◎小児科・診療室から/函館中央病院・木田 毅先生(2002.8.4)

★新生児医療のお話

先日、昨年の平均寿命が発表されましたが、日本はまたまた世界のトップクラスでした。このことは一般によく知られていることと思いますが、実は乳児死亡率(生後1年以内に亡くなる率)も世界でトップクラスということはあまり意識されていないのではないでしょうか。日本は生まれてきた赤ちゃんが最も生き延びる国なのです。北欧などの裕福かつ医療・福祉の整った国々と比較しても、日本の乳児死亡率は低いのです。乳児死亡は、先天的異常や極度の未熟性が原因のことが多く、その半数以上は生後1カ月以内に起こります。日本はこの時期の死亡率も低く、つまり産科・新生児医療の高水準が、乳児死亡率を引き下げるのに貢献しているといえます。日本で生まれた赤ちゃんが1年以内に亡くなるのは最近ではおよそ300人に1人です。1000グラム未満で出生した「超低出生体重児」でも8割以上が生存します。仮死(出産前の低酸素のため生まれてもうまく呼吸できない状態)も、ある程度予見できるようになり、また、先天的異常も出生前診断で救命される赤ちゃんが増加しています。この函館でも、乳児死亡率は全国平均より良い年が多くなりました。また、わたしの勤務する函館中央病院小児科NICUには、道南全域から未熟児が搬送されてきますが、例えば、昨年は入院した超低出生体重児15人のうち14人が生存退院しています。これだけ新生児が救命されるようになったといっても、やはり予防が一番です。早産をできるだけ避け、胎児監視で仮死をなるべく回避し、出生前診断で治療の準備をして出産する―などのきちんとした診療で病気を予防することが重要です。「お産は自然なもの」と病院での出産に否定的な意見も聞きますが、自宅分娩の多かった戦前や戦中の時代では、赤ちゃんは実に10人に1人は亡くなっていたのです。どのような形態の出産を選ぶにせよ、産科医の診療を受け、生まれてくる赤ちゃんに現代の医療の恩恵を受けさせてあげてください。

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