2011年11月25日 (金) 掲載

◎道教育大函館校の佐々木馨教授、「日蓮の思想史的研究」出版

 道教育大函館校の佐々木馨教授(65)=日本中世宗教史=が、17冊目の単著となる「日蓮の思想史的研究」を山喜房仏書林から出版した。42年間にわたる日蓮論や中世宗教論研究の集大成で、佐々木教授は「日蓮は国家論や民族・宗教論など、多様な価値観を持ち、それを法華経至上主義に集約していった。そうした思想を伝えたい」と話している。

 佐々木教授は教学研究の立場でなく、思想史の側から日蓮(1222〜82年)を読み解き、日本中世の国家と宗教の構造などを明らかにしてきた。日蓮には後世の仮託など、実像と虚像が交錯する部分があるが、仮託本は排除して真筆本から実像を探り、中世思想史上に位置付けた。

 前編では日蓮の生涯や受難について描き、日蓮が比叡山山門派の流れをくむため、寺門派の系譜にある鎌倉幕府から弾圧を受けたことなどを述べた。中編は、日蓮自身が関心を持った国家や民族、宗教について、遺文から考察。後編では、歴史観や世間に対する日蓮の思想を探った。

 鎌倉新仏教の祖師の中で、日蓮は激しい他宗批判を繰り広げたことで知られ、佐々木教授は「祖師の中でも日蓮は最後に出てくる。それを乗り越えるための批判でもあった」と語る。体制を志向し、懐疑し、最後は超克した仏教者の生涯と思想を論述した。

 佐々木教授は来年3月で定年退官する。これまで約100本の論文を発表。日蓮や中世思想史のほか、北海道仏教史や日本人の死生観などの研究を積み重ねてきた。「定年をひとつの区切りとし、中心を占めた日蓮研究を整理し、今後の研究者のお役に立つことができれば」と語る。  A5判670ページ、箱入り。定価1万5750円。(高柳 謙)



◎函館—新函館経営分離問題、道が市に通知「JRの経営継続は困難」

 北海道新幹線の札幌延伸時に、JR北海道が函館駅—新函館駅(仮称)間17.9キロを経営分離する方針を示していることについて、高橋はるみ道知事は24日、函館市が要請していた同区間の経営継続は困難とする見解を、市に文書で通知した。道はJRの意向を確認したうえで「第3セクターの設立など、鉄道運行の確保を図るため最大限の努力をする」としているものの、具体策には言及していない。

 市は延伸時の同区間の運行形態をめぐり、昨年4月に道に対し、JRによる経営継続を要請。市や函館商工会議所、市町会連合会などは合同で署名活動を行い、昨年9月には約11万筆の署名を同社に提出するとともに、道による調整を求めていた。

 道はこれを受けて昨年、2度にわたり、JRに再考を申し入れたが、JRは函館—小樽間(253キロ)を経営分離する方針を崩していない。

 道はJRに対し、あらためて考え方を確認。JRは札幌延伸時に経営分離する並行在来線について「鉄道事業者として協力を行う考えで、新駅—現駅間のアクセス列車運行にも可能な限り協力を行う」とし、鉄道による輸送を示している。また、新函館開業時には「新幹線輸送と密接に関わるもので、利便性の高いアクセス輸送を行う考え」としている。

 これを踏まえて道は「整備新幹線着工の基本条件である並行在来線の経営分離という観点から、経営継続の実現は難しいと受け止めざるを得ない」と回答した。

 工藤寿樹市長は今回の通知を受け、「議会や経済界、町会などと今後の対応をよく協議したい」と話している。(千葉卓陽)



◎企画「命を見つめて」認知症(2)、患者の尊厳守り治療を

 認知症の症状には記憶や判断力、認知機能の低下のように誰にでも現れる中核症状と、個々の性格や生活環境、体調によって2次的に現れる周辺症状がある。

 周辺症状の例として、極度な不安・焦燥感、幻覚・妄想、徘徊、興奮、暴力などがあり、患者は日常生活や他人とのかかわりに支障をきたす。本人だけでなく介護する家族も心身が疲弊し、これまで問題視されてきた。こうした周辺症状は一時期、病気そのものが誘発原因としてとらえられ、一昔前までは患者を薬で安静にさせ、施設に入院させる対応が行われていた。

 近年は自分自身の物忘れや見当識障害に対する自信喪失、将来の不安、混乱が起因していることが分かり、患者の尊厳を守りながら心を穏やかにさせる治療やケアが進められている。

 共愛会病院(函館市中島町)で認知症患者を診る石井敏明医師は「記憶を失ってもその人の個性や感情、自尊心はしっかり残っている。その人に合った接し方をしていく必要がある」と話す。

 認知症患者の増加に伴い、近年、認知症を専門的に診る「物忘れ外来」を開設する医療機関が増え、国が設置を推進する「認知症疾患医療センター」を開設する動きも出ている。函館市内でもセンターを開設する病院が増え、その中で富田病院(駒場町)は2010年4月に認知症総合医療センターを開設した。2000年から物忘れ外来を担当している専門医の谷内弘道センター長を中心に精神保健福祉士や臨床心理士、作業療法士らチーム体制で治療やケアに臨む。

 認知症の鑑別診断や身体合併症、周辺症状への対応など専門医療の充実を図り、情報発信や啓発、家族の相談サポートを進めるが、特に今、力を入れているのは、かかりつけ医など病院・診療所との連携と、福祉や介護職、家族会などとの連携構築。多職種による協議会の設置や専門職への研修を通して意思疎通を図り、谷内センター長は「患者が医療から施設、在宅へと移行する中で手法や考え方が異ならないよう共通認識に立ったサポートが大切」と語る。

 現在、認知症を完全に治す治療法、治療薬はないといわれる。患者のQOL(生活の質)の維持には介護的なケアや生活の支援がカギとなる。函館渡辺病院(湯川町)の認知症疾患医療センター長を務める三上昭広名誉院長は「病気に対し深刻になっている家族、本人の気持ちを解きほぐしながら治療、介護に前向きになるよう努めている」と話す。(医療問題取材班)

 ◆認知症疾患医療センター 認知症にかかわる専門医療を行う地域の中核機関として、都道府県が指定する病院に設置。人員配置や検査体制などの基準があり、鑑別診断や初期対応、かかりつけ医への研修開催などの事業を行う。道内は市立砂川病院など3カ所5医療機関が指定を受けている。道南には指定病院はないが、函館渡辺病院、富田病院、亀田北病院が体制を整備しセンターを開設している。


◎カズノコ出荷作業ピーク

 正月料理に欠かせないカズノコの出荷作業が、函館市内の水産加工場でピークを迎えている。古川町113の山鼻水産(山鼻達郎社長)では従業員20人が手を休めることなく、仕分けや箱詰め作業に追われている。

 山鼻水産は、アラスカ産のニシンを早々に仕入れ、年末に向けて準備。血抜きや熟成、塩水につけるなどし、今年も見事な黄金色のカズノコが仕上がった。

 手づくりのため生産量は限られ、一日500キログラム、1000パック。価格は例年並みで、2000円から。1万円前後の高級品もある。

 主に東京や名古屋、大阪のデパート、スーパーに並ぶ。カズノコづくりは東北で少なく、東日本大震災による直接的な影響はないが、「被災地は今が苦しいときで何ができるわけではないが、その思いに寄り添って各自の仕事を一生懸命している。東北の人にも食べてもらいたい」と山鼻社長(56)。

 同社は、12月17、18の両日午前10時から工場前で、正月商品の特売を開く。カズノコやタラコなどを半値で販売する。直売は5年ぶりで、「いつもみんなに支えられている分、利益度外視で頑張ります」としている。売り切れ次第終了、両日午後3時まで。雨天決行。(田中陽介)


◎工藤市長「大間の安全宣言は拙速」

 函館市の工藤寿樹市長は24日の定例記者会見で、青森県の原子力安全対策検証委員会が、大間原発の安全対策を妥当とする見解を示したことについて、「国の方針が出されていない中で、安全宣言を性急、拙速に出すのは疑問」と述べ、不快感を示した。

 同委員会は今月10日にまとめた報告書で、大間原発の安全対策について「安全性を向上させた最新鋭の施設で、防潮堤の設置など必要な対策が講じられている」とし、妥当としている。

 工藤市長はこれに対し「県の検証委員会が個別原発の安全性を検証なり担保できるのか。最新の技術だから安全と言えるのか」と疑問を呈し、そのうえで「大間原発は核燃料の廃棄物を20年しか保管できず、その後の処理方法も決まっていない。(原発を)進めるために言っているとしか思えない」と述べた。

 また市長は、原子力安全委員会の作業部会が原発の半径30`圏内を「緊急防護措置区域(UPZ)」とする案を示したことに伴う電源開発との安全協定について「建設が前提ととらえられかねない」と否定。あらためて無期限凍結を主張するとともに「30キロ圏内の全市町村から同意を得るべき。建設再開への動きが出れば、国や電源開発と話をしたい」とした。(千葉卓陽)