ専業。3.5ヘクタールで作る直播は従来の移植栽培に比べ、苗作りなどの春作業が軽減されるため、省力化、低コスト化が図られる上、付加価値の高いブランド米として有利販売する。それでも白戸さんは「安い外国産米には太刀打ちできない。農業はある程度、国に守ってもらわないと。担い手への所得補償を手厚くするなどの支援策をきちんと打ち出すべきだ」と要望する。

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 天然・養殖コンブ漁を主体に発展してきた函館市旧4町村地域は「地元経済を根底から覆す問題になるのでは」と多くの漁師がTPP参加を警戒する。

 同市戸井地区の70代夫婦は「海外ものが出回れば、初めは売れるかもしれないが、いずれは味で国産が見直される時が来る。この話を加工業者とも最近したばかり。TPP参加で廃業する人が増える一方で、国産が見直されたときに、どれだけ生産者が踏ん張っていられるかが心配」と危惧(きぐ)する。

 恵山地区のイカ釣り漁師の男性(31)は「魚は、もうとっくに外国から頻繁に入っているので、TPPがどうのこうのという話じゃない。現在の一次産業の衰えに目を向け、発展につなげるための知恵が政府に求められている」と訴える。

 椴法華地区の男性(67)は「われわれが反対反対と言っても、総理が決めたことであれば受け入れるしかない。生活は、ホッケの刺し網と少しの養殖コンブが頼りで、TPPの影響で先行き不安が大きい」と語る。

 南茅部地区でコンブ、ウニ、ナマコ採取で生計を立てる女性(74)は「主婦の立場だと、海外の安い商品やサービスは何より。水産物では、消費者は品質や安全面で優れた国産を選ぶと思うので、TPP参加への心配は少ない。国が、いつまでも反対姿勢で世界から置き去りにされるのも困る」と容認の考えを示す。(山崎大和、田中陽介)



◎函館男声合唱団が渡仏、日本の歌声響く

 函館男声合唱団(上貞幸丕代表)有志21人が10月中旬、演奏旅行でフランスを訪れ、オルレアン聖十字架大聖堂など現地の名高い教会で演奏会を開いた。荘厳な雰囲気を肌に感じながら、声高らかに日本の歌をお披露目した。

 団員の親戚が現地にいる縁や、カトリック湯川教会(駒場町)で神父を務める同団団員のフランス人、オール・フランソア・ザビエさんが、オルレアンの出身であることなどをきっかけに昨年から企画。10月17日に日本を出発し、18日にパリ外国宣教会本部礼拝堂、19日にオルレアンへ入った。

 パリの礼拝堂には約200人が来場し、団員はグノーの宗教曲に加え、「そうらん節」や「千の風になって」などを披露した。会場はかつて経験したことのないほどよく響く空間といい、企画者の1人、伊藤喜久雄さん(71)は「とにかく気持ち良く歌うことができた。山びこのような心地よい残響を全身で体感した」と満足そうに振り返った。

 8日間の旅程だが、途中立ち寄った世界遺産のモン・サン・ミッシェルの聖堂では、観光客がいない時間帯に団員の一存で急きょ合唱。旅先ならではの予定外の時間も、貴重な思い出になったという。

 伊藤さんは「在仏する道人会『ポプラ会』会員も現地の教会に駆け付けてくれるなど、多くの関係者の支援があった。おかげで合唱の素晴らしさを再認識できた。今後の演奏活動にも力が入りそうですね」と話していた。(長内 健)



◎起業塾の卵が事業計画披露、後期セミナーに男女7人

 函館市内で起業を目指す学生や社会人らを対象にしたセミナー「函館起業塾」の後期課程が10日、市産業支援センター(桔梗町)で始まった。前期(9月)に行った宿泊型の集中講義を踏まえ、函館で起業を目指す20〜60代の男女7人がそれぞれ練り上げた事業計画を発表した。

 起業塾は、市民の起業を支援することで、地域経済の活性化や雇用創出につなげる狙いで2006年に始まり、今年で6年目。市経済部によると、5年間で学生を中心に73人が受講し、うち4人がIT(情報技術)やサービス業関連の起業に結びついた。

 この日は起業して間もない人や、起業を目指す24〜64歳の男女7人が参加。受講生は20分程度の持ち時間で、電子書籍を活用した情報モールの運営、食品関連の医療機器販売、女性向けの心理学教室など、それぞれ考案した事業戦略や経営理念、顧客ターゲットなどを発表した。

 このうちオリジナルノート製作の雑貨店を発案した市内の男性(24)は「20〜40代の女性向けにデザインに函館らしさを出し、地元の小物雑貨作家とも連携したい」と語った。札幌でベンチャー企業を支援するコンサルタント会社を営む土井尚人社長が講師を務め、一人一人に問題点や可能性をアドバイスした。

 元派遣社員で現在は無職というこの男性は「初めは興味本位だったが、本格的に起業を目指す人と学ぶことで刺激になった。今後起業する際にこの経験を生かしたい」と話した。起業塾は11日も行われ、受講者が発表した事業計画について土井社長が個別相談に応じる。 (森健太郎)


◎西部地区教育芸術祭が開幕

 西部地区の保育園から大学までの5教育機関と7町会が参加する「第5回函館市西部地区教育芸術祭」(同教育芸術推進協議会主催)が10日、開幕した。初日は函館西中学校でステージ部門が行われ、各機関の子どもや学生が歌や吹奏楽演奏を披露した。

 同協議会は、教育機関と町会が連携して子どもの育成と、芸術・文化の発展を目指して2007年に設立。芸術祭は「北海道教育の日」と「はこだて子どもの日」の活動の一環として、年に一回実施している。

 この日は、駒止保育園の園児による和太鼓の演奏とヨサコイの踊りで幕を開け、元気なステージに会場から盛んな拍手が送られた。続く弥生小学校は3〜6年は「未知という名の船に乗り」、函館西中学は全校で「山のいぶき」を合唱し、息の合った歌声を披露した。

 後半は、函館西高校吹奏学部がアニメやドラマの主題歌を演奏。同時にダンスも披露し、園児も振り付けを見ながら一緒になって踊った。最後は、総勢360人が心をひとつに「函館賛歌」を歌い、会場を和やかな雰囲気に包みこんだ。

 また、展示部門として11〜14日に、地域交流まちづくりセンター(末広町)で関係団体が書や絵画など、多彩な作品を展示する。(平尾美陽子)


◎万代町商興会60年、街の発展に寄与

 函館市万代町の国道5号沿いの商工業者でつくる「万代町商興会」(31会員)は、今年で設立から60周年を迎えた。人口の郊外移動に伴う事業者の減少で往時より会員数は減少したが、「商いを通じて街の発展に貢献したい」(北村千尋会長)と決意。13日に開催する式典では、記念事業として函館市や地元の万代町会に寄付を行う。

 同会は1951(昭和26)年に設立。国道5号の北ガスから飲食店「よしの」付近の万代町がエリアで、ピーク時の67年の会員数は125だった。当時は函館市の郊外、交通の要衝にある商店街として、周辺自治体から市内に訪れる買い物客でにぎわったという。しかしその後の人口の郊外移動などにより、徐々に会員数は減少した。

 北村会長は当時について「万代町は重要な乗り換え地点だった」と振り返り、「以前のようになることは難しいが、今後は万代町の歴史を観光資源にしたい」として、記念碑の設置を検討している。今後については「高齢者が来やすい環境にするためには交通網の整備が必要」として、行政の積極的なかかわりを望んでいる。会としては「個々の店舗が努力を怠らず外販などで経営を維持し、街の発展につなげたい」とした。

 13日の記念式典、祝賀会はマリエール函館で開催する。記念事業では、函館市に対しては市内の全小中学校分の「箱館奉行所復元DVD」を、万代町会へは暖房器具を寄贈する。また函館水産高校教諭の我妻雅夫氏の記念講演「ペリー艦隊箱館入港」を予定している。(小泉まや)