2011年6月24日 (金) 掲載

◎鉄道好きの父へ、天国からの親孝行 亡き息子の写真 市電の写真展に

 函館の街を走る路面電車に1枚の写真が揺られている。重い心臓病を患い、18歳の若さで亡くなった神奈川県川崎市の高校3年生、新井崇泰(たかやす)さんの作品だ。修学旅行で函館市電のある風景をカメラに収めた。無類の電車ファンの父和則さん(52)に贈った最後のプレゼント。函館市交通部が公募した写真展にその1枚が並び、天国からの親孝行を果たしている。

 「崇泰は電車を撮りたかったんじゃない。写真には僕への思いやりが写っている」。2008年6月13日。崇泰さんは日本工業大付属駒場高校3年の修学旅行で初めて北海道・函館を訪れた。出発前、和則さんが「好きなものを撮ってこい」と渡した小さなデジカメ。戻ってくると、そこには和則さんが好きな電車が写っていた。

 幼少期から野球が大好きだった崇泰さん。甲子園を目指して白球を追っていた07年冬。ランニング中に激しい動悸(どうき)が走り、病院で心臓の弁に障害が起きる「弁膜症」と判明した。やむなく野球を断念し、08年8月には人工弁に取り換える手術を控えていた。

 その直前の道内への修学旅行。函館は最終目的地だった。朝市のイクラ丼、五稜郭タワーに鎮座する土方歳三、手ぶれがひどい函館山の夜景…。写真の数はどこよりも函館が多かった。「たくさんの感動を残したかったんだと思う。帰宅して函館の歴史や海の幸のことを笑顔で話してくれたのを昨日のことのように思い出す」

 そんな青春のひとこまに函館市電の復元チンチン電車「箱館ハイカラ號(ごう)」があった。だが、車体は先頭の一部だけ。鉄道写真にはうるさい和則さんは「構図や露出なんてお構いなし。目の前に突然、珍しい電車が現れて、慌ててシャッターを切った姿が目に浮かぶ」と評し、「電車なんて興味持たなかったのに…」と絞り出すように続けた。

 崇泰さんが心不全で急逝したのは撮影日からわずか24日後だった。あれから間もなく3年。たまたま和則さんがインターネットの鉄道ファンサイトで市交通部が路面電車の写真を公募していることを知った。「息子が生きた証しを残したい」。正直、直視することもつらかった写真の応募を決めた。

 市交通部は30日まで「走る写真展」と銘打ち、723号車(サンクス号)に一般公募した市電がテーマの写真35点を展示している。和則さんは言う。「函館の市電は函館を代表する景色になっている。息子の人生の最期に最高の思い出をくださった街に、人に、感謝したい」。息子の足跡をたどり、函館市電の撮影旅行に訪れる日を夢見る。(森健太郎)



◎市立3病院 13億円黒字 昨年度

 函館市病院局は23日、市立3病院(市立函館、恵山、南茅部)の2010年度経営実績を公表した。単年度で13億1388万円と大幅な黒字を計上し、約53億円あった実質的な累積赤字額を40億6800万円に減らした。09年に策定した病院事業改革プランに基づき、患者の増加策に取り組んだことや、材料費のコスト削減策が奏功した。

 同日開かれた病院事業経営改革評価委員会(委員長・岩田州夫公立はこだて未来大副理事長)で示した。

 3病院合計の収益は、前年度比8.0%増の182億9603万円。大部分を占める市立函館病院では昨年度、診療報酬が10年ぶりのプラス改定となったことや、看護師を増やして受け入れ体制を強化するなど効率的な病床管理に努め、一般入院患者は1日あたり同19.2人増の491.9人、外来患者も同30.3人増の1132.9人となり、今年2月に改訂した改革プラン収支計画をいずれも上回った。病床利用率(77.6%)、手術件数(1カ月あたり257.2件)も目標値を上回った。

 恵山、南茅部病院は入院患者数、病床利用率とも目標値に達しなかったが、改革プランで定めた収支計画は上回った。

 費用は前年度比1.3%減の178億8908万円。材料費ではジェネリック医薬品を積極的に採用。同薬品の割合を全品目中47.3%としたことで、入院・外来収益に対する材料費の割合を28.22%(同4.2ポイント減)と抑えた。

 単年度収支は改訂後の計画で7億5000万円余りの黒字を見込んでいたが、これを倍近く上回った。累積赤字は11億4200万円、特例債を含めると40億6800万円が残っているが、昨年度実績を受けて12年度に累積の財源不足が解消され、特例債分を含めた場合は15年度で解消する見通し。

 本年度は当初予算ベースで6億6000万円の黒字を見込む。同委員会で市立函館病院の木村純院長は、今後の収支改善に向け「急性期病院化と、他病院との連携を強化していきたい」と話した。(千葉卓陽)



◎ラーメン店北浜商店が岩手で炊き出しへ

 函館市内近郊の建設や水産、サービス業など70社、100人でつくる異業種交流会「師走会」(床鍋喜博会長)は、震災被災地の岩手県陸前高田市で25、26の両日、炊き出しを行う。23日に市内で出陣式を行い、「継続的な取り組みにしていこう」と関係者は結束を深めている。

 炊き出しには、会の代表として人気ラーメン店北浜商店の羽二生季之社長(39)、佐々木明さん(38)、滝澤圭介さん(37)、遠藤裕也さん(22)が参加。1週間ほど前から再開し始めた、けせん朝市でラーメン2000食を振る舞う予定だ。

 関係者は震災直後から、支援を検討してきたが、先方との調整が難航。しかし「何としてでも手助けを。相手側の要望にできる限り応えるようにしたい」と見付宗弥函館市議が調整を先導し、21日夜に具体的な内容がまとまり、22日にフェリーチケットや冷蔵車の手配、材料などを急きょ準備した。

 羽二生社長は「被災者やボランティアのみなさんに、うまいラーメンを腹いっぱい食べてもらい、少しでも幸せな気分になってもらうことを望んでいる」と語る。

 床鍋会長(39)は「被災地への長期的な支援を続けていけるように、今後も仲間同士で協力していきたい」と話していた。25日には、見付議員も日帰りで炊き出しに参加する。(田中陽介)


◎江差信金 新理事長に藤谷氏

 【江差】江差信金(江差町本町132)の第68回通常総代会が23日、江差町で開かれた。任期満了に伴う理事改選で渡邊捷美理事長(81)が退任し、藤谷直久専務理事(61)が第8代理事長に昇格した。

 藤谷氏は1968年に同信金入庫。2004年執行役員審査部長。常務理事審査部長、専務理事審査部長を経て、09年4月専務理事。就任のあいさつで藤谷氏は「地域金融の中核機能を果たすため、より体力をつけて経営の永続性を確保したい」と述べた。

 退任した渡邊氏は、1956年同信金入庫。69年5月常勤理事就任。常務理事、専務理事を経て、82年5月に理事長就任。29年にわたり理事長を務めた。渡邊氏は「職員時代から55年間にわたり経営強化に一身をささげてきた」とあいさつした。退任後は、同信金の特別顧問に就任する。

 総会では、2011年3月期決算を承認した。経常利益は、前期比27.14%増の3億800万円。本業のもうけを示す業務純益は、同9.42%減の5億4900万円。預金残高は同2.17%増の1364億9800万円だった。うち個人預金は同0.2%増の1234億7400万円。貸出金残高は、同0.44%増の684億5700万円。金融再生法ベースの不良債権額は、19億7400万円で、不良債権比率は、同0.55ポイント改善して2・87%だった。

 また、09年に経営破たんした、乙部町の建設系資材会社・ナルミと関連企業の連鎖倒産に伴う損失について、担保不動産の売却などの債権回収を進めた結果、最終損失は22億円規模に上るとの見通しを示した。ナルミ関連の負債処理では、09年3月期決算で27億2144万円の経常損失を計上している。(松浦 純)


◎景観条例 来年見直しへ 市議会 罰則も

 函館市都市景観審議会(韮沢憲吉会長)は23日、市の都市景観条例を来年にも見直すことを正式に決めた。市内西部地区の景観保全に向け、新たに変更命令や罰則規定を盛り込み、景観重要エリア(仮称)を創設。来年12月の条例改正を目指し、今後、専門部会で景観保全の具体策を協議する。

 昨年6月、市内元町の二十間坂の上に市内の海産物販売業者が「自由の女神像」を設置したことを受け、同審議会は「周囲と調和しない」として景観基準に不適合と判断。市はこれに基づき是正勧告や行政指導を行い、市議会でも規制強化に向けた条例の見直しを検討する方針を示していた。

 条例の見直し案では、景観法の罰則規定に従って、都市景観形成地域内(120ヘクタール)で新築物件などで変更命令に従わない違反行為があった場合に最大で50万円以下の罰金を処する方針。また、さらに規制の度合いが強い伝統的建造物群保存地区(14.5ヘクタール)の周辺地区でも事前協議制や屋外広告物の届け出制を導入する予定。

 本年度は7〜11月までに条例の見直しに向けた専門部会を5回程度開き、基準の見直し内容を詰める。来年6月の定例市議会に都市景観条例と屋外広告物条例の改正案を提出する。市都市建設部は「条例制定から20年以上が経過し、地域の実情も変化している。総合的に見直し、市の明確な姿勢を打ち出したい」としている。(森健太郎)