2012年8月18日 (土) 掲載

◎市文学館、啄木企画展の資料一冊に

 函館市文学館(藤井良江館長)がこのほど、末広町22の同館で10月10日まで開催中の「啄木没後100年特別企画展」の展示資料を一冊の図録にまとめた。最晩年の啄木の直筆日記や書簡などをカラー掲載したほか、啄木や妻節子の人物像を補完するパネル76点も全て収録。18日から同館受け付けで販売する。

 パネルは前館長で市文化・スポーツ振興財団専務理事の森武さん(64)が制作。企画展では図録の希望者が相次ぎ、同館でも「展示して終わりではなく、何らかの形に残そう」と図録化を決定。市中央図書館啄木文庫の協力を得て今春から本格的に準備した。

 前半6nは、闘病生活に入った啄木の直筆日記のデジタル画を中心に掲載。節子が「愛一つが命のつなです」と夫への愛を誓う手紙、東京啄木会による第1回追悼会出席者署名帳といった、「啄木研究家でも見たことがない貴重な資料も読める」(森さん)のが特徴だ。

 残る41ページは全14項目を啄木と節子にテーマ分けし、関連写真を挟んで掲載。貧困と病魔に苦しみ借金を繰り返す啄木が自己を乗り越えていく日記や手紙のほか、あまり語られることがない節子の心中を伝える手紙なども載せている。

 図録は全国の文学館などに寄贈予定。森さんは「啄木には負のイメージがつきまとうが、そればかりでは100年もの間人々に愛されることはなかったはず。ここから人間啄木を感じ取ってほしい」と話している。

 A4版。2000部発行し、1部1000円。郵送希望者は近く開設する専用の振り込み口座に入金すること。詳細や申し込みは同館電話0138-22-9014。(長内 健)



◎江差ウインドパワー、全量買い取り移行検討

 【江差】江差町が51%の株式出資している風力発電の「江差ウインドパワー」(森藤次雄社長)は10月から、現在より売電単価の高い国の再生可能エネルギー全量買い取り制度への移行を検討している。契約変更のためには、同社が北電側へ約6億円を返済する必要が生じるが、同社などは分割であれば返済可能と判断し、北電側と協議を進めている。実現すれば、売電単価が現在の約4倍となり、経営改善への打開策として期待されている。

 同社は、減価償却対策として、事業開始直後に高く設定した電力単価が年を経るごとに段階的に引き下がるステップダウン方式で北電側と契約した。契約によると、2001年11月〜06年度までは1キロワット当たり14.7円あるが、07〜10年度は8円台、11年度〜14年度は5円台、15年度〜最終の18年度には2円台まで下がる仕組み。

 ところが、稼働当初に風車のトラブルが相次いだため、収支計画に狂いが生じ、売電単価が下がった11年度に経営状態が一段と悪化した。町への固定資産税の滞納は10、11年の2年分で約3500万円に上っている。このまま単価が下がると、経営はさらに苦しくなる。

 今年7月に施行された全量買い取り制度で、風力発電の単価は、新施設の場合1キロワット当たり23.1円、江差のような既存の施設だと同19円台が見込まれている。

 北電側は、新制度への移行条件として、風車稼働当初の高い売電単価の過不足額として約6億円の返済を求めている。その上で現契約を解除し、新価格で契約を締結し直す方法が検討されている。

 同社によると、昨年度の売電利益は1億2555万円で、営業損失が498万円。本年度事業計画では、推定販売高1億2000万円、稼働率を13%とみている。(田中陽介)

 ◇江差ウインドパワー 名古屋市に本社を置く斐太(ひだ)工務店などの出資で第3セクタ—として2001年に設立された。出力750キロワットの風車28基(総出力2万1000キロワット)を町内の元山地区に設置している。



◎エバー航空、函館—台北間10月28日から定期便

 函館—台北間でチャーター便を運航しているエバー航空(台湾)は、10月28日から週2往復の定期便を開設すると発表した。12月から来年2月までの冬期間は週3往復とし、台湾雪を目当てにした台湾観光客需要に対応する。9月9日からは同じ台湾の復興航空も定期便を就航を予定しており、市はソウル(韓国)も含めた国際航空路の活性化に期待している。

 運航時刻は10月28日から11月末までが、函館午後4時50分発、台北同8時15分着。台北午前11時5分発、函館午後3時35分着。毎週水・日曜日に運航し、12月1日から来年2月末までは木曜日の運航を追加する。機材はいずれの便もエアバスA330(252席)を使用する。

 同社は冬期間の増便について「台湾からの旅行客需要を見込んだ。路線の新設で、新たな需要喚起を図り、利便性向上につなげたい」と話している。

 函館へのチャーター便は1998年に開始。最盛期の2005年には134便、2万6420人が利用。市に残る2000年からの統計では471便、9万3977人(高雄線を含む)の運航実績がある。

 市港湾空港振興課は「2社体制によって乗客の選択肢が増え、函館を訪れる機会が増えることが期待される。函館からの利用促進も今後、図っていきたい」と話している。(千葉卓陽)


◎市内小学校、新たに2校でアスベスト?

 函館市教委は17日、市内の中央小、鍛神小の2校でアスベストが含まれている可能性のあるロックウールが見つかったと発表した。市内では今月初旬にも旧4町村の小中各1校でアスベストが見つかっている。一連の事態を受け、市は今後、学校以外で社会教育施設などの市有施設も再調査することを決めた。

 中央小は2階建渡り廊下の鉄骨柱などに、吹き付け材として使用されていた。普段は建材で囲まれているが、現在進めている耐震診断調査の中で15日に見つかった。

 その後、旧市内の全市立学校を再度調査したところ、鍛神小の3階に設置している渡り廊下の鉄骨柱と梁でも使用が判明した。これも建材で囲まれており、目視できない状態だった。

 両校の該当箇所について空気中のアスベスト繊維濃度測定をした結果、いずれも大気汚染防止法で定める基準を下回り、安全であることを確認した。

 市教委は「濃度は通常の空気中と変わらない。ロックウールにアスベストが含まれているかは今月末に公表したい」と説明。さらに、「以前実施した全校調査で、渡り廊下についてのチェックが不十分だった」と弁明した。

 一方、再調査する市有施設はアスベストが使われていた可能性のある昭和30〜60年代の建物を想定。対象施設は現時点で未定だが、市教委は「早急にリストを絞って調査に入りたい」としている。

 市有施設の調査は05年に、2028施設を対象に実施。その結果、32施設で基準値を超えるアスベストがあり、すべて除去している。

 また市教委は旧4町村の日新小と尾札部中の濃度測定結果も公表し、いずれも基準を下回ったことを報告。今後、建材で囲むなどの飛散防止策に取り掛かる方向。(後藤 真)


◎企画【JOMON第3部・岩手県平泉を訪ねてC】浄土の明かり 町包む

 静かな闇夜に、黄金色の光が灯る。子どもからお年寄りまで誰もが火をじっと見つめ、そして静かに手を合わせる。町一帯を包み込む幻想的な光は、この地に古くから根付く浄土の世界を無言で伝えているかのようだ。

 平泉町内の観自在王院跡などで毎年、8月16日の送り盆に行われる「平泉浄土のあかり」。藤原清衡(きよひら)が願った、争いのない現世の浄土を具現している。

 「平泉の文化が現代まで受け継がれてきたのは、多くの先人によるもの。この光を見たら、不思議と心が落ち着きます」と平泉夢灯りの会代表の升沢博子さん(61)。

 遠くの束稲(たばしね)山を望むと、大きな「大」の字が赤く浮かぶ。半世紀前から続く伝統の送り火も、今は浄土のあかりとともに先祖の魂を慰めている。

 平泉の文化を伝承するさまざまな町民活動。世界遺産を目指し、地元住民の地域を見つめ直す動きが登録への機運を盛り上げた。

 「浄土のあかり」は、升沢さんが発起人となって2004年から始まった。当時、先祖供養のために火で「大」の字を浮かべる「平泉大文字送り火」が地元の観光協会によって行われていたが、町民有志による活動はなかった。

 「ここには他にない景色がある。皆で平泉の文化を守りながら町を盛り上げたい」。升沢さんの呼び掛けで町の婦人会なども協力し、大文字送り火と同時に開催してきた。

 催しへの参加者は当初少なかったが、08年の登録延期をきっかけに、町民たちが地元を見つめる意識が変わった。升沢さん自身も「もっと町を盛り上げなくてはと思った」と振り返る。翌09年には新たに町民有志でつくる「平泉まちてらす会」が結成され、升沢さんらの活動に加わった。

 参加者を増やして一体感を高めようと、行政の協力を受けながら大々的にPR。町民の積極的な参加と、灯りをそれまでの粘土から簡単に作れる牛乳パックに替えたことで、数は登録延期前と比べて10倍の約3000個まで増えた。仏法を町民に広く伝えようと、僧侶による法話も交えた。

 「イベントを大規模にすることが目的ではなく、その意味を知っていかに楽しむかが大事。世界遺産がきっかけで、町に少しずつ一体感が出てきてうれしい」と、升沢さんは笑顔を浮かべる。

 一方、天台宗の総本山・比叡山延暦寺から1958年に分灯された中尊寺の「不滅の法灯」。その燃料の基となる菜の花を育てる「平泉なのはな会」も、登録延期がきっかけで始まった町民活動だ。

 それまで法灯は事業者から買った燃料で灯していたが、「延暦寺の火の燃料はすべて信者からの奉納。平泉も自分たちで」と、千葉和男前町長と町民が結束。町内中心部に散在する耕作放棄地に種をまき、菜の花畑に替えた。

 以来、約30人の会員で除草や収穫、乾燥、脱穀などの作業に取り組んだ。2010年9月にはナタネ油を初めて中尊寺に奉納した。

 活動はさまざまな相乗効果を生んだ。満開の菜の花は観光客の目を楽しませ、奉納により中尊寺と町民の絆も年々深まっている。現在、畑は35アールにまで拡大。今年9月には3回目の奉納が行われる。

 同会事務局の畠山勝彦さん(47)は「自分たちの活動が世界遺産に直接結びついた訳ではないだろうが、地域の文化を住民で支えるのは当然のこと。今振り返ると、登録延期は町民が地域を見つめ直すきっかけだったと思う」

 ◆平泉浄土のあかり…平泉町の町民有志でつくる平泉夢灯りの会、平泉まちてらす会の協働で行われる行事。先祖と奥州藤原氏の御霊を夢灯りで送る。毎年、送り盆の8月16日に行われる。