2011年5月8日 (日) 掲載

◎「供養和讃」函館大火復興の支えに 高龍寺の亡き住職発刊の本

 東日本大震災で漁村や街ががれきと化した東北地方と同様に、函館市も77年前の函館大火で、市街地が焼け野原となった。犠牲者を追悼し、大火の記憶を風化させまいと、当時、高龍寺で僧侶をしていた齊藤彰全氏(1901—60年)は「函館大火遭難死亡者 供養和讃」を作り、犠牲者を仏の国に送った。死者への鎮魂と被災者を忘れないという強いメッセージが、震災後の今、強く伝わる。

 和讃は、仏の徳や教えをたたえる和歌。齊藤氏の供養和讃は縦17センチ×横7センチの折りたたみ和装本で、広げると2メートル30センチ。死者2100人以上、被害世帯2万2000以上を出した函館大火から、約8カ月後の1934(昭和9)年12月1日に発行した。

  第二節
  あたり一面火の地獄
  煙に巻かれて地に伏すも
  猛火に包まれ焼きただれ
  右に左にまた西に
  老幼男女入り乱れ
  アレヨアレヨと泣き叫ぶ…

 和讃では火の海を逃げまどう姿や、命尽きて眠る遺体の惨状を七五調の歌で詠み、死者を救おうとする仏の願いを伝えている。街をのみ込む炎、逃げる人々、川や海に飛び込む姿など、絵筆による描写も「地獄絵」。

 発刊に際し、彰全氏は「精霊を心から復興の人柱としてお慰めしたい。月日がたつにつれて、ともすれば忘れがちになることはお気の毒に堪えない。当時を思い起こして涙でつづった真実味をお聴き取り願えたら幸い」と記している。

 彰全氏はその後、永全寺(現・函館市昭和2)を築いた。孫で現住職の齊藤隆明さん(42)は「祖父は檀家の関係もなく、大火で苦しむ人々のところに足を運び、ともに苦しみを分かち合ったと聞いている。慈悲の思いが強かったのではないか」と話す。

 供養和讃を、当時のNHK函館放送局スタジオで吹き込んだレコードと記念写真も永全寺に残る。彰全氏自身の声で吹き込み、家族は「青森県鰺ヶ沢の生まれなので、津軽なまりがひどくて思わず笑ってしまう」と懐かしむ。

 彰全氏の娘で隆明さんの母、彰子さん(64)は「父は大火のときに高龍寺に被災者を招き入れたと聞いている。この経験を後世に残そうと、供養和讃を作ったと思う」という。

 彰全氏が亡くなったのは60年5月24日。享年59。寺の本堂を建てる前に、自宅近くで火が上がった。すぐさま、火の気が迫る危険性はなかったというが、本尊のお釈迦さまを救いに走り、逃げる矢先の庭で本尊を抱いたまま息を引き取っていたという。「父は大火を経験しているだけに、火事の恐ろしさを知っていたのだと思う。この供養和讃の願いにある通り、火の用心、日々の防災意識を改めなければと思う」と彰子さん。

 隆明さんも「祖父の熱い思いを忘れずに、常に困っている人の気持ちになって布教していければ」と話している。(田中陽介)



◎JA新はこだてで、湯川朝市スタート 新鮮野菜求め多くの市民

 JA新はこだて函館支店女性部(鮫川初江子部長)のメンバーが新鮮野菜を販売する「湯川朝市」が7日、函館市湯川町3の同支店倉庫前で始まり、早朝から旬の野菜を買い求める市民でにぎわった。

 この朝市は、毎年5月から10月末までの毎週土曜日に開催。同部がそれぞれの家庭で育ててきた取れたての野菜に加え、漬物、大豆などの加工品、花苗、野菜苗を提供している。

 新年度の初日となったこの日は午前7時45分に開店。ニンジンやジャガイモ、ホウレンソウ、ナガイモなど函館産の農産物が並び、市民の列ができた。道南特産の大豆「タマフクラ」を使った豆腐やおからも人気で、多くの市民が手に取っていた。

 毎年訪れているという湯川町の木戸巻子さん(70)は「おいしい野菜が近所で買えるので大変ありがたい」と笑顔。鮫川部長(64)は「今後、トマトやネギなど品物を増やしていく。今年もお客さんに喜ばれるような運営をしていきたい」と話した。

 同支店倉庫前で午前7時45分〜9時。8月13日は休みで、10月22日は抽選会などを行う感謝祭。問い合わせは新函館農業協同組合七飯基幹支店営農課TEL電話138・65・3078。(長内 健)



◎公式観光情報サイト「はこぶら」大幅に刷新

 函館市の公式観光情報サイト「はこぶら」が、レイアウトを一新して大幅にリニューアルした。夜景やグルメなどのコラムをはじめ、市内の隠れた魅力や近郊の情報を紹介するコーナーも新設。市民が写真やコメントを投稿できるシステムも導入し、函館観光の新たな魅力発信に一役買っている。

 はこぶらは2008年12月に開設。サイトの編集や管理運営を民間委託し、市民の目線で「地元発」の情報を提供している。昨年12月から市内の映像製作会社シンプルウェイに委託先が変わったのを機に内容を刷新。市ブランド推進課によると、1カ月で平均約3万件のアクセスがあるという。

 主な変更点は、「夜景」「美味」「街歩き」の3つのテーマを深く掘り下げたコラムを用意。「あなたのディープな函館」と銘打ち、桜やスイーツ、温泉など旅行者のさまざまな観光ニーズに合わせた情報も伝える。さらに市内旧4町村や大沼、青森など広域観光の情報も載せた。

 このほか、新設した「フォトギャラリー」では一般市民から写真投稿を募集し、記事にコメントできる双方向性も取り入れた。トップページでは函館山からのライブ画像や市内の天気、インターネットの簡易投稿サイト「ツイッター」を活用した観光情報なども発信している。

 同課は「ガイドブックでは表現しきれないボリュームで、開設から2年半積み上げてきた函館の観光情報が満載。リニューアルで欲しい情報に接しやすくなったサイトを市民にも活用してもらい、函館の良さにあらためて気づいてもらいたい」としている。はこぶらのアドレスはhttp://www.hakobura.jp/(森健太郎)


◎入札の適正化へ調査基準明文化 函館市、談合情報対応要領改正

 函館市はこのほど、談合情報への対応要領を改正した。昨年12月に発生した市発注工事をめぐる官製談合事件を受けて、事情聴取などの調査基準を明文化したほか、公正取引委員会への通報基準を拡大することなどを盛り込み、入札の適正化を期する。

 官製談合事件では、2008年2月の入札翌日に市に談合情報が寄せられ、これを基に市が調査。事情聴取を行って誓約書を取ったが、事実は突き止められず、道警の捜査で発覚した。

 これを踏まえ、改正要領では談合情報があった場合の調査基準を明文化している。メモや録音テープ、写真など具体的な物証がある場合や、当事者以外知り得ないと認められる情報、さらに情報提供者の名前や連絡先が明らかであったり、匿名の場合でも予定金額や関与した業者、談合の日時・場所など具体的な情報を含む場合に業者の事情聴取を行う。

 また、これまでは「事情聴取の結果、談合があると思うに足りる事実、もしくは談合があった証拠を得たとき」に公取委に通報していたが、これを「事情聴取などの調査を要することを決めたとき」に拡大する。

 このほかにも、予定価格の積算内訳書の徴収や、誓約書を出した入札参加者に対する注意文書の交付を定めたほか、事情聴取の実施者を「財務部長が指定した複数の職員」と明記している。(千葉卓陽)


◎ネットで情報伝達 「書く」だけでOK 富岡町の企業が開発

 情報技術(IT)のシステム開発会社、グローバル・コミュニケーションズ(函館市富岡町2、笹谷隆社長)はこのほど、インターネットを通じて端末から書いた文字や文書がそのまま送信されるネットワークシステム「地域生活支援システム〜絆(きずな)2011」を開発した。高齢者の買い物支援や安否確認など地域福祉での活用を提案。笹谷社長は「書くだけなので、コンピューターを使う能力は必要としない。IT弱者と呼ばれる高齢者のお役にも立てるはず」と話している。

 医療や福祉の現場ではITを活用した支援システムの普及が進められている。しかし、端末として使うパソコンや携帯電話の操作方法を覚えるのが面倒なために、高齢者や障害者の中には敬遠してしまうケースが少なくないという。コンピューターが苦手という人でも使えるシステムを第一に考えた結果で、「書くというアナログの作業をデジタルが支えているシステム」と笹谷社長。

 システムの利用者側には、住宅のコンセントに差し込める「超小型ホームサーバー」と「デジタルペン」が支給される。ペン先には超小型カメラが内蔵されており、専用の用紙にペンで書き込むとサーバーに情報が伝わり、サーバーから運営側で管理するパソコンの画面に送信される。運営側はその情報を見て対応し、利用者側に記入した用紙が残るので確認もできる。

 例えば、高齢者を対象とした買い物支援では、NPO法人や商店街組織などが情報を集約するセンター機関となり、注文商品を地域の店舗や商店街で購入する仕組みを構築すれば地域内の商店の活性化にもつなげられる。

 今後、自治体や団体などに提案していく方針で、笹谷社長は「地域のよろず相談所や緊急通報のほか、災害時での活用など可能性を広げていきたい。社としていろいろな形で運用のお手伝いができれば」と話している。(鈴木 潤)