2012年3月9日 (金) 掲載

◎復興「生すし」人気 自由市場で東北支援イベント

 はこだて自由市場(新川町1)で8日、震災復興イベント「東北をもっと元気に!」が開かれた。特売品やすしを買い求める大勢の市民や観光客らでにぎわった。

 2000人近い震災孤児がいることを知った同市場の前直幸理事長が、被災地の子どもたちのために何かしようと仲間に呼びかけ、義援金を募るイベントを企画した。

 鮮魚店や八百屋が軒を連ねる会場では、市内のすし職人がにぎる、生本マグロや生ウニなど5貫を詰めた300食限定の「生すし特別パック」(500円)を販売。開店直後からすし売り場前に行列ができ、15分で完売したため、急きょ100食を追加した。そのほか、100円以上の募金者に無料でかに汁が振る舞われ、来場者は「おいしくて体が温まる」と味わっていた。

 すし販売の収益全額と募金全額が義援金に充てられる予定で、前理事長は「大勢の来客でとても感謝している。震災孤児が少しでも元気になれば」と話していた。

 市内の松田知美さん(48)は「安くて鮮度のいいすしが買えて、被災者のためになるので、素晴らしいイベントだと思う」と笑顔だった。(柏渕祐二)



◎企画【震災を乗り越え 函館朝市復興の軌跡(中)】「自粛ムード」客足低迷

 「駄目だ。つぶれるかも…」

 営業を再開させた4月、函館朝市の大勢の店主は人けの絶えた通りを見てつぶやいた。「自粛ムード」に福島第一原発の爆発事故。影響は甚大で、3〜4月の収益は前年同期から半減。現実を受け入れることが、どうしてもできなかった。

 海鮮物販売「はこだて浪漫館」代表の千葉涼子さんは必死で知恵を絞った。活気に満ちた朝市を取り戻したいのは誰もが同じ。「どうすればいいのか」。自問自答した。

 ある時ひらめいた。「観光客は買い物だけじゃない。お酒だって飲みたいはず」。すぐに空きスペース約90平方bの改修に着手した。復興支援に携わる市職員や知人もサポート。そして迎えた7月1日。朝から飲める居酒屋「ろまん亭」が誕生した。

 これがヒットした。夏場は午前5時の営業開始から連日行列ができる盛況ぶり。ホッケ1匹をつけた定食も800円の安さが評判を呼んだ。千葉さんは「まだ始まったばかり。一人一人のお客さんを大切にしていく」。

 自粛ムードが落ち着き、夏には例年通りの繁忙期が訪れた。しかし客足は例年並み。被害損額を埋め合わせる売り上げには程遠かった。

 それでも諦めずに従来の対面販売に力を入れる人は多い。昨年末、海鮮物を売る男性(62)の元に、お得意様500人から電話注文が相次いだ。「応援しているからな」。10万円単位の注文も多かった。「昨日今日できたお客さんじゃないんだ」。朝市で対面販売を続けて8年。津波に奪われたものは多々あれど、固定客との信頼関係までは失っていないと確信した。

 夏に来た観光客から手紙も届いた。そこには店頭で撮った自身と女性客とのツーショット写真が載っていた。「落ち込んでいられないよな」。感傷に浸る暇はない。笑顔で再会するその日まで、感謝をかみしめて働くと誓った。

 震災からもうすぐ1年。折からの不況で客足が漸減しているため、店主たちにとって「完全復興」が実感しにくい日々が続く。それでも、朝市独特の人情味だけは失ってはならない—と誰もが考えている。

 「渡島蔬(そ)菜ドーム」で60年以上お焼きを売る久保陽子さん(72)もその一人。久保さんは、津波が襲った1960年のチリ地震から復興した朝市をその目に焼き付けてきた。「ここで商売する人はめげないよ。だから何度も危機を乗り越えてきたんだ」

 下を向いてばかりでは何も始まらない。明るく、元気に—。久保さんは、そう心に決めている。(長内 健)



◎函館市、新年度から高卒採用への補助金廃止

 函館市は、高校の新卒者を半年間雇用した市内の中小企業に補助金15万円を支給する「雇用奨励補助金」について、本年度限りで廃止することを決めた。地域の雇用情勢が回復傾向にあることに加え、支給額が当初の見込みを大幅に下回ったため。市労働政策室は「緊急的な対応として雇用促進に一定の効果があった」としている。

 同補助金は、リーマンショック以降の急速な求人の落ち込みを受け、新規高卒者の就職促進や地元の中小企業を支援する目的で2010年度から始まった制度。新規高卒者を6カ月間雇用した市内の中小企業に対し、1人当たり15万円を支給してきた。

 10年度は当初予算で320人分に当たる4800万円を計上していたが、支給実績では96人分・1440万円で、計画の3分の1と低調。本年度も継続し、当初予算で240人分・3600万円と減額したものの、実績ベースでは130人分・1950万円にとどまった。

 8日の市議会経済建設常任委員会では、北原善通氏(市政クラブ)が予算執行できなかった理由をただし、鈴木秀明労働課長は「補助対象外の大企業や医療・社会福祉法人への就職のほか、パートやアルバイトなどの非正規雇用、6カ月未満で対象者が退職するケースなどが予想以上に多かった」と述べた。

 また、井田範行氏(市民クラブ)は2年間で3300万円を支給した制度の効果について質問。佐藤友則労働政策室長は、申請企業向けのアンケートで、補助金を活用することで新たに採用したり、採用人数を増やしたりした企業が約3割あったことに触れ「高卒者の地元での雇用増加に一定程度寄与した」との認識を示した。(森健太郎)


◎恵山地区の風力発電、18年まで事業継続 市議会委

 函館市議会の経済建設常任委員会(松宮健治委員長)が8日開かれ、市が合併に伴い旧恵山町から引き継いだ風力発電の風車について、平井等経済部長は「補助金の返還義務が終了する2018年までは事業を継続したい」と述べ、赤字が続いても当面存続させる意向を示した。

 風車は旧恵山町の第三セクターが国の外郭団体「新エネルギー・産業技術総合開発機構」(NEDO)の補助金(3億6000万円)を使って総事業費9億円で建設。02年から運用を始めたが、2基ある風車は風が弱い上に故障続きで、赤字の際の維持費を市の一般会計からの借金で賄う状況が続いている。

 委員会で北原善通氏(市政クラブ)が「赤字なのに今後も続けていくのか」とただしたのに対し、平井経済部長は「事業を廃止した場合、NEDOへの補助金の返還が本年度で9360万円、12年度で8171万3000円が生じる」とし、きめ細かいメンテナンスで乗り切るしかない苦しい状況を説明した。

 また、一般会計からの繰り入れを余儀なくされていることについて、田畑聡文工業振興課長は「昨年度は5年ぶりに単年度収支が黒字となり、未償還金は2690万円と、対前年比360万円の残高減になった」とし、順調にいけば年間1500万円の売電収入が見込めることを強調した。(森健太郎)


◎箱館奉行所の鬼瓦、落雪で破損

 函館の観光スポットとして人気の箱館奉行所(沼崎孝男館長)で、全国の数少ない職人によって作られる「鬼瓦」が7日、屋根の落雪により破損した。鬼瓦は昨年も落雪で1枚壊れており、市教委は対応を考えている。

 落雪時、屋根には50a程度の雪が積もっており、6日から降った雨や暖気の影響で発生。施設の職員が地面に落ちていた瓦の破片を発見した。奉行所に取り付けられている大小20枚の鬼瓦のうち、破損したのは幅約35a、高さ22a程度のもので、屋根の正面左に取り付けられていた。

 鬼瓦は1枚約10万円かかり、福井県の「鬼師」と呼ばれる職人が1カ月かけてつくる。昨年の破損後、予備用として1枚多めに発注しており、雪解けを待って補修する予定。また今年は一般的に使われる「軒瓦」や「桟瓦」も数枚落ちているという。

 施設によると、観光客が出入りする玄関の屋根は丹念に除雪しているが、建物全体を支える幅約30bの屋根は危険性もあり除雪していないという。

 市教委は「1枚のコストが高いため、取り替えればいいという問題ではない。来年の冬は積雪量を勘案し、工夫して除雪を行っていきたい」としている。(後藤 真)