2011年3月16日 (水) 掲載

◎食品工への発注増、原料確保に懸念も…東日本大震災

 東日本大震災で東北地方を中心に工場が稼働を停止したことから、道内には思わぬ需要が生まれている。大手スーパーなど小売店が商品を確保しようと、通常通り操業を続ける道内や道南の工場に多くの出荷を要請。各工場は増産体制で臨む一方、原材料確保への不安にさらされている。また災害用の備蓄食品も注文が相次ぐ。

 水産加工の布目(函館市弁天町)には関東や関西のスーパーから、塩辛などの引き合いが多く寄せられた。15日の受注は通常の1・5倍。製造量を増やして対応し、関東以南には日本海側を通り新潟から高速道路を使うなどして配送する。同社は「被災地のことを思うと決して喜べない」という複雑な心境だ。

 原材料については「当面は在庫で大丈夫だが、八戸の被害でイカの確保が不安。今後は農産物被害も表面化するだろう」とし、松前漬けに使用するニンジンについても神経をとがらせる。

 「函館牛乳」で知られる函館酪農公社(同市中野町)には、取引のなかった企業からも乳製品を求める声が相次いだ。以前から青森や仙台を中心に出荷はあったが、青森からの発注は通常より35%ほど増加した。原料となる生乳の生産量が限られており輸送時の燃料も制限されていることなどから、関東向けは断り、青森向けを優先的に出荷。震災の影響としては「機器トラブル時の部品確保も心配」とする。

 函館市昭和に工場を持つ日糧製パン(札幌)は、青森県からの要請に対応したほか、仙台などのパンメーカーから供給を断たれた大手スーパーから取引を求められた。「各取引先から通常の2〜3倍の引き合いがある」一方で、原料ショートを懸念。「クリームパンのクリームや、フィルムなど包装材が心配」とする。

 今後の災害に備えようとの動きも。備蓄用の乾パンを販売する北海道製菓(同市大縄町)には14日から、通常の2倍程度の注文が殺到している。被災地の周囲のほか関東など本州からの問い合わせが特に多いが、東北地方の輸送が厳しいためやむなく断る状況。道内全域からは個人の問い合わせが多く、同社は増産体制で需要に応えている。(小泉まや)



◎道南でも節電の動き

 北海道電力が本州方面に最大60万キロワットの電力を融通していることに伴い、道南の小売店や企業の間にも節電の動きが広まっている。ただ、北電は「道内の必要分は確保してあり、日ごろから心掛ける省エネを引き続き実施してほしい」とし、現段階では特別な対応の必要はないとの見解を示している。

 本州への送電は、津軽海峡の送電線を利用して13日から実施中。必要量に合わせて融通するが、これは「道内の各発電施設の能力を最大限に発揮して、通常以上の電力を確保している結果」とし、道内使用分は十分にあることを強調する。しかし一方では「節電の取り組みは国全体が置かれている状況を考えると意義深い」と受け止めており、「必要以上の電力の使用を控えることはいつも通り続けてほしい」と求める。

 市内の大型ホームセンターでは東京電力の計画停電実施に伴い、15日から店内の一部の蛍光灯を消灯した。「本州で電気の供給が不足しており、店としても使用を抑えなければという気持ちになりました」と話す。

 自発的な節電の動きは観光施設でもみられ、五稜郭タワー(五稜郭町43)は日没から午後10時まで毎晩行う夜間ライトアップを同日から当面自粛することに。同社は「点灯再開時期は社会情勢を見極めて決定する」。タワーは通常通り営業している。



◎物流不安 消費者買いだめ

 東日本大震災の発生以降、函館市内の小売店などでは防災グッズやカップ麺などの売れ行きが急増し、品薄になる店が出ている。防災意識の高まりのほか、震災による物流まひの懸念などから買いだめに走る消費者がいるとみられるが、小売業関係者は「物流が止まったり、在庫が完全になくなるわけではない。社会情勢をよく見極め、冷静な対応を」と呼び掛けている。

 地震発生の翌日からレジ前に乾電池や掃除用具の売り場を設けたイエローグローブ豊川店(豊川町7)は、12日から客が途切れない。モップや単1中心の乾電池は通常の倍以上の売れ行き。懐中電灯も14日に完売し、次回の入荷時期も未定のまま。

 同店は現状について「万一の事態に備えたり被災地の親族に送ったりとさまざまな声を聞くが、どうか落ち着いてほしい」と協力を呼び掛ける。

 市内のあるホームセンターも、この4日間で乾電池やガスコンロ、長靴、ゴム手袋などの売れ行きが伸びたが、「物流が完全にまひしたわけではない」と強調し「パニックになるので過度な買いだめは控えて」と話す。

 スーパーセンタートライアル北美原店(北美原1)でも、カップ麺やミネラルウオーター、缶詰などの非常食が続々と売れるが、在庫分でカバーできるものも多いという。同店も「混乱が起きないよう11日以降、お客さんに冷静な対応を求めている」と話す。

 渡島・桧山管内で16店舗を経営する道南ラルズも、11日以降で食料品の売り上げが通常の10%増になったが、現在は落ち着いてきた。同店は「今後も消費者の不安をあおらない対応を心掛けていく」としている。(長内 健、小杉貴洋)


◎道南 放射線量異常なし

 道原子力安全対策課によると、東京電力の福島第1原子力発電所で発生した放射線漏れ事故で、道などが北電泊原発(後志管内泊村)の周辺に設置している、すべての放射線の観測点では、これまでのところ測定データに異常はないという。同課は、渡島・桧山両管内の住民にも、冷静な対応を呼び掛けている。

 同課によると、泊原発周辺には、道や北電が設置した22カ所の観測点があり、放射線量の自動測定を24時間体制で実施している。いずれも地震発生前と変わらない数値を示しているほか、泊原発は、大地震の影響はなく、正常運転を継続しているという。道が管理するモニタリング車両などの出動予定はないという。

 また、文部科学省が、道立衛生研究所(札幌)の構内に設置している観測点でも15日正午現在、観測データに異常は認められず、環境省が道北の利尻島と、青森県の竜飛崎に設置した観測点でも、放射線量の上昇はないという。

 同課は「情報収集体制を強化しながら、観測データに変化がないか注視したい」としている。道原子力環境センター(後志管内共和町)は、泊原発周辺で測定している放射線のデータをインターネット上で公開している。ホームページアドレスはhttp://www.pref.hokkaido.jp/soumu/sm-gensc/(松浦 純)


◎運行再開に喜びと不安 スーパー白鳥

 JR北海道は15日、震災の影響で運休していた、函館─新青森間を結ぶ特急「スーパー白鳥号」の運行を、4日ぶりに2往復で(通常8往復)再開した。函館、新青森発の1番列車の乗客はそれぞれ30人程度。本道に戻った人たちは安ど表情を見せていたが、東北方面へ向かう人は不安げな様子だった。

 午前7時24分、函館発同20号の乗客の表情には硬さが見られた。11日に岩手県久慈市から恵庭市を訪れていた男性(64)は「家はもとより、八戸に置いてきた車も心配」と語った。函館に旅行で来ていた盛岡市の女子大生(22)は「帰っても食料が心配」と多くのインスタント食品を抱えていた。

 午後零時半ごろには、新青森発の同11号が函館に到着。10日から大学受験で弘前市にいたという帯広市の男子高校生(18)は「函館に着き、ほっとしたが、家に帰るまで気を抜けない」と話していた。

 函館駅は11日の津波の影響で、信号を制御する機械などが故障し、8つあるホームがフルに使えないため、函館発着の札幌行きなどの特急は運転本数を限定している。同駅の鈴木克彦駅長は「未曾有の震災の結果とはいえ大変不便をかけており、一日も早く通常のダイヤに戻すため、全社員一丸で努力している」とのコメントを発表した。(山崎純一)