2011年4月12日 (火) 掲載

◎震災1カ月、朝市の活気徐々に

 東日本大震災から1か月。大量の海水が流れ込む被害に遭うも、1日にほぼ全店で営業を再開させた函館朝市。軒先には鮮魚が並び始め、観光客が戻りつつある。「ここは函館の顔≠セ。必ず観光客は戻ってくる」と、関係者は力を込める。

 「このままじゃ本当にまずいと思った」。朝市の一角で鮮魚店を営む「マルヨ吉岡商店 蟹商」代表の吉岡照夫さん(58)は呟く。壊れた冷蔵庫などを取り替え3月20日に営業を再開させたが客足は少なかった。ようやく活気を取り戻しつつある朝市の様子に「もっと観光客が増えてくれれば」と願う。

 函館朝市協同組合連合会(井上敏広理事長)によると、冷蔵・冷凍庫や水槽などの被害総額は億単位に上る見通し。全店とも厳しい経営を強いられる中、松田悌一事務局長は「後は、例年通り観光客が来るのを待つだけ」と前を向く。

 さらに気になるのが、4月下旬から始まるゴールデンウイーク(GW)。毎年多くの需要が見込める時期だけに、「ここでお客さんが来れば、5月中旬以降は明るい」と吉岡代表。

 店頭で接客に励む高田屋水産の小野昭光さん(36)も「お客さんから励ましの言葉を掛けられることもあった」と振り返り、「GWに向けて地道に声掛けしていく」と力強い。

 人情味ある朝市の人々の姿に、観光客からも期待を寄せる声が聞かれる。愛知県から新婚旅行で函館を訪れた野元敏明さん(36)、幸恵さん(31)夫妻は「朝市が早く復旧したおかげでよい思い出をつくることができた。津波被害に負けないで」。

 松田事務局長は「お客さんは戻ってくる。そう信じて頑張るだけだ」と話している。(長内 健)



◎震災被害状況まとめる

 東日本大震災の発生から1カ月を迎えた11日、発生時刻の午後2時46分には、函館市役所や各支所などで全職員約3500人が一斉に黙とうをささげた。函館朝市やベイエリア周辺で津波による浸水被害を受けた函館市。これまでに判明した被害状況や、被災地・被災者への支援や受け入れなどの対応をまとめた。

 市総務部によると、床上浸水は住宅が385棟(うち住宅は85棟、104世帯・185人)、床下浸水は80棟(同52棟、56世帯・107人)、壁や基礎の亀裂など一部損壊は5棟(同3棟、3世帯9人)。漁船は5隻が沈没し、13隻に一部損傷があった。車両は計666台に冠水被害が出た。

 浸水被害は函館港に面した弁天、末広、豊川、大手、若松、海岸、港町1など広範に及び、若松町では67歳の男性1人が自宅で水死した。漁業関連では、南茅部地区でコンブやホタテの養殖施設が津波で破損したほか、市水産物地方卸売市場では上屋やシャッターなどの損壊が30件に上った。

 このほか、施設では旧函館区公会堂や旧イギリス領事館、写真歴史館で屋根や壁の一部が破損。千代台公園陸上競技場のコンクリートフェンスや、新川公園野球場の観客席にも一部破損が見つかった。青函連絡船記念館摩周丸でも設備に被害があり、震災直後から閉館しているが、16日に営業を再開する予定。

 市は家屋や店舗などに床上浸水の被害を受けた市民を対象に一律2万円の見舞金を支給。11日現在で300件程度の申請があった。市福祉部では「復旧に追われてすぐに申請できないケースもある。申請は9月末まで受け付けている」(社会課)としている。

 被災者の受け入れも進んでいる。市が確保した公営住宅は計245戸・735人分。半年から1年間家賃無料で、光熱費は自己負担となる。市市民部によると、11日現在で22世帯・70人が入居し、「特に原発事故から避難した福島県からの入居者が目立つ」(市民課)という。

 一時避難先として市内17カ所のホテル・旅館も計394室・1410人分を用意。被災者は今月30日までは3食付き無料で宿泊できる。市町会連合会を通じ、被災者の要望に沿った家財道具を提供していて、11日現在、冷蔵庫や洗濯機、テレビなどの電化製品が12世帯で活用されている。

 被災者らからの相談は、11日現在で市に200件以上寄せられていて、住宅や子どもの就学先、生活支援金に関するものが多いという。市福祉部によると、4月11日までに集まった義援金は956万8460円で、順次日本赤十字社に送っている。

 このほか、親類宅に身を寄せている被災者も50人前後に上るとみられ、市は「被災者に提供できる行政サービスも多いので、まずは市に連絡してほしい」と呼びかけている。市の被災者相談窓口はTEL0138・21・3136。(森健太郎、黒田寛)



◎震災1カ月、日常生活もう少し時間

 東日本大震災発生により、混乱していた函館市内の物流は落ち着きを取り戻したが、国産たばこの出荷停止など、日常生活の混乱は続いている。主要産業の観光も同様。震災から1カ月経った街の様子を探った。(鈴木潤、小泉まや、堀内法子、小杉貴洋)

 ■たばこ

 函館市内のコンビニエンスストアでは国産たばこの品切れや品薄状態が続いている。

 震災で日本たばこ産業(JT)の製造工場6工場のうち2工場が被災し、3月30日から全97銘柄の出荷を停止。11日に「マイルドセブン」など一部の銘柄に限り、数量限定で出荷を再開したが、需要に対応できる量ではないため、店によっては販売制限を設けたり、十分な品数になるまで店頭に並べないなどして対応に苦慮している。

 国産たばこの出荷停止は外国産のたばこの販売にも影響が及び、国産の欠品分を補うため通常より多く入荷する店が相次ぎ、銘柄によっては品薄になるケースも出ている。

 たばこを主力商品としている小売店、セラーズいそ(宮前町33)では、常連客のほか、飛び込みの客も来店。好みの銘柄がないため、やむを得ず別の銘柄に切り替え買う人が増えているという。11日には、数量限定で一部国産たばこが納品されたが、磯雅晴店長(60)は「このまま売っても常連客に行き渡らない可能性もあり、客離れを懸念している。何とか元の状態に戻ってほしい」と願っている。

 ■観光

 震災後、3月末までに、1施設当たり最大で数千人単位のキャンセルが相次いだ市内の旅館・ホテル業。一部に回復の動きもみられるが、現在も例年の5割程度に宿泊が落ち込んだままの施設が多い。

 函館湯の川温泉旅館協同組合(22軒)の金道太朗理事長は、ゴールデンウイークについても「例年は期間中満室だが、今年は後半の空室が目立つ」とする。少しでも客を取り戻したいとの思いから、組合員が連携して5000円〜1万円の定額プランを売り込む計画だ。金道理事長は「東北新幹線が運行再開しなければ希望は見えない。福島原発の状況も落ち着いてくれれば…」と祈る。

 原発事故の影響で海外からの渡航需要も減り、定期便やチャーター便も断たれている。大韓航空が函館—ソウル(仁川)間で週3日運行する定期便は、5月の大型連休需要で一時的に再開する見通しだが、その後は未定。同社函館支店は「再開は協議中だが、原発の状況次第」とする。

 市や商工会議所で構成する「函館空港定期航空路線活性化事業実行委員会」が、6月の大韓航空定期便就航5周年に合わせ100人規模の記念ツアーを企画しており、契機となるよう願っている。

 ■物流・消費

 大震災による物流停滞や消費者の不安心理にかられた「買いだめ」などが原因で、函館市内の量販店やスーパーでは特定の商品に品薄の状態が続いたが、現在は、落ち着きを取り戻しつつある。一方、被災地への物資供給が優先され、資材など新たな品不足や欠品が懸念されている。

 函館では懐中電灯やラジオをはじめとする防災グッズの需要は依然高いが、被災地の物流が優先され、市内に入る量は限られている。家電量販店の「スーパーアウトレットベスト函館店」(昭和1)の阿部真也店長は「希望に応じて提供したいが、制限があるので…」と頭を抱える。

 また、被災地では仮説住宅の建設が進められ、資材類や日用品の需要が高まることが予想され、イエローグローブ本部(函館市西桔梗)では「従来通りの入荷ができるのか見通しが立たない」と流通状況を注視する。

 はこだて自由市場(新川町)は、プロの料理人の多くが仕入れで足を運ぶ。しかし、“自粛ムード”で市民の外出が激減し、店側は仕入れ数を減らすため、商品は売れない。前直幸理事長は「東北を応援したいが、こちらの状況も相当深刻。かといってイベントを行う雰囲気でもない。市民の皆さんに利用してほしい」と切実に語った。

 ■JR

 函館駅がホームの冠水で使用できなくなるなど、甚大な被害が出たJRでは、11日現在、道内を運行する列車に関しては通常ダイヤに戻っている。しかし、東北地方の線路状況により、札幌と上野を結ぶ寝台特急を中心に、運転を見合わせている列車もあり、全面復旧には至っていない。


◎道議選、民主議席確保も票目減り

 10日投開票された道議選で、民主党は道南4選挙区(10議席)で擁立した6候補全員が当選し、政権批判が強まる中で勝利した。自民党は北斗市区で新人が落選したが、函館市区、渡島総合振興局区の計3人が手堅く当選。東日本大震災の影響で選挙ムードが停滞したことで、両党の現職8人が議席を維持する結果となった。一方、知事選は現職の高橋はるみ氏(自民、公明推薦)が木村俊昭氏(民主など推薦)らに圧勝し、道南でも高橋氏の得票率が70・4%と前回(62・5%)からさらに伸ばし、木村氏は20・8%にとどまった。道南民主党は議席を維持したが合計得票は目減りし、知事選では浸透しきれなかった。

 道議選で民主は、函館市区の3議席を死守したほか、北斗市区と桧山振興局区の1人区で現職が手堅く勝利。渡島総合振興局区は引退した現職の地盤を受け継いだ新人が議席を守った。

 ただ、函館市区での民主党3候補の合計特票は4万4517票で、票割りには成功したものの、前回の5万151票からは約5600票減。一方の自民2人はともに票を伸ばし、合計で3万7066票。高橋道政を支える自公の枠組みでは5万4889票と、保守勢力の回復に弾みをつける結果となった。

 知事選の得票をみると、道南全体で高橋氏が約7割、木村氏が約2割。共産推薦の宮内聡氏、無所属の鰹谷忠氏はいずれも1割に満たなかった。函館市では木村氏の得票が21・7%と若干高かったが、高橋氏は木村氏に道南全体で3・3倍もの差をつけ、盤石の人気を裏付けた。

 道議選の結果を受け、民主党道8区総支部の道畑克雄幹事長は「道南の議席を守れたのは幸いだったが、投票率の低下を考えても得票が目減りした。民主への逆風の表れだった」と話す。一方、自民党函館支部の浜野幸子幹事長は「震災への対応も含め、現政権への不平不満が表れた結果だ」と強調。防災対策に絡め、公共工事の重要性を訴えたことが得票増につながったとみる。

 公明党は函館市区で新人が当選し、党函館総支部の茂木修支部長は「新人候補ながら、非常に健闘した」と評価する。函館市議選は公認を5人から4人に減らした中で引き締めを図る。

 函館市区で新人が落選した共産党。党函館地区委員会の高橋佳大委員長は「気持ちを切り替え、函館市議選で3人完勝を目指す」とした。(千葉卓陽)


◎函館観光の安全確認、台湾の旅行関係者ら視察

 東日本大震災や原発事故の影響で海外からの観光客が激減している函館観光の安全性をPRしてもらおうと、台湾の旅行会社や報道関係者ら23人が11日、函館市や七飯町・大沼を視察した。一行は12日まで市内ベイエリアや函館朝市などを見て回り、台湾で道内観光の安全性を広くアピールする。

 新千歳—台北線の定期便を運航する中華航空の主催。一行は10日に新千歳空港に到着し、登別温泉などを視察。13日まで3泊4日の旅程で小樽や札幌など道内各地の観光地を回る。市などによると、台湾当局は現在、道南を「退避勧告」の地域に指定している。

 一行は大沼からバスで函館赤レンガ倉庫群に到着。函館側は観光関係者約30人が「熱烈歓迎」の横断幕で出迎え、観光案内のパンフレットを手渡した。施設では金森商船の渡辺兼一社長が案内し、現地のテレビ局や新聞社の記者から津波被害の状況や対策などの質問攻めにあっていた。

 中華航空の李宜洲客運営業部長(46)は「函館が震災の被害から復活し、安全であることが目で確かめられた。台湾でそれを伝え、早々にツアーも企画したい」と好意的。応対した谷沢広副市長も「函館は安全であることを現地の当局にも働きかけてもらい、海外の観光客を呼び戻す足がかりにしたい」と強調し、函館へのチャーター便の就航などを要請した。(森健太郎)