2011年1月1日(土)掲載

◎マッチ箱が映すマチのにぎわい/高橋さん、母の形見保管

 函館市千代台町の高橋順一さん(84)は、昭和の初めに市内の飲食店などで配られていたマッチ箱を大切に保管している。十字街や大門、湯の川温泉のにぎわいを伝える貴重なもので、目を引く図柄に、古里をはぐくんできた先人の情熱が重なる。高橋さんは「今に生きる我々を応援してくれているようだ。マッチの淡い炎が照らしてきた時代の流れに思いを寄せ、この明かりを励みに新たな365日の訪れを祝いたい」と語り、希望に満ちた新年を祈る。

 このマッチ箱は1926(昭和元)年—55(同30)年代に、高橋さんの母貞子さん(享年94)が集めたもので、大事な形見だ。当時、マッチは生活を支える必需品で「マッチは庶民文化の代表格。ハイカラな土地柄が芸術的なマッチラベルを多く生み出したと思う」と高橋さん。

 マッチのラベルからは、本州との海の航路やはしけがあった西部地区から函館駅前、大門地区へと繁栄していった様子を垣間見ることができる。

 函館銀座通りの社交場「ムサシノ」のは和服美女の挿絵、映画館松竹座(宝来町)、現在の函館市地域交流まちづくりセンターである「丸井今井」(末広町)、同じく十字街にあった棒二森屋の前身「森屋」、老舗「函館五島軒」、函館駅前の精養軒は「高級食堂デパート 階上カフヱー」、そして湯の川温泉街の旅館も。

 36年の陸軍特別大演習に天皇陛下が来道したことを祝福するのは、函館日日新聞社のマッチ。函館駅前にあった喫茶店「華壇」の図柄は、日の丸に「皇軍萬歳」と軍国主義の影響が色濃い。

 現代ではマッチを使う機会が減り、その希少さも薄れてしまった。高橋さんは「すぐ火がつくうれしさ、マッチ独特の温かさ、あのにおいが良くてね」と語る一方、「マッチなどの火種は生活に根付き、幾度となく函館のまちを大火にしてきた。しかし、その都度、がれきのまちを再建しようと懸命に力を注いだ市民がいた。敬意と感謝を示して見習いたい。時代の荒波に動じない、希望に満ちた伝統のともしびが函館にはある」ときっぱりと語る。(田中陽介)



◎ショパンコンクール出場の岡田さん「自分の響き追求」

 昨年10月、ポーランドのワルシャワで開かれた「ショパン国際ピアノコンクール」に、函館出身者として岡田奏さん(19)が初めて出場した。大舞台で過ごした時間は「何物にも代えがたい経験になった」と振り返る岡田さん。新年を迎え、「貴重な体験を糧に一歩一歩前に進み、自分にしかできない音楽を求め続けたい」と目を輝かせている。

 岡田さんは函館本通中卒業後、単身で渡仏。パリ国立高等音楽院ピアノ科に入学し、昨年6月に首席で卒業した。現在は同音楽院室内楽科で研さんを積んでいる。

 5年に一度開かれるショパンコンクールは、小さいころからの憧れの大会。惜しくも一次予選で敗退したが、マルタ・アルゲリッチさんら審査員を務めた世界的なピアニストを前に演奏できたことは「忘れられない出来事」となった。ただ、自分以上に個性豊かで人間味にあふれた世界の若手奏者の演奏、人となりに触れ、「精神的にも自分の未熟さを痛感させられた」。

 夢のようなコンクールから2カ月余り。「伴奏やアンサンブルもこなしたいから」と、パリでは室内楽中心のレッスンを受けるが、夢はソリストだ。自分にできるパフォーマンスは何か、自分と音楽の関係性は…。音楽表現は奏者の人間性が表出されるだけに、自己を見つめ直す時間が以前よりも増えた。「1日も、1時間も、1秒も、絶対に無駄にしたくない」。そうして鍵盤と向き合う一瞬一瞬は試行錯誤の連続で、自分との戦いだった。

 12月27日夜、函館市芸術ホールで開かれた「凱旋コンサート」。「変化」をテーマに掲げて臨んだリサイタルで成長の音色を響かせた。地元から声援を送り続ける大勢の市民の温かな拍手は「今後の活動の大きな原動力になった」という。

 今年は5月にカナダで開かれる若手音楽家のための「モントリオール国際音楽コンクール」に挑戦する。「常に前進し続けなければならない」と準備する毎日だが、1月15日までは古里に滞在、10日の函館市成人祭にも出席する。「大事な人生の節目。パリへ旅立つ前に、古里の友人と思い出を残したいです」。(長内 健)

 



◎年末も受験勉強

 入学試験が迫った私立中高を目指す子どもの通う学習塾では、年末年始にもかかわらず受験対策講座が開かれている。北大学力増進会では、函館、北斗の両市、森町などの会場で、31日から3日間の正月特訓が始まった。

 このうち函館市本町の函館美原本部では、小学校6年生と中学校3年生合わせて約300人が参加。31日は午前10時から午後4時ごろまで、講習が行われた。

 1月8日に試験が行われる函館ラ・サール中学校入学を目指すクラスでは、同会函館本部長の秋葉龍顕さんが指導した。秋葉さんは児童に「3日間頑張ってみんなで合格を勝ち取ろう」と呼び掛け、入試予想問題などを使って最終確認を行っていた。

 児童は「必勝」の文字と日の丸が描かれた鉢巻きを締め、真剣な表情で講師の質問に答えたり、ノートを取ったりした。同校志望の市内の小学6年生男児は「難しい挑戦だけど頑張ります。あとは算数をもっと強くしたい」と話していた。(小泉まや)