2011年3月17日 (木) 掲載


◎選挙活動に震災の影 市長・市議選

 任期満了に伴う函館市長選と市議選は、4月17日の告示(同22日投開票)まで1カ月となった。現時点で市長選に立候補を表明しているのは、無所属の現職で2選を目指す西尾正範氏(62)と、無所属の新人で前函館市副市長の工藤寿樹氏(61)の2人。市議選には現職、元職、新人合わせて37人が出馬する見通しだ。各陣営とも支持拡大に全力を注ぐ中、11日に発生した東日本大震災によって被災した市民が多い上、被災者に配慮するムードも手伝って、陣営の活動に支障が出ている。(統一地方選取材班)

 西尾氏は公立はこだて未来大への医学部設置推進や子育て、健康づくりの充実、町会館を活用し、退職教員が子どもの指導に当たる「寺子屋」の創設などの公約を掲げる。水産業界や教育・文化関係団体を中心に推薦を受け、支持固めを進める。

 陣営はリーフレット6万枚を配布、さらに5000枚増刷して市民への浸透を図っており、後援会加入の申し込みも「前回選挙を上回るペース」(陣営幹部)という。22日に総決起集会を開き、約1000人の参加を見込む。

 西尾氏本人も公務の合間を縫って支援者回りを進めていたが、市内で冠水被害が発生したため状況が一変。11日以降は公務に専念し、選挙関係の動きを制限している。陣営幹部は「連休明けごろから活動を再開したい」と話す。

 一方、工藤氏は経済対策や財政再建を公約の柱に据え、西尾氏との政策の違いを強調する。市職員の給与カットを含めた行財政改革も、争点に持ち込む構えだ。

 後援会の会員数も企業・団体への朝礼やあいさつ回りに伴って増え、「間もなく3万人に到達する勢い」と支持を広げる。団体からの推薦も商業関係や土木・建設関連、農協など幅広く取り付けたが、知名度不足は否めず、工藤氏も「時間との戦い」と焦燥感をにじませる。

 17日には予定通り「励ます会」の開催を決めたが、陣営内でも開催を逡巡(しゅんじゅん)する声もあり、「選挙日程が変わる気配はないので…」と苦渋の決断に至った。震災後には選挙活動を自粛している部分もあり「今が大事な時期なのにやりづらい」。

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 市議選の立候補予定者は大半が事務所開きを終えている。現職は22日の第1回定例会の終了以降、活動に本腰を入れる構えだが、やはり震災が影を落とす。

 各候補予定者とも政策や人柄を周知する時期に差し掛かっている中、ある候補予定者は「こんな状態では、よほど親しい間柄でなければあいさつ回りはできない」と嘆いた。冠水被害にあった朝市を避ける向きもあり、被災地の訪問活動が当選のための“パフォーマンス”ととらえられることを懸念する。



◎早急な原発安全対策を

 東日本大震災の影響で発生した東京電力福島第1原発のトラブルを受け、青森県大間町で建設が進む大間原発の建設反対を求める市内の市民団体の代表らが16日、函館市役所を訪れ、西尾正範市長に早急な安全対策を求める要請書を手渡した。

 要請文は、大間原発訴訟の会(竹田とし子代表)、ストップ大間原発道南の会(大巻忠一会長)、函館・「下北」から核を考える会(矢尾板和子、大場一雄共同代表)、函館YWCA(新松玲子会長)の4団体の連名。

 竹田代表は市に対して▽放射性物質の検出や放射線の測定▽福島県から帰道した人への検査体制▽市民への放射線量などの情報提供▽保育園や幼稚園、学校などへの適切な指示―など8項目の質問や要望を訴え、「恐れていたことが現実になり、強い危機感を持っている。市民に正確な情報を提供してほしい」と求めた。

 西尾市長は「今のところ大間原発は稼働しておらず、市として準備はしていない。今後、世界中のエネルギー政策に影響すると思うが、国や道の動向を見極めながら様子を見るしかない」と述べるにとどまった。要請後、竹田代表は「市民の健康にも影響がある事態。一番の防災は原発をつくらないこと」と語った。(森健太郎)


◎津波ハザードマップ増刷へ

 函館市は、津波発生時の避難場所や予想浸水区域を記した「津波ハザードマップ(災害予測図)」を1万部増刷する。東日本大震災で市内が津波の浸水被害を受けて以降、市民や関係機関からの問い合わせが急増。2009年3月に作製、配布済みの2万部は既に品薄状態で、市民の防災意識が急速に高まっている。

 市は気象庁が発令した津波警報に合わせ、ハザードマップに従って11日午後3時14分に市内31町の8315世帯、約1万5600人に避難勧告を出した。その後、大津波警報に切り替わると、同3時40分に一段強い避難指示を出し、避難対象は75町の1万4830世帯、約3万700人に拡大した。

 だが、マップで示す浸水範囲は道が想定する3メートル程度の津波が前提だ。今回、市内の最大波は11日午後11時35分に実際に観測された2・4メートルだったが、気象庁が予想する波の高さは一時最大で6メートルに達し、避難勧告・指示も50センチ未満の浸水が想定される函館港沿いの広域にまたがった。

 市がまとめた今回の津波被害状況でも、15日現在、床上浸水が前日より8棟増の352棟に上った。被害は函館朝市やベイエリア周辺の若松、大手、豊川町に集中したが、そこから1キロ以上離れた港町1や海岸町でも民家ではない建物が床上浸水の被害が出た。

 市はこれまでに津波による浸水被害が想定される市内12町の1万3600世帯、200事業所にマップを配布したが、未配布地域も多く、3月中にも新たに増刷、配布する予定。市総務部は「津波の怖さを知った市民も多いはず。避難する際に活用してもらいたい」としている。(森健太郎)


◎新年度予算案など33件を原案可決

 函館市議会予算特別委員会(浜野幸子委員長)は16日、同委員会に付託された新年度一般会計予算など議案33件を原案通り可決した。

 一般会計は市長選を控えるため、義務的経費中心の骨格予算となり、歳入歳出総額は1310億1600万円。このほか、水道局と交通局を統合し、企業局を設置する関係条例の一部改正や、函館バスに対する日吉営業所市有財産の貸付料を、無償から半額助成に変更する議案などが可決された。

 総括質疑では本間新氏(市民クラブ)が、介護保険事業特別会計で生じた欠損金の扱いをただした。西尾正範市長は「市と同様の状況にある他都市と連携する必要があり、現時点では補てん方法が不確定。決まり次第、補正予算で対応したい」と述べた。

 またTPP(環太平洋経済連携協定)への参加について同市長は「自由化の準備ができていない中でグローバル経済に飛び込むのは危険。きわめて慎重に対応すべき」との認識を示した。(千葉卓陽)