2011年8月23日 (火) 掲載

◎実習生が「登檣礼」

 海の祭典オーシャンウィークに合わせて18日から函館港西ふ頭に接岸していた「海王丸」(2556トン)が22日午前、東京へ向けて出港。実習生が帆を支えるヤードに上がり、見送り客に「ごきげんよう」と呼びかける最高級の儀式「登檣礼(とうしょうれい)」が行われ、岸壁から大きな拍手が起きた。

 海王丸は日本最大級の帆船で、航海士や機関士を目指す海上技術学校の実習生80人らが乗船。イルミネーション点灯や一般公開などで市民と交流を深めた。

 登檣礼は、船が皇族らの送迎、司令官や艦長の交代などで行う礼式として始まったのが由来で、この日は実習生が高さ50メートル級のマストに裸足で登った。

 軽々と駆け上がる姿に「わあ、すごい」と市民らは歓声。実習生は敬礼と脱帽で「ごきげんよう」と3回発声、汽笛を鳴らし沖合へ向かうその勇姿に再び大きな歓声と拍手が起きた。

 七飯町の青木勉さん(61)は「美しい姿で素晴らしいの一言」、孫の利一ちゃん(3)も「大きくてかっこよかった」と笑顔だった。(田中陽介)



◎函館市 財政運営正念場【インサイド】

 函館市の財政運営が正念場を迎えている。国から配分される本年度の地方交付税が見通しを大幅に下回ったことに加え、東日本大震災の影響で特別交付税も交付額減少が懸念されているためで、一般会計の実質収支は1987年度以来、24年ぶりに赤字となる可能性も出てきた。赤字穴埋めのための退職手当債を発行しないと表明している工藤寿樹市長は、就任から4カ月で早くも試練のときを迎えている。

 「頭が痛い」。工藤市長は17日の定例会見で苦渋の表情を浮かべた。「収支不足があるのに対策は1年遅れ。間に合う対策はすぐにはできない」と、いつもの快活な語り口は影をひそめる。

 市は本年度当初予算で普通交付税を348億7100万円と見込んだが、実際の交付額は7億8900万円少ない340億8200万円。交付税の不足分を起債で補える臨時財政対策債を加えても、歳入見通しは当初予算比で7億3000万円余り減る。人口減少とともに、東日本大震災の被災地復興に財源が回った影響とみられ「10年度からは約15億円減った」(市財政課)。また特別交付税も震災復興に充てられ、当初予算で組んだ14億円からは大幅に減ることが予想される。

 前市長が組んだ本年度の一般会計当初予算では34億円の財源不足が生じており、退職手当債22億円の発行と基金の取り崩しで補う計画だった。が、工藤市長は「退職手当債を発行しない」と表明。健全化を目指して高いハードルを課したが、交付税の減少分と退職手当債の分で、約30億円を補う必要に迫られている。

 加えて、市税収入も大幅な伸びは見込めない状況だけに、「(国に左右される)交付税頼みの状況を分かっていたはずでは」(ある幹部)と、庁内では疑問の声も徐々に上がり始めている。

 市の一般会計は過去、いずれもオイルショックの影響で1975年度と84〜87年度に赤字を計上。赤字の場合にはやり繰り上、翌年度の財源で穴埋めすることが可能だが、それを繰り返すことで財政は雪だるま式に悪化する。さらに赤字額によっては起債(=借金)が制限され、今後の建設事業などに支障が出る恐れもある。

 手元の財源としては基金が約18億円残っているほか、入札価格が予定額を下回る際などに生み出される執行差金が例年、6〜8億円存在する。しかし、来年度以降の予算編成を考慮すると、基金をすべて穴埋めで使い果たすのは困難な状況。執行差金もまた「年度末にならないと総額が見えてこない」(財政課)という。

 市は事業仕分けや人員削減、職員給与カットなどの行財政改革を急ぐ方針で、職員組合との交渉は早ければ9月下旬からの予定。ただ、これらの策で実際に効果が出るのは早くても来年1月以降。工藤市長は「今の状況では組んだ予算を2割残してと通知せざるを得ない」と述べ、予算を一定程度保留するよう求める考えだ。(千葉卓陽)



◎室内楽の魅力 存分に披露

 14日から函館市内で行われていた、室内楽などを学ぶ「イカール国際ミュージックキャンプ in Hakodate」の最終日を飾る演奏会が22日、市芸術ホール(五稜郭町)で開かれた。一流演奏家ら15人が近代の室内楽作品など13曲を熱演。数々の妙技が繰り広げられ、来場者330人を魅了した。

 同キャンプは函館国際室内楽アカデミー(岡田照幸代表)が今年初めて開催(函館新聞社など後援)。この日の演奏会では、講師を務めた東京芸大音楽学部長の植田克己さん(ピアノ)、パリ国立高等音楽院ピアノ科准教授の上田晴子さん(同)をはじめ、岡田さん(同)や伊藤亜希子さん(同)、森洋子さん(チェンバロ)といった函館の演奏家らも出演した。

 前半のプログラムでは、植田さんがモーツァルトのピアノ四重奏で甘美な音色を奏でるとともに、弦楽器奏者と絶妙のアンサンブルを披露。ブラームスのピアノ四重奏を取り上げた函館のピアニスト、高実希子さんも重厚で深い音色を引き出した。

 伊藤さんは伊藤野笛さんとの2台ピアノでアレンスキーの「組曲第4番」をロマンチックに奏でた。上田さんはショスタコービッチのピアノ三重奏を演奏し、室内楽の魅力を存分に伝えた。(長内 健)


◎平和の尊さ力説

 函館市主催の被ばく体験者講演会が22日、市内の2中学校で開かれた。1945年8月9日に、長崎市で被ばくした和田耕一さん(84)=長崎平和推進協会=がつらい経験と核兵器の恐ろしさを語るとともに、「人間、どこにいても平和はつくれるもの」と述べ、生徒たちに平和の尊さを力説した。

 講演会は市の核兵器廃絶平和都市推進事業の一環として13年前から毎年開いており、広島と長崎から講師を招いている。和田さんは学徒動員で路面電車の運転士をしていた時に被ばくした体験を語り継いでおり、函館には初めて訪れた。

 このうち函館桐花中学校(中村吉秀校長、生徒308人)で、和田さんは、「体全体で強烈な閃光(せんこう)と、想像もつかない爆風を感じた」と原爆がさく裂した瞬間の記憶を語った。同僚が亡くなった経験も紹介し「(同僚が)僕は何もしとらん、と言っていたことが忘れられない。原爆投下から66年経った今でも、僕のような人間をつくらないでと、世界中のどこかで訴え続けているはず」と語りかけた。

 東日本大震災における福島第一原発事故に触れ「爆破の状況を重ね合わせると、何とも言えない気持ちになる」と話し、最後には「平和は誰も持ってこない。平和をつくる気持ちをしっかりと持って」と訴えた。

 このほか生徒会長の風間有沙さん(3年)が、平和大使として平和祈念式典などに出席し、学んだことを紹介。講演会終了後は校庭にオンコの木を植えて、恒久の平和を願った。菅原泰希君(3年)は「今と違ってつらい時代だったと思う。今の自分たちは幸せなんだと感じた」と話していた。講演会は23日も亀田、光成中で開かれる。(千葉卓陽)


◎ロケ地巡り映画の世界へ

 はこだてフィルムコミッション(FC、事務局・函館市)は、現在シネマアイリス(本町)で公開中のオール函館ロケ映画「スノーフレーク」(谷口正晃監督)のロケ地マップを作製した。ロケ中に主演の桐谷美玲さんらがサインを書き残した、弥生坂にある消火栓も掲載されており、同FCは「マップを手に、ロケ地巡りを楽しんで」としている。

 同作品は大崎梢さん原作の青春ミステリー小説を映画化。桐谷さん演じる短大生が事故で亡くなった幼馴染の男の子を思い、死の真相を調べるうちに不思議なことに巻き込まれるストーリー。同じ桐谷さん主演の「乱反射」との2本立てで、今月6日から全国の映画館で順次上映されている。

 ロケは昨年10月に、函館港イルミナシオン映画祭の実行委員らが全面協力して行われ、約200人の市民エキストラも参加。マップでは西ふ頭や赤レンガ倉庫群、旧ロシア領事館など6カ所を取り上げ、作品中の印象的なシーンを写真と解説付きで紹介している。

 マップ作製は2007年公開の「Little DJ 小さな恋の物語」から始まり、今作で7回目。B5判カラーで2万枚発行しており、市内では上映館のシネマアイリスや地域交流まちづくりセンター、観光案内所などで配布している。また、映画の各シーンを切り取ったパネル展は24日までまちづくりセンターで開いているほか、25日からは市青年センターで行う(9月8日まで)。

 同FCは「弥生坂が印象的に使われており、函館がたっぷり詰まった作品。市民にもぜひ見てほしい」と話している。(千葉卓陽)