2012年3月11日 (日) 掲載

◎音楽の力 被災者の心に届け 函館白百合吹奏楽団

 函館白百合学園中学高校吹奏楽団(山下美樹キャプテン、団員55人)は3月末、東日本大震災被災地の岩手県宮古市を訪れ、復興応援コンサートを開く。現地の小学生や高校生との合同演奏会も開催予定。震災に負けないで−。音楽の力で東北を元気づけようと、団員は一丸で練習に励んでいる。

 昨年9月、顧問の前田浩史教諭が「現地で被災者を応援しよう」と団員や保護者らに提案したことがきっかけ。団員の意志が固まり、年明けから準備を本格化させた。函館などの企業約20社から協賛金も寄せられ、団員38人と前田教諭、同団後援会関係者ら計42人が参加する。

 宮古市を訪ねるのは、復興支援に携わるボランティアの受け入れ体制が充実しているため。3月30日に出発し、31日に宿泊施設「グリーンピア三陸みやこ」で付近の仮設住宅に住む約400世帯の住民を招いてコンサートを行う。午後は宮古市立小学校で同校ブラスバンドクラブと宮古高校吹奏学部との合同演奏会を開催。4月1日は市内の老人ホームを訪問し、帰路に就く。

 宮古市によると、市は7・3bの津波に襲われ、死者527人、4675戸の家屋が倒壊するなど甚大な被害に遭った。復興までにはまだまだ時間がかかる。

 前田教諭は「震災を忘れないためにも自分たちで被災地を訪ねる必要もあると考えた。被災者に直接寄り添い、気持ちを届けたい。今回を契機に東北の人たちとの交流が継続できれば」と期待。山下キャプテン(17)は「演奏に力を入れるのはもちろん、被災地で感じたことを友人や家族に伝えたい」と話している。

 今月25日には、復興応援コンサート函館公演を午後1時半から、白百合学園中学高校ホール(山の手2)で開く。入場無料。問い合わせは同校前田教諭TEL0138-55-6682。(長内 健)



◎大震災1年厳しい観光業 誘客必死 

 死者・行方不明者1万9000人以上を出した東日本大震災から、11日で1年—。函館・道南の経済を支える観光業は、函館朝市や観光地への直接被害、風評や自粛の間接被害の両面から、試練が続いている。昨年夏から徐々に客足が戻りつつあったが、オフシーズンの1月以降はさらに減少。厳しい現実と向き合いながら、関係者は「今年こそは」と祈る気持ちで夏に期待し、耐える営業を続けている。

 陸路での観光客輸送を担うJR。津軽海峡線(中小国—木古内間)の実績は、震災後の昨年3〜8月は前年同月比55〜10%減の幅で推移。東北新幹線のダイヤが通常に戻った同秋以降は企画商品の効果も手伝い、同9、10、12月は同3〜20%増加した。しかしことしに入って状況は一変。1月は同21%減、2月も同17%減と減少が続いており、JR北海道函館支社は「震災の影響はいまだ少なからずある」と分析。春以降は東京スカイツリーや東北のサクラを取り入れたツアー商品で客足を取り戻したい考えだ。

 函館空港の乗降客数は、昨年3〜6月は前年比20〜30%減と大きく減らした。特に大韓航空の定期便が運休となった国際線の影響が大きかったが、これも昨年12月には以前と同じ態勢で再開。1月には同9%減にまで差を詰めた。函館市港湾空港部は「国内線を含めると、震災前と完全に同等ではないが態勢は戻った」とし、やっと1年前と同じ地点に立ったとの見方。「客も徐々に増えており、このまま戻ってくれれば」と願う。

 しかし観光客の出足は輸送実績以上に鈍く映る。津波被害を受けた函館朝市では、昨年夏には一時客の戻りを実感した時期もあったが、現在は売り上げにつながりにくい中国人や学生の卒業旅行客を中心に散見される程度という。函館朝市協同組合連合会の井上敏広理事長は、「客足は例年の今時期より3〜4割は少ない」と苦悩をのぞかせる。ただ「今は例年少ない時期なので、夏に入ってくれれば…」とも。

 観光客が宿泊する湯の川温泉でも状況は同様だ。函館湯の川温泉旅館協同組合は震災後、道内客を呼び込むキャンペーンを行うなど、必死の努力を続けている。同組合の金道太朗理事長は、温泉街全体の2月の宿泊は前年同月より数割の幅で落ちていると実感。特に関東や関西、東北からの客が大きく落ちているというが、「夏以降の各種キャンペーンやツアーなどに期待し、明るさを失わずに営業を続けていく」と前を向く。(斎藤まや)



◎避難所 見えた課題 

 東日本大震災から1年。函館市では沿岸部を中心に30カ所を津波避難所として指定しているほか、中心部のホテル4カ所を津波避難ビルとして登録している。避難所の大半は学校だが、耐震化が完全に済んでいないなどの課題を抱えている。市は学校の耐震診断を急ぐとともに、新年度に道が示す新たな浸水想定区域を踏まえ、津波避難ビルの増加など各種防災対策の検討を進めている。

 震災当日、大津波警報の発令に伴い市は沿岸部の75町、3万713人を対象に避難指示を発令。しかし、午後7時半のピーク時に避難所に身を寄せたのは1910人(6.2%)にとどまった。

 津波避難所全体では約3万8000人(市役所、企業局を除く)が収容可能だが、市役所も含めて13カ所が耐震化されていないのが現状。2008年度から本格的に進めてきた市内公立学校の耐震診断調査は、当初予定していた16年度から前倒しして新年度までに完了させる。

 一方で、住民が主に避難する体育館に暖房設備がなく、中にはポータブルストーブで対応する学校もある。このため市教委施設課は「屋内運動場暖房設備整備事業計画」を定め、2018年度までにすべての学校に暖房設備を取り付ける目標を掲げる。同課は「ポータブルストーブだけでは避難所としての役割を十分に果たせない。早急に整備できるよう検討していきたい」と話す。

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  一方、JR函館駅前やベイエリアで避難者を受け入れるために指定している津波避難ビルには多くの観光客らが身を寄せ、「土地勘のない観光客のことを考えれば有効な手段だった」(市総務部)。しかし、避難場所でありながら各施設とも浸水被害を受けており、各ホテルとも土のうの増強や地震・津波を想定した避難訓練の実施などの対策を練っている。

 宿泊客や避難者、JRの利用客ら約1200人が押し寄せたロワジールホテル函館(若松町14)は「地下駐車場の浸水を防ぐため優先的に土のうを積んだ。お客さんの車が1台も被害がなかったのが救い」と話すとともに「外からの人が圧倒的に多かった。駅周辺が混みあう7、8月の観光シーズンの対策が必要」と指摘する。

 また、函館国際ホテル(大手町5)は午後7時ごろの第2波で、津波が落ち着いたと判断した一部の住民が帰宅。その後午後11時過ぎに最大の第3波が押し寄せたことで、「あらためて避難してきた人もいて、どの時点で帰宅を許すかどうかの判断が難しい」。同施設は本館2階の宴会場が一時避難場所となっており、「もし10bの津波が来たらやられてしまう。大津波が来た時に高層階へと上がっていく訓練を計画している」と話している。

 市総務部は「各ホテルとも浸水域に入っており、施設損傷のリスクもある。応急措置として有効な手段だけに、避難ビルの数を増やすことも検討している」としている。(千葉卓陽、後藤 真)


◎認知症の介護生活語る 市民公開シンポ

 日本司法書士会連合会主催の市民公開シンポジウム「老後を安心して迎えるために」が10日、函館国際ホテル(函館市大手町5)で開かれた。エッセイストなどとして知られる安藤和津さんが、自身の経験を基に「認知症の家族と向き合う」と題して講演。来場した約350人に「否定せず、受け止めてあげて」と優しく語りかけた。

 同シンポジウムは、判断能力の不十分な認知症患者などを保護する成年後見制度、司法書士の業務について広く知ってもらおうと、全国各地で開催されている。

 安藤さんは認知症を患った実母を在宅介護した日々を振り返り、「最初は病気と分からず、暴言や排せつの失敗などに対し嫌気がさして、早くいなくなってほしいと思っていた」と心境を吐露した。しかし、その後の検査で脳腫瘍と認知症がすべての原因だったと判明。「号泣し、今までの言動をとても後悔した」と話した。

 その上で、認知症は「親と子のバトンタッチ」と提唱。介護体験により家族の絆も深まったと話し、「物事はスイッチ一つで変わる。今までの恩返しと思って」と、辛い介護生活を乗り切る方法をアドバイスした。

 講演会終了後には、有識者らによるパネルディスカッションも行われ、福祉・医療従事者らによる多角的な意見交換が行われた。(小杉貴洋)


◎こね外し 春の訪れ

 【七飯】赤松街道を愛する会(寺沢久光会長)は10日、七飯町鳴川周辺の国道5号で、害虫駆除の「こも外し体験会」を開いた。町民ら約60人がこも(むしろ)外しや、中に入った害虫マツケムシの生態を観察。春の訪れを告げる恒例行事で環境に優しい取り組みを学んだ。

 函館市桔梗から同町峠下まで続く約14`の赤松街道には約1400本のアカマツなどが植栽され、地域の人たちの手で大切に守られてきた。今回はそのうち70本のこも外しをNPO法人函館エコロジークラブ(福西秀和理事長)の指導を受けて体験した。

 樹木医の斉藤晶さんが「虫たちはむしろを草むらと勘違いして越冬する。こも巻きで七飯のアカマツは140年以上を生き抜いてきた」と解説。長年にわたり伝承された方法に参加者は感心し、秋のこも巻き体験の参加にも意欲を見せていた。(小杉貴洋)