2011年12月21日 (水) 掲載

◎ソウル便9カ月ぶり再会

 大韓航空は20日、東日本大震災後から運休していた函館—ソウル(仁川)間の定期便を約9カ月ぶりに再開した。この日の乗客はソウルから約70人、函館からは約120人。喜びに沸いた函館空港では記念セレモニーや歓迎の行事が行われた。

 同路線は週3回(火・木・日曜日)の定期便だが、放射能汚染に対する懸念から韓国国内からの集客が見込めないとして、ゴールデンウイーク期間などを除き震災後3月22日から運休していた。再開は当初27日の予定だったが、函館市の政財界が9、10月のチャーター便運航に協力し、10月上旬にはトップが本社を訪問。活動が実りこの日、以前と同じ週3往復ペースに戻った。

 再開初便は正午ごろに函館空港に到着。降り立った韓国からの旅行客を、横断幕などで歓迎した。折り返しの出発便は午前1時20分ごろに出発。搭乗前には待合室で運航再開記念セレモニーを行い、函館市の工藤寿樹市長や函館市議会の能登谷公議長、函館商工会議所の石尾清広副会頭らがテープカットした。

 工藤市長は「韓国からたくさんの人に来ていただき、函館からの旅行客にも韓国の旅を楽しんでほしい」とあいさつ。大韓航空札幌支店の高常淳支店長は、12月の予約がほぼ満席であることを紹介し、「今後は函館の方にさらに海外に足を向けてほしい」と期待した。

 函館からの出発便搭乗者には、同社から記念品としてスーツケースベルトが贈られた。函館市の金浜栄子さん(62)は、市や同会議所の助成でツアー価格が安くなることを受け、高校の同窓生10人で初の韓国旅行となった。「安さは魅力。観光や買い物を楽しみたい」と話していた。(小泉まや)



◎函館—新函館経営分離問題、工藤市長きょう判断

 北海道新幹線の札幌延伸時に、JR北海道が函館駅—新函館駅(仮称)間を並行在来線として経営分離する問題で、函館市の工藤寿樹市長は20日、反対する立場の各団体との会談の中で、経営分離に同意することへの理解を求めた。同市長は21日午前に記者会見して態度を正式発表する予定で、取材に対し「回答の保留は考えていない」とする一方、反対の声が根強い中で苦渋の判断を下すことになりそうだ。

 工藤市長は当初に意見を聴取した市町会連合会、函館都心商店街振興組合、函館朝市協同組合連合会など6団体と会談し、18日の高橋はるみ知事との会談内容などを説明。

 このうち市町連との会談では、奥野秀雄会長と常任理事ら17人が出席。同市長は第3セクター移行時にJRが運行受託することで利便性が落ちないとし、JRと水面下での交渉を経て電化など諸条件を引き出したと説明。「同意した時に、心情を十分理解していただきたい」と求めた。

 奥野会長は「3セクで赤字が出た時に、後世の人々に負担させることは是とできない」と、これまで同様に反対を主張しながらも「最終的には市長の政治判断。市長からは同意に向けていきたいとの思いが伝わった」とした。

 函館朝市協同組合連合会の井上敏広理事長も「道の謝罪は重く受け止めるが、あくまで反対の立場は変わらない」と主張。ただ「工藤市長は『返答は2つから選ぶ』としたが、もう決まっているのでは」と話す。

 一方、函館都心商店街振興組合の渡辺良三理事長は「JRの提案は精いっぱい努力した結果」として路線の電化と運営受託の方針を評価、市長に対し「市長の提案を尊重する」と返答し、態度を軟化させている。

 反対姿勢を明確にする函館商工会議所は市町連と会談。21日午前に市側が説明する予定で、松本栄一会頭は「説明なしに発表することにはならない」とくぎを刺す。

 また、市内の水産関連8団体で構成する函館水産連合協議会(石尾清広会長)は、JRの経営継続を求める要望書を市長に直接提出。JR北海道が継続運営することで利便性を確保し、地元自治体の財政負担を避けたいとするなどの内容で、石尾会長は「今の決断で函館の将来が決まってしまう。決して譲らない」としている。

 並行在来線の経営分離をめぐっては、今月16日までに函館—小樽間の14の沿線自治体が同意。函館市だけが回答を保留している。同市長は「(回答を)もうちょっと待ったらあまりにも不誠実」とした上で、21日は市議会の各会派代表者会議で方針を伝える考えを示している。(千葉卓陽、小泉まや)



◎市職員給与削減平均5.5%に

 函館市の職員給与独自10%削減を柱とする人事・給与制度の見直しで、市と市役所職員労働組合連合会(市労連)の最終交渉が20日、市役所で行われ、給与は平均5・5%の削減、退職手当はカットせずに継続協議することで合意に達した。21日午前に市労連が市に正式回答する。

 市は来年1月1日からの実施に向け、週明けにも臨時市議会を招集し、関係条例の改正案を提出する。市は当初、給与と期末手当の10%削減、退職手当の10%(来年度以降20%)減額など6項目について12月1日からの実施を提案したが、11月から始まった交渉は期間が短く、難航していた。

 妥結案では、給与は管理職が最大8%、おおむね30歳までの若手職員については最大3%の減額とし、年齢を考慮して傾斜配分で負担額を割り当てた。退職手当については「永年勤続の報奨や退職後の生活保障の意味合いもあり、給与とは性格が異なる」(市労連)として1月からの削減は見送られた。

 このほか、職員の持ち家の住宅手当については、道内の10万人以上の都市の平均に合わせ、現在の月額8500円から7000円に引き下げたうえで、今後、他都市や民間の動向を含めて継続協議する方針。今回の提案での人件費の削減額は9億円近くに上るという。

 市労連の長谷川義樹執行委員長は「非常に厳しい提案で、職員の生活への影響を考えるとギリギリの判断だった。双方が最大限の妥協点を探る中で、市も組合側の主張に一定の理解を示してくれた」と受け止める。21日には市労連の回答を受け、工藤寿樹市長が記者会見で正式に発表する。(森健太郎)


◎摩周丸あすから企画展、「船舶位置自動表示装置」修復し展示

 函館市青函連絡船記念館摩周丸(若松町12)を管理、運営するNPO法人語りつぐ青函連絡船の会(木村一郎理事長)は、館内に保存されていた、航海中に船の位置を示す「船舶位置自動表示装置」を修復し、22日に始まる企画展「青函連絡船と津軽海峡の旅PartU」から展示する。同装置は1984年、乗組員のアイデアから生まれた。関係者は「乗組員が技術向上と乗客サービスを目指して開発した装置。懐かしんで見てもらえれば」と話している。

 同法人によると、青函連絡船は64年から近代化された船が導入され、各船の乗組員は新しい技術に対応しようとさまざまな研究を行い、旧国鉄青函局では66年から「船舶業務研究発表会」を開いてきた。終航(88年)が近くなった84年、当時八甲田丸の3等通信士だった渡辺久義さんが、海図を使って船がどの位置にいるのかを自動的に表示する装置を試作して発表。実際に採用された。

 装置は約80センチ×110センチ。函館港と青森港、津軽海峡が書かれた海図に航路が引かれ、その中に片道約25個の赤いランプが埋め込まれている。出港すると、点滅するランプが10分ごとに移動し、船舶位置を示す。このほか手動でボタンを押すと、五稜郭や汐首岬、青森の浅虫、恐山など灯台や観光地の計20カ所を案内する緑のランプも点灯する。

 これまで同館内の倉庫にあったことは分かっていたが、損傷が激しく、電源を入れても作動しなかった。今年秋、同法人が装置を制作した会社に修復を相談。制作図面はなかったが、実際に携わった人の記憶で作業を進めたところ、23年ぶりに復活した。

 渡辺さんの試作にも携わったという八甲田丸の元通信長で七飯町の野呂功さん(77)は「今では衛星によって位置が分かるが、世の中がアナログからデジタルに移行する時代では、タイマーを使った大変なアイデアだった。これも機関士など乗組員全体の力で、函館—青森間を正確に3時間50分で航海できたおかげ」と話す。(山崎純一)